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テキスタイル&ファッション誌(メールマガジン)バックナンバー
テキスタイル&ファッション Vol.16 (1999)
Vol.16/No.1~12
(1999年4月号~2000年3月号)
1-ファッション情報 | No. | 月 | 頁 |
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2000春夏テキスタイルコレクション開催 | 1 | 4 | 1 |
'99秋冬FDCコレクション | 1 | 4 | 7 |
ファッションビジネスと起業家 福永成明 | 2 | 5 | 63 |
次世代型ファッションSCM (サプライチェーン・マネジメント)論の提唱 菅原正博 |
3 | 6 | 127 |
メジャー・マーケットを想定した、ファッションメーカーの マーケッティング戦略を考える 山村貴敬 |
4 | 7 | 188 |
2000/2001年秋冬ファッショントレンド 藤岡篤子 | 5 | 8 | 260 |
いよいよ本番、自助努力の時代 山下征彦 | 6 | 9 | 326 |
'00/'01秋冬FDCテキスタイルコレクションを開催 | 7 | 10 | 376 |
図で見るアパレル消費市場の低迷の実態 土田貞夫 | 8 | 11 | 436 |
世界に跳躍するためのコンテストへ 三島 彰 | 9 | 12 | 480 |
大きく変わる小売マーケット 山崎光弘 | 10 | 1 | 518 |
2000年秋冬海外素材展に見られるウールへの提案 半田浩也 | 11 | 2 | 574 |
2000AWに向かうマーケット変化 十三千鶴 | 12 | 3 | 634 |
2-研究報告 | No. | 月 | 頁 |
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新規ヘアピン織物の開発 | 1 | 4 | 9 |
スーパー繊維複合構造織物の開発 -スーパー繊維織物への伸縮性付与- |
2 | 5 | 67 |
前処理によるアラミド繊維の染色技術 | 2 | 5 | 82 |
環境調和型生産システムに関する研究 -羊毛の染色・防縮同時加工による薬剤使用の効率化- |
3 | 6 | 133 |
組織構造と表面変化の解析 | 4 | 7 | 193 |
紡毛織物の起毛技術 | 5 | 8 | 266 |
織物の防しわ性評価手法 | 6 | 9 | 332 |
固定化酵素の調製技術 | 7 | 10 | 381 |
アラミド繊維の染色堅牢度改善技術 | 8 | 11 | 441 |
イタリア製織物の素材及び形状分析 | 8 | 11 | 454 |
経ストレッチ織物の製造技術 | 9 | 12 | 489 |
獣毛繊維の特性評価-アミノ酸組成、タンパク質の電気泳動- | 9 | 12 | 496 |
機能性ペプタイドの開発技術 | 10 | 1 | 522 |
紳士服地の構成要件と力学的特性、可縫性の評価 | 11 | 2 | 582 |
織物組織図の自動認識技術 | 12 | 3 | 640 |
3-技術解説 | No. | 月 | 頁 |
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片重ね組織の自動設計技術 | 3 | 6 | 148 |
パイル織物の分解方法 | 5 | 8 | 283 |
赤外/ラマン分光法-羊毛の染色・化学加工への応用- | 6 | 9 | 339 |
ウォッシャブル製品開発の現状 | 7 | 10 | 389 |
ノニフェノールポリエトキシレートの環境汚染と生分解性 | 9 | 11 | 501 |
最近目に止まる糸の特性に起因するトラブル | 11 | 2 | 595 |
4-講習会要略 | No. | 月 | 頁 |
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繊維新世代織物開発アカデミーから ・・・縫製工程からみたテキスタイル設計 |
1 | 4 | 47 |
繊維新世代加工技術アカデミーから ・・・羊毛繊維の構造と染色性 |
2 | 5 | 104 |
繊維新世代織物開発アカデミーから ・・・繊維産業における情報ネットワーク化技術 |
3 | 6 | 162 |
繊維新世代加工技術アカデミーから ・・・最新加工法による毛織物の風合改良技術 |
4 | 7 | 251 |
繊維新世代織物開発アカデミーから ・・・仕上加工とテキスタイル特性 |
5 | 8 | 314 |
繊維新世代加工技術アカデミーから ・・・酸化チタン光触媒による環境浄化 |
6 | 9 | 367 |
繊維新世代織物開発アカデミーから ・・・環境保全のための素材開発 |
7 | 10 | 425 |
繊維新世代加工技術アカデミーから ・・・環境調和型繊維加工薬剤 |
8 | 11 | 469 |
染色加工講習会から ・・・セルロース繊維の新しい形態安定加工“J-Wash” |
9 | 12 | 509 |
アパレル技術セミナーから(1) | 11 | 2 | 620 |
アパレル技術セミナーから(2) | 12 | 3 | 667 |
'99尾州フォーラム報告(1) | 4 | 7 | 217 |
'99尾州フォーラム報告(2) | 5 | 8 | 289 |
'99尾州フォーラム報告(3) | 6 | 9 | 346 |
'99尾州フォーラム報告(4) | 7 | 10 | 402 |
5-資料 | No. | 月 | 頁 |
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新繊維ビジョン『今後の繊維産業及びその施策の在り方』の概要 | 1 | 4 | 54 |
平成10年度愛知県尾張繊維技術センター研究速報 | 2 | 5 | 117 |
依頼試験、技術指導・相談の動向(1) | 2 | 5 | 121 |
依頼試験、技術指導・相談の動向(2) | 3 | 6 | 172 |
染色仕上関係海外文献情報(22) | 3 | 6 | 178 |
6-調査報告 | No. | 月 | 頁 |
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活力とチャレンジ~あいち新産業創造プラン(愛知県産業活性化計画) ~21世紀の多様な新産業の創造を目指して~ |
8 | 11 | 460 |
ファッションビジネスと企業家
ベテランの不振、ルーキーの活曜(福永 成明(ファッションジャーナリスト))
スポーツの世界では新人の活躍が目立っている。サッカーでは、日本のユース代表が世界2位の偉業を成し遂げた。サッカーの世界選手権で、銀メダル獲得は初めてである。野球では、あの松坂がベテランも舌を巻くほどの力投をみせ、観客動員でもライバルチームが称賛するほどの人気である。また、相撲に目を転じれば、やはり新人の雅山が大銀杏も結えないスピード出世。スポーツ界は、さながら「ルーキーの時代」である。
こうした現象はファッションビジネスの世界でもみられ、百貨店をはじめ“業界の大御所”が消費不振に見舞われているなか、ここでも新人たちが話題を独占している。その典型例が「ウラ原宿」と呼ばれる、原宿の裏通りに集積する専門店群である。
同じ原宿にありながら、本社を売却したレナウンとは対照的に、これらウラ原宿の企業群は、企業としては未完成ながら、大手企業にはない独特なエネルギーが、若者を惹きつける原動力となっている。あえて“ベテラン”との違いをいうなら、ルーキーがもつ情熱、わかりやすくいえばファッションに対する思い入れにある。
ファッションを業績に置き換えるベテラン企業は、ともすればファッションの面白さより計数が先行する。頭にあるのは「ヒット(売れ筋)」という言葉で、ファッションの味を語るMDやバイヤーが少ない。それに対してルーキー企業は、経営に関してはおぼつかないが、ファッションヘの興味がすこぶる強い。
日本のファッションビジネスは、長引く不況によって業界の“体温”が低下している。その体温低下が消費を減退させ、さらに業界を苦しくさせる、といった悪循環が続いている。そんな「低温業界」になってしまったファッションビジネスに新風を送り込んでいるのが、ウラ原宿に代表される“起業群”である。
しかし、表向きには「企業内起業家」とか「新創業時代」が語られながら、次代を担う若き起業家たちに対する業界支援は、ほとんど無いに等しい。
(サプライチェーン・マネジメント)論の提唱
繊維SCMプロジェクトが本格化(宝塚造形芸術大学 教授 菅原 正博)
スポーツの世界では新人の活躍が目立っている。サッカーでは、 繊維産業の日本型SCMのビジネス・モデルづくりを推進する組織としてQRAI(クイック・レスポンス・アーキテクチャー・イニシアティブ)が誕生した。このことによって、最新の情報技術を活用して川上から川下までを総合管理する繊維流通のSCM(サプライチェーン・マネジメント)の実証プロジェクトが99年から動き出すことになる。小売り、アパレル、テキスタイル、原糸など繊維製品のサプライチェーンを共有する企業の業務体系を見直し、効率的な生産・販売・物流構造を実現するのがねらいである。
この各プロジェクトは、それぞれ、以下のような具体的な目標をかかげて、システム開発に取り組んでいる。
1) 従来のCAD・CAMシステムとSCMとの連動
2) Web対応の生産技術情報システムを通じて、海外工場をも含めた迅速な生産・メンテナンス態勢の整備
3) インターネットを活用してアパレルの企画・生産・販売・物流・店頭管理を一元化するサービスの提供。これによる企画から店頭情報管理までのトータルな間接業務を半減させる。
4) Web PDM(プロダクト・データ・マネジメント)を中心とした製品情報のグローバル・ネットワークの構築
こういった一連のシステムを「繊維SCM」と呼んでいる。いずれも、川上、川中、川下を統括した繊維産業に特化した SCMを構築することに重点を置いている。確かに日本の繊維流通は、これまで、小売り、アパレル、テキスタイルの各業態の間で、情報の流れが寸断されてお り、それぞれが、独自の部分最適化をもとめてシステムが構築されてきた。
このことから、繊維流通全体で、多くのロスを生み出すことになり、この繊維流通システムに参画している各企業の利益率が大幅に低下する結果を招いている。こういったロスを削減する目的で、日本の繊維産業は、アメリカの先例を参考にしながら、QRS(クイック・レスポンス・システム)の確立を目指して、基盤整備を行ってきた。
現時点では、この繊維SCMプロジェクトとして、今後取り組むべきシステム課題として、図1に示しているような構成図が提案されている。この構成図の大きな特徴は、需要予測を「プレシーズン需要予測」「インシーズン需要予測」「エンドオブシーズン」の3段階に区分けしている点である。つまり、プレシーズン需要予測は、シーズンインする出発点の初回投入量を予測するシステムである。つまりそのシーズン全体、たとえば、春夏、秋冬のそれぞれ6カ月間の売れ行きを予測するシステムである。一般には企画という点からみると、先行企画にあたる部分である。
他方、「インシーズン需要予測」はシーズンに入って、どのような売れ行きが期待できるかという部分である。これは、少なくとも、1週間単位で行われる。企画サイドから見ると「期中企画」に該当する。第3番目の「エンドオブマンス需要予測」は、期末のバーゲン企画の判断材料になる。日本のユース代表が世界2位の偉業を成し遂げた。サッカーの世界選手権で、銀メダル獲得は初めてである。野球では、あの松坂がベテランも舌を巻くほどの力投をみせ、観客動員でもライバルチームが称賛するほどの人気である。また、相撲に目を転じれば、やはり新人の雅山が大銀杏も結えないスピード出世。スポーツ界は、さながら「ルーキーの時代」である。
こうした現象はファッションビジネスの世界でもみられ、百貨店をはじめ“業界の大御所”が消費不振に見舞われているなか、ここでも新人たちが話題を独占している。その典型例が「ウラ原宿」と呼ばれる、原宿の裏通りに集積する専門店群である。
同じ原宿にありながら、本社を売却したレナウンとは対照的に、これらウラ原宿の企業群は、企業としては未完成ながら、大手企業にはない独特なエネルギーが、若者を惹きつける原動力となっている。あえて“ベテラン”との違いをいうなら、ルーキーがもつ情熱、わかりやすくいえばファッションに対する思い入れにある。
ファッションを業績に置き換えるベテラン企業は、ともすればファッションの面白さより計数が先行する。頭にあるのは「ヒット(売れ筋)」という言葉で、ファッションの味を語るMDやバイヤーが少ない。それに対してルーキー企業は、経営に関してはおぼつかないが、ファッションヘの興味がすこぶる強い。
日本のファッションビジネスは、長引く不況によって業界の“体温”が低下している。その体温低下が消費を減退させ、さらに業界を苦しくさせる、といった悪循環が続いている。そんな「低温業界」になってしまったファッションビジネスに新風を送り込んでいるのが、ウラ原宿に代表される“起業群”である。
しかし、表向きには「企業内起業家」とか「新創業時代」が語られながら、次代を担う若き起業家たちに対する業界支援は、ほとんど無いに等しい。
図1 需要予測システム
メジャー・マーケットを想定した、ファッションメーカーの マーケッティング戦略を考える
山村貴敬研究室 山村 貴敬
はじめに
今日の日本のファッション生活者は、自己実現、あるいはトータルな生活価値実現の一手段として消費するようになってきており、商品に対する要求も、感性、時代性、ライフスタイル、品質、機能性、価格、時間等、多様な判断要素に則して高度化、細分化しつつある。言い換えれば、今日のファッション生活者は、日々の着用や購買に対する気持ちの持ち方によって、商品やブランドや店舗を使い分けている。多様な購買動機をもつ生活者に対して、多様な選択肢を用意することが、産業界に問われている訳である。
このような生活者の多様な購買欲求は、マーケティング理論で言う市場細分化戦略を促進させることとなった。ターゲット生活者の属性やオケージョンを想定した、特化型ブランドや業態、具体的にはデザイナーブランド、SPAブランド、セレクトショップなどが、今日のマーケットで評価されるに至っている。
しかし、果たしてこのような特化したブランドや店舗だけで、生活者のニーズ・ウォンツを満たすマーケットを十分にカバーできているのであろうか。また、これだけで「ファッションを産業にする」規模足り得るのであろうか。
本稿では以降、メジャー・マーケットを想定したファッションメーカーのマーケティング戦略について述べることにする。
2000/2001年秋冬ファッショントレンド
ファッション・ジャーナリスト 藤岡 篤子
新世紀を目前に控え、様々なことが変化している。新しい時代に連れていく事柄、20世紀に残していくモノやコト、生活の細部から社会の仕組みに至るまでいま見直しが図られている。ファッションにおいては、21世紀は「素材」の時代といわれている。それを裏づけるように'98年頃からコレクションでは、ハイテク素材の名前が多く挙がるようになっていた。新開発のコーティングや塩縮加工などである。天然素材、合繊といった区分けでは捕えきれない新たな、複合的に乗り入れた素材が今や圧倒的な多数派となっていて、服をよりエキサイティングにしている。素材が面白い、目新しい物がたくさん登場してくると言う事は、スタイリングやデザインにおいては、トラッド、ベーシック、シンプルなどの定番物がリニューアルされ、再びファッションラインに戻ってくる可能性が高いと言う事でもある。そして、素材の面白さを生かしたテキスチャー感溢れるファッションの台頭が予想される。
2000/2001秋冬のトレンドを4つの流れにわけて見てみよう。
●スティルス・ウェルス
この3シーズンに亘って、注目されている言葉に「スティルス・ウェルス」がある。物言わぬ贅沢とでも言えば良いだろうか。大袈裟ではない、お金のかかったお洒落のことを指す。
●ヒーリング・ナチュラル
少女時代の甘酸っぱい思い出、あるいは童話や昔きいたロマンチックな物語、思い出すだけで胸の奥が暖かくなるよう、安らぎの一瞬をデザインしたテーマ。
●アシメトリー・デコール
シンプルなものとデコラティブなものとの二極化が進むなかで、そのどちらの要素もありながら、まったくその二つに属さない強烈なテーマが登場した。
●グランムール・クール
トレンドがミニマルになろうとカントリーになろうと、ぜったいに揺るがないのが、女性のセクシーさだ。官能的でゴージャスで曲線に満ちている。古典的な装飾性と誇張された女らしさ。
最後に2000/2001年秋冬に向けての総括をしよう。
21世紀は素材の時代と期待されているように、同じフラノでもハイテク加工によって、全く異なる風合いを持つ。ベーシック素材でも、糸使い、後加工によって表情が変わる。素材のもつ伝統的な持ち味よりも、もっと自由に創造力を働かせ、新たなベーシックを作り出してこそ、ニューミレニアムにふさわしいファッションが生まれてくる。その意味では、テキスタイルこそミレニアムファッションの担い手である。
いよいよ本番、自助努力の時代
繊維法が6月に廃止、一般行政に
生活者の価値創造、自己実現を支援する産業へ
繊研新聞社 取締役名古屋支社長 山下 征彦
はじめに
今年の、いや少し過大に言えば戦後の繊維・ファッション産業にとって最大のニュースは長らく続いた“繊維法”が今年6月30日に廃止され、繊維行政が一般行政に包含されたことだろう。振り返れば1956年の「繊維工業設備臨時措置法」から、この6月に廃止された「繊維産業構造改善臨時措置法」までの実に43年間、繊維業界は法律によってガードされてきた。7月1日をもって繊維・ファッション産業は自己責任による自助努力によって生き抜いていくことになる。繊維法が廃止された歴史的機会にその歴史と今後についてまとめてみたい。
6次、43年にわたった繊維法
はじめにこの間に施行されてきた繊維法とその目的を列記してみる。
1956年「繊維工業設備臨時措置法」(以下、第一次繊維法と略す)
目的「正常な輸出の発展に寄与するため、繊維工業設備に関する規制を行うことによって繊維工業の合理化を図る」
64年「繊維工業設備等臨時措置法」(以下、第二次繊維法と略す)
目的「自由競争に耐えられる企業体質作りのため一定期間設備規制等の対策をとるとともに、輸出の正常化を図る」
67年「特定繊維工業構造改善臨時措置法」(以下、第三次繊維法と略す)
目的「国際競争力の強化のためスケールメリットを目指し設備の近代化、企業の集約化を中心とした構造改善事業を行う」
74年「繊維工業構造改善臨時措置法」(以下、第四次繊維法と略す)
目的「繊維工業の経済的諸条件の変化に対処して、新商品または新技術の開発、設備の近代化、生産または経営規模・方式の適正化を図り、国民経済の健全な発展に寄与」
89年「繊維工業構造改善臨時措置法」(以下、第五次繊維法と略す)
目的「同上」
94年「繊維産業構造改善臨時措置法」(以下、第六次繊維法と略す)
目的「基本方向は繊維法に同じ。対象を工業から産業に改め、流通業界にも拡大」
出所「繊維ハンドブック99」(日本化学繊維協会)
六次にわたる繊維法が43年もの長い期間施行されてきたわけだが、それは繊維産業が戦後のわが国経済の根幹のひとつとして外貨獲得や雇用に大きく貢献してきたからにほかならない。外貨獲得につながる輸出こそ85年のプラザ合意による円高誘導で翌86年から繊維貿易は入超に転じ、最高時(98年)2兆461億円の入超となっているが、それから約10年後の96年時点でも繊維産業は全製造業比較で重要なポジショニングを占めている。
繊維産業の位置
事業所数で15.7%(繊維工業、衣服・その他繊維品製造業、化学繊維製造業合計)
従業員数で8.8%(同上)
このような重要な産業であったから繊維法が99年6月まで続いても当然といえよう。ただし96年の全製造品出荷額にしめる繊維の比率は3.2%と生産性 の低さを露呈しており、高付加価値産業への脱皮が課題となっていた。構造改善事業はある意味でこの是正を目指したものであった。
おわりに
繊維法が廃止になり、ビジョンが打ち出されたが、今日の繊維・ファッション業界が三つの波にさらされていることに変わりはない。生活者が市場を動かす波、グローバル化の波、開発による需要喚起の波である。繊維法という構造改善事業は終わったが、方向は明示されている。とりわけテキスタイル産地は織物やニット生地の企画、生産を通じて「エクセレント企業」と連動し、生活者の価値創造と自己実現に貢献することが世紀を超えた生き残り策となろう。
図で見るアパレル消費市場の低迷の実態 ―家計調査データは何を語っているか―
上武大学商学部 土田 貞夫
依然として出口の定かではない厳しい不況の中で、消費市場はさらに一層の低迷を余儀なくされている。一体市場はどうなっているのか、長期的にはどのように変化しているのだろうか。その低迷の実態を正しく理解すると同時に、今後の市場の動向に対する的確な判断が求められている。アパレル市場の今後の動向を理解するには、まず現在までの長期的推移を知ることが肝要である。そこで、総務庁の家計調査報告《資料》に基づいて平成元年より平成10年までのアパレル消費市場の長期的な市場の動向を図により端的に理解することとしたい。
表1 10大費目別指数(平成元年=100)の推移
平成3年 | 平成10年 | 増 減 | |
■大きく伸びている費目 | |||
住居 | 113.5 | 138.5 | 大幅増加 |
保健・医療 | 109.8 | 136.2 | 大幅増加 |
光熱・水道 | 110.6 | 129.3 | 増加 |
交通・通信 | 107.3 | 122.8 | 増加 |
■消費支出の全体的動向と同じ程度の伸びを示している費目 | |||
消費支出全体 | 109.3 | 109.6 | 横這い |
教養・娯楽 | 110.8 | 114.3 | 微増 |
教育 | 105.2 | 108.4 | 微増 |
その他の消費支出(雑費) | 106.6 | 106.7 | 横這い |
■消費支出の全体的動向に比べて相対的に大きく低迷している費目 | |||
食料 | 108.3 | 103.0 | 減少 |
家具・家事用品 | 111.5 | 98.7 | 減少 |
被服及び履き物 | 109.2 | 82.6 | 大幅減少 |
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バブル崩壊後格差の広がる消費支出
平成元年を100とした指数で見ると、平成10年の消費支出全体の指数が109.6であるのに対し、「被服及び履き物」の指数は82.6であり、平成9年に比ベてもさらに低下し、10大費目中最も低い伸びであることが指摘できる(表1)。なお、平成3年を境として、バブル崩壊後の動向において増加した費目と減少した費目の対照が顕著である。
住関連の支出の大幅増加は、バブルによって異常に高騰した後遺症によって地代や家賃が依然として高い水準を示していることによる。その他、エネルギー分野、交通・通信や保健・医療といったサービス関連分野が大幅な増加を示していることが注目される。一方、その他の生活関連分野である衣・食、住関連の家具・家事用品は大きく低迷している。特に、衣服関連支出は平成3年をピークとして落込みが激しい。
世界に跳躍するためのコンテストへ
ベテランと新人が入り交じる第8回
世界が日本を注目するなかで(現代構造研究所 所長 三島 彰)
世界のモダンアートのメッカであるニューヨーク近代美術館が、昨年11月以降わが国のテキスタイルクリエーションの精髄を結集する日本テキスタイルデザイン展を開催したことは、すでに広く知られていることだが、この展覧会はニューヨークにほぼ並行してセントルイスでも開催され、その後アクロン、サンフランシスコと米国を巡回した後、来年にはヨーロッパに渡って、パリの装飾美術館で展示されると聞いている。
開催都市でわが国のテキスタイルクリエーションが驚嘆をもって迎えられたことは容易に想像できることだが、その評判は開催国を超えて、カナダなど周辺諸国にも広がっているようである。併せて今年、デザイナーの菱沼良樹の作品展示がオランダで開催され、来年にはドイツのハンブルグでコシノヒロコの作品展が予定されているというから、テキスタイル開発に特色のあるこれらデザイナーのエキジビションでも、わが国テキスタイルの創造的体質が先進諸国に一層広く浸透していくに違いない。そしてこのような一連の動向が、今わが国の業界の大きな課題になっているファッションテキスタイル輸出を促進する追い風になっていることは有り難いことである。
そしてこのようなクリエーションを継承し発展させていく上で、テキスタイルコンテストが重要な役割を果たしていることは言うまでもないことで、一宮市がその先陣を切ってその中軸としての役割を果たして今回第8回を迎え、10回の大台を間近にしていることは、まことにめでたいことといわなければなるまい。
今回の応募を素材の観点からみると、婦人服地ではウール素材がほぼ2割、ウールと他繊維との複合及びウール以外の素材によるものは、共に4割前後を占めている。ナチュラリズムの高揚を反映して綿、麻が強くクローズアップされているのはもとよりだが、これに加えて紙、ケナフ、さらに、竹、備長炭などが登場していることが注目される。その一方でレーヨンの後退する半面で、その他の化合繊がさらに比重を高めていることは、合繊に強いわが国の特質を反映して当然といえる。しかしその合繊の内容をみると、最近の東レ展に見るような新しいチャレンジが意外に反映していない。合繊各社が販路を絞っていることの現れなのだろうが、先端的な合繊素材がこのようなコンテストのクリエーションにより強く反映されるよう、合繊各社の協力が強く望まれる。一方、ホログラムやステンレスなどのメカニカル素材は、コンテストの新定番になっている感がある。
最近の合繊開発をみると、原料が石油系であってもナチュラルな表情を湛えているという、いわゆるテクノナチュラルともいうべきものが登場してきている。公害源という観点からしても、天然がエコで、合繊は反エコというような単純な視点は通用しなくなってきている。本籍地で判断する時代は去り、現住所こそが問題なのだという状況になっているように思われる。
紳士服地のあり方がますます婦人服地に接近していることも注目に値する。服地が薄く軽くなるという婦人服地の潮流が紳士にも浸透し、紳士のコート服地が 大幅に減少してきており、これがコンテストにも強く反映している。リバーシブルの増加も軽薄服地による造型を物語っている。カジュアル化の浸透も著しく、今回のコンテストにも、スーツメーカーがカジュアルで受賞するケースが注目された。このようなところから当コンテストでも婦人紳士を一元化してはどうかという議論が起こっていると聞く
大きく変わる小売りマーケット
2000年のビジネストレンドを読むアパレルメーカーも価格に備える(繊研新聞編集局 山崎 光弘)
2000年、新世紀に向けての新しい年が始まった。ファッションビジネスにとって、始まろうとしている2000年はどんな年になるのかを、小売業の変化、とりわけ東京市場の変化とそれに対応するファッションアパレルメーカーに追ってみた。
◆売れない時代に売れるもの
物が売れない、商品が売れない、という声が強い中で「あすこは良く売っている」、「行列するほど人がいつも入っている」という小売店があります。
これからは、小売業一般では語れない時代です。買いたい物、欲しい物、買わなくてはいけない物、あるいは「ここでしか買えない物」という選別が強烈に働きます。
これまでは、海外有力ブランド人気でグッチ、プラダ、ルイ・ヴィトン、シャネルと憧れのブランドが売れました。新製品には予約待ちとの状況は変わっていませんが、「ブランド物が安ければ、たとえ質屋でもアウトレットでも」と、買い方は大きく変化してきました。質屋が、ブランド物専門の洒落たショップを繁華街に開き大盛況。憧れのブランドが格安で買えるなら、出所や経路は問わない、との状況が続いています。
さらに、アウトレットモールは「売れ残りの処理場」という既成概念が完全になくなり、新しい大型商業施設として人気上昇中です。
お客さんが物を買う、という消費行動はこれまでとは大きくガラリと変わって来ました。
高級品を安く、また、必要品はより安くとの傾向が強まっています。大創産業(本社東広島市)の100円ショップ・ダイソーを代表例とする100円ショップは、あれよあれよという間に、全国に店舗を拡大しています。雑貨を主体とした100円・価格均一ショップの日本での市場性は1000億円程度、と推定される中で、大創産業はすでに800億円を突破し、市場の八割を握っています。
もう一つは、深夜営業。低価格が消費者ニーズの一つなら、時間活用も都市生活者の根強いニーズ。90年代の主役・コンビニエンスストアだけの独占ではない、とばかりにドンキホーテは、服や生活雑貨を並べて見せた。時間消費が注目されるだけに、新時代にマッチした小売業の開発が本格化する。
◆続く「109」人気
もう一つの変化は、瞬間系商品の全国化です。正確には瞬間系ファッション商品。トレンドは年々短くなり、売れる塊としては小さくなる傾向が続いています。しかし、小さければ、小さいほどインパクトの大きいのも事実です。
99年早々から爆発した「109(イチマルキュウ)」現象がそれに当たります。東京・渋谷にあるファッションビル「109」で、それまで全く無名の ショップブランドが一部のヤング、コギャル達の圧倒的支持を受けてテレビに雑誌に取り上げられ、全国各地に飛び火して行きます。「ミージェーン」、「ラブボート」、「ココルル」、「エゴイスト」など。価格は安い。Tシャツで3800円から4800円、スカート6000円、ワンピース10000円も出せばある。
カリスマと呼ばれる店長が、客とタメ口を交わし店内は活気にあふれる。売場というより、たまり場、情報拠点という様相を呈している。「売れ残った商品をカリスマ店長に着せて、何着売れるか」のTV番組の企画に、20人以上が(店長のお勧めを買い上げ)レジの前に行列したというから驚きだ。ここには、取り立ててパリやミラノやニューヨークのトレンドがある訳ではない。ひたすら、その瞬間、瞬間の感覚が消費になっていく。売れても、同じ商品の追加・フォローはやらないし、考えられない。瞬間系と言われる所以(ゆえん)です。
◆ヨーカ堂の変調
一方の百貨店、量販店など既存の小売業は苦境にあえいでいます。百貨店売上は、92年をピークに売上は回復しない。また、量販店は、衣料不振が続く。小売業の機軸は大きく変わろうとしている。
銀行業への進出か、と産業界全体の話題をさらうイトーヨーカ堂ですが、本業は初の減収減益を99年8月中間期で記録し、2000年2月期の通期でもこの基調は変わりそうにありません。なかでも、衣料品の大幅落ち込みが足を引っ張っています。
この間げきを縫って、前年比20~30%増を越える勢いで快進撃を続けるのが「ユニクロ」の店名で知られるファーストリテイリングや実用衣料のカテゴリーキラーである「しまむら」です。ユニクロは「カジュアルウエアとは本来、ブランド商品のように持つことに意義や満足があるのではなく、着てみて消費されるもの」(柳井正・社長)と、コンセプトは明確です。また、藤原秀次郎・しまむら社長は「要はお客さんの欲しがる商品を、最適地から出来るだけ安価に仕入れ、それを効率良く売りさばくシステムがあれば良い」と、こちらも明確な経営理念を持っています。
◆モノ皆安くに振れる
欧米の歴史と伝統に磨き上げられた高額ブランド商品は、かつての勢いはなくなったものの安定した動きです。別表のように、日本の衣料品はニューヨークやパリにくらべても価格は高い。婦人服も紳士服も高い、高額品が売れるマーケットです。それだけに世界のブランドメーカーのターゲットになってきました。また、低価格帯も高め。
このため、日本で一番分厚かった中間商品(ボリュームゾーン)が、低価格に大きく振れてきたのが特徴です。この傾向は、2000年から大きく加速される事でしょう。
イトキンが「革命商品」として、この分野に臨み、東京スタイルも「今世紀最大の戦略ブランドとして、考えられる知恵のフル動員をした」(高野義雄社長)と、意気込む「スタイルコム」を、2000年春夏からスタートさせます。日本だけではありません。アメリカでも、ラルフ・ローレンやダナ・キャレンがかつてのブリッジ、ブリッジベターと呼ばれた中・高額価格ゾーンから“ベター”と呼ばれる大衆ゾーンに大きくシフトしようとしています。ギャップやザラ、さらにはH&Mグループ(本社スットクホルム)といった大衆価格路線ストアの台頭が、日本や世界のファッションアパレル事情を大きく変えようとしています。
◆消費とはモノを費やすこと
2000年からのファッション衣料を中心とする消費環境は、大きくは二極化するように思われます。なかでも、新世紀の特徴は、モノの消費が大きく変わること。デザイナー物は、それなりにクリエーター同士の激しい競合の中で“時代性”の表現に磨きをかける。
一方、一般衣料はヨーカ堂、ダイエーなどGMSの苦戦ぶりをみても分かるとおりに岐路に立たされている。カジュアル分野におけるユニクロが今のところは「ゴール・イメージの描ける」一定の回答を持っているようだ。それは1900円のフリースであり、1000円を切る3足組みの靴下やトランクス類。ワンチャンス、あるいはワンシーズンだけの商品でも最低価格であれば、生活者は購入する、という新時代です。
10年、20年前の海外出張(旅行)は、新品の下着、Tシャツ持参であったはず。ホテルで1000円の新品トランクスに3~4ドルのクリーニング代をか けた。しかし、今は例えばニューヨークには町の角々にギャップがあり3枚7ドル50セント、パリ、ロンドン、フランクフルトではH&Mで、ギャップ以下の値段で買えます。こうして、最低価格でありさえすれば、消費者は文字通り「モノを費やして消す」ことになる。
ユニクロが進める“国民ブランド”路線にはそれが感じられます。成熟化社会と言われて久しいが、ファッション消費は大きな転換点を迎えようとしているようです。
紳士服 世界主要都市のアパレル価格比較(単位;ドル)
高価格 中価格 低価格 | |
---|---|
(1)東京 | 3,010 ~1,250 ~ 830 |
(2)シドニー | 1,940 ~ 920 ~ 440 |
(3)シカゴ | 1,930 ~1,090 ~ 630 |
(4)ニューヨーク | 1,870 ~1,080 ~ 560 |
(5)シンガポール | 1,790 ~ 670 ~ 450 |
(6)コペンハーゲン | 1,620 ~ 990 ~ 600 |
(7)ロサンジェルス | 1,460 ~ 710 ~ 450 |
(8)パリ | 1,420 ~ 820 ~ 570 |
(9)アムステルダム | 1,400 ~ 800 ~ 400 |
(10)ブリュッセル | 1,360 ~ 870 ~ 500 |
※スイス連邦銀行調べ(1997年) |
婦人服 世界主要都市のアパレル価格比較 (単位;ドル)
高価格 中価格 低価格 | |
---|---|
(1)東京 | 1,980 ~1,010 ~ 350 |
(2)コペンハーゲン | 1,210 ~ 580 ~ 330 |
(3)香港 | 1,160 ~ 540 ~ 270 |
(4)シドニー | 960 ~ 490 ~ 230 |
(5)シカゴ | 940 ~ 500 ~ 290 |
(6)シンガポール | 860 ~ 570 ~ 240 |
(7)ソウル | 840 ~ 610 ~ 360 |
(8)ニューヨーク | 830 ~ 510 ~ 310 |
(9)ウィーン | 820 ~ 470 ~ 240 |
(10)アムステルダム | 790 ~ 430 ~ 180 |
※スイス連邦銀行調べ(1997年) |
2000年秋冬海外素材展に見られるウールへの提案
テキスタイル・ディレクター 半田 浩也
'99年10月パリで催されたプルミエール・ビジョン展は2000年秋冬素材の提案であった。天然繊維の中 でも特にウールをメインとした様々な提案は、ウールを中心とした尾州産地にとっては大きな期待をいだかせるものであった。今回はその様な提案の内から今後 の国内マーケットに結び付いて行くであろう点を取上げて見たいと思う。
はじめに
2000年秋冬のプルミエール・ビジョンのテーマは<TRANSGRESSION>違反するという意味であった。このテーマの意味するものは、既成の観念を捨てようと云うことである。モード委員長のブランベール氏はそのことを次の様に説明している。
<今は全てが混り合ってジャンルを越えて、ものごとの際がなくなった。男女の差、フォーマルとカジユアルの差、ヤングとミッシイーの差、全てが横断的に使 われている。特に生地についてはその用途を最初から決めつけることは不可能になって来た。用途にこだわらない思い切った素材の提案が必要な時だ。今回の違 反と云うテーマはその様な気分を表わしたものだ。>
ブランベール氏の説明を裏付ける様に素材の提案も従来迄の用途別提案から素材特性別提案へと切替へて展示されていた。素材特性としては大きく4ツに分類され
★WOOL&DIGRESSION(ウールと脱線)
★VOLUME&WEIGHTLES(ボリウムと軽さ)
★CUSTOMS&TEMPTATION(習慣と誘惑)
★FINSHINGS&TURBULENCES(仕上と騒乱)
というサプテーマのもとにまとめられ発信された。ブランベール氏は特に色の点にふれ、意識的にニュートラルカラーははずした、とも述べている。そのことを裏付ける様に、展示されているものは色味を充分に感じさせるものが多かった。
2000AWに向かうマーケットの変化
(株)TCカンパニー代表 ファッション・ディレクター 十三 千鶴
新千年紀へ向けて、本格的な始動に入った2000年の今年は、社会と経済のシステム激変期にあたると同時にそのひずみと変化が、今まで見えてこなかったものを生み出してくる元年ともなります。
つい先程まで絶対的な価値観として認めていた多くのものが、目の前で昔をたてて崩れ新しい常識が生まれつつあります。
ファッション業界における昨今の傾向をみても、こうした事がマーケットを始め流通において具体的に現われ、ビジネスとしての格差がつけられた年でもあります。
また、M&A(企業買収、合併)による欧州ファッション業界の再編の動きが加速する中で、日本マーケットにおける海外ブランドの大型ショップ化も、その 一つとなっています。こうした大型買収が相次ぎ、大企業グルーブによる買収の動きは今後さらに拍車がかかるでしょう。
99AWマーケットの振り返りMD政
百貨店は、生活者の価値変化に対応すべくMD政策を実行したと言えますが、その中で、注目されたMD政策とは
1)ミセスマーケットの若返りMD
熟年世代に突入した団塊世代にクローズアッブ、若々しさを求めるマチュアーゾーンの売り場作りが注目された。
(1)従来型ミセスのナショナルブランドの活性化及び絞込み
(2)コンテンポラリーブランド及びニューブランド導入
(例 コース、バジーレ、レキップ・ヨシエイナバ)
2)サイズ・マーケット&プライス政策
顧客満足に対する品揃えMDが注目されるなかで、サイズ展開及び、プライス政策は重要なMD政策となりました。ユニクロ価格が話題を呼ぶ中で今後益々、価格に対する政策は、ブランド政策の一環にもなりそうです。
同時に自主編集&自主MD、自前の販売強化が、単品平場ゾーンにおいて、プライス政策及びサイズ政策を合わせ話題となりました。当然こうした背景の中には単品管理システムとの連動があります。
3)ライフスタイルMD
ライフスタイルショップには大きく2つ
(1)インテリア、生活雑貨など住空間を軸として提案するショップ
(2)ファッション衣料の売り場に生活雑貨を取り入れたショップ
新規ヘアピン織物の開発
愛知県尾張繊維技術センター 柴田 善孝、池口 達治
製織中にヘアピン位置を変化させることができるヘアピン装置を開発した。この装置は通常のシャットル織機に取り付けて使用する。この装置を使って、経方向のジグザグ模様や波模様などがある織物を試作した。
はじめに
ヘアピン織物は、シャットル織機の特徴を活用し特殊な製織技術を使うことにより、緯糸で1本の経糸を引っかけてU字状に折り返し、ヘアピン柄を形成した織物である。緯糸がヘアピンの形状に織り込まれるのでこの名が付いた。通常の製織方法では表現できない柄が得られるが、単に従来の織機を活用するだけでは柄変化に乏しく商品展開に限界がある。そこで専用のハードウェアを工夫することで、今までにない新規のヘアピン織物を開発し、織物の差別化を図った。
おわりに
普通のシャットル織機に取り付け使用することができるヘアピン装置を開発し、これを用いて従来にないヘアピ ン織物が製織可能なことを確認した。この装置は、左右で異なる素材構成を持つ織物が製造可能であり、衣料用途だけでなく、室内装飾、産業資材などへの応用 にも期待できる。
スーパー繊維複合構造織物の開発
―スーパー繊維織物への伸縮性付与―
愛知県尾張繊維繊維技術センター 服部 安紀、鹿野 剛
平成9年度に、高強度・高弾性のスーパー繊維を用いて耐創傷性機能に優れたスーパー繊維織物を開発した。しかし、このスーパー繊維織物は、スーパー繊維糸の特性により伸び縮みが小さく、アウトドアウエア用として幅広い商品用途に対応するには問題があった。そこで、我々は伸縮性をスーパー繊維織物に付与するために、織物構造や糸構造でのポリウレタン繊維等との複合化の検討を行った。その結果、一般的織物レベルやストレッチ織物レベルの伸縮性を付与したスーパー繊維織物を開発した。そして、この織物は平成9年度に開発したスーパー繊維織物と同程度の耐創傷性機能を持つことがわかった。
はじめに
平成9年度にスーパー繊維糸を用いる上での懸念項目((1)紫外線に弱い (2)難染色性 (3)伸縮性がない)の解決と製品化のためのファッション性の確保、そして耐創傷性機能を有するという3要件を視野に入れたスーパー繊維織物を検討した。その結果、表層に普通の糸を用い、裏層にスーパー繊維糸を用いた二重構造の織物を開発した。この織物は表層からスーパー繊維糸を隠すことでスーパー繊維糸の紫外線からの保護と染色の不要化を実現し、さらに、表層の自由な意匠性を確保した。そして、この織物が普通の織物に比べ高い耐創傷性機能を持つことが試験室レベルの評価と実用レベルの評価で立証できた。
しかし、このスーパー繊維織物は伸縮性については未対策で、アウトドアウエア用素材として展開するには用途が制約されるものであった。そのためアウトドアという屋外での活動を想定した幅広い商品展開を実現するために、我々は平成9年度の開発品に伸縮性を付与することが必要となった。
そこで、本研究の主機能である耐創傷性機能を維持しつつ、伸縮性を持ったスーパー繊維織物を開発することとした。
本研究は、スーパー繊維織物の基本構造を基準に、2つのタイプによる伸縮性付与を検討した。ひとつは、一般的織物レベルの伸縮性付与で、梳毛織物(平織)レベルの伸長率7%程度を目標とした。そして、もうひとつがストレッチ織物レベルの伸縮性付与で、伸長率20%程度を目標とした。一般的織物レベルの伸縮性付与は、織物構造による付与方法で、スーパー繊維糸と整理工程で収縮する糸(以下、収縮可能糸と呼ぶ)を1:1配列にすることで、収縮可能糸が整理工程で収縮する力を利用して、スーパー繊維糸の織り込み長を増やし、織物内でのスーパー繊維糸の余裕をつくり、この余裕分を伸縮性とする考え方である。
なお、この方法に至った理由には、平成9年度の研究により、スーパー繊維糸とポリエステル・毛混紡糸の1:1配列の織物がスーパー繊維糸100%の織物と同レベルの耐創傷性機能が維持されたことによるものである。また、ストレッチ織物レベルの伸縮性付与は、糸構造による付与方法で、従来のストレッチ織物と同じ考え方で、ポリウレタン繊維糸等の伸縮糸をドラフトしてスーパー繊維糸と撚り合わせ、伸縮性付与スーパー繊維糸をつくり、この糸を緯糸に用いた緯ストレッチの織物をつくる方法である。
そして、これらの2つの目標に対して開発した織物は、平成9年度に定めた試験室レベルの突発的耐創傷性評価並びに耐久的耐創傷性評価と、実用レベル評価としての耐切り傷性評価と耐擦り傷性評価、さらに新たに加えた耐火傷性評価にて、性能確認を行った。
本研究のスーパー繊維糸は平成9年度と同じパラ系アラミド繊維糸を用い、糸タイプはフィラメント糸と同レベルの耐創傷性機能を持ちつつ比較的安価(フィラメント糸の1/5程度)なスパン糸に限定した。
まとめ
以上により、次のとおり成果を得ることができた。
◎ 一般的織物レベルの伸縮性を付与したスーパー繊維織物は、経緯二重織で、裏層のパラ系アラミド繊維糸20/1と生地糸のポリエステル・毛混紡糸2/60を1:1に配列することで、基準のスーパー繊維織物の伸長率2.5%に対して5%程度が得られた。そして、耐創傷性評価については基準のスーパー繊維織物とほぼ同レベルの性能が得られた。また、コスト面では材料費ベースで、一般的織物レベルの伸縮性を付与したスーパー繊維織物がパラ系アラミド繊維糸の使用量が減るため基準のスーパー繊維織物に対して10%程度のコスト低減となった。
◎ スーパー繊維糸への伸縮性の付与については、従来のストレッチ糸と同じ考え方であるポリウレタン繊維糸をドラフトし、スーパー繊維糸と撚合わせることで可能であった。ただ、パラ系アラミド繊維糸は固いため、ドラフト後のポリウレタン繊維糸がパラ系アラミド繊維糸を引き寄せて、ポリウレタン繊維糸を芯としたスパイラル形態を得るためには、パワーのあるポリウレタン繊維糸70Dの採用が必要であった。さらに撚り合わせるパラ系アラミド繊維糸を2本とする場合にはポリウレタン繊維糸が縮んだ状態でパラ系アラミド繊維糸が安定した形態を得られやすい撚数にすることが重要であった。本研究ではポリウレタン繊維糸70D×パラ系アラミド繊維糸30/1×梳毛糸1/72(伸縮性付与スーパー繊維糸A)の場合、ドラフト比2.5倍、S撚、撚係数85が、ポリウレタン繊維糸70D×パラ系アラミド維糸30/1×パラ系アラミド繊維糸30/1(伸縮性付与スーパー繊維糸B)の場合、ドラフト比2.5倍、S撚、撚係数73が適当であった。
◎ 経緯2重織で、表層の緯糸に市販のストレッチ糸を用い裏層の緯糸に伸縮性付与スーパー繊維糸Aを用いたスーパー繊維織物(スーパー繊維複合構造織物A)と表層が同一で裏層の緯糸に伸縮性付与スーパー繊維糸Bを用いたスーパー繊維織物(スーパー繊維複合構造織物B)は、それぞれ、伸長率25%程度、12%程度を得ることができた。また、伸長回復率、残留歪み率についても、従来のストレッチ織物の規格である伸長回復率85%以上、残留歪み率3%以下を満足した。そして、耐創傷性評価については、スーパー繊維複合構造織物Aが突発的耐創傷性評価でやや基準のスーパー繊維織物より低下するものの、耐久的耐創傷性評価については同レベルの性能を示し、さらに、スーパー繊維複合構造織物Bは基準のスーパー繊維織物とすべての耐創傷性評価で同レベルの性能を維持した。また、コスト面では材料費ベースで、基準のスーパー繊維織物に対して、スーパー繊維複合構造織物Aが1.1倍程度、スーパー繊維複合構造織物Bが1.3倍程度に抑えることができた。ただし、従来のストレッチ織物に対しては、1.8倍から2.1倍のコストとなった。
前処理によるアラミド繊維の染色技術
愛知県尾張繊維技術センター 森 彬子、柴山 幹生
アラミド繊維は、高強度・難燃性等の優れた性質を持っているが、難染色性である。
この研究では、アラミド繊維の特長である優れた繊維物性を低下させずに、染色性を向上させることを目的として、前処理による易染化について検討した。
前処理方法として(1)有機溶媒法、(2)硫酸法、(3)キャリヤ法、(4)カチオン化法の4つの方法を適用し、分散染料を用いた浸染法及びサーモゾル法による染色試験を行った。
その結果、浸染法においては次の方法が優れていた。
・パラ系アラミド繊維に対しては、(1)前処理方法 カチオン化、染色温度150℃、(2)前処理方法 DMSO30%、染色温度150℃、(3)前処理方法 DMSO30%、染色温度130℃であった。
・メタ系アラミド繊維に対しては、(1)前処理方法 カチオン化法、染色温度130℃、(2)前処理方法 カチオン化法、染色温度150℃、(3)前処理方法 DMSO30%、染色温度150℃であった。
また、サーモゾル法については、今回実施した前処理方法では染色性の向上に顕著な効果は認められなかった。
はじめに
アラミド繊維に代表されるスーパー繊維の技術進歩はめざましく、各種の新しい繊維が次々に開発されている。最も早く開発されたアラミド繊維は、コストと性能のバランスがよいため、生産量が最も多いスーパー繊維である。しかし、アラミド繊維を衣料やインテリア用途として考えた場合には、難染色性という課題を解決しなければならない。
この研究では、アラミド繊維を染色するための各種の前処理条件と染色性及び繊維物性との関連について調べた。
おわりに
アラミド繊維に分散染料を用いて、各種前処理による染色試験を実施した結果、強力を低下させずに染色性を向上させる前処理条件は次の通りであった。
(1)浸染においては、有効な前処理方法及び染色温度を見いだすことができた。
・パラ系アラミド繊維に対しては、(1)前処理方法 カチオン化、染色温度150℃、(2)前処理方法 DMSO30%、染色温度150℃、(3)前処理方法 DMSO30%、染色温度130℃であった。
・メタ系アラミド繊維に対しては、(1)前処理方法 カチオン化法、染色温度130℃、(2)前処理方法 カチオン化法、染色温度150℃であった。
(2)サーモゾル法については、今回実施した前処理方法では顕著な効果は認められなかった。
環境調和型生産システムに関する研究
―羊毛の染色・防縮同時加工による薬剤使用の効率化―
愛知県尾張繊維技術センター 浅井 弘義、片岡 千乃
非塩素系薬剤のモノ過硫酸塩(PMS)による羊毛の防縮加工と羊毛用反応染料を用い、染色と防縮を同時加工する方法について行い、染色及び防縮加工に使用する薬剤使用の効率化を図り、環境への負荷が少ない加工法について検討した。
その結果、PMSによる染色・防縮同時加工〔酸化処理・染色(継続浴)―還元処理(反応染料のアルカリ処理を兼ねる)―樹脂加工〕することにより、酸、アルカリ、芒硝、浸透剤等の薬剤使用量が削減でき、水使用量も節減できる。PMSによる処理温度は通常適用される25℃より高い50℃で処理することにより防縮性能が向上することが分かった。
防縮の耐久性は織物規格及び樹脂の性能に支配され、ウレタン系樹脂がシリコーン系樹脂より高い耐久性を示した。染色・防縮同時加工による染色への影響は、中色までは標準染色と同等の結果であったが、濃色では標準染色に比べて濃度が低下し、湿潤堅牢度が悪くなる現象が生じた。また、PMS処理浴中に酵素(酸性プロテアーゼ)を併用したが、防縮性はさほど向上しなかった。
はじめに
製品の製造、加工及び廃棄に至るライフサイクルにおける環境への影響が、最近特に社会問題としてクローズアップされてきている。ISO14000シリーズに代表される環境に関する国際的基準が具体的に実施されるにともなって、製品製造にかかる薬剤等の管理、排出についても非常に厳しい状況になりつつあり、繊維製品の染色加工業においても今後益々環境に配慮した加工方法が求められている。
羊毛は優れた衣料用の繊維であるが、洗濯等の水系処理により、フェルト収縮するため、一般的にドライクリーニングされる。一方、ドライクリーニングに使用される溶剤も環境問題から制約を受けるので、将来、衣料品は水洗いできることが必要条件となると予想される。しかし、現在羊毛の防縮加工に最も多く使用されている塩素系防縮加工剤は、AOX(吸収性有機ハロゲン)と言われる有害物質が生成されるため、非塩素系薬剤による防縮加工が研究されている。それとともに、防縮加工に使用される助剤は染色とほぼ同じ薬剤が使用されている。染色と防縮加工を別々に加工すると薬剤使用量が多くなる。
そこで、非塩素系薬剤による羊毛の防縮加工と非金属染料による染色を同時に行う方法について検討し、防縮と染色に使用される薬剤使用の効率化を図り、環境への負荷の少ない加工法を目指した。
加工工程フロー
一般的なPMS による防縮加工法 |
染色・防縮 同時加工法 |
湿潤処理 | 酸化処理 | 還元処理 | 樹脂処理 | 乾燥・キュアリング | 染色 | アルカリ処理 |
湿潤処理 | 酸化処理 | 染色 | 還元処理 | 樹脂処理 | 乾燥・キュアリング |
おわりに
羊毛の非塩素系防縮加工剤PMSと羊毛用反応染料による染色・防縮同時加工方法について検討した。その結果PMSの処理温度を一般的方法より高い50℃で処理し、ウレタン系樹脂をパッド法で加工することにより、耐久性のある防縮加工ができることが分かった。このことは、一般的方法である25℃でのPMSの処理は染色工場での夏期における温度管理が難しいことを考えると、加工しやすい方法と考える。染色濃度が淡色~中色では通常の染色法とそんしょくない色相になり、染色堅牢度も特に性能が低下する問題も生じなかった。しかし、染色濃度が高い黒、紺等は標準染色に比べて薄くなるなり、染色堅牢度も悪くなることが分かった。
また、PMS処理を50℃の高温で行うことによる処理ムラの発生が懸念されるが、今回の試験結果からは染めムラ等、特に問題となる現象は生じなかった。しかし、濃色染色の問題とともに今後の検討課題である。
通常の染色を行った後、還元処理し樹脂加工した。シリコーン系樹脂は吸尽法、ウレタン系樹脂はパッド法で行った。この方法はPMSより処理が簡単で、シリコーン樹脂で処理すると深色化できるとともに、濃色染色が可能である。問題は風合が硬くなることである。
最近の環境に関する問題や加工賃の状況をを考えると今回行った薬剤の低減化や工程の短縮は染色整理業にとって重要な課題であり、今後とも検討を重ねて行きたい。
組織構造と表面変化の解析
愛知県尾張繊維技術センター 池口 達治、都筑 秀典
組織が織物表面の凹凸形状に及ぼす影響について調べるため、織物表面の形状を測定する方法を開発し、組織構造と表面変化との関係を明らかにした。さらに、組織図から織物表面の形状を予測し画像表示するソフトウェアを開発した。
はじめに
模紗織や蜂巣織のように外観の差別化を図った織物ばかりでなく、機能性を付与するための多層構造織物など、複雑な組織構造の織物が占める割合は増加する傾向にある。これに伴い、新しく組織を設計する機会も増加している。
豊富な経験と知識を持つ熟練者は、組織図を一見しただけで織り上がり形状をほぼ予想できる。しかしそういった一握りの熟練者を別にすると、組織図からどんな表面形状に織り上がるのか予測するのは容易ではない。特に凹凸形状を特徴とする組織や多層構造組織は、組織図が複雑であり頭の中だけで織り上がり形状を思い浮かべるようになるにはかなりの熟練を要する。
配色効果を確認するための織物用CADは広く普及しているが、表面形状を画面上で確認できる技術は確立されていない。そのため表面形状に特徴を持つ織物を企画するにあたり、デザイナーのイメージにあった表面効果を得るまで組織を少しづつ変化させ繰り返し試織を行うこともあり、こうした作業に要する時間やコストは企業の大きな負担になっている。
この研究では、表面形状のうち組織点の高さ、すなわち凹凸形状に的を絞り、織物の表面形状を測定した結果をもとに組織と表面形状との関係について解析した。さらにこの結果を活用して、組織図から表面形状を予測し、織り上がりシミュレート画像を表示するソフトウェアを開発した。
おわりに
今回の研究成果により、組織が表面変化に及ぼす影響について明らかになり、組織点の高さに関する表面形状を予測する手法を確立することができた。また、その手法をもとにしたシミュレーションソフトの開発により、試織しなくても表面形状を視覚的に確認できるようになった。
形状を推測するには、すべての組織点で周辺の浮き沈みを調べなくてはならないので時間と手間を要するが、コンピュータを利用することによりほぼ瞬時に結果が得られる。
ただし一部の推定値は計測値と一致していない。これは予測フローに規格の影響を含んでいないためと考えられ、今後の課題としたい。
紡毛織物の起毛技術
愛知県尾張繊維技術センター 斎藤 秀夫、片岡 千乃
要 旨
紡毛織物の起毛について風合いを最も左右するといわれる縮絨、起毛機運転条件と加工布のKESによる力学的特性を関連づけることによって、経験と勘で行われていると言われる加工条件を数値的に理解しようと試みた。その結果分かったことは、以下の通りであった。
・繊維を引っぱり出す(起毛)作用は、布の送りを規定するキャプスタンローラー(CAP)の回転数と、布の速度と逆方向に作用するカウンターパイルローラー(CPR)の回転数の相対的な差によって決まるが、パイルローラー(PR)はほとんど起毛作用がないことがわかった。この場合相対差が増すに従って、表面変化に関係する特性値は変化し、緯方向の強度低下、重量減少は大きくなることがわかった。
・縮絨の程度によって起毛され易さは影響を受け、大きくなるに従って起毛されにくくなることがわかった。
・起毛後蒸絨プレスすることにより回復性を示す値が大きくなり、形態安定性が増す作用があることがわかった。これは絡み合って不安定な繊維が蒸気と熱で安定化する(セットされた)ためと考えられる。
はじめに
毛織物の染色整理工程において起毛工程(針布起毛)は、秋冬物用の紡毛織物に不可欠の工程となっている。一部梳毛織物にも行われ、表面変化を持たせる重要な要素技術の一つとなっている。また、消費者ニーズの多様化・高級化が進む中で、起毛加工による表面変化の付与は重要な差別化技術の一つでもある。ところが、起毛加工条件の設定は、現場熟練者の経験によるところが大きく、現場熟練者の高齢化の進む中、熟練者の経験と勘の計数化(客観化)、換言すれば、技術の伝承が緊急の課題となっている。
そこで本研究では、紡毛織物の起毛について、もっとも影響を与えると言われている縮絨、起毛機の運転条件等を変化させた場合、力学的特性がどのように変化するのか測定し、起毛加工条件設定の指針を得るための試験を行った。同時に、同じ原布で加工され市販されている加工布の力学的特性も測定し、それらと比較検討した。
参考のために、第6回 OTEMASに出展された起毛機の特徴について述べる。今回は染色仕上機が全般的に低調であった中で、起毛機だけは、表面変化に対するニーズの高さから、10社出展していた。傾向としては、通し回数を減らすために強力起毛ができるもの、針布起毛とエメリーができるもの、両面起毛ができるもの、布によって運転条件を設定記憶させておくコンピュータ制御装置を装備したものなどである。いずれの機械でも、新商品開発に対応するために多機能化が進んでいる。
おわりに
紡毛織物の起毛について、もっとも影響を与えると言われている縮絨、起毛機の運転条件等を変化させた場合、力学的特性がどのように変化するのか測定し、起毛加工条件設定の指針を得るための試験を行った結果、次のことがわかった。
・繊維を引っぱり出す(起毛)作用は、布の送りを規定するCAPの回転数と、布の速度と逆方向に作用するCPRの回転数の相対的な差によって決まるが、PRはほとんど関係ないことがわかった。この場合相対差が増すに従って、表面変化に関係する特性値は変化し、緯方向の強度低下、重量減少は大きくなることがわかった。
PRは、布表面の緯糸を蹴り込み、押し込む作用が主であるが、CPRは、布地に深く入って、緯糸を引き出し、起毛はCPRによって行われると言える。
・縮絨の程度によって起毛され易さは影響を受け、縮絨が強い場合は起毛されにくいことがわかった。起毛布も軽量化が求められているが、CAPとCPRの相対差はあまり大きくできないことが推定される。
・起毛後蒸絨プレスするごとに回復性が増し、形態安定性が増す作用があることがわかった。これは絡み合って不安定な繊維が安定するためと考えられる。
織物の防しわ性評価手法
愛知県尾張繊維技術センター 大津 吉秋、福田 ゆか
機能性加工を行った梳毛織物を用いて、モンサント法とリンクル法によって着用しわの評価法を検討した。また、リンクル法の視感評価に替わる客観的評価法について検討した。その結果、梳毛織物の防しわ性は試料の水分量に影響されるが、その影響力は形態安定加工、防縮加工、はっ水加工等を行った機能性加工織物も未加工織物もほぼ同じであることが分かった。また、水分量が試験法の評価に与える影響は、モンサント法よりもリンクル法が顕著であることが分かった。しわの客観的評価として、レーザーによる計測評価の有効性が示唆された。
はじめに
衣服に生じるしわは審美性のみならず着心地を左右する重要な要素の一つである。このため、防しわ性は多くの繊維製品で品質を評価する項目として採用されている。防しわ性の試験方法は、JISではモンサント法、サンレイ法、リンクル法、針金法等が規定されているが、それぞれ一長一短の特徴を有している。今回の試験で用いたモンサント法は、試験が簡単で比較的短時間で評価できることから防しわ性試験法として一般的に用いられているが、一方向のしわで評価するため着用しわの試験としては若干疑問があるとされている。一方、リンクル法はランダムなしわを評価することから着用しわの評価に適した試験と言えるが、視感評価が精度、再現性の面で問題とされている。そこで本研究では、しわの形成に湿度の影響が大きいとされる梳毛織物を中心に、湿度条件と防しわ性との関係をモンサント法とリンクル法で試験し、着用しわの評価法を検討した。また、リンクル法では視感評価に替わる客観的評価手法について検討したので報告する。
おわりに
機能性加工織物を用いて、着用しわの評価について検討した結果、次のことが分かった。
(1)梳毛織物の防しわ性は水分の影響が非常に大きいが、その影響力は形態安定加工、防縮加工、はっ水加工等を行った機能性加工織物も未加工織物もほぼ同じである。
(2)試料の水分量が防しわ性に与える影響は、モンサント法よりリンクル法が顕著である。
(3)しわの経時変化とレーザーによる計測値とには相関性が見られ、しわの客観的評価の有効性が示唆された。
固定化酵素の調製技術
愛知県尾張繊維技術センター 茶谷 悦司、北野 道雄
蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)を水溶性多糖類であるデキストランヘ固定化する方法について研究した。その方法としては、まずデキストランを過よう素酸ナトリウムで酸化してアルデヒド基を導入した後、酵素のアミノ基と結合反応させる共有結合法をとった。
デキストランの酸化反応条件(酸化剤の量など)や、酵素一担体固定化反応条件(反応時のpHなど)について検討し、調製した固定化酵素の諸特性を評価した。
この結果、酸化反応時の酸化剤の最適配合量、固定化反応時の最適pH、酵素一担体配合比を見いだすことができ、調製した固定化酵素の熱やpHの変化に対する安定性が向上していることが確認できた。
はじめに
古くから麻や絹の不純物の除去に酵素が利用されてきたが、繊維工業に積極的に用いられるようになったのは、α-アミラーゼによる経糸澱粉糊の除去、プロテアーゼによる絹の精練からである。
これらの用途にとどまらず、化学薬品では達成できない種々の優れた特徴をもった酵素は、繊維加工剤の一つとして将来有望視されており、一例としてここ数年、ジーンズのバイオポリッシュ加工、テンセル・ポリノジックの毛羽除去、風合い出し加工に用いられるセルラーゼが飛躍的に伸びていることなどがあげられる。
しかしながら、繊維素材の表面処理加工においては、酵素処埋による繊維性能の劣化(強度低下など)をはじめ、酵素自身の安定性や回収などの問題点が指摘され、今後ますます利用度が高まってゆく中で適切な改良策が望まれている。
とりわけ羊毛などの天然繊維は、その繊維構造の複雑さゆえ、酵素による作用が偏在化することにより、内部保護と表面処理効果の均一性のバランスがとりにくいという問題をかかえている。
そこで本研究では、適当な水溶性高分子担体に酵素を共有結合法により固定化させることにより、この問題を解決すべく検討した。
高分子担体に酵素を固定化することにより、
(1)酵素作用の繊維表面への偏在化
(2)熱やpHに対する安定性の改善
(3)プロテアーゼの自食防止
(4)酵素の回収-再利用の可能性
などが期待できる。
ここでは酵素剤(プロテアーゼ)を水溶性多糖類であるデキストランに固定化する際の調製条件につき検討し、得られた固定化酵素の諸特性につき評価した結果を報告する。
まとめ
ここでは担体デキストランに共有結合法で酵素を固定化することを試みたが、この担体及び固定化方式を選択した理由として、
(1)デキストランに酵素と結合可能な官能基を導入しやすい
(2)デキストランは代用血漿として用いられるなど人や環境に優しい素材である
(3)酵素が担体の表面近くにあるため基質との接触が容易である
(4)担体と酵素が共有結合しているため結合力が強く、反応中に酵素脱離がない
(5)担体に導入したアルデヒド基は酵素のアミノ基と反応し、結合反応によりいたずらに酵素の活性を低下させないなどがあげられる。
固定化条件につき種々検討した結果、酸化反応時の酸化剤の最適配合量、固定化反応時の最適pH、酵素一担体配合比等を見いだすことができ、調製した固定化酵素の熱やpHの変化に対する安定性が向上していることが確認できた。その一方、収量が低くなるという問題点が残った。
この問題点を解決するためには、固定化条件の再検討が必要と考えられるが、ここで用いた担体(デキストラン)に共有結合法で固定化するという方法を採る限り限界があるように思われる。そこで重要となってくるのが担体の特性や固定化方式と特徴をよく把握した上で担体や固定化方式を決定し、調製方法を検討するということである。
先に述べたとおり、酵素の固定化方式や担体の組み合わせで多様な固定化酵素が得られるが、目的にかなったものを得るためにはどのような固定化方式、担体を選択するのが最適であるかについての技術的情報は意外と少ない。
固定化による酵素の特性変化は酵素ごとに異なり、それぞれについて最適の固定化方式、担体を探し出すことが重要である。
これらが明確になってくれば、繊維加工分野のみにとどまらず、洗剤、化粧品などへの添加酵素の安定化など固定化酵素の応用は広範な分野で開かれるであろう。
アラミド繊維の染色堅牢度改善技術
愛知県尾張繊維技術センター 森 彬子、柴山 幹生
アラミド繊維を濃染化することで、耐光堅牢度を改善するとともに光脆化を低減化する方法について研究を行った。
濃染化については、メタ系及びパラ系アラミド繊維をジメチルスルホキシド前処理の後、金属錯塩染料(10%)を用いて染色温度150℃で浸染したとき、最も効果があった。
耐光堅牢度については、キセノンアーク灯による耐光試験の結果、浸染法で金属錯塩染料(10%)を用いてメタ系アラミド繊維を染色することで、耐光堅牢度を衣料用実用範囲の5級に改善できた。
耐光堅牢度の改善に伴う光脆化の低減化については、キセノンアーク灯照射後の試料の強力測定結果から、パラ系・メタ系とも濃染化するほど試料の強力低下が少なく、濃染化することで光に対する繊維の保護作用が良好に保持されることが分かった。
摩擦堅牢度については、メタ系・パラ系共にカチオン染料(10%)を用いて、200℃のサーモゾル法を適用することで、浸染法に比較して、摩擦堅牢度を3級程度向上させる結果が得られた。
はじめに
高強力・難燃性の長所を持つアラミド繊維には、難染色性であることと光脆化しやすいため耐光堅牢度が悪いと いう弱点がある。難染色性の改善については、平成9年度研究報告「前処理によるアラミド繊維の染色技術」で、ジメチルスルホキシド等による前処理と分散染 料を使用した染色性の向上効果について報告した。
この研究では、アラミド繊維を濃染化することで、耐光堅牢度の改善及び光脆化の低減を行う方法について、また、摩擦堅牢度の改善方法を検討した。
おわりに
アラミド繊維の染色堅牢度改善について、この研究では次の結論が得られた。
浸染法でアラミド繊維を濃染化し、耐光堅牢度を改善することができた。
(1)メタ系アラミド繊維に対しては、DMSO前処理の後、染色温度150℃、超耐光分散染料もしくは、金属錯塩染料で濃色(10%owf)に染色した結果、耐光堅牢度を衣料用実用範囲の5級に改善できた。
(2)パラ系アラミド繊維に対しては、DMSO前処理の後、染色温度150℃、金属錯塩染料で濃色(10%owf)に染色することで、耐光堅牢度を4-5級に改善できた。
(3)光脆化を低減するには、パラ系・メタ系いずれに対しても濃染化が必須の条件であることが分かった。
(4)サーモゾル法にカチオン染料及び分散染料を適用することで、浸染法よりも湿摩擦堅牢度を向上させた。
イタリア製織物の素材及び形状分析
愛知県尾張繊維技術センター 都築 正廣
イタリア製毛織物は、世界市場において高く評価され、我が国においても中・高級品クラスにあって独自の地位を占めるようになった。これは、本県毛織物産業と直接競合するものであり、その特性について比較されることも多い。しかし、イタリア製織物についての評価は、「感性に優れる」「色が良い」などの表現で済まされており、具体的な違いがあまり明らかにされていない。
このため、本研究では、イタリア製織物の組織、組成、目付、密度、番手、色などについて調べ、傾向を分析した。その結果、織物表面が立体的であること、色は油絵のように多数の色を重ね表現すること、糸種が多いこと、糸、色の組合せに優れることなどが明らかになった。
はじめに
イタリア製繊維製品は、我が国繊維製品輸入において中国に次いで第2位に位置し、ガーメントを中心に、いわゆるインポート物として中・高級品ゾーンに大きなウェイトを占める。最近の消費市場の低迷を受け、減少傾向にはあるが、依然存在は大きく、99年実績で1892億円に達する。また、毛織物も176億円あり、本県毛織物産業と競合するものである。その製品特性は、優劣様々な評価があるが具体的な特性分析が明らかにされた例は少ない。
そこで、イタリア製織物を収集し、その特徴を調べることとした。
おわりに
日伊の織物比較によって、いくつかの相違点が明らかになった。その前提として、日伊の「物作り」のスタンスがまったく違うのではないか、ということを感じる。それは、イタリアが美的表現、ファッション性を追求するのに対し、日本は、工業製品としての均質性、安定性などをまず追求するのではないか、ということである。
イタリア製織物の立体感や色冴えの実現は、イタリア製生地の日本での縫製工程、小売市場でのトラブルと大いに関係があると思われるし、ガーメントの見栄え、着心地の良さとも表裏のものである。
ここにおいて、その特徴を具現するために多くのノウハウが秘められていることを知るべきで、今回はその一端ではあるが探ることが出来たと考える。さらには、整理加工、縫製などの工程にも様々なノウハウ、工夫が込められているのである。
ただ、分析したサンプル数に限りがあったこと、時期的にも限られた範囲のものであること、日本に持ち込む時点で選択が行われていることなどにおいて、この研究結果が、イタリアの全てを示すものではないのは自明である。今後とも機会ある度に探っていくこととしたい。
経ストレッチ織物の製造技術
愛知県尾張繊維技術センター 大野 博、広瀬 繁樹
要 旨
本研究は、昨年度実施した緯ストレッチ毛織物の研究を踏まえ、ウールとポリウレタン弾性糸を複合化したストレッチ糸の研究をさらに進め、経ストレッチ毛織物の製造技術について検討したものである。
ストレッチ糸の製造条件、ストレッチ織物の製織条件の諸条件を変化させたストレッチ織物を製造し、伸長特性(伸長率、伸長回復率、残留ひずみ率)及び収縮特性(緩和収縮率、プレス収縮率、ハイグラルエキスパンション)、織物断面形状の顕微鏡観察などを行い、織物の規格・製造条件と各特性との関係を検討した。
その結果、織物の残留ひずみ率が、それらの特性を向上させる非常に大きなポイントであり、とりわけ充実度が重要なファクターとなっていることが明らかとなった。
織物の規格・製造条件と伸長・収縮特性との関係解析により、昨年度からの課題であったハイグラルエキスパンションや伸長・収縮特性の向上を図ることができ、要求される実用性能を十分に満足する経ストレッチ織物の製造技術を見出すことができた。
はじめに
最近、タイトなスタイリングや機能性、着心地などを演出する素材が脚光を集め、ストレッチ織物は、その一端を担う、なくてはならないアイテムとして定着し始めている。
しかしながら、ストレッチ糸を構成するポリウレタン糸は、大きな伸長特性を持つことから、温度や張力変化に非常にデリケートな素材であり、撚糸および製織、仕上工程時に適切な取り扱いをしなければ、糸切れ、幅不同、縮み、しわ、ゆがみなどを起こして、製品の品質や物性に不安定性を与えてしまう。
当産地においても、ストレッチ織物の需要の急増を受け、積極的な取り組みがなされてきているが、各工程においては試行錯誤の面があり、いろいろな問題が発生している。
そこで本研究では、昨年度実施した緯ストレッチ毛織物の研究結果を踏まえつつ、さらに経ストレッチ織物の製造技術について研究を進め、ストレッチ織物の製造技術の確立を目指すこととした。経ストレッチ織物では、緯ストレッチ織物に比べ摩擦や張力の影響を受けやすく、扱いが格段に難しくなることから、糸のロット管理や張力管理、経緯糸のバランス等の留意点についても視野に入れて検討することとした。
実用レベルを十分に満足する経ストレッチ織物の製造技術の確立を目指し、ストレッチ糸及び織物の規格・製造条件の検討と伸長・収縮特性との関係解析を行ったので、ここにその成果を報告する。
まとめ
ア.ストレッチ糸の製造と特性分析結果から、Z撚に撚糸を行い強撚のストレッチ糸とすることでハイグラルエキスパンションを抑えることが可能であることが分かり、ストレッチ織物に要求される性能の大幅な向上ができた。
イ.張力管理や摩擦等のストレッチ織物の製織上の留意点が明らかとなり、これを遵守することによりポリウレタン糸切れの全くない経ストレッチ織物の製織が可能となった。
ウ.ストレッチ織物の規格・製造条件と伸長・収縮特性との関係解析から、充実度と残留 ひずみ率の関係が重要で、安定したストレッチ織物を製造するためには、ストレッチ糸の収縮特性に配慮し、仕上後の経緯糸のバランスを考慮した充実度となるよう織物の密度設定をする必要があることが明らかとなった。
エ.高品質なストレッチ織物の製造には、残留ひずみ率を低下させることが大きなポイントであり、残留ひずみ率を低く抑えることにより、緩和収縮、プレス収縮、ハイグラルエキスパンションの収縮特性も要求されるレベル以上に向上させることが可能であることが分かった。
これらの解析結果から、要求される実用レベルを十分に満足するウール・ストレッチ織物の製造技術を見出すことができた。
獣毛繊維の特性評価
-アミノ酸の組成、タンパク質の電気泳動-
愛知県尾張繊維技術センター 三輪 幸弘
獣毛の鑑別法について、そのアミノ酸の組成とタンパク質の電気泳動による鑑別法への応用を検討した。各獣毛のアミノ酸の組成からは、個々のアミノ酸の含有量は僅かながら差はあるものの、著しい差は認められなかった。しかし、各獣毛のタンパク質の電気泳動からは、アンゴラとアルパカはその泳動パターンに羊毛と差が認められ、山羊毛(カシミヤ、モヘヤ)も羊毛と僅かながら差が認められた。このことから、獣毛の鑑別法への応用の可能性が示唆された。
はじめに
獣毛-カシミヤ(カシミヤ山羊毛)、モヘヤ(アンゴラ山羊毛)、アンゴラ(アンゴラ兎毛)など-は、羊毛と混紡されることが多いので、これらの2つのグループが区別できる方法が必要となる。現状では、光学顕微鏡(LM)法が用いられている。しかし、LM法は観察者の経験と熟練を必要とする。そこで、獣毛にどんなアミノ酸が多く含まれているか(アミノ酸の組成)、どんな大きさのタンパク質が含まれているか(タンパク質の電気泳動)による鑑別(識別・同定)法への応用の可能性を検討したので、報告する。
おわりに
タンパク質の組成は鑑別法には有用であると思う。しかし、タンパク質の組成は同一のロットでも偏差があるので、混用率測定法(毛の間の許容範囲±5%)への応用は困難であると考える。
羊毛とその他の獣毛との形状の最大の相違は、他の獣毛のスケールは平滑であることである。この理由は、羊毛のスケール端の高さは0.6μm以上であるが、他の獣毛では0.5μm以下であるためである。現在、走査型電子顕微鏡(SEM)でスケール端の高さを測定して、羊毛と他の獣毛とを識別する混用率測定法が、国際羊毛繊維機構(IWTO)、国際標準化機構(ISO)の試験法として採用が検討されている。しかし、SEM法も時間と労力を必要とするので、今後、その自動化が課題となる。
機能性ペプタイドの開発技術
愛知県尾張繊維技術センター 北野 道雄、茶谷 悦司
天然物の持つ機能を有効に利用するため、主として各種動植物性タンパク質を加水分解により低分子量ペプタイド化する技術を研究するとともに、繊維加工用ペプタイドの持つ各種機能について明らかにした。
この研究の特徴としては、今まであまり繊維加工に利用された例のないタンパク質を中心に加工物質として選定し、主として酵素による加水分解を施して低分子量ペプタイド化したものを繊維に付与加工した。そして、加工した繊維の各種機能について評価した。この結果、各種ペプタイドの持つ機能を明らかにするとともに、これらペプタイドを繊維に付与加工する技術を確立した。また、加工した繊維の性能を評価した結果、ペプタイドの持つ諸特性を十分に発現できる高機能繊維が開発できた他、これらのペプタイド類が皮膚刺激性が小さく、しかも環境に優しい加工剤であることが明らかになった。
はじめに
健康や快適性を目的とした繊維製品の開発がここ数年続いているが、この理由は人間生活における心の豊かさが求められているためと考えられる。昨年度は、化粧品の持つような機能を繊維に付与する研究を行って、スキンケア機能を持った衣料製品の開発に成功した。本年度は、この研究成果を応用して機能性の高いペプタイドの開発研究を行った。この結果、従来にない諸機能を持ったペプタイドが開発できたので報告する。
まとめ
以上、ペプタイドや低分子量化した多糖類の持つ機能を有効に利用するため、これら天然由来の機能性ペプタイドの調製法と特性解析、加工試料布の機能を評価した結果を述べた。機能性の高い繊維加工剤を開発するため、今まで繊維加工への利用例の少ない物質を中心に選定して試験を行った。この結果、紫外線遮蔽効果や吸水性、帯電性特性、光沢度等の諸特性の優れた機能性ペプタイドの存在が明らかになった。また、この加工をインナー衣料等に応用する場合、肌に接する部分の皮膚刺激性が問題となる。しかし、化粧品原料等において最初に確認される皮膚一次刺激性試験による評価を試みた結果、乳タンパクや卵タンパク、大豆タンパク、小麦タンパク等の各種動植性タンパク質の酵素加水分解ペプタイド(5種類)は、全く刺激反応が認められないことが判明した。この他、耐久性等については、より高い性能が求められると考えられ、機会があれば試験を試みて検討を加える予定である。最後に、本研究で用いたような加工剤は天然由来のものが主で、地球環境問題に対しては有利な物質と考えられる。天然物の利用については、ますます研究開発の必要性、重要性が高まってきており、本研究の成果が少しでも企業の発展に貢献できることを願っている。
得られた成果を要約するとつぎのとおりである。
(1)各種動植物性タンパク質の酵素による加水分解ペプタイド化試験を試みた結果、繊維の加工に適した分子量1万~2万5000の機能性ペプタイドの分離・精製技術を明らかにした。
(2)ウールやナイロンにペプタイド付与加工を施して、紫外線遮蔽効果を調べた結果、UV-A波、UV-B波に対する遮蔽効果の優れたペプタイドの存在が判明した。
(3)ウールやナイロンにペプタイド付与加工を施して、光沢度、吸水性、帯電性等を評価した結果、性能の高いペプタイドの存在が判明した。
(4)各種動植物性タンパク質の酵素による加水分解ペプタイドについて、皮膚一次刺激性を試験した結果、いずれも皮膚刺激反応は認められなかった。
表1 繊維加工試験に用いたヘプタイド類
No. | 名 称 | 成 分(由来) | メ ー カ ー |
---|---|---|---|
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 |
プロモイスパールP ミルクベプチドMWPI ミルクペプチドMKSC グルアディンAGP ツェイン88 ハイニュートDL Phyto Collage BOREP ヨークプロテインP-1 ヨークペプチドH-2 卵白粉末 エグレートNo.2 CROLLAC L20 COLTIDE HQS TRITISOL Cromoist WHP Hydromond マリンデュウ PC-100 硫酸プロタミン ポリリジン |
コンキオリン(アコヤ貝) ホエータンパク(牛乳) カゼインタンパク(牛乳) 小麦タンパク トウモロコシタンパク 大豆タンパク 大豆タンパク グロビンタンパク 卵黄タンパク 卵黄タンパク 卵白タンパク 全卵タンパク セラック 小麦タンパク 小麦タンパク 小麦タンパク+ハニー アーモンドタンパク キチン加水分解物 鮭(複合DNAタンパク) ポリアミノ酸(重合リジン) |
成和化成 一丸ファルコス 一丸ファルコス 一丸ファルコス 昭和産業 一丸ファルコス 一丸ファルコス 阪急共栄物産 太陽化学 太陽化学 太陽化学 太陽化学 クローダジャパン クローダジャパン クローダジャパン クローダジャパン クローダジャパン 味の素 和光純薬 チッソ |
紳士服地の構成要件と力学的特性、可縫性の評価
愛知県尾張繊維技術センター 板津 敏彦
衣服素材の多様化に伴い、縫製業界においては、素材の性質・特徴にあった縫製技術が求められている。このため、生地構成要件(織物規格、使用原料等)による力学的特性の変化を把握し、その可縫性を検討した。その結果は次のとおりである。
春夏向紳士服地89点の織物規格とKES値との関係を調べ、充実度がKES値に与える影響が大きいことが分かった。また、充実度を変化させた織物18点の試作と解析を行い、充実度がせん断剛性等と高い相関があること、経,緯のKES値の変化は互いに相関が高いこと等が分かった。さらに、服地のパッカリング発生度を簡易に評価する方法による評価結果とKES値、織物規格との関係を解析した結果から、可縫性の良好な春夏向紳士服地の規格範囲の設定と範囲を越えた場合の主な問題を明らかにした。
はじめに
近年の衣服の個性化、多様化に伴い、衣服製造業は多様な素材への対応に取り組んできた。消費者の感性をいかに満たす素材かが重視され、縫製品の耐久性等の品質については、従来より、そこにかけられるウエイトが少なくなってきた。こうして素材をじっくり吟味する時間が少なくなり、素材メーカーもアパレルメーカーもきめ細かい素材品質管理を行うことが困難になってきたとみられる。特に、1990年代になって、素材の高級化、ソフト化が目立つようになり、糸の紡績法も新しい方式が普及してきた。これらの素材は、手触りや風合いは良いが、仕立映えしなかったり、型くずれを起こしたり、クレームが発生しやすかった。現在、これらの新紡績方法も技術的に安定し、従来からの梳毛糸と比べそれほど大きな問題は発生しなくなってきた。しかし、依然として紳士服地の薄地化、ソフト化の流れがあり、また需要の低迷する厳しい環境下にあって、衣服製造業は品質管理に十分なコストをかけることができず、その一方で商品クレームの発生は企業の死活問題となってきた。このような状況下にあっては、低コストの品質向上対策、クレーム発生の未然防止が重要な課題となっている。
このような中で、生地の製造過程ですでに分かっている構成要件(混用率、糸番手、密度、撚数等)によって、衣服材料としての性能を評価する試みが行われている。風合いが良く、見た目に美しくても、衣服になった時型くずれが発生しやすい服地は、最終的には大きな損失につながる恐れが大きく、企業の信頼も損なわれることになる。これらの要素を体系化できれば、ある構成要件の服地にはこんな縫製方法を選定すべきであるといった判断も可能になり、クレーム発生の防止につながる他、製品の高級化、高品質化にもつながる。これらの構成要件は、製造過程ではすべて分かっていることであり、このデータをうまく利用することにかかるコストは小さい。服地物性を数値化する技術として広く普及してきたKESシステムによる測定値と可縫性との関係についてはかなり解析され、縫製工程での留意事項が事前に判るシステムも実用化されてきた。
本報告では、これらの内容も含めて検討するため、春夏向紳士服地は特に問題が発生しやすいといわれているため89点を収集した。また、充実度を変化させた織物18点を試作した。
これらの結果から、服地構成要件による力学的特性の変化を把握し、その可縫性を検討することとした。具体的には、各種紳士服地の構成要件と力学的特性値(KES値)の関係解析を行い、次に力学的特性値と可縫性との関係解析を行い、最終的には可縫性を満足する服地構成要件を明らかにすることとした。
まとめ
以上の結果をまとめると、次のとおりである。
1)春夏向紳士服地89点の織物規格とKES値との関係を調べ、充実度が高くなるにつれてせん断剛くなり、番手が小さくなるほど(糸が太くなるほど)曲げ剛くなり、ウール混率が高くなるほど、曲げ、せん断柔らかくなること等が分かった。
2)充実度を変化させた織物18点の試作とKES値との関係を調べ、充実度がせん断剛さ(G)、せん断回復性(2HG5)、曲げ剛さ(B)、曲げ回復性 (2HB)などと高い相関があること、充実度を変化させた織物の経・緯のKES値の変化に相関が高いこと等を明らかとした。
3)服地のパッカリング発生度を簡易に評価する方法として、パターン縫製を利用し、いせ設定、曲面形状設走のできる方法を用い、収集した服地を等級判定した。このパッカリング等級判定結果とKES値、織物規格との関係を解析し、織物規格のうち充実度が及ぼす影響が特に大きく、どのように服地物性に関係するかを明らかにした。この結果と一般に普及しているKESの縫製適正ゾーンを基に、可縫性の良好な春夏向紳士服地の規格範囲の設定と範囲を越えた場合の主な問題を示した
織物組織図の自動認識技術
愛知県尾張繊維技術センター 安田 篤司、安藤 正好
織物企画設計作業の高度化・効率化を図るため、織物組織図の自動認識・管理を行うシステムの開発を行い、次の成果を得た。
(1)イメージスキャナで読み込んだ組織図画像を、コンピュータ画像処理で自動認識を行うプログラムを開発した。
(2)認識結果を画像表示し、情報の追加・修正に加えて、組織図の特徴量を計算し、組織図データベースから、近似組織図の検索を行う組織図シミュレーションプログラムを開発した。
(3)組織図だけでなく、織物名やキーワードで検索が可能な組織図データベースを開発した。
はじめに
織物生産工程における見本作成作業は、時間・コストがかかるため、織物柄のシミュレーションに代表される作業にCADが導入され運用されている。
CADへのデータの入力は、マウス・キーボードを使用しているが、特に織物の組織情報は、設計書に添付された組織図をCADの画面上に表示された意匠紙に転記して入力を行っている。そのため、複雑な組織の場合は非常に手間がかかっている。
また、織物の組織の場合、組織図は膨大なデータ量で蓄積されているが、体系的に整理されていない場合が多く、織物設計の際、類似の組織の検索に手間がかかっている。
最近はパーソナルコンピュータ(パソコン)普及に伴いコンピュータ関連機器も低価格になり、以前高価であったイメージスキャナ等の機器も容易に導入できるようになった。そこで、こうした機器を用い織物企画設計作業の高度化・効率化を図るため、コンピュータ画像処理等を応用して、織物組織図の自動認識手法および組織図情報の管理手法について研究を行った。
まとめ
織物企画設計作業の高度化・効率化を図るため、織物組織図の自動認識・管理を行うシステムの開発を行い、得られた成果は次のとおりである。
(1)イメージスキャナーで読み込んだ組織図画像を、コンピュータ画像処理を用いて自動認識を行うプログラムを開発し、組織図から直接、織物シミュレーションに必要な情報を抽出することが可能となった。
(2)組織図シミュレーションプログラムを作成し、認識結果を画面上で表示できるようにし、組織図情報の追加・補正を可能とした。また、組織図の特徴を組織図形状パラメータに表し、別途作成した組織図データベースから、近似組織図の検索を行うことも可能とした。
(3)組織図データベースを作成し、ID番号で組織図を検索することが可能となった。また、織物情報も併せて登録し、織物のID番号、名前、キーワードから、組織図を含んだ織物情報を検索することが可能となった。
片重ね組織の自動設計技術
愛知県尾張繊維技術センター 池口 達治
はじめに
織物用CAD技術の進歩により、テキスタイルデザインの作業効率は飛躍的に向上した。しかし組織設計は、人の手により編集するのが現状であり、多層構造織物のように大きく複雑な組織の設計は、手間と時間の浪費が大きいというネックがあった。
設計作業の効率化とミスの低減化を図るため、コンピュータを利用して組織を自動的に設計する研究がいくつか行われている。ここでは、片重ね組織を例に取り、設計手順を数式で記述する手法と、接結位置の適否判断を含めた自動設計技術について解説する。
また、パソコンの表計算ソフトウェアを利用して片重ね組織の自動設計を行った事例を紹介する。
パイル織物の分解方法
愛知県尾張繊維技術センター 柴田 善孝
はじめに
パイル織物とは、織物の片面または両面を毛羽か輪奈(ループ)すなわちパイルで地組織を覆った織物の総称で、緯糸でパイルを現した緯パイル織物と、経糸でパイルを現した経パイル織物がある。緯パイル織物には別珍、コール天とパイルオーバー地があり、経パイル織物にはタオルとビロードがある。緯パイル織物はいずれも普通織機で織ることができるが、経パイル織物のタオルとビロードはそれぞれ専用の特殊織機で織られる。ビロードにはワイヤーを織込むビロード織機と上下二枚の織物を同時に織り上げる二重ビロード織機(モケット織機ともいう)がある。緯パイルの別珍、コール天は生機の状態で特殊なカッターによって切られるが、パイルオーバー地は仕上工程での起毛機によってカットされる。カットパイルのタオルは仕上での剪毛機で、ビロードは織機上の特殊カッターによってカットされるが、いずれも輪奈(ループ)のパイル織物もある(二重ビロード織機では不可能)。この外に特殊なパイル織物として、絨毯や段通などがある。
これらのパイル織物の組織分解は経糸または緯糸がカットされているため、通常の分解方法では分解できない。そこで、長年組織分解をしてきた経験を元に、パイルオーバー地を中心に、一般的なパイル織物の分解方法について解説する。
パイルオーバー地は長く浮かせた緯糸(パイル糸)を縮充して起毛機によってカットしたもので、昭和30年代に流行した厚地の防寒用の織物である。しかし、高度成長時代に入るとライフスタイルの変化により厚手のコート地が不要になってきた。これは、家庭から車、車から職場といったように、冬の寒気に長時間当たらなくても職場に入れるようになったことから、厚地のパイルオーバー地は敬遠され、ブームは下火になった。この当時のパイルオーバー地は1平方メートル当りの目付が500g~700gで非常に厚地の織物であったが、近年この織物が見直され、当センターにも分解依頼や仕上方法などについての問い合わせが多く持ち込まれている。現在のパイルオーバー地は婦人用のハーフコート地などに用いられているものと思われ、目付も300~500グラム/平方メートル程度で当時の織物に比べ軽目付けになっている。
まとめ
以上、毛織物によく使われているパイルオーバー地を中心に、一般的なカットパイルの織物の分解方法について 述べてきたが、パイルオーバー地は強く縮充・起毛された織物で毛羽が絡み合っているために、分解経験が浅いと上記のような方法で分解してもパイル糸の順序 が見分けにくい織物である。しかし、組織としては規則性のある組織が使われているので、ある程度経験を積んで慣れてくると案外簡単にでき、十数本程度分解 すればその先の組織が予測できる組織である。
赤外/ラマン分光法 -羊毛の染色・化学加工への応用-
愛知県尾張繊維技術センター 三輪 幸広
はじめに
羊毛の主成分はケラチンと呼ばれる天然タンパク質である。羊毛ケラチンの最大の特徴は、隣接したポリペプチド主鎖を架橋するシステイン(Cys)残基間(シスチン残基)のジスルフィド(-S-S-)結合であり、羊毛ケラチンの化学反応性は、主として主鎖の開裂とジスルフィド結合の開裂である。
羊毛ケラチンの化学の研究における問題点の1つは、その構成しているアミノ酸残基の化学変化による反応生成物を評価するために、操作が繁雑で長時間を要する 最近の文献から、フーリエ変換赤外/ラマン(FT-IR/FT-ラマン)分光法を応用した羊毛の染色・化学加工の研究例3つを紹介した。以上、紹介したほかにも、漂白処理、亜硫酸塩処理、紫外線/オゾン処理、その他の化学処理の研究などに応用されている。
今後も、赤外/ラマン分光法は、その迅速性、簡便性、高感度という特徴を生かし、羊毛ケラチンの有用な評価手法として普及していくものと考える。化学分析法が用いられていることである。最近、羊毛の染色・化学加工の効果と羊毛の化学構造の変化との関係を研究するため、フーリエ変換赤外/ラマン(FT-IR/FT-ラマン)分光法を応用する迅速で簡便な評価法が報告されている。赤外分光法とラマン分光法は、分子の振動スペクトルを測定する振動分光法の代表的な手法である。
本稿では、赤外/ラマン分光法の概要を解説した後、赤外分光法の応用による羊毛の染色処理と防縮処理の研究例2つと、赤外/ラマン分光法の応用による羊毛の紫外線吸収剤処理の研究例1つを紹介する。
おわりに
最近の文献から、フーリエ変換赤外/ラマン(FT-IR/FT-ラマン)分光法を応用した羊毛の染色・化学加工の研究例3つを紹介した。以上、紹介したほかにも、漂白処理、亜硫酸塩処理、紫外線/オゾン処理、その他の化学処理の研究などに応用されている。
今後も、赤外/ラマン分光法は、その迅速性、簡便性、高感度という特徴を生かし、羊毛ケラチンの有用な評価手法として普及していくものと考える。
ウォッシャブル製品開発の現状
愛知県尾張繊維技術センター 板津 敏彦
はじめに
水洗い、家庭洗濯対応のウォッシャブル製品が注目されている。特に従来困難とされてきたウール、レーヨン、麻などの素材を特殊な加工で処理し、また縫製方法に工夫を加え、商業用水洗いクリーニング、家庭用ソフト洗濯を可能にした製品が中心である。
この背景には、地球環境に対する関心が世界的に高まる中で、ドライクリーニングに使用する溶剤の毒性や、環境への影響の問題が懸念されるようになったことがある。
衣料をドライクリーニングする場合は、石油系溶剤、テトラクロロエチレン(パークレン)などを用いるが、厚みのある素材や、部分的に厚い肩パット、表面にコーティングされた合成皮革などの場合は溶剤が残りやすく、蒸発速度の遅い石油系の場合に溶剤が残留することが問題になりやすい。
また、環境問題では大気、地下水、土壌の汚染、地球温暖化、作業環境問題などがある。これらの問題は、クリーニング業界に限ったことではなく、他業界においてもさまざまな洗浄工程があてはまるが、今後溶剤に関する規制はさらに強化されるとみられる。クリーニング業界では水洗いクリーニングについて、繊維・アパレル業界ではウォッシャブル製品について対応し、環境問題、消費者ニーズに応えていく必要性が強く叫ばれるようになった。
ここでは、ウォッシャブル製品の現状と水洗い耐久性評価方法、ウールを中心とするウォッシャブル加工方法、洗濯による布地物性変化、製品化のための縫製方法のポイントなどを説明する。
おわりに
今後、国内繊維産業が活路を見出す一つの方向性として、人に、自然にやさしい製品を開発し国内で独占的に生 産すること、またすぐに海外生産に移行する技術であるとしたら、その技術開発上のノウハウを土台に、常に新しい提案を一定のコスト範囲内で実現できるシステムを構築することであろう。
ウールスーツのウォッシャブル対応が可能となった背景には、ビジネス上可能な範囲まで織物の防縮加工の技術開発が進んだことが最も大きな要素だが、現在までさまざまな努力を重ね、製品の品質向上に取り組んできた縫製業界の地道な技術開発に負うところが大きいと考えられる。
ウールスーツのウォッシャブル化は、従来のスーツに関する概念では考えられない高度な形態保持性を実現することが必須であり、一部の製品ではほとんど夢ではないところまで、技術上の開発が進んでいる。
この高度な形態保持性は、ウォッシャブルに限らず、国内縫製業界のモデルケースとして、従来にない形態安定化スーツ生産の実現につながる。この技術をベースに、さらに新しい機能を加えるなどにより、今後のスーツ生産の高付加価値化につながっていくことを期待したい。
ノニルフェノールポリエトキシレートの環境汚染と生分解性
愛知県尾張繊維技術センター 森 彬子
はじめに
染色加工に使用される染料、助剤及び精練洗浄剤は、非常に多くの化学物質から構成されている。
これらの染色加工剤は時代とともに変遷し、公害防止のためには有機物低負荷加工剤の適用、皮膚障害防止にはノンホルマリン樹脂の開発など、社会ニーズに応えるために加工剤メーカーが製品開発を行ってきた。非イオン界面活性剤は、これらの加工剤と併用され、浸透剤、洗浄剤、均染剤あるいは乳化剤などの目的でこれまで多く使用されてきた。しかし、近年ダイオキシンやノニルフェノールに代表されるように地球環境の生態系に悪影響を及ぼす環境ホルモンに目が向けられている。
これは、ヒトを含んだ生物の生殖機能に異変を生じさせる可能性があるからである。
環境ホルモン
環境ホルモンとは、外因性内分泌かく乱化学物質のことで、外部からヒトや生物の体内に入り、本来のホルモンになりすまして類似作用をする化学物質である。表1にこれらの化学物質名を示す。
1998年に環境庁が「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」を発表、この中に内分泌撹乱を疑われる74種類の化学物質をリストアップし、次の8グループに分類している。
(1)非意図的生成物 (5種類)
(2)有機ハロゲン化合物(4種類)
(3)農薬(43種類、うち除草剤10、殺虫剤23、殺菌剤7、その他3)
(4)フタル酸エステル類(8種類)
(5)アルキルフェノール類(6種類)
(6)ビスフェノールA(1種類)
(7)有機スズ化合物(2種類)
(8)その他の工業薬品(5種類)
繊維加工薬剤に関係ある化学物質は、この(5)に属するアルキルフェノール類である。
最近目に止まる糸の特性に起因するトラブル
愛知県尾張繊錐技術センター 大野 博
はじめに
快適性や感性面が大きくクローズアップされる中、衣服に軽さや柔らかさ、心地よさが、以前にも増して望まれるようになってきている。織物の特性は、その組織・構造とともに糸の力学的特性にも大きく影響を受けている。
糸素材や糸加工の技術開発においては、感性面をポイントにして、織物の微妙な表面光沢や仕立て映え、肌触りの良さに反映する、より細く、より柔軟な糸が、次々と登場し始めてきている。
新鮮な表情を持つ素材との複合化や撚加工等の技術進歩により、高い技術力や厳密な管理が必要とされるデリケートな糸も産み出されつつある。糸の素材を技術の強みにして様々な商品展開が打ち出され、新しい触感素材が市場に浸透し始めてきている。
こうした感性面を重視した糸が増えつつある中、また、糸のデリケートな特性に起因するトラブルも、最近よく目に止まるようになってきている。
そこで、最近の糸素材動向を踏まえながら、糸の特性に起因するトラブルについて触れてみることとする。特に、最近のデリケートな糸特性としてトラブルになりやすい、撚トルクやソフトストレッチ特性、収縮特性等について、2、3の事例をもとに留意点等をまとめてみた。
おわりに
以上、最近目に止まる糸に起因するトラブルについて、事例をもとにまとめてみた。よりデリケートな糸特性に応じた取り扱いが必要となってきているが、糸の特性を強みにした新たな商品展開も進展してきている。今後とも新しい糸の特性把握に努め、新しい素材、糸特性による商品展開により、業界がますます活性化することを期待したい。
酸化チタン光触媒による環境浄化
愛知県尾張繊錐技術センター 大野 博
東京大学 大学院工学系研究室 応用化学研究室 教授 藤嶋 昭
はじめに
酸化チタンは従来、顔料や電子材料用原料として用いられてきた物質である。車の白いボディカラーはほとんどが酸化チタン入り塗料によるものである。また、アメリカでは1968年に、日本においても1983年に食品添加物として認定され、現在では食品や歯磨き粉、化粧品などにも広く利用される安全な物質である。
最近になってこの酸化チタンを光触媒として利用し、環境を清浄化するという全く新しい用途が開発され注目を集めている。光触媒反応の応用領域は非常に広いと考えられるが、ここではまず、研究の推移からまとめてみよう。
おわりに
光触媒研究の流れをみると、最初の水の光分解の発見もさることながら、その後も粉末の酸化チタンを薄膜として用いる方法を開発したり、室内の弱い光を活用する領域を見つけたり、さらには超親水性という現象を見つけたりと、次々と新しい発想が活かされてきたことに、改めて感慨を覚えるほどである。
これからも、既存の概念にとらわれない豊かな研究活動を通して新しい成果を出していきたいと考えている。
ただし、押さえておかなければならない点は、上述したように酸化チタンの表面に到達した物質にのみ光触媒反応が起こるという点と、あくまでも光化学反応であり表面に到達する光子数以上の反応は起こらないという点である。製品開発が盛んになると、ともするとこれら基本的な部分が忘れさられ、あいまいなコンセプトの商品となりがちであるので、あえて注意を促したい。すばらしい効果をもつ機能商品を生むことが、長い目でみたときの市場開拓にもつながるのでないだろうか。
環境調和型の繊維加工薬剤
化学薬品をとりまく規制(明成化学工業株式会社 技術開発本部 主任部員 森川 周作)
繊維加工薬剤を含め、化学薬品には人や環境に対して様々な規制がかけられている。
近年のエコロジーブームやISO14000シリーズ(環境監査規格)取得、環境庁、通産省その他各組織団体よりの勧告を背景に、企業での自主規制も盛んである。
今後企業はRC(レスポンシブルケア)を通じて、社会的、国際的にモラルを問われていくであろう。
(RCとは…化学業界において化学品を、その開発から製造、使用を経て廃棄に至るまで、人の健康及び環境を保護するように配慮し、経営方針においてこれを公約し、環境、安全、健康面の実行改善を図っていく国際的な運動。)
法的規制
・消防法(危険物関係)
・労働安全衛生法(有機溶剤中毒予防規則等)
・化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)
・毒物劇物取締法
勧告・自主規制
・PRTR(有害化学物質排出・移動登録制度)※
・ホルマリンの含有
・ダイオキシン
・環境ホルモン(エンドクリン)
・オゾン層破壊物質(フロン等)
※PRTR(Pollutant Release and Transfer Register):OECD(経済協力開発機構)が提唱。
「様々な排出源から排出または移動される潜在的に有害な汚染物質の目録もしくは登録簿」
環境ホルモン(エンドクリン)問題
エンドクリン(ENDOCRINE)の単語の意味は、内分泌のことであり、通称ホルモンといわれている。しかし、現在環境用語として使用されているエンドクリンの意味は、「環境中に放出された合成化学物質の中に天然ホルモンと類似の作用をするものがあり、これらが野生生物の内分泌(ホルモン)作用を攪乱するために、野生生物に深刻な影響が起こってきているという。そして、いずれ生態系やヒトにも影響が及んでくるのでは。」
という問題を称してエンドクリンといっている。
同義語として、外因性物質のホルモン様作用、外因性内分泌攪乱化学物質、ホルモン阻害物質、疑似ホルモン等が用いられる。
○環境ホルモンの影響といわれている現象
・肉食鳥類の卵殻薄化・魚介類の雌化・男性の精子減少
・女性の不妊・野生生物の生殖異常・免疫機能の低下・乳癌の増加
○問題となっている化学物質
ヨーロッパの文献より環境庁が「環境ホルモン」と位置付けしている77品目及び、日本公衆衛生協会の「外因性内分泌攪乱化学物質」中間報告(残留農薬を除く)26品目等があるが、これらは以下のとおり4種類に分類できる。
A.環境残留性があり、生体内で濃縮性のある有機塩素系化合物
「DDT、PCB、ダイオキシン類」
B.イボニシ貝などのインポセックスの原因物質といわれている船底塗料剤
「トリブチルスズ化合物(TBT)」
C.合成女性ホルモンとして極めて強い作用を持つ
「ジエチルスチルベストロール(DES)」
D.汎用化学物質である
「ビスフェノールA、ノニルフェノール等」
これらのうちA.B.C.の化合物は、それぞれ残留性、毒性、作用において最悪の化学物質といわれている。一方D.は自然条件で分解し、濃縮性も低く、水生生物に悪影響を与え得る濃度はTBTの1万倍を要するといわれる。
繊維加工薬剤で最も関係のある物質はこのD.に属するアルキルフェノール系の界面活性剤である。
○界面活性剤工業会の見解
・ノニルフェノールエトキシレート(界面活性剤)には女性ホルモン作用はない。
・ノニルフェノール(NP)には、弱い女性ホルモン様作用があるといわれているが、一番厳しい報告でも10μg/Lでその作用が確認されているのみである。
・多摩川及び江戸川でのNPの実測値は、0.05~0.27μg/L、隅田川では0.09~1.08μg/Lであった。
・NPの生分解性は、通常の界面活性剤より遅いが、完全に分解し活性汚泥処理で除去することが可能である。
・NPは魚への蓄積性は見られず、摂取しても短時間で排泄される。
以上より、「NPに関する現状の報告から判断する限りでは、野生動物に対して影響は考えられず、また人体に対しても影響は無いものと考えられる。」としている。
○環境庁の動き
環境庁は「世代を超える深刻な影響をもたらす恐れがある」としながらも、「化学的に未解明な部分が多くメカニズム解明のための調査研究が必要」として、1998年5月に「内分泌攪乱化学物質問題検討会」を設置し、本格的な調査、研究を開始した。
○ノニルフェノール系界面活性剤の今後
少量でも遺伝子レベルで影響があるという環境ホルモンの性質上、完全に安全性を実証するにはかなりの時間を要すると考えられる。そのため各企業はノニルフェノールエトキシレート、すなわちノニルフェノール系界面活性剤を自主的に廃止していく方向にある。近い将来ノニルフェノール系界面活性剤並びにこれらを含有する薬剤は確実に市場から消えていくであろう。
セルロース繊維の新しい形態安定加工
東海染工株式会社 伊藤 高廣
はじめに
セルロースはセロビオースユニットが直鎖状に連なった高分子である。セルロースは多数の水酸基をもち、この 特徴は水酸基で創り出され支配されているといっても過言ではない。すなわち、水酸基の反応性を利用して導入した置換基によって機能化を図ることができ、また、水酸基間の水素結合を再配列させ集合体としての性質を制御することができる等である。水酸基の働きにより水分子を繊維内に取り込み膨潤するが、親水性を保ったままいかに寸法安定性を獲得するかが課題である。
世界的動向
衣料材料としてセルロースは長い歴史を誇っている。これは衣料として必要な水や汗を吸収する着心地の良い優れた材料だからであり、この汚れを除去するには水洗いが最も良い方法である。しかしながら、とりわけレーヨンで水洗いによって大きく縮んでしまう欠点を有する。
また、エコロジーに対する意識の高まりから、欧州では塩素系ドライクリーニングが使用制限を受けていると聞いている。さらに、ドライクリーニングから家庭洗濯へと移行することが予想される。洗濯耐久性を向上させるために、ホルマリンを含有する樹脂で架橋させる化学的方法は、非常に優れたセルロースの防縮加工法である。一方で、ホルマリンを遊離しない新しい防縮方法を市場は待ち望んでいる。
終わりに
高圧水蒸気処理については、岐阜大学農学部棚橋光彦教授の指導のもとに行った研究成果をまとめたものである。この基礎知見に基づき量産加工機の設計・導入を行った。この本事業化は、通商産業省より平成10年度新規産業創造技術開発費補助金を受けて継続中である。
活力とチャレンジ~あいち新産業創造プラン(愛知県産業活性化計画)
~21世紀の多様な新産業の創造をめざして~
愛知県商工部では、産業構造改革に向けた産業活性化施策の中期計画として、本年3月にあいち新産業創造プラン(愛知県産業活性化計画)を策定しました。
ここでは、その概要をご紹介します。
◎問合せ先 愛知県商工部総務課企画・広報グループ
電話052-961-2111 内線3315 FAX052-951-7822
なお、愛知県のホームページ(http://www.pref.aichi.jp/shokosomu)で計画の全文を掲載しています。
計画策定の趣旨
(1)策定の背景
○ 第一に、経済活動に国境がなくなりつつあるような大競争時代は地域間競争の様相を呈しています。つまり、企業にとっていかに魅力的な事業環境を提供できるかが地域産業の浮沈の鍵を握っているといってよく、地域の産業政策においてもこうした観点から戦略的取組みが必要です。
○ 第二に、地方分権の流れの中で、中小企業施策を始めとする産業政策においても各地域の独自性を生かした主体的取組みが求められています。
(2)計画の目的
○ 本県産業の現状と課題及び高度な「モノづくり機能」など産業発展の基盤として有する強みを踏まえ、21世紀に向けて本県産業が目指すべき方向を展望するとともに、その実現のために推進すべき産業活性化施策の基本指針を明確にし、具体的な施策展開を図っていきます。
(3)計画の性格
○ 本県の産業活性化施策を総合的かつ戦略的に推進するための基本的方向を明確にした中期計画です。
○ 本計画の施策・事業は、県が主体となって企画・実施するものを中心としていますが、一方、産業の活性化の達成には産学行政が役割分担や連携を図りながら、各々が主体性をもって取り組むことが不可欠です。商工団体や国など他の主体に実施を期待する施策も含め、様々な形態の事業を想定しており、今後一層の連携と協力を進めていきます。
(4)計画の目標
○ 計画の目標年次は、2005年(平成17年)においています。
2005年には、国際博覧会の開催や中部国際空港の開港が予定されるなど、21世紀に向けた本県産業の新しい発展基盤の整備が進むことから、施策の当面のターゲットとして適当と考えられます。
おわりに
上述のとおり、この計画は県の施策展開の基本的方向を示すものですが、その実現に向けては、企業や商工団体の皆様を始め各方面の主体的取組みと連携が極めて重要といえます。
今後とも県の施策にご理解とご協力をいただきますとともに、産業活性化に向けて力を合わせていただきますようよろしくお願いします。