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テキスタイル&ファッション誌(メールマガジン)バックナンバー
テキスタイル&ファッション Vol.14 (1997)
Vol.14/No.1~12
(1997年4月号~1998年3月号)
1-ファッション情報 | No. | 月 | 頁 |
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'98春夏FDCテキスタイルコレクション開催 | 1 | 4 | 1 |
'98春夏FDCテキスタイルトレンド提案(要旨) | 1 | 4 | 3 |
若手デザイナーによる'97秋冬FDCコレクション | 1 | 4 | 7 |
快適時代の不可解なキャッチボール | 2 | 5 | 42 |
イタリア・ファッション・マーケティングの競争力の秘密 -テキスタイル技術を基盤にした新しい体制づくり |
3 | 6 | 97 |
快適な企業による快適な志が、生活者との共感と其のCSが生む | 4 | 7 | 157 |
'98春夏ファッショントレンド | 5 | 8 | 222 |
SPAの流れ目立つ | 6 | 9 | 293 |
'98/'99秋冬FDCテキスタイルコレクション開催 | 7 | 10 | 355 |
21世紀の情報革新の時代にビジネスはどのように変るか ~電子メディアが拓くマーケティングの最前線 |
8 | 11 | 427 |
21世紀を目指す不敵の挑戦 第6回ジャパン・テキスタイル・コンテスト概観 |
9 | 12 | 477 |
大競争時代こそジャパン・クオリティの構築を | 10 | 1 | 546 |
21世紀に活躍するテキスタイル企業を探る | 11 | 2 | 520 |
マーケット革新は、顧客とのインタラクション | 12 | 3 | 665 |
2-研究報告 | No. | 月 | 頁 |
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再生染色用水による染色試験 | 1 | 4 | 9 |
反応染料による低pH均染染色 | 1 | 4 | 14 |
非塩素系薬剤による羊毛の防縮加工技術 | 2 | 5 | 46 |
毛織物自動検査システムの開発に関する研究 | 3 | 6 | 104 |
高齢者向けハウスウェアの開発 | 4 | 7 | 161 |
ウールケラチンの成膜技術 | 5 | 8 | 227 |
化学処理等によるウールニットの形態安定性向上 | 6 | 9 | 297 |
地域産業特性にあった環境調和型生産システムに関する調査研究 | 7 | 10 | 361 |
薄地毛織物の製造技術 | 8 | 11 | 432 |
羊毛混紡品の繊維鑑別への熱分解ガスクロマトグラフイーの応用 | 8 | 11 | 443 |
フィラメント織物の製織技術 | 9 | 12 | 485 |
羊毛の顔料吸尽染色技術 | 9 | 12 | 495 |
ウール強撚糸の力学的特性の解析 | 10 | 1 | 552 |
羊毛への天然高分子付与加工に開する研究 | 10 | 1 | 561 |
天然高分子の改質及び複合化による整髪剤等への利用技術 | 11 | 2 | 624 |
セルロース繊維混紡品の染色技術 | 12 | 3 | 671 |
はっ水性能評価試験の一考寮 | 12 | 3 | 680 |
3-技術解説 | No. | 月 | 頁 |
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セルロース系繊維の酵素精錬について | 2 | 5 | 58 |
イタリアのファッション・ビジネス | 3 | 6 | 117 |
データベースとオンライン情報検索 | 4 | 7 | 173 |
ストレッチ織物の現状について | 5 | 8 | 236 |
繊維化技術と繊維物性の現状 | 7 | 10 | 368 |
ヒーリング繊維について | 10 | 1 | 582 |
織物の風合と感性表現の客観的評価の可能性 | 12 | 3 | 686 |
4-技術ニュース | No. | 月 | 頁 |
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高齢者向け衣服の設計 | 6 | 9 | 309 |
機能性繊維の開発動向と商品展開について | 9 | 12 | 504 |
薬剤を用いないセルロース繊維の高度防縮加工 | 11 | 2 | 633 |
6-シンポジウム報告 | No. | 月 | 頁 |
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97尾州フォーラム報告(1) | 4 | 7 | 183 |
97尾州フォーラム報告(2) | 5 | 8 | 245 |
97尾州フォーラム報告(3) | 6 | 9 | 315 |
97尾州フォーラム報告(4) | 7 | 10 | 378 |
7-調査報告 | No. | 月 | 頁 |
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環境調和型生産システムに関する調査報告書(1) | 8 | 11 | 450 |
環境調和型生産システムに関する調査報告書(2) | 9 | 12 | 513 |
環境調和型生産システムに関する調査報告書(3) | 10 | 1 | 589 |
環境調和型生産システムに関する調査報告書(4) | 11 | 2 | 639 |
9-資料 | No. | 月 | 頁 |
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依頼試験、技術相談、指導の動向(1) | 2 | 5 | 88 |
依頼試験、技術相談、指導の勘向(2) | 6 | 1 | 41 |
染色仕上関係海外文献情報(20) | 3 | 6 | 148 |
11-その他(新設機器紹介) | No. | 月 | 頁 |
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新設機器紹介 | 1 | 4 | 26 |
快適時代の不可解なキャッチボール
アパレル人材育成産学協議会 研究員 福永 成明
昨年、あれだけ話題になった「カジュアルフライデー」がトーンダウン。代わって今年は「清涼スーツ」がクローズアップされている。その少し前は「形態安定シャツ」が大ヒット。
メンズには集中豪雨的なトレンドが生まれやすい。だが、話題に集中するあまり、後のフォローが続かない、というのもメンズの体質。考えてみればメンズは、変化よりも進化によって、ファッション・ビジネスが進展した。だとしたら、もっと細かい進化にこだわり、これを提唱していかなければ、ウェル・ドレッサーは育たない。
ニューヨークでは最近、「ISE」というサービスが話題になっている。正式には「インストア・エンターテイメント」といって、店内におけるエンターティメント性を高めよう、というアプローチである。
日本でも「CS」(カスタマーズ・サティスファクション=顧客満足)という言葉が流行語のようになっているが、これをさらに発展させたのが「ISE」である。
これが単なるVMD(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)とちがうのは、インテリアやディスプレーだけでなく、顧客の内面的な満足感に迫っていこう、という点である。
まず、満足のゆく商品を揃える、というのはCSも同じ。ここではバリュー・フォー・ザ・プライスに対する追究が最大のポイントになる。もちろん、顧客のウォンツに対応した品揃えでなければ、バリユー・フォー・ザ・プライスは成り立たない。価値ある商品の品揃え、当り前のようでいて、これができない店が多い。
品揃えがととのったら、次はヴィジュアル効果である。決して華美になる必要はないが、店内空間を含めて“心地よさ”を提供する。
イタリア・ファッション・マーケティングの競争力の秘密
テキスタイル技術を基盤にした新しい体制づくり
宝塚造形芸術大学 教授 菅原 正博
日本のテキスタイル・マーケティングの問題点
日本のテキスタイル・コンバーターはマス市場向けの生地サプライヤーとして、品質面、納期面といったロジスティックス面では世界第1級のサプライチェーンを確立しているが、高感度市場向けの生地サプライヤーとしては、ヨーロッパのインポート素材と比べて、競争的にはむしろ劣位にある。特にソフト面である「ファッション企画力」面で劣っている。
この日本のテキスタイル・マーケティングの問題点をイタリアと対比しながら整理すると、次のような4つのポイントが指摘できる。
(1)糸の意匠力の立ち遅れ
(2)オリジナリティの欠如
(3)コンバータリスク負担力の欠如
(4)イメージ・トレーニングの欠如
'98春夏ファッショントレンド
ファッションジャーナリスト 藤岡 篤子
ファッションの流れは、97年から大きく変化し、ミニマリズムからデコラティブ、ロマンチシズムヘと対極へ方向転換している。ロマンチック一辺倒となった売場の「トレンドMD」を見れば、この変化は衆知のことであろう。
98年の春夏を予測するにあたって、今春夏の売筋の確認から始めてみよう。
まず、トレンドのくくりでとると、ほとんどが「ロマンチック」のキーワードにおさまってしまう。
ヤングのストリート系でブレイクした「金魚とドラゴン」模様が象徴するように、この春はオリエンタルで幕を開けた。
アジア、それもジャパニズム、チャイニーズのモチーフ、テキスタイルが大ヒット。キモノ(もう漢字は似合わなくなった)の友禅模様がポシェットなど小物を始め、ヤング層と年齢を問わずファッションマニア達に受け入れられ、日本では「オリエンタル・エスニック」は受け入れられないとのジンクスを軽々と打破った。
キャリアからミセスにおいても「チャイナ・ノット」物から売れて行く、と言う実績があった。アジアン・フィーバーが婦人服全体に強く影響していたと言えよう。
その後、盛夏物ではヤングの低価格のビスチェがヒットしている。レースアップやミニフリルのトリミングなど、ディテールにロマンチックな気分を持ったカットソーが中心だ。
デニムは思ったほど年齢層が広がらず、ヤングが中心であった。マキシのスカートに花の刺しゆうやアップリケが施されたワンポイント物に人気が集中した。
この他には、春先にはミッソニタイプのマルチカラーニット、チュニックなどがヒットしている。
こうやって振り返って行くと「エスニック」や「70年代」の主導型のような流れに見えるが、この春夏でのロマンチシズムは、実はテキスタイルによる効果が圧倒的に大きいのである。
レース、オーガンジー、シフォンといった透け物、フロッキーなどの凹凸感のある後加工、刺しゆう、ジャガード、アップリケ、そして、花のプリントなどが、情報段階はもちろん店頭に至るまで溢れ返っていた。これらの素材は、これまでのサイバー、ミニマルとは対極にあるものだ。
この春夏に集中し、消費され、通過してしまいそうに見える「ロマンチック」素材だが、まだまた消化されたのはほんの触りに過ぎない。98年の春夏には、夏に大きなロマンチシズムのバリエーションが期待できそう。
21世紀の情報革新の時代にビジネスはどのように変るか
=電子メディアが拓くマーケティングの最前線=
上武大学商学部 教授 土田貞夫
1980年代半ばを境に大きく変貌した“新しいマーケティング”は、その第2の10年期を迎えた。
21世紀に向けて、今マーケティングはメディア革新の大きな波に直面している。この新しい展望は、今やインタラクティブ・メディアが競争環境における強力なインパクトをもつであろうことの認識を迫るものである。
1996年10月にニューオリンズで開催されたDMAの第79年次大会でも、インタラクティブ・マーケティングが主要な話題の一つであり、熱心な議論が展開されていた。
アパレルビジネスにおいても例外ではない。アバレル企業のマーケティング担当者も、この新しいインタラクティブ・マーケティング社会の展開を認識し、それらが産業に与える潜在的インパクトを理解するために、この新しいメディアの活用をはかることを試みねばならない。
主な項目
・インタラクティブ・メディアの可能性
98年ファッションビジネス展訪 大競争時代こそジャパン・クオリティの構築を
--“商品不況”を乗切るカスタマリゼイション(顧客志向)--
--時代対応にトータルな創造カを--
繊研新聞社社 編集局デスク 山崎 光弘
多難な97年が明け、98年を迎えた。しかし、金融ビッグバーンや大店法撒廃に伴う規制緩和など激動の年明けは今年、98年である。素材メーカー、産地、ファッションアパレル、そして小売業が21世紀の新しい枠組みを求めてパラダイム・シフトを加速させて行く。
繊研新聞の今年度編集テーマは「21世紀を創る/今、ジャパンクオリティ」である。産業界全般に国際競争力が必要とされ、そのための国際標準(グローバルスタンダード)が確立されて行く中で、日本のファッション産業は新しいステージに立つ。変化の最先端に立たされそうなのは、小売流通業である。
「小売は地場産業、地域密着業」と、高をくくっていた日本の小売業は規制緩和の大嵐に見舞われる。消費税5%、保険科など負担増、金融不安による先行き難など最悪の消費環境の中で国際化の波に洗われる。
がん具業界は既にアメリカに本拠を置くトイザラスが日本で有数の地位を占めるに至っている。また、店舗コスト、労働コストなど日本企業と等しく支払っての他店舗展開である。郊外店から、今年度には東京都内にいよいよ店を構える。
ファッション小売業界でも既にSPA(製造小売業)の形での日本進出は始まっている。エディバウアー、LLビーンなどアウトドア・ライフスタイル型のSPAはいずれも大型店の核店舗としての存在を日本で強めている。
同じく、アメリカンカジユアルを体感させる「ギャップ」も伊勢丹、阪急、福岡三越と著名百貨店の中心軸で“デカショップ”を形成する。東京・渋谷にも大型直営店がオープンした。さらに、今年98年8月にはスペインのSPA「ZARA(ザラ)」が同じ渋谷に登場する。日本最大級のSPA企業であるビギグループが日本での活動をサポートすることになっている。「売り場面積1,000平方メートル以下では出店しない」と豪語するザラだけにSPA地図は大きく塗り替えられるのか否か、注目される。
98年はSPA企業に止まらず、欧米・大型小売業の直接進出も具体性を帯びて来た。高級ゾーンでは米のサクス・フィクス・アベニュー、英国のハーベイ・ニコルスがうわさされ、低価格ゾーンでは米・ウオルマートを筆頭にフランス、ドイツの巨大チェーンストアの日本上陸がうわさされている。果たして、こうした海外の大型流通小売資本の日本上陸はうわさだけに止まるのか。
21世紀に活躍するテキスタイル企業を探る
岐阜経済大学経済学部 教授 平井 東幸
金融不安の長期化に加えてアジア経済の混乱も深刻化して、景気が下降するなかで、繊維業況も昨年半ばから再び後退を続けている。
景気の先行き不安は一連の景気対策、金融安定対策にもかかわらず一向に払拭されないが、こうした時こそ、むしろ長期展望のもとで21世紀に国際的に活躍できる企業の条件を考えてみるのも悪くないと思う。
私事にわたるが、ここ数年全国のテキスタイル産地を20か所余り歩いて調査しており、その一部は繊維産業構造改善事業業協会の機関誌「繊維情報」に連載しているが、多くの産地で規模縮小が著しいなかで、必ずといってよいほど、産地でエクセレントカンパニーが活躍していることは誠に心強い。
以下に企業トップを訪問して伺ったお話から、本誌編集部のご依頼に応じて、個別企業の概要を紹介し、最後に共通している経営戦略を抽出して、ご参考に供したと思う。
なお、尾州産地には世界的に通用する企業が織布・染色と各業種に多々あって活躍されていることは周知のところでもあり、尾州以外のユニークな産地企業を重点的に取り上げたい。
取上げた企業た企業
織布分野
・カイハラ(広島県新市町、明治26年創業、年商220億)
・丸井織物(石川県七尾市、創業昭和12年、年商35億)
・鈴倉インダストリー(新潟県栃尾市、創業明治39年、年商130億)
・第一合繊(新潟県見附市、年商120億)
染色分野
・小松精練(石川県小松市、年商296億)
その他の分野
・三景(東京都、年商2,000億)
・東海サーモ(岐阜県大垣市、年商84億)
再生染色用水による染色試験
愛知県尾張繊維技術センター 山本 周治、北野 道雄
平成6年度に研究を行った反応染料染色排水の脱色液を染色用水に再利用するため、上水を使用した場合と同様の品質が保持できる水質調整方法や助剤等の添加量について検討を行った。
また、その脱色排水を用いて、反応染料の再染色試験を行い、色差や染色堅牢度等についても検討した。
今まで、染色排水は排水処理を行った後、河川に流していたが、渇水期の節水目的や環境汚染を抑えるために染色排水の再利用が必要となってきた。
特に染色整理企業では、多量の水が使用され、そのほとんどを廃棄している。例えば反応染料の染色排水には、助剤として用いた多量の硫酸ナトリウムを含んでいる。
平成6年度に研究した「反応染料染色排水の脱色方法」では、反応染料染色排液中の未固着の残留染料のみを除去する方法を検討した結果、ウールパウダーやキトサンを天然高分子凝集剤として用いることにより、反応染料染色排水を脱色することが可能であることがわかった。
またそのとき、脱色後の排液中にも硫酸ナトリウムがそのままの状態で残留していることがわかり、平成7年度の研究では、この脱色した染色排水を用いて染色試験を行い、脱色排水の再利用方法を検討した。
反応染料による低pH均染染色
愛知県尾張繊維技術センター 藤田 和孝、板津 敏彦
反応染料は繊維と化学的に反応するため、湿潤堅ろう度が優れている。また、そのほとんどが直接染料、酸性染料よりもはるかに鮮明である。現在、セルロース繊維用には極めて広く使用されている。
羊毛染色においても鮮明で高堅ろう度であるため、急速に普及してきた。もともと、羊毛に適用されていた染料で、最初の羊毛用反応染料はへキスト社のレマラン染料(ビニルスルホン系)で1953年に発表されている)。
しかし、酸性染料等と比べるとスキッタリー(チラツキ)染色になりやすいために布染めではあまり用いられず、糸染め中心で用いられている。
スキッタリーの防止は両性界面活性剤の使用によりある程度達成されているが、布染めでも容易に均染染色できる染色方法が求められている。羊毛染色はセルロース染色のように明確でなく、複雑な因子が加わってくるといわれている。
また、最近は羊毛/セルロース繊維(ニューレーヨン、テンセル等)混紡品の染色が業界の技術課題となっている。このような混紡品は、独特の風合いや暖かみ、良い着心地が得られることと、天然指向の高級品イメージを持つことから、高付加価値製品開発をめざすなかで特に注目されているものの一つである。
以上の点から、羊毛の反応染科染色におけるスキッタリー染色を防止することを目標に、また羊毛/セルロース繊維の羊毛側の染色を良好に行うことも併せて検討することとした。
非塩素系薬剤による羊毛の防縮加工技術
愛知県尾張繊維技術センター 浅井 弘義、広瀬 繁樹
現在羊毛の防縮加工に最も多く使用されている塩素系防縮加工剤は、羊毛から塩素化蛋白質が廃液中に排出され、AOX(吸収性有機ハロゲン)と言われる物質が生成されるため、環境に悪影響を与える要因となっている。
そこで、AOXが発生しない非塩素系薬剤による羊毛の防縮加工について検討し、次の成果を得た。
ア.非塩素酸化剤としてモノ過硫酸塩、モノペルオキシフタル酸が高い防縮効果のあることが分かった。
イ.ヒドロキシプロピルフォスフィンの非塩素還元剤+酵素同浴処理は酵素の利用効果が最も著しく、短時間加工が可能なことが分かった。
ウ.タングステン酸ナトリウム+過酸化水素による酸化処理時間は最も短く、羊毛防縮加工に利用可能なことが分かった。
エ.防縮性能の耐久性については、樹脂の選択が重要で、ウレタン系の樹脂が最も耐久性のあることが分かった。
最近のヨーロッパを中心にした環境に対する考え方をみると、製品を製造、加工及び廃棄する過程における環境への影響をより小さなものにしようとするISO 14000シリーズに代表される規制が現実のものとなってきている。
羊毛は優れた衣料用の繊維であるが、洗濯等の水系処理により、フェルト収縮するため、一般的にドライクリーニングされる。
一方、ドライクリーニングに使用される溶剤も環境問題から制約を受けるので、将来、衣料品は水洗いできることが必要条件となると予想される。
羊毛の収縮を防止し、水洗いできる製品の開発は長年羊毛の加工技術の中心として多方面で検討され、一部は製品化されている。
しかし、現在羊毛の防縮加工に最も多く使用されている塩素系防縮加工剤は、羊毛から塩素化蛋白質が廃液中に排出され、AOX(吸収性有機ハロゲン)と言われる物質が生成されるため、公害問題が生じる要因となることが分かっている。
このため、AOXを発生しない非塩素系薬剤による羊毛の防縮加工技術が期待されている。そこで、非塩素の薬剤で羊毛の防縮加工に効果があるものを選定し、その加工方法について検討した。
毛織物自動検査システムの開発に関する研究
愛知県尾張繊維技術センター 安藤 正好、池口 達治
毛織物の検査を自動化するために画像処理技術等をベースとした検査装置の開発研究を平成6年度から行ってきた。本報告では各検査装置を統合化し、「自動検反システム」を完成させるため次の研究を行った。
・検査織物を搬送する搬送機を開発し、3種類の検査装置(一次元視覚装置、二次元視覚装置、色検査装置)を統合化した。
・織物設計データから各検査装置の検査パラメータを導き出す知識ベースを開発した。
毛織物生産工程の中で検反作業は、製織・染色・整理などの各工程で繰り返し行われており、そのほとんどの作業が人手(目視)に頼っているのが現状である。
この作業を自動化することは、省力化を図るとともに製品の均質化を図る上からも、以前から実用化が強く望まれていた課題の一つであった。
目視検査の自動化に関する研究は、視覚と脳の働きをコンピュータシステム等で代替するものである。
本研究では、毛織物の自動検査を行うシステムを開発することを目的として平成6年度から研究を行ってきた。
平成6年度には、比較的小柄な織物を検査対象とし、ラインセンサをベースとした検査システムを用い、センサから得られる一次元のデータ列から織段・筋立ち等の欠点を自動検査するシステム(一次元視覚装置)の研究を行った。
平成7年度には、比較的大柄な織物を検査対象とし、ピッチ違い等の「柄欠点」を二次元画像処理技術により、また、無地織物の中希等の「色欠点」を色解析技術により、自動検査するシステム(二次元視覚装置、色検査装置)の研究を行った。
本年度は、前述した3種類の検査装置を織物を搬送する搬送機上に統合した自動検反システムの開発研究、及び各検査技術を支援するために、検査織物の設計データから各検査装置の検査パラメータを導き出す知識ベースの開発研究を行った。
ここでは、その内容について報告する。
高齢者何けハウスウエアの開発
愛知県尾張繊維技術センター 都築 正広、吉村 裕、山本 周治
高齢化が急ピッチで進んでおり、高齢者の社会的影響力が大きくなっていくことが予想される。
従来の高齢者像とは違う新しい価値観・意識を持った、即ち、年齢を意識することなく元気でいきいきと積極的に快適な生活を過ごす「円熟した世代(メロウエイジ)」がますます増える、といわれている。
しかし、人は、加齢とともに、身体機能の低下や体格、体型の変化が起こり、衣服においてもサイズ、パターンや機能性、快適性、安全性に充分配慮した製品開発が必要となってくる。
このため、従来の高齢者像とは異なる円熟世代向けに、高齢者特性を考慮した「ハウスウエア」の開発研究を行った。
我が国の高齢者(65歳以上)は、2005年には、2,472万人で人口総数の19%、2025年は3,244万人で同26%にも達すると予測されており、これまでいずれの国も経験したことのない急速かつ高率な高齢社会を迎えることになる。
こうした中、従来の高齢者像とは違う「年齢を意識することなく、元気でいきいきと積極的に快適な生活を過ごす」という新しい価値観・意識を持った人達が多く出現してくると考えられており、こうした円熟した世代(メロウエイジ)に向けた、高齢者の生活観や意識を反映した商品開発が求められるようになってきた。
このため、愛知県商工部では平成7年度に商工部6試験研究機関の職員を中心に「メロウエイジ(円熟世代)商品に関する調査研究会」を設置し、ワーキング方式により調査研究を進め、報告書をまとめた。
この報告書を踏まえ、6試験研究機関において、平成8年度から2年計画で、地域企業の市場対応力・製品開発力の強化を図るため、地域の生産技術を生かした高齢者向け製品開発を実施することにした。
尾張繊維技術センターでは、「高齢者向け快適衣服の開発に関する研究」を実施し、平成8年度は高齢者の生活行動及び身体的特性に対応した快適な「高齢者向けハウスウエア」の開発に取り組んだ。
開発にあたっては「高齢者と親和性の高い設計」を目指すこととし、実態調査、織物開発、縫製品開発を進めた。
ウールケラチンの成膜技術
愛知県尾張繊維技術センター 茶谷 悦司、柴山 幹生
繊維廃棄物は、深刻化する環境問題の中にあって、現在クローズアップされている問題の一つである。これら廃棄物の再資源化については、産・学・官を問わず活発な研究が行われている。
羊毛工業からさまざまな羊毛くずが排出されるが、羊毛はプロテインエンジニアリング素材として有用なケラチンタンパク質から成っており、それを機能性素材として展開することは、繊維廃棄物処理問題に対する解決策の一つとなるだけでなく、天然資源の有効利用という観点からも重要な意味を持つものである。
そこで我々は、羊毛繊維からケラチンタンパク質を抽出し、膜や繊維に再構成することにより、機能性素材として応用する技術に取り組むこととした。
羊毛ケラチンは天然の架橋構造を備えているため不溶性であるが、シスチン架橋を開裂すれば可溶化させることができる。
昨年度板津らは、還元抽出法により羊毛から比較的高分子量で活性のあるケラチンタンパク水溶液を得るための検討を行った。
本年度は昨年度の検討で得られた還元抽出ケラチンを用い、それを膜に再構成するべく成膜条件の検討を行い、その機能性を評価することとした。
化学処理等によるウールニットの形態安定性向上
愛知県尾張繊維技術センター 佐藤 久、松井 弘
ニット製品は着用中に肘や膝の屈曲によって多軸方向に伸長を受け、バギング(肘抜け)が発生するなど形態を損ないやすかった。
そこで、バギングの発生を抑制するため、まず多軸方向に伸長を受けた編目の変形プロセスを検討した。
ついで、ウールニット地の多軸方向の伸長に対する回復性を向上させる手法について化学処理を中心に検討した。
その結果、編地を多軸方向に伸長した時には、従来形態保持性を損なう要因と考えられていた編目の交錯点の移動は起こらないことが確認できた。
こうしたことから編地の伸長回復性の向上には、編目の交錯点の接着は効果がなく、編目形状のセットや編糸に対する伸縮性の付与が有効と考えられる。
そこで、編目形状のセット方法や編糸の伸縮性付与法について検討した結果、編目形状のセットにはセット剤による処理が、編糸の伸縮性付与にはDCCA、過酸化水素処理と樹脂処理との併用が有効であることが分かった。
ニットはループ構造を有していることから、織物に比べて伸びやすく、カバーリング性が良いとの長所がある反面、その構造ゆえに形態安定性に乏しいとの問題点が指摘されている。
ニットの形態安定性に係わる問題点としては、
1)収縮率が大きい。
2)生地の自重による伸び
3)着用中の肘や膝部分のバギング(肘抜け)
4)斜行が起きやすい
5)ピリングやスナッグの発生
などがあげられる。
このうち、収縮防止策としては編地密度の適正化や各種防縮加工法などが、自重伸び防止策としては密度の適正化や編地の軽量化などが、斜行防止策としては糸の残留トルクの低減化やS撚糸とZ撚糸の交編などが、ピリング防止策としては抗ピル加工などが提案されている。
一方、バギング防止策としては、ウレタン糸など弾性糸を交編する方法が一般に採用されているが、編み立てに特殊な装置や管理が必要であることなどの問題も多い。
前年度は、バギングや斜行に注目し、糸構造と編地の伸長回復性や斜行との関係を検討した。その結果、編地の伸長回復性と糸構造には明確な関係は確認できなかったが、斜行が発生する糸の限界残留トルク値を明らかにした。
このことから、斜行の発生を糸の残留トルク値から予測し、防止することが可能となった。
本年度はバギングの発生を抑制するため、多軸方向に伸長を受けた編目の変形プロセスについて検討するとともに、ウールニット地の多軸方向の伸長に対する回復性を向上させる手法について化学処理を中心に検討したので報告する。
薄地毛織物の製造技術
愛知県尾張繊維技術センター 服部 安紀、村井 美保
これまで細番手梳毛糸の製織は、織傷の発生等リスクが多く、困難とされてきた。
そこで、単糸に毛羽伏せ効果や強力、抱合性を持たせるために追撚及び水溶性ビニロン(PVA)糸等による糸補強による細番手梳毛単糸の製織性について検討し、次のような結果を得た。
1)単糸の切断強力は、それを構成する単繊維の強力と糸の断面繊維本数との積から予測できる。
2)メリノ原料にモヘア原料を混紡することにより糸の切断強力はそれほど向上できないが、抱合力を向上さぜることができる。
3)コア糸の切断強力はコアに用いるフィラメントの強力に依存するが、梳毛単糸にPVAフィラメントをカバリングした糸の切断強力は、梳毛単糸の強力とフィラメントの強力との和にまでほぼ向上できる。
4)PVAカバリング糸1/58.7は、1m当たりの経糸切れ回数が2回とPVA混紡糸1/40(8回)、PVAコア糸1/58.6(16回)に比べて非常に少なく製織性が良好であった。
5)これらの糸を経緯に使用した乎織物はしわ回復性85%以上、ドライ洗濯による収縮率2.5%以内等の性能を持つ。
毛織物を主体とする当産地では、合化繊等の他素材に押されがちな羊毛製品の需要拡大を図るため、新しい素材の開発が求められている。
そこで、当産地が弱いとされている春夏物への対応の一つとして、より細番手の梳毛単糸を使った薄地毛織物の製造技術について研究した。
従来、細番手梳毛単糸の製織には、主に糊付けや追撚による糸補強が多く行われてきた。
しかし、これらの方法では糸ムラや作業効率等の問題があり、1/30~1/40が製織可能な限界であった。
柴田らの研究によると、糊の濃度を薄くすることにより糸への糊の浸透性を向上し、作業効率も改善し、細番手の単糸1/60の製織を可能にしたという報告がある。
しかし、高濃度に比べて毛羽伏せ効果が落ちることも報告している。そこで本研究では、細番手梳毛単糸1/72の毛羽伏せや強力向上等を中心とした糸補強を考え、追撚及び水溶性ビニロン糸等による糸補強で製織性を向上する方策について検討を行った。
羊毛混紡品の繊維鑑別への熱分解ガスクロマトグラフィーの応用
愛知県尾張繊維技術センター 三輪 幸弘、坂川 登
羊毛混紡品の繊維鑑別への熱分解ガスクロマトグラフィーの応用を検討した。
羊毛とナイロン、ポリアクリルニトリル系、ポリエステル系合成繊維との混紡品についてパイログラムを作成したところ、主要なピークから識別が可能であり、混紡率の定量性についても可能であることが示唆された。
難揮発性の試料を熱分解装置の中で瞬間的に熱分解し、生じた揮発性の生成物をガスクロマトグラフィー(GC)により分析する手法である熱分解GC(Pyfolysis‐GC, PyGC法)は、高分子の分析に広く用いられている。
PyGC法は、試料量が少量(μg単位)で、前処理をほとんど必要としないで分析が可能であり、再現性も優れている。
本報では、羊毛混紡品(羊毛/合成繊維)の繊維の鑑別(識別・同定)についてPyGC法の応用を検討したので、報告する。
フィラメント織物の製織技術
愛知県尾張繊維技術センター 藤田 浩文、柴田 善孝
本研究においては、毛織機を用いたフィラメント織物の製織技術の確立を目的に、製織性を向上させるための糊付け、撚糸の最適条件を検討し、以下の結果を得た。
1)抱合力試験機を使用し、ポリエステルフィラメント100Dおよび150Dの撚数と製織性との関係を測定した結果、撚数が500回/m程度から急激に抱合力が大きくなり、製織性が向上する。
2)ポリエステルフィラメント150Dおよびナイロンフィラメント110Dを経糸に用い実際に製織した結果、400回/mまたは500回/m以上の撚を掛ければ単繊維切れや糸切れは発生せず、製織性が向上し、製織可能になる。
3)レーヨンフィラメントの場合、撚をかけると光沢が無くなるため撚糸より糊付けの方が望ましい。そこで、糊付け条件と抱合力との関係を測定した結果、糊濃度が3.5%程度の糊付けにより抱合力は向上するが、糊濃度が濃すぎる(6.5%以上)と抱合力が低下し、製織性が悪くなる。これは、糸への浸透性が悪くなる、硬くなりすぎる、などの理由が考えられる。
4)糊付けしたレーヨンフィラメントを経糸に用いて実際に製織した結果、糊濃度3.5%以上になると製織性が向上し、製織可能になる。
消費者ニーズの対応のため、最近尾州産地においても、フィラメントとウールの複合素材使いが多くなり、フィラメントを経に用いる織物も見受けられるようになった。
しかし、当産地においては、付加価値の高い差別化商品や小ロットに対応した物づくりにおいて、改めてフィラメント用の設備を導入することは難しく、出来る限り現有の毛織機設備であまり費用を掛けずに工夫して製造しなければならない状況にある。
そのため、1本糊付けや加撚によりフィラメントの製織性を向上させ製織しているが、フィラメント織物に関する知識が十分ではないため試行錯誤で行われているのが現状である。
そこで、本研究においては、毛織物産地における毛織機を用いたフィラメント織物の製織技術を確立するため、現状分析および製織準備・製織条件などの研究を行い、フィラメント織物製造の最適条件を追求した。
羊毛の顔料吸尽染色技術
愛知県尾張繊維技術センター 森 彬子
ウオッシュアウトによる洗い晒し調の特殊染色効果を持つ顔料吸尽染色は、従来から綿に適用されているが、羊毛に適用された例はほとんどない。
そこで、顔料を羊毛の吸尽染色に適用する場合の最適な染色条件を把握するため、その前処理法、顔料吸尽率向上法、染色物の特徴及び染色堅牢度の改善について検討し、次の成果を得た。
(1)前処理法
羊毛スケール層のエビクチクル損傷とカチオン化(羊毛を+に帯電させる)前処理を行うことで、これまで表面染着が主体であった顔料を繊維内部にも拡散・浸透を図った。
(2)吸尽率向上法
水に不溶性の顔料を浴中に溶解させると同時に、極性のない顔料にアニオン性を付与する分散剤を使用することで、+に帯電した羊毛繊維内部への顔料の吸収がさらに促進され、顔料の吸尽率が向上した。即ち、顔料を染浴中で羊毛用酸性染料と類似の染色挙動にしたことにより、顔料の吸尽率を向上させることができ、均染性も得られた。
(3)染色物の特徴
防縮性を付与したカチオン化羊毛に顔料吸尽染色を行うことで、ウオッシュアウト性を生かした顔料染色物を試作することができた。
この特徴は、ウールにもかかわらず、家庭での水を使用した洗濯に耐久性があり、かつ、ファッション性があることである。
(4)染色堅牢度の改善
顔料を羊毛繊維内部に浸透させる前処理法に、吸尽染色後に樹脂で固着加工を行う方法を併用することにより、顔料染色物の欠点であった洗濯堅牢度(変退色)が1、2級から濃色で4級程度の実用レベルまで改善できた。
顔料を用いて綿ジーンズ調の洗いざらし効果のある繊維製品が、市場で求められるようになってきた。しかし、染色加工では、顔料吸尽率を向上させる課題のほか、時として顔料の繊維表面染着に起因する染色堅牢度不良が製品としてクレーム発生になりかねないことが懸念されている。
ここでは、従来、綿のジーンズ製品に適用されている顔料吸尽染色法を羊毛に応用する場合の適正な染色技術を確立するため、羊毛前処理法、吸尽方法、均染法、固着方法及び染色堅牢度向上等について研究を行った。
ウール強撚糸の力学的特性の解析
愛知県尾張繊維技術センター 大野 博、河村 博司
ウール強撚糸織物のシボ発生機構を解析するため、解撚トルク計を試作し、撚糸条件と撚糸の力学的特性との関係を解析した。
糸トルク計の試作については、湿潤浸漬時の糸挙動をリアルタイムに計測でき、トルクと収縮力が同時計測可能な実用的な機構を備えることを目標に設計し、梳毛普通糸1/72から太番手強撚糸まで、広範囲かつ高精度なトルク(6mgf-cm-3gf-cm)及び収縮力(max180gf)が測定可能となった。
ウール強撚糸によるシボ発生の基本的メカニズムについては、撚糸の撚セットが仮セットで、湿潤トルクは温度に関わらずある時間内で一定となることが分かり、ねじり座屈現象によるらせん形成によってしぼが発現することが解明できた。
また、強撚糸の湿潤トルクとシボ織物の仕上時の収縮率との比例関係から、収縮率とクリンプ形状、経糸密度等により計算し、強撚糸のシボ形状(ねじり座屈)が近似できることを確認した。
強撚糸は、湿潤等により収縮力と解撚トルクが作用し、激しい収縮挙動を示すことが知られている。
この収縮挙動を利用し、独特の表面効果を出している織物に、クレープ(縮緬)や楊柳等があり、拘束された糸のねじり座屈現象により、しわ状の「しぼ」を発現させている。
このシボの発現機構の解析として、絹やポリエステルにおいては、実際の設計・製造における詳細な研究があり、ねじり座屈による糸の3次元変形がらせんを形成すると報告されている。
しかし、ウール強撚糸においては、湿潤解撚挙動を深く研究されたものはなく、強撚細番手化が進行しているウール業界において、その取り扱いは試行錯誤の状況となっている。
そこで本研究では、ウール強撚糸のしぼ発現機構の基本的メカニズムを解析するために、まず、力学的特性として重要な湿潤解撚トルクと収縮力を精度良く、リアルタイムで計測できる糸トルク計を設計・試作した。
次にこの糸トルク計を用いて、ウール強撚糸の湿潤解撚トルク・収縮力を測定し、湿潤解撚挙動を明らかにするとともに、撚糸条件と撚糸の力学的特性との関係を実験的に解析することとした。
また、しぼ織物中のウール強撚糸の形状について検討を加え、ねじり座屈形状の近似計算を行い実測値と比較を行ったので、ここにその結果も含め報告する。
羊毛への天然高分子付与加工に関する研究
-天然物による羊毛の抗菌・防虫加工-
愛知県尾張繊維技術センター 北野 道雄、平石 直子
近年、衛生加工に対する消費者のニーズが大変多様化している。この消費者が求めている衛生加工の機能としては、抗菌、消臭、スキンケア、防ダニ、防カビ、防虫等があげられるが、最近ではこれらの複合機能加工化へと展開されて、ますます多様化している現状である。
そこで、従来から幅広く繊維加工に浸透している抗菌性や防虫性等の機能を天然高分子を用いて毛織物に付与加工する方法について研究した。
また、開発した羊毛の機能を分子レベルで調べ、性能も評価した。具体的には、抗菌性や防虫性付与に効果的な天然加工剤を見出すとともに、天然加工剤による抗菌性や防虫性発現メカニズムの解析や天然加工剤の最適付与加工法と性能についても評価した。
この結果、天然加工剤による高耐久性かつ効果的な抗菌や防虫毛織物の開発に成功したので報告する。
天然高分子を用いた羊毛の加工方法としては、現在、二つの加工方法がとられている。一つは比較的分子量の大きな羊毛ケラチンや絹フィブロイン、コラーゲン等の繊維状蛋白質を羊毛繊維表面に付与加工することにより、主として風合いの改良等を求めたもので、ある程度実用化されている技術である。
また、他の一つの方法は、加水分解により分子量を一万程度まで小さくした前述の天然高分子を用いて羊毛繊維の内部に浸透させた後、固着のために湿熟で処理する方法で、繊維メーカーや当センターにおける研究により一部実用化されている。
ここでは、今までの技術を複合化した方法で、前述の天然高分子を部分加水分解した繊維状蛋白質を応用しており、さらに羊毛表面への吸着性を高める目的でプロテアーゼによる前処理を併用していることを特徴としている。
天然系の抗菌剤や防虫剤については、従来から知られている動物や植物系のものの他、羊毛への応用については全く新規な天然系防虫剤として昆虫病原細菌(BT菌)の産生する殺虫性蛋白質を用いて防虫効果を調べた結果について報告する。
天然高分子の改質及び複合化による整髪剤等への利用技術
愛知県尾張繊維技術センター 柴山 幹生、茶谷 悦司、北野 道雄
環境問題から見直されている天然高分子を高度に利用する目的で、平成7年度に当センターが研究開発した高温還元抽出法で抽出したウールケラチンの製品化を図るため、その粉末化や整髪剤等への応用を検討した。
その結果、安定した粉末化を行うには適切なpH調整が必要なこと、試作したケラチン粉末は、概ね化粧品原料基準外成分規格に適合することが分かった。
また、毛髪の力学的物性向上に効果があること、パーマネントウェーブ処理時にケラチン処理を加えるとウェーブのセット性向上に効果があることなどが確認できた。
近年、工業分野においては、生活する上で健康や快適性が得られる商品や、自然環境と調和した製品の開発が大きな研究課題となっている。
こうした観点から自然に優しい天然物の利用が再び注目を集めている。天然物の利用は繊維分野では既に加工剤としてコラーゲンやシルクプロテインなどが繊維製品の機能性向上などに利用されている。
さらに最近では不要となった天然繊維から天然高分子成分を抽出し、工業原料として幅広い分野で再利用する取組みが行われている。
本研究では板津らが研究開発した羊毛繊維から高温還元抽出法にて抽出した活性状態のウールケラチンを整髪剤等の化粧品分野に再利用するため、その粉末化について検討を加えるとともに、化粧品原料としての品質や規格への適合性及び毛髪物性への効果などを評価した。
セルロース繊維混紡品の染色投術
愛知県尾張繊維技術センター 広瀬 繁樹、羽田野 早苗、浅井 弘義
ウール/セルロース混紡品を同色染色する方法について検討した。特にセルロース用染料のウールヘの汚染を減少させることに主題を置いて実験を行った。
その結果、直接染料によるウールへの汚染を防止するには、汚染防止剤を用いることによりウール汚染を減少させる効果があることがことが分かった。
アルカリを使用する反応染料染色ではウールの損傷が生じる。ウールの損傷はアルカリ使用量より染色温度の影響が大きく、染色温度が60℃以下の中温タイプの反応染料が適している。
反応染料染色における汚染防止剤の効果は直接染料染色に比べて小さく、羊毛汚染を少なくするには、ウール汚染の少ない染料を選択することが最も重要である。
最近はポリノジックをはじめ各種レーヨン素材が開発され、この繊維のもつ手触りが好まれ、レーヨン及びこれらの複合化した素材の染色加工が増加している。しかし、これら素材の染色に関する情報は他の繊維のものに比べて極めて少ない。特に、レーヨンの複合化素材は、各種繊維の欠点を相互に補うことで、機能面や感性面において一種独特の繊維素材として期待され、多用される現状となっている。しかしながら、異なった繊維素材を同色に染色するには、レーヨン側と他繊維との色合わせが難しく、特にウールと組み合わせた場合、ウールへのセルロース用染料による汚染等大きな障害が生じてくる。
そこで、ウールとセルロース混紡品を同色で染色するための課題として、セルロース用染料のウールヘの汚染を減少させることがあげられる。本研究では、この点を中心に実験を行った。
はっ水性能評価試験の一考察
愛知県尾張繊維技術センター 大津 吉秋、山本 周治
スプレー及びろ過による方法で、はっ水加工布のはっ水性能、耐久性をぬれ量(重量測定)で客観的に評価する方法を検討した。
その結果、スプレー法とろ過法のぬれ量には高い相関性が認められた。
また、ろ過法ではろ過時間とぬれ量にも高い相関性が認められた。
はっ水加工を施した繊維製品が、スポーツ衣料分野に限らず一般衣料のなかにも増えてきている。
繊維製品のはっ水性能評価試験は、JlS L 1092で定められているスプレー法が一般に採用されている。
この方法は簡易で実際的な試験方法であるが、標準ぬれ写真との比較による評価の難しさが指摘されている。
本研究では、はっ水性能の評価を、ぬれによる生地の重量増加で捉える客観的な方法について検討した。