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テキスタイル&ファッション誌(メールマガジン)バックナンバー
テキスタイル&ファッション Vol.17 (2000)
Vol.17/No.1~12
(2000年4月号~2001年3月号)
1-ファッション情報 | No. | 月 | 頁 |
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2001春夏テキスタイルコレクション開催 | 1 | 4 | 1 |
2000秋冬FDCコレクション | 1 | 4 | 7 |
尾州テキスタイル業界への提言 | 2 | 5 | 64 |
こうすればメンズ市場は拡大する | 3 | 6 | 125 |
ファッションメーカーにおける、アウトレットストア開発の意味と効用 | 4 | 7 | 183 |
2000/2001秋冬の主流トレンド | 5 | 8 | 238 |
日本の繊維・衣服産地 | 6 | 9 | 288 |
'01/'02秋冬FDCテキスタイルコレクションを開催 | 7 | 10 | 345 |
アパレル小売はどのように変わったか -図に見る衣料関連小売業の業態別変化の実態と動向- |
8 | 11 | 392 |
成功した授賞新体制待望される新デザイン機運 | 9 | 12 | 441 |
素材メーカーの成すべきこと | 10 | 1 | 496 |
新世紀ビジネスは「世界水準」勝負避けられないグローバル化-2001年ファッションビジネスの課題- | 11 | 2 | 557 |
2001/2002秋冬ファッショントレンド | 12 | 3 | 608 |
2-研究報告 | No. | 月 | 頁 |
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特殊カラミ装置の開発 | 1 | 4 | 9 |
ウールケラチン系再生繊維の糸質向上に関する研究 | 1 | 4 | 18 |
化学改質による吸着素材の開発 | 2 | 5 | 69 |
アウトドア用レジャーウエアの開発 -衝撃吸収性複合構造織物の開発- |
3 | 6 | 130 |
羊毛繊維製品への窒素酸化物の影響 | 4 | 7 | 188 |
エメリー起毛工程の係数化技術 -表面処理の客観的評価法- |
5 | 8 | 243 |
織物構造の立体表現技術 | 6 | 9 | 292 |
イタリア製織物のデザイン、構成の分析 -KESによる特性分析- |
7 | 10 | 350 |
酵素を用いた糖鎖を有する化合物の合成 | 8 | 11 | 397 |
単糸撚の計測と評価 | 8 | 11 | 407 |
水洗い可能なウール衣服開発基礎技術 | 9 | 12 | 445 |
マルチメディア対応製織技術データベース構築 | 9 | 12 | 458 |
機能性ペプタイドによる繊維加工技術 | 10 | 1 | 501 |
織物規格と表面変化効果の関係解析 | 11 | 2 | 562 |
ハイテクウール新素材の繊維化に関する研究 | 12 | 3 | 613 |
3-技術説明 | No. | 月 | 頁 |
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江戸期・縞木綿の復元 | 1 | 4 | 25 |
見本帳のデータベース化と織物製造技術の変遷 | 2 | 5 | 81 |
古くて新しい最近の注目素材 | 3 | 6 | 145 |
抗アレルギー繊維製品の現状 | 4 | 7 | 194 |
プラウザーフォンの繊維産業への応用について | 5 | 8 | 249 |
新素材対応の高付加価値アパレル製作技術 -ファクター、ナイロン織物、人口皮革縫製のポイント- |
6 | 9 | 300 |
綿布の液体アンモニア処理 | 7 | 10 | 360 |
アクリル繊維の素材開発動向 | 9 | 12 | 467 |
モール糸の毛羽抜け評価試験 | 10 | 1 | 534 |
近赤外分光法 -繊維工業への応用- | 11 | 2 | 262 |
ヒトの体温調節機能と被服気候について | 12 | 3 | 623 |
5-シンポジウム報告 | No. | 月 | 頁 |
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カジュアル普及促進ファッションフォーラム報告(1) | 8 | 11 | 423 |
カジュアル普及促進ファッションフォーラム報告(2) | 9 | 12 | 473 |
6-資料 | No. | 月 | 頁 |
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平成10年度愛知県尾張繊維技術センター研究速報 | 1 | 4 | 54 |
染色仕上関係海外文献情報(23) | 2 | 5 | 118 |
技術相談事例紹介(1) | 3 | 6 | 165 |
技術相談事例紹介(2) | 4 | 7 | 226 |
技術相談事例紹介(3) | 5 | 8 | 275 |
中小企業経営革新支援事業 | 5 | 8 | 279 |
繊維工業景況報告 | 8 | 11 | 430 |
7-調査報告 | No. | 月 | 頁 |
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愛知県繊維産地実態調査報告書(1) | 5 | 8 | 268 |
愛知県繊維産地実態調査報告書(2) | 6 | 9 | 332 |
愛知県繊維産地実態調査報告書(3) | 7 | 10 | 377 |
愛知県繊維産地実態調査報告書(4) | 8 | 11 | 418 |
11-その他(新設機器紹介) | No. | 月 | 頁 |
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新設機器紹介 | 1 | 4 | 47 |
尾州テキスタイル業界への提言
クレアトール 宮本光雄
○バブル以後、今までに何が起こってきたか
・平成3年からの繊維業界の収縮状態:平成3年~9年まで、我が国の繊維市場はこの6年間で約18兆円(25%弱)縮小した。
・ 全国百貨店売上高:1999年全国百貨店(140社311店)の売上高は7,513億円で前年同月比95.7%であり、1998年5月以来19カ月連続前 年割れとなっている。一昨年金額ベースで70%を占めた主力のウールコートは2桁の減少となった。非ウールコートは金額、数量ともに増加したものの全体で は3年連続のダウンとなった。
・尾州のシュリンク:尾州産地においても一部に良いところはあるものの1990~1999の8~9年間、平均で売上高が44.8%減少し生産高、企業数もなかなか歯止めのかからない状況である。
・クレアトールの方策:平成5年10月にイトイテキスタイルから分社化しイトイクレアトールを発足。この時一つの決断をした。それは賃金体系の抜本的変革である。従来の年功序列賃金体系を廃止し業績貢献度に応じた体系にした。もちろん月々の基本賃金は生活給という考え方から基本的に差はない。差をつけるのは期末手当。しかもこれに配分する原資は利益の何%と決めてある。年俸にするとずいぶん差がある。ここで一番問題となるのは、いかに公正に評価するか。30項目のチェックリストでフォーマット化し、可能な限り厳正を期す。当社の売上高は減少傾向から下げ止まったという傾向にある。売上げ至上主義をとってないし、この間赤字にはなっていない。これは一つに賃金体系の変革にあったと思っている。即ち、人件費が固定経費から流動経費的になり業績に応じて変動するからである。
○これから どうあるべきかを検証してみる
日本は、これまで欧米に追いつけ追い越せと大量生産・大量販売・大量消費のシステム化を図り成功を収めてきた。しかし、今やこうした時代ではなく質(中身)の時代となった。これを背景にこれまでと今後の方策を検証してみよう。
自社が内外に誇れる商品を持つ、即ちコア(核)になる商品を持つことは極めて重要である。この場合、必ずしも新技術・新製品だけがコアになるわけではない。勿論、絶えずこうした製品が生み出されば問題はないが、極めて困難である。それよりもポプリン、サージ、ギャバといった定番商品でも絶えず品質、コスト等に対する努力を続け、他では出来ない世界に冠たる商品とすることも一つの方策である。
日本の企業は、次から次へと商品を出すがクルクルと変えていく傾向が強い。今は確かに後加工を含めて流行素材を追い求めて行く商品も必要ですが、一つの商品を5年10年とじっくり改良しながら育て守っていく、自社としての顔となる商品、そして価格メリットをどこまで出せるかという商品、価格価値を感じさせる商品という物の作り分けの必要な時代と感じています。
また今のような横這いないしは右肩下がりの時代では年功序列、終身雇用といった形態はもはや成立せず流動的に考えていかねばならない。
時間は、過去・現在・未来へと流れていく。過去があって現在がある、過去を変えることは出来ない、同様に現在を変えなければ未来は変わらない。今こそギアチェンジして未来に向かって走り出していただきたい。
こうすればメンズ市場は拡大する
○女高男低の怪(ファッションリンクス代表 福永成明)
もう何年も、筆者は「メンズの消費は、まだまだ掘り起こせる!」と言い続けてきた。日本のファッション消費をみると、男性を1にすると、女性は3倍も買っている。つまり、レディスファッションが3倍のマーケットをもつ、ということになる。洋の東西を問わず、女性のほうがオシャレに関心があるのは道理である。だからレディス市場のほうが大きくても、そこには何ら問題がない。
だが、注目すべきは、その中身である。3割や5割程度の差ならうなずけるし、百歩譲って2倍でも理解しよう。でも、3倍の格差は不自然である。そこに業界は問題を感じるべきである。
生態学的にいえば、動物の多くは雄のほうが装飾的である。日本でも、かつて男のお洒落には、目を見張るものがあった。伊達(だて)鯔背(いなせ)粋(いき)という形容は、当時の洒落男を指していた。それが今は雲散霧消してしまい、若い男性はともかく、中高年の男性は、その多くが背広漬けになっている。
このことをデータで検証してみよう。商業統計によると1962年の専門店(織物・衣服・身の回り品小売業)のうち、メンズショップ(男子服小売業)の店舗数は約3万店。これに対してレディスショップ(婦人・子供服小売業)は1万5000店。販売額も2000億円と1500億円で、メンズのほうが多かった。
それが35年経った87年のデータで両者の勢力は、レディスショップが約9万店で、メンズショップは約3万店。販売額のほうも、約6兆円に対して約2兆円。どちらにも3倍もの差が生じている。
高度成長経済がスタートした日本で大躍進を遂げたのはレディスの世界であり、メンズ専門店の数で2000店増えただけである。販売額も10倍しか伸びていない。レディスの広がりとは雲泥の差である。このあたりを、どう受けとめるべきか……。どうみても、この偏りは不自然としか思えない。
ファッションメーカーにおける、アウトレットストア開発の意味と効用
山村貴敬研究室 山村貴敬
はじめに
数年前から、日本マーケットにアウトレットモールの開発が相次いでおり、アパレルメーカーをはじめとする多くのテナントがアウトレットストアとして入居している。一体何故に日本のファッション・マーケットにも、アウトレットストアが生まれたのだろうか。
もとよりアウトレットストアとは、出口の店、すなわち「残品処分店」、「滞留在庫品処分店」の意味で、プロパー販売が困難な商品、具体的にはキャリー品、今シーズンの在庫品、B級品、サンプル品等が販売される店である。
一方ファッションビジネスは、変化を創造するビジネス、変化に対応するビジネスであり、当然リスクがつきまとう。メーカーであれ、小売業であれ、返品をしない限り、余剰品在庫は避けて通れない問題である。全ての商品がヒット商品となる訳ではなく、また数量計画・納期計画を見誤ることもあるからである。
もちろんこれまでも余剰品在庫の問題はあり、日本のアパレルメーカーは、百貨店やSCのセールなどを活用してきた。しかし、そのようなセールは、バーゲン待ちという状況も生み、プロパー消化率を低下させる原因とも言われてきた。また、そのセールが2週間~1ヶ月と長期にわたって行われれば、ショップ・イメージが低下し、お客様からの信用を失墜させることにもなる。プロパー販売とは明確に線引きした上で、あえて余剰在庫を販売するアウトレットストアが必要とされはじめた訳である。
以下本稿では、ファッション・アパレルメーカーの立場から、アウトレットストア開発の意味と効用について検証する。
(主な項目)
- 消費者から見たアウトレットストア
- 百貨店が、季節アウトレットモールの役割を果たしている。
- アメリカのような、年収の差によるアウトレット・マーケットが存在しない。
- アウトレット・ストアで成立する商品と業態
- アウトレットストアのマーケティング戦略
- アウトレットストアにおける、マーチャンダイジングと販売
- アウトレットストアのもつ人材育成機能
2000/2001秋冬の主流トレンド
ファッション・ジャーナリスト 藤岡篤子
秋の立ち上がりの女性誌、ファッション誌を開くと秋のトレンド大図鑑トレンドカタログとタイトルがついた編集記事がずらりと並んでいる。
英国調と手堅いトレンドから始まり40年代ブルジョワ、レディライク、パンクロックと脈略ありそうな、無さそうなトレンドがそれぞれに主張する珍しいシーズンだ。かといって、これは日本だけの傾向ではない。ミラノやパリの2000年の春夏コレクションが最も顕著にこのトレンド総覧的な傾向を見せた。まさに現在は20世紀のモードを振り返りつつ21世紀へとつなげていく要素を取捨選択する過渡的な時期といえよう。
そのため20世紀のモードの名作と思われる幾つかのスタイルが混在しているのが2000年を通しての大きな特徴となった。
基本的には、カウンターカルチャーやストリート性の強いものは排除され正統派を賛美する流れになっている。例えば、2000年春夏から台頭してきたニュートラやアイビールックに代表されるトラッド感覚、それが成熟し、より上品さを増しているのが、この秋冬の主流トレンドとなる。ブルジョアレディの二大テーマ、この二つを中心に、2000/2001秋冬のファッショントレンドを解説しよう。
ブルジョワジー
ヨーロッパのブルジョワ文化が築いた贅沢さと洗練、時間をかけて磨かれた繊細な品の良さがファッションに投影されてくる。大胆さや過激さは影をひそめ、控え目でデリケートな感じに、いかにもフレンチブルジョワの雰囲気が漂う。ヨーロッパの貴族や中産階級のモードにかかわる文化は、やはりフランスにルーツを求められるようだ。
ルックとして代表的なものは、カシミヤ、キャメルのベーシックカラー使い、そのプレーンなセーターやツインセット、それにひざ丈スカートの組合わせ。そしてフレンチブルジョアならではの真髄はアクセサリー使いにある。パールの首飾りはクラスの象徴でもある。シンプルで基本デザインの一連か二連が最もエレガントだ。ブローチも久々に復活した。ジュエリータイプの石使いでクラシックなデザインほど斬新だ。
レディ
レディと言えば淑女のこと、気品あふれるたたずまいと楚々とした美貌、万事控え目だが存在感があり、豊かな生活背景を漂わせる。例えば、シンプソン婦人やグレース・ケリーなどがレディの代表的な存在としてあげられる。
しかし、それは一種のスタンダード・イメージであり21世紀のレディ像としてはちょっと物足りない。これからは、淑やかな風情に精神的な強靭さを持ち合わせた女性が身につける贅沢感こそがレディ・ファッションのポイントなる。
「日本の繊維.衣服産地」(中小企業庁調査より)
全国産地の30%は繊維.衣服産地問題は内需の不振、対策は新素材開発
繊研新聞社 取締役名古屋支社長 山下征彦
はじめに
中小企業庁によると"産地"とは「中小企業存続形態のひとつで、同一の立地条件のもとで、同一業種に属する製品を生産し、市場を広く全国や海外に求めている多数の企業集団」である。同庁が調査対象としているの年間生産額が5億円以上の産地で、これは全国に550産地ある。
550産地のうち「繊維」は126産地で全産地の22.9%を占めている。これに「衣服」の34産地、6.2%を加えると29.1%とおよそ30%を占める。全国の産地の約3割は「織維・衣服」ということになる。
ここで、その意義を分析してみよう。わが国の産業、経済は繊維・衣服のみならず中小企業が底支えをしているといわれる。中小企業はわが国経済の「毛細血管」であり、その健全な発展なくしては、わが国の発展もあり得ない。同庁調査によると平成11年度のわが国中小製造業全体に占める「産地」の割合は次の通りである。
《わが国産地の形態別構成》
産地数 | 企業数 | 従業員数 | 年間総生産額 | |
---|---|---|---|---|
産地全体 | 550 | 64,047 | 669,811人 | 117,050億円 |
中小製造業の占める割合 | 17.3% | 9.4% | 7.4% |
「繊維・衣服」産地は産地数で約30%、企業数で「繊維」が35.9%、「衣服」が8.4%、併せて44.3%、従業員数で「繊維」が21.3%、「衣服」で19.7%、併せて41.0%を占めている。
わが国経済にとって中小企業は重要な分野であり、その中で産地の果たす役割は少なくない。そしてその産地の中心は「繊維・衣服」である。繊推・衣服産地はわが国経済に大きく貢献しているということになる。
おわりに
産地は今、21世紀に向けて最大限の努力を積み重ねている。努力の内容は各産業、各企業によってまちまちだが、中小企業庁は「産地、今後の取り組み」を調査した。複数回答50%以上を紹介して本論の終わりとする。繊維・衣服産地の回答153社。
《繊維.衣服産地、今後の取り組み》
新製品開発、新分野進出 69.9%
多品種小ロット生産 68.6%
製品の高付加価値化 66.7%
販路の新規開拓 54.8%
後継者育成 51.6%
情報力強化による販売促進 48.4%
合理化・省力化 39.2%
情報力強化による生産性向上 34.6%
納期の短縮化 32.9%
技術開発 31.4%
中小企業庁の調査では繊維・衣服を含む全国産地の将来展望は現在と比較した5年後の産地の姿について「発展する」はわずか8.6%、「現状と同じ」が48.5%、「衰退する」が42.9%となっており、産地の将来に向けて明るい材料は少ない。全国550産地の中核、「繊維・衣服産地」が頑張らなくては日本の産地の未来はない。歴史と伝統に培われた繊維.衣服産地がともに21世紀に挑み、21世紀を創り、21世紀に生きることを信じている。
アパレル小売はどのように変ったか
―図で見る衣料関連小売業の業態別変化の実態と動向―
経営コンサルタント 土田 貞夫
大規模総合小売店のさらなる大型化が近年顕著に示されている。ただし、長引く平成不況の中で経営効率は必ずしも成果を挙げているとは言えない。こうした店舗は衣料品以外の商品も取り扱っているが、アパレル企業としてはこうした動向をふまえての流通チャネル戦略の展開が必要であろう。
一方、衣料品専門の小売業では、専門スーパーの増加と伝統的な専門店、中心店の後退が注目される。しかし、バブル崩壊後の平成不況の中で専門スーパーが経営効率において大きく後退を余儀なくされていることが知られる。一方、むしろ小規模な中心店が経営効率を維持していることが注目される。特に売場面積250m2以上の中堅規模の衣料品専門スーパーにおける売場面積縮小の傾向は、アパレル企業にとって厳しい経営環境を示唆するものであり、今後の流通チャネル戦略の重要な方向を示すものとなろう。
成功した授賞新体制、待望される新デザイン機運
-ジャパン・テキスタイル・コンテスト2000によせて-
訪れたシルクの春(現代構造研究所所長 三島 彰)
冒頭にお詫びしておきたいことがある。今回の表彰式の直前まで東京コレクションが続き、出張前ぎりぎりまで批評の一文を書き上げるのに追われた。その疲れがあってどこか呆然としており、表彰式で私の役割である審査員特別賞、新人特別賞を授与する折り、表彰者を段に上げないままに賞状を手渡してしまった。もともとこの種の行事が苦手の私だが、このような失態は私にとっても異例なことであり、誤りに気付いた時には修正の余地がなかった。これについては式後パーティの挨拶でもお詫びしたが、ここに重ねてお詫び申し上げる次第である。
ところで今回の'01年春夏・東京コレクションだが、エメラルドグリーン、サファイアブルーといった鮮やかなジュエルトーンが主導権をとり、従来わが国ではあまり見られないロマンティックカラーが溢れていたのは印象的な光景であった。さらにシルクの復活が加わり、オリーブグリーンやサンドベージュのシルクシフォンの重ね着が、今期のファッションイメージをリードしていた。
到底救済する余地にない国産養蚕を保護するという誤った政策のために、ガンジガラメに縛られていたわが国シルク関連工業に、このほどまことに遅ればせながら生糸輸入が自由化され、その成果はコレクションにも反映して、シーズンにシルクの輝きをもたらしたのであった。
この動向はすでに本コンテストにも反映している。今回応募の素材別動向をみると、シルクを除く各素材の比重は前年とさして変わりがないなかで、シルクは前年の構成比8%が23%へ、ウール混素材についても、シルク混は前年の9%から25%に着増している。それに引きずられるように、レーヨンを除く化合繊が、25%から57%に増加しているのも注目される。シルク主導によってフィラメント表現が増大しているのであろうか。
このようにシルクへの関心は高まっているのだが、併せて色の動向を見ると、黄、ベージュ、ブラウン系が増大した半面、グレー、白黒系が減退しており、ここにもシルク主導のもとに、明るく優雅な色調の増加が見て取れる。
ところで今期東京コレクションのもう一つの際だった現象として注目されたのは、様々な布を自在に縫い合わせたりパッチワークしたりする試みが、いわば競作テーマであるかのように、多くのデザイナーによって行われたことだった。このことはこのところの織物の造型体質の転換が引き起こしたものとも考えられる。今回の受賞者座談会でJTCメンバーの丹羽正蔵氏は、このような動向に関連して、これまでタテ糸密度を上げ、ヨコ糸密度を抑えることによってドレープ性を強調していたものが、昨年突然に、タテ糸密度を抑え、ヨコ糸密度を上げることによって、造型性を強化するようになったと指摘しておられた。今回の東京コレクションの造型競争は、そのような転換を反映したものだったのであろうが、そのような新造型性に対する配慮は、本コンテストにもそこここに追求されていたように思われる。
素材メーカーの成すべきこと
テキスタイル・プランニング・ハンダ代表 半田 浩也
好むと、好まざるとに関係なく国際分業化は進んで行く。廉価でベーシックなタイプは近隣諸国に、トレンディーで意匠力の有るタイプはヨーロッパ諸国に、その用途に応じての素材の供給体制は完全に住分けとなって行くだろう。もうひとつは流通の仕組が大きく変ろうとしている。このことはSPA型アパレルが如何に実績を上げているかを見れば一目瞭然であろう。
自から作り、自から売る体制が結果を出していることからも伺えることである。自分でものごとを決め、自分で結果に対して責任を負う、それも新しい世紀に求められる課題となっている。
素材メーカーの今後
廉価な素材は他国にまかせることである。勝負にならないものに手を出しても、所詮せんなきことである。現状認識が重要である。意匠力の勝負も無理にイタリアと競争することは難しい。なにしろ相手には強力なイタリア製と云うブランドがある。
商品力もさることながら、国内メーカーの強みとは何かをもう一度見直して見るべきだと思う。国内メーカーの強味とは何か。
・日本のマーケットに一番近く、マーケットの特性を良く知ることが出来る。
・その結果、需要の推移を予測して、すばやく対応出来る立場にいる。
・ひんぱんに、日常的にアパレル、小売屋と会話が出来、情報を得て迅速に要望に対応することが出来る立場にいる。
・クレームなど様々な問題にすばやく対応することが出来る。
国内素材メーカーの最大の強味は、日本国内に在ると云うことである。
国内メーカーとしての強味を活すためには
国際分業化の内で、国内メーカーの造る商品は限定されて来るだろう。
・特徴の有る上質素材。
・高度なテクニックを要する素材。
・流れに添った意匠力の有る素材。
・安定した品質、高機能素材。
などに絞られて来るだろう。最とも大切なことは国内に在る強味を活して如何にマーケットに適切に対応出来るかにかかっている。そのためのマーケッティング機能を身に付けることが最とも重要なポイントとなる。
これ迄はアパレル、コンバーターに甘え、マーケッティング機能のほとんどを他人にまかせて来た。云換えれば何んのマーケッティングもなしに取引先の注文をあてにして物造りの計画を立てて来たのが実態である。その結果少しマーケットの先が読みずらくなり、アパレルやコンバーターがものを云わなくなった途端に何の判断も出来なくなり、必要な時に必要な物が供給出来なくなってしまったのではないか。 これからも、今後も、他人は何もおしえてはくれない。自分で判断し、自分で結果を出さなければならない時に来ている。
情報量が全てをきめる
国際化の時代に生延びて行くために、自分達の持っているメリットは何かを確かめてその強味を発揮して行くことが一番大切なことだ。その強味とは国内に精通していると云う強味である。物造りもさることながら、マーケットに精通していることが重要となる。そうすることによって適格な判断が下せる様になり様々なロスが軽減され、アパレルや小売のニーズにも対応出来る様になるだろう。
情報を持たない物造りは今後とも立ゆかなくなるだろう。自からの力で情報を取込むことを考えることが最も大切な課題となる年である。
新世紀ビジネスは世界水準勝負 避けられないグローバル化
アジアの追い上げと欧米の小売進出で 2001年ファッションビジネスの課題
繊研新聞社・東京編集部次長 山崎光弘
2001年の繊維・ファッションビジネス界を展望してみた。
[グローバリゼーション]
2001年のファッションビジネスのキーワーズはグローバリゼーションへの挑戦であり、このためには変革へのエネルギーをもって、中間領域商品の開発、国際競争力の基盤整備などを進める必要がある。
グローバリゼーションとは、地球規模のビジネスの舞台を俯瞰して日本とアジア、そして欧米を結ぶ最適生産、適量販売の双方向型ネットワークを構築することだ。国内製造業の収縮が続くとはいえ、日本は合繊、紡績、織布、ニット、染色加工、縫製のそれぞれに高度の技術開発力を蓄積している。この技術力を大いに活用して世界にどう発信するのかが問われてくる。
カルフールなど巨大外資小売業の日本進出、バブル期をくぐり抜け、消費者の熱い視線を逃さないルイ・ヴィトン、グッチ、シャネルなど一連のラグジュアリーブランド(贅沢品)。先進諸国の消費マーケットはとうに国際化、グローバルな競合にさらされている。
一方、2005年からはクオーター・フリーの自由貿易体制が実現する。世界の繊維貿易はこれまでにほぼ10年ごとに倍増し、現在、4000億ドルを越え ている。中国のWTO(世界貿易機関)加盟とアメリカ、ヨーロッパのクオーター撤廃でアジア勢の輸出拡大テンポは早まり倍増の8000億ドルには向こう5、6年で達する(伊藤忠繊維研究所)との観測も出るほどである。
今年から"第10次5ヵ年計画"を推進する中国は、かって量的拡大で世界一の繊維大国から、質的転換で国際競争力を高める"繊維強国"への道を目指すことになりそう。WTO加盟は繊維輸出拡大の好機でもあり、逆に国内市場では対外開放を迫られ、外資参入による競争激化の試練を迎えるからだ。すでに中国の大手素材メーカーや有力上場アパレルメーカーは欧米市場での販売拠点作りに着手し始めた。これと並行して、国内対策ではより付加価値の高い製品作りへの新 規投資を活発化させている。
●中間領域商品の復活を
こうしたグローバリゼーションの進展は、日本のファッションビジネスの根本的な復活を促している。これまで世界第2位の国民総生産高と、1億数千万人の高質で豊かな消費マーケットの中軸を再生、発展させることである。
日本のファッションビジネスが最も得意として来たのは、欧米のラグジュアリーブランドと、アジア各地で大量生産されるマスプロ・ベーシック商品の中間を行く商品群。
レナウン、オンワード、三陽商会といった大手アパレルが、かって百貨店売り場をベースに生み出したナショナルブランドが中間商品の典型例であった。また、専門店市場では東京ブラウス、一珠、グラン山貴などサンデカグループが作り上げたエレガンスラインであった。
百貨店、専門店の両翼が1990~2000年の経済大変動期に、変調あるいは瓦解をした。百貨店売り場では、ファイブフォックス、サンエーインターナショナル、などがこの10年で新しいナショナルスタンダード服を作り、大手アパレルの一角に迫って来た。また専門店市場は専門店そのものがSPA(製造小売業)の世界的ウネリに飲み込まれ、メンズ、レディスともかっての上場大手企業は見る影もない。代わって、日本流SPAを発展・進化させるファーストリテイリングの一人勝という状況が続いている。
豊かな市場と、成熟した素材、縫製環境をかかえる日本で、超高額・特選のラグジュアリーと、ユニクロに代表される世界最低価格商品との価値ある中間あるいは、エッジ(周縁)の部分での商品開発が期待される。
●アメリカの先行事例
こうした価値ある中間商品開発は、アメリカでも先行しつつある。
百貨店、専門店など既存売り場の衰退・再編成と巨大複合型ショッピングモールに代表されるSC新時代は、日本に先立つこと約10年前から顕在化し、結論をみている。
百貨店ではデザイナーズブランドに代わって、ブリッジベター商品が90年代中盤まで支配した。そして、ピークに差しかかるや、ブリッジより価格を落としたべター商品への転換である。90年代後半はカルバンクライン、アンクライン、ダナキャラン、さらにはポロ・ラルフローレンをも巻き込んでのベータゾーン開発である。
さらに、婦人服ブリッジ、ベターゾーンの強者であるダナ・キャランとリズ・クレーボンの両者が共同開発に踏み切った。シティDKNYのブランド名で2001年に発売される予定。
●国際競争力強化
新世紀にはいり、重要になってくるのは国際競争力の基盤整備を急ぎながら輸入もするが、応分の輸出もする事であろう。
1月16日~18日の3日間、東京・有明の東京国際展示場(東京ビッグサイト)で第3回インターナショナル・ファッション・フェア(IFF=繊研新聞社主催)が開催された。今回は日本を含む世界19ヵ国・地域から504社・団体が参加。期間中、35,300人が詰め掛け、日本で行われるファッション見本市では最大級の規模と集客力になった。
国内ファッション企業は265社、スペイン52社、英国43社、香港38社、アメリカ26社、フランス15社、台湾12社、イタリア10社が出店した。また、日本メーカーの商品別内訳はレディス63社、ヤングカジュアル40社、ファッショングッズ70社が主力になっている。
小売業者は入場者の4割を占める14,000人で、アジアを中心にした海外バイヤーは1,200人であった。
海外の中・高級品ファッション企業と同一会場で商品力と店頭ディスプレーを競い合う。こうした世界水準への挑戦が日本のファッションビジネスにとって重点課題になってくる。
2001/2002秋冬ファッショントレンド
株式会社TCカンパニー代表 十三千鶴
最近新聞に登場した、2001年のキーワードは、宇宙、地球、人、心の4キーワードですが、アシモ君(ロボット)、バイオ、ヒトゲノムなどの科学用語も益々日常生活の中に入りこみ、身近な言葉となりました。また、IT革命(情報技術)が国をあげての政策として取り込まれました。ファッション業界も流通を含む組織改革、プロダクトにおける新システム作り、小売におけるマーチャンダイジング・システム作りなど、あらゆる角度からの見なおしと新政策が打ち出される新世紀の始まりとなりました。
■2000AWマーケット動向
1)百貨店のリニューアル
2000秋冬ファッションマーケットを振返って見ますと、リ・マーケットをキーワードにリニューアルがおこなわれました。
リ・マーケットのリの意味は2つの意味を持ちます、一つは再生、もう一つは新。こうしたキーワードをベースとし、リ・サイクル、リ・フレッシュ、リ・スタイル、リ・フォーム、リ・モデルなどの傾向を意識した売場作りは特徴的でした。
2)自主編集売場拡大と再構築
同質化現象に悩む小売のMD政策の中で最も注目されたMD視点と言えましょう。従来の単品平場、独自商品MDだけではなく、メーカーと小売、そしてデザイナー、テキスタイルメーカーとが一緒になっての商品開発。
新しい発想で独自商品開発をおこなうと言ったコラボレーション型自前売場及び商品作りがポイントと言えますが、こうした小売における新・平場作りの動きは2001AWにおいても最大のポイントとなるでしょう。
当然その背景は顧客満足。価格訴求だけではなく、サイズや商品にこだわりを持つ、オリジナリティー性の追及が重視されています。またライフスタイル発想 の売場作りや雑貨を含むトータルな商品展開も注目されました。こうしたなかで、化粧品と婦人服とのトータル展開を目指すブランドも登場し、化粧品もアクセサリーの一部と位置付け、ファッションメーカーによる化粧品市場における新規参入と言った新しいマーケットの切り口が、話題を呼びました。消費者の価値変化に対応したライフスタイル型マーケットの動きは今後も広がりを見せると同時に全体的には雑貨関連のシェアーが高まる傾向にあります。昨年のファッションマーケットの特徴はマスマーケットを狙った価格志向型いわゆる、SPAブランドの流れと、こだわり型商品及びブランドと言えますが注目マーケット3大潮流とは
1)クラス志向スタイルの復活
クオリティー志向、クラス志向、ゴージャス、クラシック、レディーライク
2)デイリー&シック
ファッションコモディティー、リーズナブルプライス、ファンクショナル、コンフォート、リラクシングなどのキーワードをベースとするユニクロ、23区、コムサ・コムサ・コムサなどSPA型ブランドが特徴
3)カスタマイズド志向&デザイン性
クラフト志向、デザイン性、ハンドクラフト、唯一、手仕事風、こだわり志向
これらの潮流は次シーズン(2001AW)においても継続されます。
■2001AWゼネラルトレンド
*カラー傾向
2001SSにおけるカラー化現象は多用化される傾向にありますが、2001AWカラーの全体傾向は落ち着いた方向性で、強さと繊細さ微妙さを持ち合わせた中間的カラー(インヴィトウインカラー)の登場、少し古びたカラーが新鮮です。また一方でディープカラーが注目されコントラスト感を表現する重要なカラーとなります。
クラス志向をベースとする暖かみのあるニュートラルカラー、例えばベージュ、キャメル赤味のブラウンと赤、オレンジ、パンプキンイエロー。
カラーワークにおけるポイントは
不調和なニュートラル使い
ディープカラーとパステルのコントラスト使い(黒とパステルブルー)
ディープ&ダークカラーにブルーの組み合わせ
カラーミックス使い(マルチカラーミックス効果)
グラフィカル、あるいは一風変わった組み合わせ
*素材傾向
全体的には2000AWの素材傾向と比べそれ程大きな変化はみられないもののコントラスト感が注目される中で、キーワードはロフティー(高尚な) サップル(しなやか、柔軟) プレジャー&ラグジュアリー エレガント ファンシー グラフィック 相反するもの例えば流れるものと硬直ブリリアントとマット、織りの際立ちとなめらか、ポジティブとネガティブ、シックなものと擦り切れたもの、ナチュラルとメタリック加工、クリーンとアンティック上質素材とファンクショナル ニットの多用(ニット&ジャージー) 機能素材 ウオッシャブル(ウールシルク、ジャージー)、肌にやさしい&環境に優しい素材(コラーゲン配合、備長炭繊維)、ストレッチ性(ツイード、ウール、シルク) プリント(先染めとプリント、オーバープリント、ダブルプリンティング)表面感とプレーンなものなど新時代に合わせたクラシックイメージ、ベイシックなものに個性をもたらすニュー表現がポ イントとなります。
また織りでは綾目、斜目が引き続き重要、コーデュロイ、ベロア&ベルベットも注目、ツイードはラメ糸使い、マルチカラー使いやプリント、ファンシーヤーン使い、ストレッチなど多用な広がりで期待されています。
プレーンな素材としては、上質なギャバ、ベネ、二重織りがクローズアップされます。メンズストライプも重要で、変化をつけたマスキュリン素材、ラメ糸使いのストライプ、間隔の広いストライプウールなど。
また、セクシー&グラマーなトレンドによりレースが復活。その他スエード、表面変化のあるレザー、テクニカルレザー、ゴールドの顔料プリント、ゴールドのコーティング、シルクサテン、コットン及びコットンサテン(変形サテン)が注目される。アート志向の傾向からジオメトリック柄やグラフィカルなタッチの柄が引き続き重要、ジャガードもアート的に扱われ、ジャガードと無地を張り合わせたものや部分的に起毛したものも新鮮です。
2001AWポイントは親しみと安心感、そして機能性、イージーケアーが重要。従って、あらゆる素材に対するストレッチ性の注目と言えます。
*スタイル傾向
ファッションテイスト変化で説明した様に全体的にはラグジュアリー、エレガンスをベースとしながらもモダンな方向へ、そして個性や変化を求めるシーズンとなります。従ってスタイル傾向は5グループ
ラグジュアリー・スタイル
マスキュリンスタイル
グラフィカル&モダンスタイル
プリティーウーマンスタイル
セクシー&スポーティースタイル
特殊カラミ装置の開発
愛知県尾張繊維技術センター 柴田 善孝、大野 博
カラミ織の製織法には単式法と複式法があり、経糸2本が絡む紗織や絽織は単式法でも複式法でも製織できる が、3本以上絡むような複雑な組織は単式法でなければ製織できない。この単式法によるカラミ織にはスラックナー装置(カラミ経の弛み取り)や、地糸の開口を妨げないようにするためのガイドバーが必要である。また、スラックナー装置の変わりに普通綜絖を使う方法でも製織されているが、これらの方法では1組のカラミ綜絖に対して上記の装置がそれぞれ必要である。このため、単式法による複雑なカラミ織の製織には、多数のガイドバーやスラックナー装置または綜絖枠が必要となる。しかし、ドビー織機では綜絖枠に限度があり無制限に増やすことはできない。
そこで、カラミ織に使用する綜絖枠をなるべく少なくし、しかも、スラックナー装置やガイドバー等の付属装置を必要としない新規カラミ綜絖を開発し、複雑 なカラミ組織でも普通の織物と同じような感覚で製織できるようにした。これにより、今までにない複雑で新規な織物を開発した。
はじめに
カラミ織物は春夏物用衣料としての需要はかなり見込まれているが、カラミ織を製織するための装置の複雑さ や、組織の難しさ、カラミ経と地経との張力差による二重ビームの使用等によって生産業者には敬遠される傾向にある。また、紗織や絽織のように複式法によって製織できる織物は、カラミ綜絖以外特に付属装置は必要ないため、この地域でもかなり生産されているが、二重ビームを使用しなければならない、単式法による複雑なカラミ織物はあまり織られていない。しかし、消費者ニ一ズの多様化や個性化によって差別化商品が求められ、今までにない特殊な織物や個性的な柄などの織物が好まれる傾向にある。
そこで、本研究では従来から使われているカラミ綜絖を改良し、単式法でしか製織できないような複雑なカラミ織物についても、普通の織物と同じ感覚で製織できるようにした。
単式法によるカラミ織は、経糸張力の差から二重ビームの使用は避けられないが、スラックナー装置やガイドバー等が不要なカラミ綜絖を開発したので報告する。
まとめ
以上、単式法によるカラミ織の製織方法において、従来から使われているスラックナー装置や、ガイドバー等の付属装置が省略できるカラミ綜絖を開発し、新しいカラミ織の製織方法について研究してきた結果を述べた。
新しいカラミ綜絖を開発するために、カラミ綜絖の製造メーカーである名古屋機料㈱と共同研究を進め、開発した2つ目綜絖を織機に仕掛けて、製織性について評価試験を行った。
この結果、単式法によるカラミ織のため、経糸の織り込み長や張力に差が生じることから、二重ビームの便用は避けられないが、わずらわしいスラックナー装置やガイドバーが不要になったので、複雑なカラミ織が簡単に製織できるようになった。
得られた成果を要約すると次の通りである。
(1)開発した新規カラミ綜絖により、従来の単式法によるカラミ織で必要であったスラックナー装置(弛み取り)やガイドバ一等の付属装置が一切不要になった。
(2)ガイドバーやスラックナー装置が不要になったため、カラミ経がガイドバー等との摩擦がなくなり、毛羽立ちや糸切れが少なくなった。
(3)カラミ経の経路がシンプルになるので、複雑なカラミ織りでも、普通の織物と同じ感覚で製織できるようになった。
(4)V字型の半綜絖と2つ目綜絖をl枚の綜絖枠に通すため、従来行っていた綜絖で代用する製織法に比べ、カラミ綜絖緋1セット当たり1枚の綜絖枠が節約できる。
(5)欠点としてはV字型綜絖と2つ目綜絖を同じ枠に通すため、この綜絖枠だけが外の枠に比べ3倍の密度になるため、密度の込んだ織物は製織できないことである。
(6)2つ目綜絖統はカラミ経の張力が高くなると後方に大きくたわむため、後方の綜絖と絡み合うことになるので、高密度で複数のカラミ綜絖を連続して使用する場合には、カラミ綜絖と地綜絖の間に地経の綜絖を便用するか、または2-3枚の枠を空けないと後方のカラミ綜絖を傷めることがある。
ウールケラチン系再生繊維の糸質向上に関する研究
愛知県尾張繊維技術センター 柴山 幹生 加藤 一徳
平成9年度の研究成果をもとに、比較的高分子量の還元抽出ケラチン粉末とポリビニルアルコール(PVA)樹脂の混合溶液を湿式紡糸により繊維化し、さらに延伸処理による糸物性の向上を図った。まず、還元抽出ケラチンとPVAを蒸留水に溶解して、適当な粘度を持つ紡糸原液を調製することができた。また、紡糸原液は硫酸ナトリウム飽和水溶液中で十分凝固することが分かった。
さらに、紡糸装置のノズル部分を、エアギャップ方式から浸せき方式に改良することにより、湿式紡糸が可能になった。延伸ローラー速度や紡糸原液の吐出速度を検討により、ケラチン組成30%で、強度1.3g/tex(1.5g/d)、伸度32.7%のウールケラチン系繊維を得ることができた。
はじめに
平成7年度から羊毛を構成するケラチンタンパク質の製品化技術の開発を進めている。
まず、羊毛からケラチンを抽出する技術、抽出したケラチン溶液を膜化する技術について、検討を行ってきた。そして、平成9年度からケラチン系繊維を湿式紡糸する技術について、研究を進めている。
平成9年度では、主に湿式紡糸による繊維化への可能性に着目した。羊毛から酸化処理して得られるα-ケラトースを用いて、湿式紡糸用原液の調製方法から検討をはじめた。その結果、α-ケラトースの溶媒として無機塩/アルコール/水3成分混合溶液が有効であることが分かった。α一ケラトース溶液、α-ケラトース/絹フィブロイン及ぴα-ケラトース/PVA混合溶液を調製して、その凝固特性を調べた。凝固性能から判断して、αーケラトース/PVA混合溶液の繊維化の可能性が最も高かった。
α-ケラトースは羊毛から酸化剤を用いて抽出したケラチンで、シスチン架橋がスルフォニル基に酸化されているため化学的に安定であるため扱い易い反面、分子量が3500
まとめ
ケラチンとPVAの混合溶液を湿式紡糸により繊維化することができ、さらに延伸処理によって糸質を向上することができた。現在のところ、繊度、強度、伸度においてまだ十分な糸質とはいえないが、加熱延伸などによってさらに高物性な繊維になると期待できる。
本研究で未検討であった熱処理、さらに不溶化処理を行うことで染色や熱セットにも耐えうる高品質な繊維にできると期待できる。
化学改質による吸着素材の開発
愛知県尾張繊維技術センター 浅井 弘義、三輪 幸弘
羊毛を中心とした廃繊維を化学改質し、染色排水中の染料を吸着する素材に再利用する方法について検討した。羊毛は還元剤THPCシ樹脂で加工した吸着剤は、低温(30~50pH綿はカチオン化処理やキトサン処理により、染料吸着は向上するが、羊毛より染料吸着能力は小さいことが分かった。
はじめに
製品の製造から廃棄に至るライフサイクルにおいて、環境に与える影響が注目され、社会問題としてクローズアップされてきてい。ISO14000関する国際的基準の実施に伴って、環境に対する意識が高まり、製品の製造過程や消費にともなって出てくる廃棄物の再利用法が各方面で検討されている。
繊維産業においても、繊維製品の製造工程中に出てくる廃繊維や使用済み製品の処理をどうするのか重要な課題で、環境に配慮した再利用法が求められている。そこで、羊毛を中心とした廃繊維を排水中の染料吸着剤として利用するため、比較的簡単に行える薬剤による化学改質法を用い、吸着素材として活用する方法について検討した。
まとめ
羊毛はアニオン基もカチオン基も有する複雑な構造で、金属をはじめ種々の物質を吸着することが知られている。この報告では、羊毛を中心とした廃繊維の染料吸着剤への再利用について検討した。その結果還元剤で前処理し、エポキシ樹脂で加工した改質羊毛により、排水中の染料を効率的に吸着する性能をもつものが得られた。特に排水のpHに影響されにくい性質がある。ただ、排水の温度や排水中の染料濃度には影響されるが、特に温度に強く左右されることや、どのように使用するかなど課題も多い。環境問題は今後益々重要で、廃繊維などの再利用について、今後とも検討を重ねて行きたい。
アウトドア用レジャーウエアの開発
―衝撃吸収性複合構造織物の開発―
愛知県尾張繊維技術センター 服部 安紀、山田 圭
近年の健康志向、自然志向を背景としたレクリエーション産業の活性化に伴い、新しい衣料分野製品が必要となってきている。そのため、切り傷や擦り傷から身体を保護することができる耐創傷性に優れた織物として、平成9繊維(パラ系アラミド繊維)を用いたスーパー繊維織物を開発し、平成10年度には一般的織物レベルやストレッチ織物レベルの伸縮性を付与したスーパー繊維織物を開発した。
本年度は、耐創傷性に加え耐衝撃性を付与するため、太番手の紡毛糸を用いた衝撃吸収性スーパー繊維二重織物と、スーパー繊維の平織物に不織布をニードルパンチにより接合した衝撃吸収性不織布接合織物について検討を行った。その結果、衝撃吸収性を有する複合構造織物を開発するとともに、これらは平成9年に開発したスーパー繊維織物と同等もしくはそれ以上の耐創傷性機能を持つことがわかった。
はじめに
平成9年度の研究の成果として、表層に普通の糸、裏層にスーパー繊維糸を用い、スーパー繊維糸の紫外線からの保護、染色の不要化、表層の自由な意匠性の確保を実現するとともに、高い耐創傷性機能を持つスーパー繊維織物を開発した。さらに平成10年度にはストレッチ糸の併用、伸縮性付与スーパー繊維糸の開発により、一般的織物レベルの伸縮性とストレッチ織物レベルの伸縮性を付与したスーパー繊維織物を開発した。これにより、切り傷や擦り傷から身体を保護することができるアウトドア衣料用素材として、幅広い商品展開を実現する可能性を示した。しかし、実際のアウトドア活動では切り傷や擦り傷だけでなく、転倒や、岩、木などに足を打ち付けたりすることによる打撲も考えられるため、アウトドア衣料用素材としては耐創傷性を有するのみならず、これら衝撃に対応する機能も要求される。このため本年度は、これまでの研究で得られた高い耐創傷性能を維持しつつ、さらに衝撃吸収性能をも併せ持ったスーパー繊維織物を開発することとした。
本研究は、スーパー繊維織物に衝撃吸収性能を付与するため、昨年度までの研究で主であったスーパー繊維二重織物を発展させる方法と、スーパー繊維織物に衝撃吸収体としてポリエステル不織布を接合する方法との2つの方法について検討した。これら2つの方法を選択した理由として、スーパー繊維二重織物の発展型は、これまでの研究で得たノウハウが活かせること、特別な工程を必要とせず二重ビーム式の織機があれば製織できる。スーパー繊維織物に不織布を接合する方法は、表地は縫製段階で縫い合わせるため選択が自由であること、パーツとして肘、膝等に用いることによりコスト低減が図れること、スーパー繊維を用いた基布は通常の織物と同様に一重ビームの織機で製織できることなどが挙げられる。
そして、それぞれの方法により開発した織物について、物性試験並びに平成9年度に定めた試験室レベルの評価として突発的耐創傷性試験並びに耐久的耐創傷性試験、実用レベルの評価として耐切り傷性試験と耐擦り傷性試験に加え、試験室レベル及び実用レベルの衝撃吸収性試験を行い、性能確認を行った。
まとめ
以上により、次のとおり成果を得ることができた。◎平成9年度及び10年度に開発したスーパー繊維二重織物 を発展させ、表面の経緯に嵩高の紡毛糸を用いることにより、衝撃吸収性に優れたスーパー繊維二重織物が開発できた。一例として、ゴルフボールを用いた跳ね返り試験の結果から以下の式により算出した試料1の衝撃吸収率は14.5%であり、これは試料8に対し6.1ポイント、試料9に対し4.9ポイント、試料10に対し4.4ポイント改善されている。◎PA糸を用いた基布にポリエステル不織布をニードルパンチして接合することにより衝撃吸収性能を付与した衝撃吸収性不織布接合織物は、二重ビームを必要としない、表地が自由に選択できる、使用目的に応じた不織布の選択(厚さ、目付)が可能である、当て布として部分的に用いることにより幅広い使い方ができるとともにコストダウンも期待できるなど、大きな可能性を持った織物である。
◎各試験結果から、衝撃吸収性不織布接合織物を用いる場合、縫製加工及びクリーニングにおけるプレスの使用には注意が必要であることがわかった。
◎織物の衝撃吸収性能は、圧縮エネルギーを測定することにより予測できることがわかった。 最後に、衝撃吸収性不織布接合織物を用い、アウトドアスポーツ向けズボンを4点試作した。これらは今までのアウトドア向け衣料の持つ重々しいイメージを払拭するとともに、衝撃吸収性不織布接合織物の大きな可能性を具現化したものである。
羊毛繊維製品への窒素酸化物の影響
愛知県尾張繊維技術センター 福田ゆか、野田栄造
羊毛繊維製品への窒素酸化物による影響を調べるため、NOx暴露試験と暴露後の試料の評価試験を行った。また、包装材料等に用いられる酸化防止剤BHTの影響についても検討した。羊毛繊維は、NOxをよく吸着し、BHTが塗布されているとより早くNOxを吸着することが分かった。羊毛そのものは低濃度NOxに暴露してもほとんど黄変しなかったが、高濃度のNOxでは黄変した。しかし、BHTを塗布した羊毛は、低濃度のNOxでも黄変が起った。羊毛繊維は、NOxに暴露することにより若干強力が低下したが、BHTを塗布した羊毛繊維は、強力低下がほとんど見られなかった。 ガスクロマト分析によって、BHTによるごく微量の黄変物質を確認できることが分かった。
はじめに
窒素酸化物は、羊毛繊維製品の変色や劣化等の事故原因になると考えられる。また、包装材料等に用いられる酸 化防止剤BHTは、窒素酸化物によって黄変物質となり、それが繊維製品に付着することで黄変事故となる。そこで、羊毛繊維製品への窒素酸化物による影響 は、品質管理の上で、重要な問題である。しかしながら、羊毛繊維製品の窒素酸化物による事故原因の推定は困難であり、その解析手法の確立が求められてい る。
まとめ
羊毛繊維製品への窒素酸化物の影響を調べた結果、次のことがわかった。
・羊毛そのものもNOxを吸着しやすいが、酸化防止剤であるBHTが存在すると、よりすばやく多量のNOxを吸着する。
・25000ppmの濃度のNOxに暴露した試料は、羊毛繊維そのものが黄変するが、650ppm以下の濃度で暴露した試料は羊毛そのものの黄変があまり見られない。
・NOxが50ppm以下でも、長時間置くことによってBHT黄変は起る。
・NOxに暴露することで、羊毛繊維は劣化し強度が下がるが、BHTはその劣化を防ぐものと考えられる。
・IRスペクトルによって窒素酸化物による黄変を確認することは困難である。
・ガスクロマト分析により、ごくわずかな量でもBHTによる黄変物質が確認できることがわかった。
エメリー起毛工程の計数化技術
-表面処理の客観的評価法-
愛知県尾張繊維技術センター 三輪 幸弘、片岡 千乃
エメリー起毛加工の計数化を図るため、その客観的な評価法として、光学的な非接触による表面粗さの評価と機械的な接触による風合の評価とを検討した。 その結果、起毛の機構は単繊維の擦り出しとその切断によることが、表面粗さ(凹凸の変動)の変化が極大曲線を示すこととその電子顕微鏡観察から確認された。また、起毛の評価はぬめりの風合値が有効であることが、回帰分析の結果から確認された。そして、起毛の効果の判定には、表面粗さとぬめりの変化が1つの目安となることが示唆された。
はじめに
布の肌触りの良さを改善する仕上加工である、エメリー起毛加工は、エメリーペーパー(サンドペーパー)を巻き付けたロールで布の表面を擦って、薄い起毛状態にする加工法である。綿、レーヨン、ポリエステル素材を中心に行われ、布の表面に短くて密生した毛羽を出して布全体を柔らかくする。 しかしながら、起毛の評価法は、これまで、目で見る、手で触るなどの主観的な判定法が採られてきた[1]。そこで、客観的な評価法として、機械的な測定による表面特性の評価、光学的な測定による表面粗さの評価などが試みられている[2-7]。
本報でも、エメリー起毛加工の機械的な表面処理の効果の計数化(客観化)を図るため、その客観的な評価法として、光学的な非接触による表面粗さの評価と機械的な接触による風合の評価とを検討したので報告する。
まとめ
エメリー起毛加工について、起毛条件と布の物性変化(表面粗さ、基本風合)との解析を行い、客観的な評価法を検討した。
その結果、光学的な非接触による表面粗さの評価と機械的な接触によるぬめりの評価が有効であることが確認された。そして、起毛の効果の判定には、表面粗さとぬめりの変化が1つの目安となることが示唆された。
今後、布の表面処理のオンライン評価が求められる。光学的な非接触による表面粗さの評価はオンライン評価の可能性がある。しかしながら、川端式風合評価システム(KES)による風合の評価は長時間を要するので、表面粗さと風合(手触り感)との関係について、さらに研究していく必要がある
イタリア製織物のデザイン、構成の分析
―KES値による特性分析―
愛知県尾張繊維技術センター 都築 正廣
イタリア製織物は、風合が良く、縫製品にした時に身体にフィットし、着心地よく感じる、等と評価される。しかし、その特徴を定量的に示した例は余り無い。そこでその特性を探ろうと取り組み、この研究においては力学的特性に着目し、KES値を測定することにより織物の評価を行った。導出された数値により、風合、仕立映え、可縫性について考察を進めた。
その結果、試料のうち、厚手の冬物においては、THV値は極めて高く、風合の良さを示した。また、仕立映えについては、形態安定性に問題があるが、適度な曲げ特性や柔らかなせん断特性において優れた成形性を持ち、縫製工程での制御によって仕立映えさせ得ることが確認できた。さらに、可縫性については、引張り応力が剛く、伸びの回復性が悪いけれども、伸び率やせん断応力はほぼ適性値を示し、良好な傾向が表れた。
はじめに
イタリア製織物の特徴を具体的に明らかにするため、平成10年度に試料を分解し、組織、糸の組成、目付、密度、番手、糸種、色数などを調べた。引き続き、同じ試料の質的特性を明らかにするためKES値を計測、風合、仕立映え、可縫性について考察を進めた。
KESにおいて布の基本力学特性である引張り曲げせん断圧縮表面、について計測し、風合値の導出や各種の評価指標に照らし、イタリア製織物の特徴について分析した。
まとめ
本研究は、イタリア製織物を力学的特性から検討したものだが、引張り応力の剛さと伸びの良さ、せん断の柔らかさに大きな特徴を示した。これから導出される全体的傾向をまとめれば、次のように表せよう。
イタリア製織物は、ふくらみと弾力性を持ちプリプリとしている。その性質は、タテ・ヨコに引っ張った時の応力が強くよく伸びるが、その分戻しは悪い。バイアス方向に引っ張った時には、柔らかく動きが良く、回復力に優れる。曲げはやや剛い傾向である。全体的にいえば、弾力に富んだ織物である。そのため安定性の面で問題を内包するが、適度な曲げ特性や柔らかなせん断特性において優れた成形性を持ち、縫製工程での充分な制御によって仕立映えする資質に富む。可縫性においては、かなり良い結果を示している。
また、検討の方法として、これまで発表されている様々な指標を使ったが、指標作成における年代の違い、立脚点の違いなどあり、整然とした評価にならなかったが、傾向は捉えることが出来た。今後とも機会あるごとにデータを積み重ね、品目の広がり、時系的変化などについて掌握していきたい。
酵素を用いた糖鎖を有する化合物の合成
愛知県尾張繊維技術センター 茶谷 悦司、北野 道雄
加水分解酵素を有機溶媒中で逆反応(合成反応)の触媒として利用し、新規繊維加工剤として有用な糖鎖を有す る重合性モノマーを合成した。ここではこの反応に使用する最適酵素の検索を行い、反応条件を検討することにより重合性糖エステルを合成させることが可能となり、合成反応時に使用する溶媒種により反応速度や副生成物の有無などに違いが現れることを明らかにした。
また、酵素触媒重合反応を利用した単糖、二糖からのオリゴ糖合成については、セロビオースを基質とした場合 Trichoderma virideを起源とするセルラーゼが最も高い触媒活性を示すことを明らかにした。
はじめに
現在では、任意の順にヌクレオチドを組み合わせてDNAを合成すること、同様に、アミノ酸を結合してタンパク質に似たポリペプチドを合成することについては手法が確立し、自動合成装置が市販されるに至っている。
一方、核酸・タンパク質と並んで三大重要生体高分子群を構成している糖鎖の化学合成については、立体化学と位置選択性を制御する必要があるため桁違いに困難とされる。
最近、腸内の有益細菌の増殖を促進するフラクトオリゴ糖が、砂糖を出発原料として加水分解酵素(黒麹菌のβ-フラクトフラノシターゼ)の転移作用を利用して工業的に製造されている。この例に見られるように、糖鎖の合成において、その立体化学と位置選択性を制御することが新規機能性物質の創製につながるため、活発な研究が行われている。
そこでここでは、酵素の立体・位置選択反応性を利用して糖鎖を有する化合物を合成する技術について研究を行った。
まとめ
重合性糖エステルの合成
最適酵素の検索を行い、重合反応条件を検討することにより、重合性糖エステルを合成した。合成反応に使用する溶媒種により反応速度や副生成物の有無などに違いが現れることがわかった。本研究で得られた重合性糖エステルは、両親媒性高分子の原料モノマーとしての性質を有している。その応用分野としては、繊維機能性付与剤(グラフト化原料、共重合原料)酵素阻害剤、高分子界面活性剤や分散剤、非イオン性の吸水性ポリマー用原料などが期待される。また、PVAの主鎖、ジカルボン酸、糖からなる本ポリマー原料は、完全分解性の機能性材料となりうるものである。
酵素触媒重合によるオリゴ糖の合成
最適酵素種の検索を行った結果、セロビオースを基質とした場合 Trichoderma virideを起源とするセルラーゼが最も高い触媒活性を示すことが判明した。生成物の重合度は3~4程度で、多糖は生成せずオリゴ糖程度にとどまった。糖鎖の重合度の向上のためには、酵素の基質認識能を高めてやる必要があり、基質モノマーに脱離基を導入したりして6)更に厳格な立体化学の制御、位置選択性の向上をめざす必要がある。
単糸撚の計測と評価
愛知県尾張繊維技術センター 大津 吉秋、坂川 登
自動検撚機で測定した各種梳毛単糸の撚数の評価を、解撚法による撚数との比較によって検討した。その結果、自動検撚機の測定条件と撚数の関係が明らかになり、撚数の評価精度を向上するための補正値の指標が得られた。また、糸の直径、撚角度から撚数を求める評価法を検討し、撚数の補助評価法としての有効性が得られた。
はじめに
紡績糸の撚は糸としての形態の保持や、引張、曲げ等に対する強度を付与する上で重要な因子であるが、糸の外観や手触り等の性質にも大きく影響し、最終製品の品質に対して深い係わりを持っている。このような紡績糸の撚数の測定法はJISに規定されているが、一般的に双糸撚ではA法の解撚法が、単糸撚ではB法の解撚加撚法によって行われている。
本研究では、番手、紡績法等の異なる各種梳毛単糸の撚数の測定を、手動検撚機を用いた解撚法による方法、自動検撚機を用いた解撚加撚法による方法および、糸の直径と撚角度から算出する方法の3種類で測定し、解撚法の撚数を真値と仮定して自動検撚機と撚角度による測定撚数について検討したので報告する。
まとめ
番手、撚の強さ、糸の種類(紡績法)等の異なる各種梳毛単糸の撚数の評価について検討した結果、次のことが分かった。
自動検撚の撚数は、解撚法の撚数よりも少なく測定される傾向にあるが、両者の撚数の差は試料の撚の強さが増すほど大きくなることが分かった。
自動検撚の撚数は初荷重の影響が大きいが、初荷重は試料の番手と撚の強さの両面から設定する必要がある。
自動検撚の撚数と解撚法の撚数との関係を明らかにすることにより、自動検撚の信頼性を高めるための補正値の指標を得ることができた。
撚角度法の撚数は解撚法の撚数に対して、87%(普通撚糸)~92%(強撚糸)が得られ相関性も高いことが分かった。
水洗い可能なウール衣服開発基礎技術
愛知県尾張繊維技術センター 板津 敏彦
水洗い可能なウール衣服の製造技術確立を図るため、家庭洗濯可能な縫製仕様への変更、製造工程の合理化について検討した。その結果、次の成果を得た。洗濯によるスーツの形態変化で問題となりやすい袖山変形への対応として、袖山パーツの袖ぐり端部に約3cm幅の接着芯地を使用することと、理想的な裄綿形状として袖山最上部が幅3cm以内でできるだけ広い範囲まで細く続き、かつ肩パット端部全体をカバーするものが良いことを示した。アイロン工程で高いセット性を示すセット加工方法として、還元性セット薬剤を噴霧した布地の下に耐熱性マット(厚さ0.5mm)を敷き、上に耐熱性のたて網布を置いてサンドイッチし、アイロンスチームを上からあて、網によりスチームを拡散させ、マットによりセット薬剤とスチームの浸透を防ぐ方法を明らかにした。プレス工程で、プレスマットの適正配置として、下ごて側から厚みがある適度な弾性体(WCが大きいもの)で押さえ、上ごて側は比較的薄くかたいマットで平面を形成させる組み合わせが形態安定に効果的であることを示した。ミシン工程で、縫糸原糸に水溶性ビニロン糸を用いた自己伸長糸(縫製後に適当な長さだけ伸びる縫糸)を試作し、パッカリング防止に有効な結果を得た。
はじめに
商業用水洗いクリーニング、家庭洗濯対応のウォッシャブル製品が注目されている。特に、最近は従来困難とされてきたウールスーツ向け毛織物を防縮加工処理し、縫製方法に工夫を加えた製品が中心となっている1)2)3)。
この背景には、地球環境への関心が世界的に高まる中で、ドライクリーニングに使用する溶剤の毒性や、環境への影響が懸念されるようになったこと、また消費者からは自宅で家庭洗濯したいとか、商業用水洗いクリーニングで水溶性汚れを十分に除去したいというニーズが出てきたことなどが挙げられる4)5)。
ウールウォッシャブルスーツの現状としては、大手アパレル企業はポリエステル混紡素材で春夏向けの商業用水洗い可能な夏涼しいスーツを主力に展開している。これらのアパレル企業を中心に大手合繊メーカーやクリーニング業者、機器メーカー、洗剤メーカーなどから構成された水系洗濯性能評価研究会が発足し、アパレル製品の水系洗濯性能の評価基準を定めるための研究活動が行われている6)7)。またウール100%素材については、ザ・ウールマーク・カンパニーがプロモーション活動を進める家庭洗濯可能なイージーケア・ウールスーツがある8)。これは、ポリウレタン系樹脂等を用いたシロランソフトBAP加工による織物段階の耐洗濯性の高い防縮加工と還元性薬剤を用いたシロセット加工による縫製段階での耐久性のある折り目付け加工とを組み合わせたものである。
これらの動きは、流通関係も注目しており、ウール関係を主力にする企業はそれぞれ何らかの対応を図らねばならない。産地では、多くの企業が今後どのような対応を図るべきか決めかねている状況にあり、技術面でも多くの課題が残されている。
このような中で、本報告では水洗い可能なウール衣服の製造技術確立をめざし、その基礎条件として水洗いによる衣服の形態変化の分析、水洗い可能な縫製仕様への変更、縫製仕様変更に伴う製造工程上の対応策について検討した。
まとめ
ここで検討した結果をまとめると次のとおりである。
洗濯によるスーツの形態変化で問題となりやすい袖山変形への対応として、袖山パーツへの接着芯地使用及び裄綿の形状について効果的な例を示した。すなわち、袖山パーツの袖ぐり端部に約3cm幅の接着芯地を使用し、袖ぐり部分の布地にハリ・コシをもたせる。ただし、いせを入れやすくするためには適度な柔軟性も必要で、あまり硬くなりすぎてはいけない。次に、適当な裄綿を選定することが重要で、袖山最上部は幅3cm以内、できるだけ広い範囲まで細く続き、かつ肩パット端部全体をカバーする裄綿が良い。
シロセット加工については、アイロン工程で高いセット性を得る方法を見つけた。すなわち、シロセット薬剤を噴霧した布地の下にテフロンマット(厚さ0.5mm)を敷き、上に耐熱性のたて網布を置いてサンドイッチし、アイロンスチームを上からあて、網によるスチームの拡散、アイロンマットへのセット剤とスチームの浸透を防ぐ方法で、セットがききにくい防縮加工した斜紋織物でも、プレス処理とほぼ同等のセット性を得た。
プレスマット物性とあたり発生度との関係を調べ、下ごて側から厚みがある適度な弾性体(WCが大きい)で押さえ、上ごて側は比較的薄くかたいマットで平面を形成させる組み合わせで、比較的良好な結果が得られた。
洗濯により布地はソフト化し、パッカリングが発生しやすくなる。これに対応して伸長率7%の自己伸長縫糸を試作した。その方法は、縫糸原糸に水溶性ビニロン糸(60で溶解)を交撚した糸を3子に撚糸し熱セットするもので、水溶性ビニロンが溶けることで糸が細くなり長く伸びること、熱セット時に水溶性ビニロンが収縮し固定化したものが、高温湿熱処理で溶けて元の長さまで伸びるという2つの効果から伸長効果が得られるものである。この試作糸を下糸に用い、その効果を評価したところパッカリング防止に有効な結果を得た。
以上の結果は、試験結果から推察した内容もあり、すべてが縫製工程の現場で有効となるとはいえない。しかし、各企業におかれては、この結果を何らかの形で応用していただければ幸いである。
マルチメディア対応製織技術データベースの構築
愛知県尾張繊維技術センター 安田 篤司、柴田善孝
繊維技術の継承の円滑化を図るため、ここでは製織技術の情報をマルチメディアを使ってデータベース化するシステムを検討し次の成果が得られた。
ア.複雑な製織技術の情報をコンピュータネットワークを用いて、端末用のパソコンから文字情報だけでなく音声、静止画、動画をネットワークサーバへ一元的に蓄積させるシステムを開発し、製織技術情報の整理・共有化を図った。
イ.端末用のパソコンから検索・抽出、再生が可能で、キーワードにより関連性のある情報の自動抽出を行うデータベースアプリケーションプログラムを開発し、複雑な製織技術の情報を文字、音声、静止画、動画で再生が可能となった。
はじめに
現在、繊維業界は他の製造業と同様、技術者の高齢化が進んでいる。しかし高度繊維技術を教える大学等の減少に伴う人材の減少、繊維商品のコストダウン等の影響による経済的な魅力の減少等の要因のため、後継者不足と共に繊維技術を如何に継承するかが大きな問題となっている。しかし、熟練技術者の知識・ノウハウは長年の経験により培われたものがほとんどであり、経験の浅い技術者にとっては簡単に会得できるものではなく、熟練者は経験的に会得したものであるため、経験の浅い技術者に体系的に指導することは容易なことではない。
技術の継承手段としては、経験で得られた知識を計数化し、疑似的に体験できるようにするシミュレーションと、知識・経験を体系的に蓄積し、必要に応じて提供するデータベースシステムが考えられる。シミュレーション技術については、織物設計の分野において、コンピュータにデータを入力するだけで、試し織りすることなく、織物のデザインを予測する技術が確立されている。一方、データベース化では、熟練技術者の経験・ノウハウを体系付けて整理することはほとんどなされていない。
そこで、製織準備工程、製織工程でのノウハウ、機器の設定調整に関する情報を蓄積して、情報の整理・共有化を図ることで、経験の浅い技術者でも、必要とする情報が容易に検索できるようなデータベースシステムの検討を行った。
熟練者の知識の形成手順を考えると、図1のように、あるテーマに対し、起こった現象を、テキスト・画像情報だけでなく音声・動画の情報で経験し、その経験 の積み重ねにより、知識を構成している。このことを再現するためには、登録してあるデータはテキスト・画像だけでなく、実際の動作、音等も含めて再現し、提供でき、更に、一つのテーマに対して関連性に注目して情報の抽出を行い、提供できることが重要なポイントとなってくる。そのため従来の情報構成要素であるテキスト・画像に加えて、音声・動画を取り扱うことができ、関連のあるデータを容易に抽出できるデータベースシステムについての検討を行った。
このようなデータベースシステムを構築するメディアとして、ビデオテープ・CD‐ROM等のメディアが考えられるが、ビデオテープは検索が難しい、CD‐ROMはデータの更新等ができない問題があるため、非常に安価で構築でき、情報の共有が容易なコンピュータネットワーク技術を応用した。
まとめ
このシステムは製織技術に関する情報をパソコンで検索することによって、経験の浅い技術者でも高度な技術の習得が容易にできるようにするのが狙いである。複雑な製織技術の情報を端末のパソコンから文字情報だけでなく、音声、静止画、動画をネットワークサーバへ一元的に蓄積させることによってこれらの情報の検索、再生が容易にできるようなシステムとした。また、キーワードにより関連性のある情報の自動抽出を行うデータアプリケーションプログラムを開発した。検索結果はウィンドウ上に文字情報、静止画のほか音声、動画機能ボタンが表示されるが、文字情報の中から関連項目の検索も可能である。
機能性ペプタイドによる繊維加工技術
愛知県尾張繊維技術センター 北野 道雄、茶谷 悦司
天然物の持つ特徴と機能の有用性を見直すとともに、それらを有効に利用するため主として各種動植物性蛋白由来の機能性ペプタイドを各種繊維素材に付与加工する技術を研究した。また、加工により得られた繊維の持つ各種機能についても明らかにした。
この研究で用いた天然由来物質は、食品や医療分野においては既に長い間利用されて来た物が多い。しかし、繊維分野においては未利用なものが多く、未知なる加工物質として機能が不明なものが多い。このため、その特性を明らかにすることにより、機能性加工剤としての可能性を調べた。試験方法は、各種の動植物性蛋白を加水分解により低分子量ペプタイド化したものを繊維に架橋剤を併用して付与加工した。そして、加工した繊維の各種機能について評価した。この結果、各種ペプタイドの持つ機能を明らかにするとともに、これらペプタイドを繊維に付与加工する技術についても確立した。また、加工した繊維の性能を評価した結果、ペプタイドの持つ諸特性を十分に発現できる高機能繊維が開発できた。
はじめに
最近、高い機能性を目的とした繊維製品の開発が進んでいるが、機能性加工剤には主として合成の物質が用られている。しかし、ここ数年、環境問題が極めて重要な開発要素として浮上してきたことに伴って、ヒトの健康や快適性を目的とした繊維製品の開発が続いている。これは、人間生活における心の豊かさが求められているためと考えられる。昨年度は、主として天然の機能性加工剤の持つ機能の特性を明らかにしたが、本年度は、この研究成果を応用して耐久性の優れたペプタイド付与加工技術の開発研究を行った。この結果、従来にない高い機能を持ったペプタイド加工繊維製品が開発できたので報告する。
まとめ
以上、昨年度の研究に引き続いてぺプタイドや低分子量化した多糖類の持つ機能を有効に利用するため、これら天然由来の機能性ペプタイドの調製法と特性解析、加工試料布の機能を評価した結果を述べた。高い機能性を備えた新しい繊維加工剤を開発するため、現在まで、あまり繊維加工に利用された例のみられない物質を選定して検討を行った。この結果、紫外線遮蔽効果や吸水性、帯電性特性、光沢度、防しわ性等の諸特性の優れた機能性ペプタイドの存在が明らかになった。また、多糖類を加水分解することによる抗菌活性の変化については、酵素による分解率を詳しく測定することにより、今まで不明であった点を明らかにすることができた。21世紀の到来とともに予想される高齢化社会においては、衣生活の環境はますます健康や衛生志向に向かうであろう。そして、安全性や機能性の面で優れた加工薬剤が求められ、環境負荷の小さな天然由来の加工剤が見直されるであろう。ここで研究した加工物質についても、より高い効果が要求されるため、機会があれば試験を試みて検討を加える予定である。最後に、本研究で用いたような加工剤は天然由来のものが主で、地球環境問題に対してはきわめて有利な物質と考えられる。天然物の利用については、ますます研究開発の必要性、重要性が高まってきており、本研究の成果が少しでも企業の発展に貢献できることを願っている。
得られた成果を要約するとつぎのとおりである。
機能性ペプタイドを付与加工した繊維の染色性や帯電性、吸水性、防しわ性等を評価した結果、性能の高いペプタイド種類が明らかになった。
キトサンを酵素で加水分解した場合、静菌活性値(S)が最大となるのは、黄色ぶどう球菌では分解率1.39%のとき、肺炎桿菌では、0.41%のときであることが判明した。
合成ペプタイドについては、大豆煮汁を出発原料にして納豆菌によってタンク培養したポリグルタミン酸(PGA)を評価した結果、機能性の高いペプタイドであることが分かった。
織物規格と表面変化効果の関係解析
愛知県尾張繊維技術センター 池口 達治、都筑 秀典
織物中の糸の断面形状、屈曲構造、表面座標などを測定し、織物を構成する糸の番手や密度が断面形状に及ぼす影響について解析した。この結果から規格と表面の凹凸形状との関係を導き、織物表面変化をシミュレートする手法を構築した。
はじめに
平成10年度の研究成果として得られた組織図から糸の高さを推定する手法は、多層構造織物など複雑な組織構造の織物の外観を予測する方法として有効であることが確認されている。従来の織物用CADは糸の浮き・沈みだけで織柄を表示していたが、糸の高さで織柄を表示することにより多層構造や立体感を表現することが可能となった。ただし番手や密度などの影響は考慮していなかった。
番手や密度が織物表面に及ぼす影響については、経験的知識は蓄積されてはいるものの系統立てて追求した研究報告はない。本研究では番手や密度が織物構造に特に大きく影響を及ぼす箇所として糸の交錯点、すなわち糸が表面から裏面に移行する箇所に注目した。具体的には実際の平織物の断面形状を計測し、番手や密度が断面構造に及ぼす影響やその他表面形状を推定するのに有用な項目を探る実験を行った。
この実験により得られる知見を昨年度研究成果と組み合わせることにより、織物表面変化をより詳細にシミュレートすることが可能となる。
まとめ
実験により織物を構成する糸の番手や密度が断面構造に及ぼす影響について明らかにした。この結果から規格と表面の凹凸形状との関係を導き織物表面変化をシミュレートする手法を構築した。
織物表面効果に影響を及ぼす要因は組織や規格だけでなく、製織・仕上条件、素材などがあり、表面効果も高さベクトル方向だけでなく平面ベクトル方向がある。これらについては今後の課題としたい。
ハイテクウール新素材の繊維化に関する研究
愛知県尾張繊維技術センター 柴山 幹生、加藤 一徳、森 彬子
羊毛より抽出したウールケラチンタンパク質を活用して、フィラメントを開発するため、まず、還元剤で抽出したケラチンの水溶液をスプレードライヤーによって、微粉化した。そして、ケラチン粉末とポリビニルアルコール(PVA)樹脂の混合水溶液を湿式紡糸することによりフィラメントを得た。さらに、フィラメントに約200℃の乾熱処理、それに引き続くアセタール化処理を施すことにより、水溶性であるフィラメントを不溶化することができた。
はじめに
最近、廃棄物処理の際に発生するダイオキシン等に代表される環境問題が叫ばれる中、リサイクルなどの資源の再利用が注目されている。また、環境に負荷を与えないために土壌中の微生物により分解するプラスチック製品が多数開発されている。このような状況でタンパク質等の天然素材が見直されている。そこで、我々は、羊毛の主成分であるケラチンタンパク質に着目し、平成9年度からケラチンを原料の一つとして、湿式紡糸により天然高分子系フィラメントを製造する技術について研究を進めている。
平成9年度1)では、主に湿式紡糸への可能性に着目した。羊毛を酸化処理することにより得られるケラチンタンパク質(α-ケラトース)を用いて、α-ケラトース、α-ケラトース/絹混合物、α-ケラトース/ポリビニルアルコール(PVA)混合物を繊維化するために湿式紡糸用原液の調製方法、並びにその凝固特性を検討した。その結果、α-ケラトース/PVA混合溶液の繊維化の可能性が最も高いと考えられた。
平成10年度2)では、羊毛を還元処理して得られるケラチンタンパク質(以下ケラチンと称す)とPVAの混合水溶液から湿式紡糸によりフィラメントを得ることができた。しかし、紡糸中に糸切れが多く生じ、また得られたフィラメントは水溶性で耐水性に劣り、強度および伸度においてまだ十分な繊維とはいえない。したがって、適切な紡糸条件の検討が課題となった。
本研究では、従来羊毛製品のみでなく産業用や医療用等へ高度に利用するため、上記ケラチンをハイテクウール新素材と位置づけて、フィラメント製造技術の開発を目的とする。これまでの結果を踏まえ、紡糸条件の最適化および不溶化処理の検討を進め、さらに得られたフィラメントの性能評価を行った。
まとめ
本研究では、羊毛より還元剤を用いてケラチンタンパク質を抽出し、その粉末を用いて新規フィラメントの開発 を行ってきた。ケラチンをポリビニルアルコール(PVA)と混合後、湿式紡糸そして引き続く湿熱延伸によりフィラメントを得ることができた。紡糸原液、凝 固条件、湿熱延伸条件の検討により、フィラメントの強度は約2cN/dtexまで増加した。また、水溶性であったフィラメントを乾熱処理とアセタール化す ることによって75℃の熱水収縮率が10%以下となった。
江戸期・縞木綿の復元
伝承工房きぬた 佐貫 尹 佐貫美奈子
はじめに
前報には江戸時代に当地方で盛んに行われた縞木綿の名称と、当時栽培された綿の品種、その綿から紡ぎだされた糸の太さとそれぞれの縞木綿の織り成しの試算、更にそれら古記録の集成によって、個々の縞木綿の織り成しの試算を1つのグラフにまとめることができたこと。その結果『広益国産考』にいう美濃・尾張・三河・遠江の縞木綿全体に適用できる手紡ぎ糸の太さと仕上げ経糸・緯糸密度ならびに仕掛け経緯密度の全ぼうが明らかになったことを報告した。
現在縞木綿の復元にあたって、私どもはこの古記録の集成結果から経糸の仕掛け密度を設定して経糸と緯糸の密度の均衡を得、そこから砧仕上げの効果を最高に発揮することが可能になった。
ちなみに、この過程を経て復元した縞木綿の布味(風合・地合等)は、常に座右に置く唐機のそれとの対比で国産縞木綿として納得できるものであり、他方複数の呉服の専門家からも「江戸時代の縞木綿の布味はこれだ」との評価を頂くことができた。
この報告では、ここに至る縞木綿復元の道のりを振り返りながら復元制作品を紹介し、併せて追体験によって窺い知ることのできた先人の暮らしと生活心情について述べることにする。
私どもの縞木綿復元と伝承活動は「THE尾州」Vol.2ならぴにVol.8にも紹介して頂いていることを再び記して謝意を表する。
追体険を通して知り得たこと
先人の糸紡ぎの手技は考えられない程高いレベルである。私どもは糸紡ぎを始めてから10数年経つが未だに極細上々糸(30's)に遠く及ばない。前述のように4~5年後にどうにかしてそこまで到達できないかと淡い期待をかけている。その糸を使って結城極上縞木綿を復元するのはいつの日になるのであろうか。
次は追体験を通して窺い知ることができた断片的な情景である。母親は自ら糸を紡いで示しながら幼いわが娘に糸紡ぎの手技を教えている。幼児は真剣なまなざしで母親の手元を見つめ、自分もそれにならおうとする…。少し糸が紡げるようになると母親は「糸は細う撚れたんと撚れ」と幼児の実力以上のノルマを課す。幼児は懸命に努力するが所詮は叶わず、このことが続くと果ては「わしの母さん無理ばかいやる」と不満を投げつける。
これは当時どこの家にもあった光景で、母親は糸紡ぎを通してわが娘に基本的な生活習慣を躾けていた。先ほどの「わしの母さん無理ばかいやる糸は細う撚れたんと撚れ」は美濃・尾張地方の機織唄に残っている。
当時の村落の行事は各戸と密接な関連をもっており、各家庭の幼児の躾と相まって村全体または隣接の村々が協同で糸紡ぎの競技会を開いていた。これも機織唄に「生棉撚り合い負けると恥よ糸が太けりゃなお恥よ」と残されている。競技会が近づくとどこの家でも一生懸命に糸紡ぎの練習をしたのであろう。
この唄から競技会ではまず一定時間内に紡いだ糸の量を競い、次にその糸の質を比べて優位を決めたようである。糸の量は長さや目方でわかるが、その質は細さと柔らかさなどで評価した。それ故紡いだ糸が同量であれば細くて太さむらが少なくふっくらと丸みを帯びた糸が優位になるのであろう。見比べたり触れてみて糸質が判断されるのだと思う。このことから当時は太い糸を大量に紡いでも優位には立てなかった。負けると恥とあることから、このような競技会は社会的にも高く評価されており、これに参加して優秀な成績を収めるのはたいへん名誉なこととして、人びとは競技会に向けて日頃から練習を怠らなかったことがよくわかる。
幼児期からの糸紡ぎの習得を終えると次は年季奉公である。普通は現在の13~14才から奉公を始め、6年から8年務めあげる。時には10才ぐらいの少女 も奉公に出た。月々の給料はなく、季節によって着物などをもらう仕着せが普通で、機織り関連の手技の習得が中心であった。
このような生活の後、年季が明けると身分相応の結婚支度が揃い、婚家に入れば習い覚えた機織りの手技を駆使して家計を助けたのである。
当時の農家の子女は幼児期から結婚適齢期まで厳しい手技の習得とそれにともなう精神的な陶冶とが相まって「耕す者は食わず織る者は着ず」という苛酷な時代を負けずに切り抜けてなお「織り始め三尺親にも見せな」の気概を発揮した。そこに窺い知ることができるのは何事にも「耐える」・「励む」・「他人に負けない」という強烈な精神力を感受することができる。「織り始め三尺……」でわかるように、織技に優れた女性はプライドを持っていた。幼児期からの手技の習得や精神的な修業を積んだ人は自信をもって日常生活を送ったことを知るのである。
見本帳のデータベース化と織物製造技術の変遷
愛知県尾張繊維技術センター 古田 正明
はじめに
消費者訴求力のある製品を迅速に開発するためには、商品企画期間の短縮が重要な要素であり、過去に製造したり収集した織物の規格・設計情報の検索も大切な作業である。 そこで、愛知県織物研究会誌(1950年・創刊号~1980年)、愛知県繊維振興協会誌(1981年~1983年)、テキスタイル&ファッション誌(1984年~1999年)で業界に提供されてきた織物見本(ニット、意匠糸含む、50年間で総数6,081件)の特徴、キーワードをパソコンを活用してデータベース化し、愛知県尾張繊維技術センターへの来所、インターネット(尾張繊維技術センターホームページ)で検索できるようにしました。そして、50年間に掲載した特徴のある素材、製織技術、染色・仕上技術の記事について振り返ってみました。なお、全ての織物見本帳は尾張繊維技術センターの図書室に、テキスタイル&ファッション誌の見本帳はFDCに保管しています。
データベースの内容
見本帳に添付されている織物の解説や製織・仕上結果から、キーワードとなる語句を抜き出してデータベース化、収録しました。キーワードは、使用糸、組織・織物名称、製織方法、染色・仕上方法など種々雑多で特に区別せず、後で検索に役立つと思われる語句は全て抽出しました。文字は、漢字・カタカナ・数値など全て全角文字で登録しました。目付(g/150cm幅)も収録しました。。そして、前述した3種類の見本帳から目的の織物見本を閲覧するための情報(見本帳の区別・収集年・VOL・ページ等)も収録しました。収録内容の例を表1に示します。ここで、使用糸としての梳毛糸は産地の特性上、多くなるため入力しませんでした。また、表現が困難な組織は、組合せを+で表しました。
収録内容の例
使用原糸:アルパカ、毛・ナイロン交撚糸、モール糸
組織・織物名称:ピッケ、バーズアイ、トロピカル、デニム、平織+2/2斜紋、からみ織
仕上方法:シャギー仕上、起毛
その他:目付(g/150cm幅換算)、収集年(1950~1999)、見本帳の区別(研究会誌・振興誌・T&F)、収集先(海外収集・国内収集・試作)、VOL、月、見本番号、No.、ページ
おわりに
愛知県尾張繊維技術センターには、特徴のある織物についての問い合わせが数多くあります。そこで、過去に製造したり収集した織物の検索を迅速に行うため、愛知県織物研究会誌、愛知県繊維振興協会誌、テキスタイル&ファッション誌に掲載した織物見本の特徴をデータベース化し、愛知県尾張繊維技術センターへの来所、インターネットで検索できるようにしました。そして、50年間に掲載した主な特徴ある素材、製織技術、染色・仕上技術について振り返ってみました。この報告が新製品開発の迅速化に少しでも役立てれば幸いです。
古くて新しい最近の注目素材
愛知県尾張繊維技術センター 都筑 秀典
はじめに
あらゆる産業において環境を重視する中、繊維産業においても環境を破壊せず、人の体にも優しい素材の開発が急務となっている。1999年春先頃から天然素材である和紙や竹、ケナフなどを用いた衣料素材が市場やメディア等を賑わしているが、これら素材に共通することは一般に昔からよく知られてきている素材を新しく作り直されたものである。
そこでここでは、当センターにおいても試織した和紙を中心に竹やケナフの特徴等についてまとめてみた。
竹
日本人に昔から馴染み深い竹を用いた織物が開発された。竹はイネ科の多年生植物で熱帯から温帯に分布し、成長が早く、短サイクルで再生産が可能であるため森林の伐採抑制につながる自然に優しい植物である。
その竹を原料とした繊維の製造方法は、レーヨンと同じビスコース法を用いるとされている。繊維の形状は異形断面で表面積が大きく、ひだが接触し合うことによって細長い空洞が発現している。その構造により水分を素早く吸収し、発散する優れた吸湿性を持ち、織物状態でも通気性が高いといわれてる。また、適度なハリとドレープ性を有し、サラッとしたドライ感がある。
家庭用品品質表示法によると、竹は製造方法がレーヨンと同じビスコース法であり、外観もほとんど同じであるためビスコース繊維のレーヨンに区分けされる。
ケナフ
木材などに代わる工業原料になると期待されているケナフ(Kenaph)は洋麻、タイジュートとも呼ばれ、一年草植物で大量の二酸化炭素を吸収するため地球に優しい植物とされている。アオイ科ハイビスカス属の植物であるケナフはもともと西アフリカで生育していたとされ、現在はアジア、アメリカ南部などで広く、栽培されている。春に種をまくと、秋の収穫期には茎の太さ2~5、高さ3~5にもなる。生育時に多量の二酸化炭素を吸収して固定化し、さらに水中の窒素やリンの吸収効率も大きい。生長すると薄黄色のハイビスカスに似た花が次々に咲き続ける。
靱皮部(外皮)の繊維は針葉樹よりも繊維長が長く、良質の製紙原料や繊維原料としての用途が見込まれており、インテリアの壁紙、自動車内装材、建材用ボード類、家畜飼育用敷物類、吸油材料、水質浄化材、道路の法面等への利用のほか、家畜用の飼料などユニークな利用法も研究されている。また芯部(木質)の繊維は広葉樹よりも短く、繊維原料などには不向きである。
繊維原料としては繊維が粗硬で、繊度も太いため、ジュートの代替品や混紡用として主に麻袋等の包装用として使われている。
和紙
本美濃紙に代表される和紙は6~7世紀にかけて和紙の技法が確立されたとされており、引っ張りや引き裂きには大変強く昔から書写用、障子紙としてはもちろん、平安時代から使用されているとされる紙衣(かみこ)という衣服に用いたり、油を塗って傘の材料として用いるなど強度を必要とする用途に使われてきた。
最近の衣服用途としては10年程前にここ尾州地域においても麻を原料とした抄繊糸を織物やニットに用いられていた。しかし、ここにきて重要視されるエコロジーと相まって再び和紙が注目され、市場では和紙を用いたセーターやスーツ、ジャケット、デニム製品、ボディータオル等広く展開されている。そこで意外と知られていない和紙の特徴や本センターで試作した紙織物についてまとめてみた。
おわりに
今回紹介した和紙織物を一宮市で開催されたジャパン・テキスタイル・コンベンション'99において展示したところ、ジャン・ルイ シェレルのデザイナーであるステファン・ローラン氏から好評を得ることができ、今後も新たな織物を開発していきたい。試作織物や本報告にあたりご協力いただきました株式会社モーリタンの橋田佳雅氏に厚くお礼申し上げます。
ブラウザーフォンの繊維産業への応用について
愛知県尾張繊維技術センター 太田 幸一
はじめに
昨今のIT(情報技術)分野、特にインターネットと携帯電話に代表される情報通信の躍進はめざましいものがある。2000年2月時点で日本国内のインターネット利用者は1,937万人までに増加し、国民の1割以上が何らかの形でインターネットを利用している。また、2000年6月末現在で携帯電話は約5,300万人、PHSが約580万人の加入者を有しており、従来の固定電話の加入者数を上回る規模に成長している。 特に、1999年2月以降には移動体通信グループ各社がインターネットブラウザ機能を搭載した携帯電話(ブラウザーフォン)を発表し、携帯電話端末単体でのインターネットアクセスサービスを開始した。端末が軽量、コンパクトで低価格であること、パソコン等と比較して簡単な操作で扱うことができること、いつでもどこでも必要なときにアクセスが可能なことなどから利用者が劇的に増加しており、2000年6月末の時点で1,272万人が同サービスを利用している。
これらのブラウザーフォンによるインターネットサービスで提供されているコンテンツは個人利用者向けのものがほとんどであるが、今後ビジネス分野での利用の増加が予想されている。このような動きは繊維産業においても無視できるものではない。ここでは、繊維産業で考えられるブラウザーフォンの利用形態と、ブラウザーフォン向けコンテンツの作成方法について解説する。
おわりに
携帯電話などの移動体通信については新技術の導入が頻繁に行われることが発表されており、iモードについては今秋よりJava言語対応の端末が予定されている。また、現行のデジタル携帯電話の後継となるIMT-2000規格が制定されており、2001年以降のサービス開始が予定されている。この新規格の導入で通信性能が向上するので、動画など、従来のブラウザーフォンで利用できなかった情報も閲覧することが可能となる。
電気通信技術審議会次世代移動通信方式委員会報告(11年9月)では、IMT-2000だけでなく、携帯・自動車電話及びPHSを含めた将来の公衆陸上移動通信サービス全体に対する需要を予測しており、12年度末(2000年度末)には6450万契約、22年度末(2010年度末)は8100万契約に達するとしており、繊維業界においてもブラウザーフォンをはじめとする携帯電話の効率的な利用が必要とされる可能性がある。現状ではこれらサービスの有効利用は難しいが、今後にむけて容易に導入できるよう準備を進めておく必要があると考えられる。
モール糸の毛羽抜け評価試験
愛知県尾張繊維技術センター 大津 吉秋
はじめに
織物表面の毛羽を特徴とする素材には、経糸や緯糸をカットすることで毛羽を発現させる別珍、コールテン、モケット、起毛機を通して発現させる起毛織物、モール糸のような飾り糸を使用した織物などその種類は色々である。これら毛羽を特徴とする素材では、着用や洗濯等によって毛羽が脱落し外観を損ねたり他の衣類に付着したりしてクレームの原因になったりすることがある。こうした素材の毛羽抜け評価試験は、JIS L 1075の織物及び編物のパイル保持性試験方法、JIS L 1084フロック加工生地試験方法、セロハンテープ法等があるが、試験法が簡便なことからセロハンテープ法がよく用いられている。そこで、こうした各種毛羽抜け評価試験方法について説明し、併せて尾州産地で多く生産されているモール糸及びモール織物を対象に行った毛羽抜け評価試験の結果について報告する。
おわりに
織物表面の毛羽を特徴とする素材の一つであるモール糸の毛羽抜け評価試験について概説した。用いたデータは、衣料やインテリア等に使用されている一般的なモール糸を糸と織物の状態で評価したものである。今回のデータからは、セロハン・紙粘着テープ法で評価した糸と織物の結果に比較的高い関連性が認められ、糸の段階での毛羽抜け評価の有効性が示唆されたこと、屈曲バー法と紙粘着テープ法の結果がアクセレロータ形法とセロハン・紙粘着テープ法の結果に類似している等、毛羽抜け評価における糸と織物の関係及び試験法間の関係について把握することができた。今後の課題としては、こうした色々な試験法による評価データと実用性能との関係を求めて、モール糸やモール織物のより適切な品質評価試験法の確立を図りたい。
近赤外分光法-繊維工業への応用-
愛知県尾張繊維技術センター 三輪 幸弘
はじめに
近年、繊維工業の分野においても、品質保証の重要性が高まっており、製造工程におけるリアルタイムの工程管理・品質管理の要請に応えるため、繊維製品の構成成分や化学・物理量を非破壊で迅速に分析・評価する技術が求められている。従来、化学分析などの手分析を必要としていた工程管理・品質管理を、リアルタイムの管理に置き換える分析・評価技術として、近赤外(NIR)分光法が注目され、その有効性が認識されるようになってきている。近赤外分光法の特長は、透過性に優れる光を用いる分光法であり、丸ごと、そのまま非破壊でいろいろな分析・評価ができる[1-3]。
本稿では、近赤外分光法の概要を解説した後、近赤外分光法の応用による、糊剤の同定[4]、マーセル化度の評価[5,6]の研究例2つを紹介する。
近赤外とは
近赤外分光法は、近赤外光の吸収に基づく分光法である。近赤外域は、可視域の長波長端800nm(=12500cm-1)から赤外域の短波長端2500nm(=4000cm-1)までの波長域を言う。近赤外の近とは赤外光の中で可視光に最も近い光という意味である。近赤外域はさらに、領域(800-1100nm)、領域(1100-1800nm)、領域(1800-2500nm)の3つに分けられる。近赤外分光法は、分子の基本音(基準振動)の倍音、結合音に基づく分光法である。領域は、透過性に極めて優れている。また、領域は、多くの倍音や結合音、領域は、結合音による吸収帯が観測される。近赤外域では、水素を含む官能基(O-H、C-H、N-H基など)と関係がある吸収帯が多い。また、近赤外域ではOH、NH基などの水素結合や分子間の相互作用によって特定の吸収帯にシフトが起こるが、このシフトの大きさは赤外吸収(基準振動)の場合に比べはるかに大きいので、水素結合の研究に適している[1-3]。
おわりに
最近の文献から、近赤外分光法の繊維分野への応用例2つを紹介した。以上、紹介したほかにも多くの報告があり、繊維の同定[7,8]、染料の同定[9]、DP加工剤の定量[10,11]、洗上げ羊毛の残留グリース・水分率[12]、熱履歴(ヒートセット温度)測定[13,14]などに応用が試みられている。
今後も、近赤外分光法は、その非破壊性、迅速性という特長を生かし、繊維分野の有用な分析・評価技術として普及していくものと考える。
ヒトの体温調節機構と被服気候について
愛知医科大学医学部第2生理学講座 助手 加藤雅子 教授 菅屋潤壹
はじめに
安全、快適かつ機能的な被服設計を行うための衛生学的条件として、田村は被服による気候の調節、さらにはヒトの体温調節に応じた被服についての検討が不可欠であることを示唆している。 そこで、被服気候を左右する要因として人間・被服・環境の3つの要因が挙げられる。つまり、快適な被服気候の形成のためには、ヒト、そのヒトが着衣する被服の性質、それらをとりまく温熱環境の3つの要因について考慮する必要がある。これらの要因は互いに作用しながら時々刻々と変化する。
ここでは、これらの被服気候を左右する要因のうち、ヒトと被服との関連について取り上げ、主にヒトの体温調節機構と被服の関連を中心に取り扱う。
まとめ
被服・ヒト・環境の関連
被服気候について検討する際、常に前提としてヒト-環境の問題が存在する。それらを考慮することなくしては快適な被服の設計はありえない。しかも、快適な被服気候の形成は上記してきた被服材料、被服構造などの組み合わせによって達成されるので、それらのどのひとつを欠いても快適な被服とは言えない。従って、ヒトや環境に応じた、あらゆる被服の側面についての詳細かつ総合的な検討が複雑ではあるが必要であると考える。
また近年、被服とヒトの関係についての観察は温熱的な問題のみに留まらず、衣服圧の生体への影響や布の接触感覚、さらには睡眠中の寝具のありかたなど多岐にわたり、さまざまなパラメータを用いた興味深い観察が行われている。ここでは体温調節機構と被服気候との関係について述べた。