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テキスタイル&ファッション誌(メールマガジン)バックナンバー
テキスタイル&ファッション Vol.12 (1995)
Vol.12/No.1~12
(1995年4月号~1996年3月号)
1-ファッション情報 | No. | 月 | 頁 |
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ファッションと素材 | 1 | 4 | 1 |
'95秋冬のスタイリングトレンド | 2 | 5 | 36 |
フライデー・カジュアルの光と影 | 3 | 6 | 90 |
第4回FDCアパテックス展示説明会を開催 | 3 | 6 | 94 |
初期加工に磨きをかける-台湾羊毛業界の生き残り策- | 4 | 7 | 144 |
ファッション消費成熟化時代における、大人のマーケティングと流通改革 | 5 | 8 | 211 |
パワーセンター時代における第2次流通革命 | 6 | 9 | 274 |
FDC秋冬インポート・メンズ・ファブリック展を開催 | 6 | 9 | 281 |
'96/'97 FDCテキスタイルコレクション開催 | 7 | 10 | 343 |
マルチメディア時代にアパレルビジネスはどう変わるか | 8 | 11 | 410 |
飛躍と転換の第4回ジャパン・テキスタイル・コンテスト | 9 | 12 | 461 |
96年ファッションビジネスの展望-キーワーズは「市場を創る」- | 10 | 1 | 518 |
ジャパン・テキスタイル・コンベンション '95ファッション・シンポジウム(抜粋) |
11 | 2 | 583 |
マーケットの発信力 | 12 | 3 | 650 |
2-研究報告 | No. | 月 | 頁 |
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編目移動の自動化技術 | 1 | 4 | 7 |
疎水加工織物の吸湿性と伸縮挙動の関係解析 | 1 | 4 | 16 |
イメージ分析法手法によるスタイル・デザインの分類 | 2 | 5 | 41 |
エアジェット精紡機によるウール多層複合化技術 | 3 | 6 | 96 |
毛芯地軽量化の一考察 | 4 | 7 | 149 |
酵素によるはっ水性付与技術の研究 | 5 | 8 | 216 |
編地の目刺し自動化技術 | 6 | 9 | 283 |
一次元視覚センサーを用いた織物検査技術に関する研究 | 7 | 10 | 349 |
縫製熱処理工程の最適化技術 | 8 | 11 | 416 |
毛織物仕上工程における寸法安定化 | 8 | 11 | 429 |
毛織物の寸法安定化技術に関する研究 | 9 | 12 | 468 |
羊毛ケラチンへの親水基の導入 | 10 | 1 | 524 |
羊毛濃染化技術の解析 | 11 | 2 | 590 |
反応染料染色排水の脱色方法 | 12 | 3 | 654 |
羊毛の光による劣化 | 12 | 3 | 659 |
3-技術解説 | No. | 月 | 頁 |
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釜蒸絨について | 2 | 5 | 52 |
セルロース及びセルロース混紡品の染色加工技術 | 3 | 6 | 104 |
毛芯地の特性とその開発動向 | 4 | 7 | 158 |
リポゾームとはなにか | 5 | 8 | 228 |
インターネットの基礎 | 10 | 1 | 535 |
高齢化社会に向けてのデザイン開発 | 11 | 2 | 594 |
4-技術ニュース | No. | 月 | 頁 |
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改質レーヨン「ボリノジック繊維」について | 6 | 9 | 296 |
エコラミーの開発 | 6 | 9 | 299 |
繊維への高機能性の付与-繊維の表面とその内部の効果 | 9 | 12 | 476 |
羊毛工業における最近の技術開発の動向 | 9 | 12 | 480 |
アパレル生産技術における科学的アプローチ | 12 | 3 | 664 |
6-調査報告 | No. | 月 | 頁 |
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尾州地域繊維産業集積活性化調査報告書(1) | 8 | 11 | 443 |
尾州地域繊維産業集積活性化調査報告書(2) | 9 | 12 | 500 |
尾州地域繊維産業集積活性化調査報告書(3) | 10 | 1 | 566 |
尾川地域繊維産業集積活性化調査報告書(4) | 11 | 2 | 622 |
7-シンポジウム報告 | No. | 月 | 頁 |
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'94尾州フォーラム報告(1) | 4 | 7 | 164 |
'94尾州フォーラム報告(2) | 5 | 8 | 234 |
'94尾州フォーラム報告(3) | 6 | 9 | 303 |
'94尾州フォーラム報告(4) | 7 | 10 | 370 |
9-資料 | No. | 月 | 頁 |
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依頼試験、技術相談・指導の動向(1) | 2 | 5 | 80 |
依頼試験、技術相談・指導の動向(2) | 3 | 6 | 133 |
染色仕上関係海外文献情報(18) | 6 | 9 | 331 |
11-その他(新設機器紹介) | No. | 月 | 頁 |
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新設機器紹介 | 1 | 4 | 24 |
ファッションと素材
株式会社レナウン 商品企画担当 企画開発室
テキスタイル担当 部長 半田 浩也
ファッションが変る。
80年代後半から90年代前半迄、ファッションの主流はカジュアルと云ったトレンドを中心に回転して来た。 それは様々な点で正当化され、単なるファッション・サイクルによるものでなく、消費者の世代交代、消費生活の質の変化、はてはライフスタイル論議迄に及び、確立されたトレンドと受止められて来た。
全てはそれをベースに見るからにカジュアルなアイテム、色、素材などが開発されて来た。
当分はゆるぎないものと思われていたこのトレンドが俄かに怪しくなって来た。
その火付役になったのが海外で催されたクリエーター達による95年春夏、及び95年秋冬のコレクションによってであった。
〈クチュール感覚、40年代、50年代のエレガンスルック、シネマスター〉などの言葉で説明されたそれらの作品は、単品組合わせが主流で、ストリートカジユアル、ナチユラル、エコロジー、グランジユなどのテイストに慣らされた者の目には、なんで今更と云った感じで受取られたものであった。
今マーケットで最も苦戦しているスーツがそう簡単には戻って来ないだろうと云った予見みたいなものも一部には有った。
半信半疑のまま、その点を確認するため、さまざまな面を観て廻った。
この春3月から4月にかけ、デパートの売場に立ち、既存ブランドや新規ブランドの状況の確認、その足で海外の素材展やマーケットの視察等、そして、つい最近発表された95年秋冬プレタポルテ・コレクションの確認と云った行程であった。ここに至ってこれは、<何かが変わろうとしているな>と云った予感を強く感じる様になった。消費者の消費行動そのものがそう大きく変るとは思えないが、しかし、だから着るものはカジュアル一辺倒で良いとは云えなくなって来た。と感じている。
ファッションとは変るものなのだと云うことを再度確認するはめになったと云ってよいと思う。
95年はその様にファッションの中味が大きく変ろうとしている過渡期にあたっていると思う。ファッションのターニングポイントの時期だと考えられる。これ迄のカジュアルと、云う流れに添って決められていたシルエット、アイテム、色、素材を、クチユールマインドと云う新しい流れに置き変えてシルエット、アイテム、色、素材等を見直す時期に在ると考えている。
'95年秋冬のスタイリングトレンド
ファッションジャーナリスト 藤岡 篤子
20世紀が世紀末の様相を呈している現在、ファッション業界の先行き不透明感は、つのる一方である。
この四年間の不況で、ファッション産業の屋台骨は揺らぎつつある。疲労したファッションに、活を入れる刺激剤こそ、いま待たれるものだ。
そのひとつが、強力なファッション・トレンドの登場である。
景気後退時期の産物である、ナチュラルなフレンチカジュアルに代わる、新しいトレンド。そのニュートレンドが、必ずしも大きな利益をもたらすものである必要は無いが、市場を刺激するものとして、待望される。
ファッション本来の持つべき、ファンタジーや装う歓び、楽しさを再発見させてくれる何かが、いま求められているのだ。
それは、95年の春夏、グランジやナチュラルの傾向から180度転換した「オートクチュール」のトレンドとして、少しづつ姿を現わしつつある。
「オート・クチユール」とは、言っても、現実に、現代にオートクチュールを着る事の出来る人口は、世界でも二千人足らず。昼間のスーツで200万円、イブニングでは600万円が平均と言われる価格では、一般大衆には手を通すことはできない。全て手作業で行われる、高い技術水準が要求される縫製やカッティングが出来る職人もまた少数だ。
その現実に立った上で、このトレンドを見ると、「オートクチュール」のトレンドとは、高級誂え服の事ではなく、そう言った服の持つ、独特の高級感を指す事がわかる。
オートクチュールの高級感とは、高品質の素材使いと、何よりも洋服のフィット感にある。背中に吸いつくようなシルエット、あるいは、流れるように広がるフレアー。本来は仮縫を重ねて仕立てられるものであるから、シルエットの完成度は、この上もなく高い。
フライデー・カジュアルの光と影
男子専科編集長 福永 成明
消費不振と価格破壊のダブルパンチを浴びたメンズウエア業界(以下メンズ業界)は、かつてないほどの苦境に直面した。だが、それも一服、百貨店を例にとれば、この春あたりから消費が上向きはじめた。
それに加えて、最近話題になっている「フライデー・カジュアル」も、メンズ業界にとっては明るい材料である。そこで、このフライデー・カジュアルが救世主になるのか、はたまた仇花で終わるのか、私論をまとめてみた。
“女高男低”に終止符を…
のっけからPRじみた話になって恐縮だが、昨年秋に「男子専科」を創刊して1年近くになる。日本繊維新聞の記者を振出しに、フリーライター、「ギャップ・ジャパン」の編集長を経て、メンズ業界の専門誌を発刊することになったのは、個人的にメンズ・ファッションが好きだったこともあるが、それとともにメンズの業界専門誌が少ない、というのも理由の一つである。たしかにレディスに比べれば、メンズの市場規模は小さいし、トレンドなどでも変化が少ない。だからか、多くの業界専門誌(紙)は話題性に富んだレディスを優先し、この結果、メンズは情報の面でも地味な存在に追いやられてしまった。
このため、業界専門誌として再スタートした「男子専科」に向けても、周囲の反応は冷ややかだった。「こんなに業界が冷えこんでいるのに、メンズだけで成り立つの?…」。こんな“警告”を背に浴びながらの創刊は、なるほど厳しかった。
しかし、重箱の隅を突つくようにメンズの話題を集めてみると、そこには意外なドラマがいくつも横たわっていた。例えば、日本のメンズ消費を分析してみると、まだまだ成熟とはいえない状況にあることが判明。これなども意外なドラマの一つといえる。
IWSがまとめた「Wool Facts」をもとに、先進6カ国(日米英仏独伊)の消費データを比較分析してみると、国民1人当りの消費量で日本が誇れる(?)のはスーツだけ。スラックスにいたってはアメリカの4分の1、欧米で最低のフランスに比べても半分でしかない。量的にみれば、まだまだ消費の余力を残している、ということをデータは物語っている。
なかでもアダルト分野の状況は、まことに貧困で、ビジネスウエアを除けば“不毛”に近い状態が何十年も続いている、といっても過言ではない。
繊維は外貨獲得のNo.1
初期加工に磨きかける
--台湾羊毛業界の生き残り策--
繊研新聞社 名古屋支社 山下征彦
引き続く円高の進行から我が国繊維・アパレル産業の国際すみわけが従来にも増してピッチが早まっている。その進出先は労働コストの安い中国を中心に最近はベトナムなどへと広がっている。とりわけ中国へは繊維・アパレルだけでおよそ1,000社が合併、独資などの形態で進出している。
まさに「中国だけがなぜもてる」と言わんばかりである。日本と中国の“はざま”でかつての対日輸出国・地域は今、どうなっているのか。台湾に飛び現状を見た。
日・中の接近の中での悩み
台湾の毛紡織工業同業公会の周孚厚理事長はさきに台北市のホテルで開かれた「日本の羊毛工業の現状と今後」(主催・国際羊毛事務局台湾支部、講師・山下征彦)と題したセミナーでの挨拶の冒頭こう切り出した。
「大陸(中国)と日本との経済関係発展につれて、我々はさまざまな圧力の下で台湾の発展に取り組んできた。しかし時代環境はますます激しくなっている。その中で台湾は国際競争の激化に対応できる賢明な政策を打ち出していかねばならない」。
確かに中国と我が国の経済関係はこの数年急速に強まった。兼松上海事務所の資料によると日中貿易総額(輸出入合計)は94年に前年を22.6%も上回る478億9千万ドルとなった。
中国の貿易相手国として我が国は香港(418億2千万ドル)、アメリカ(354億3千万ドル)、EU(欧州連合=315億2千万ドル)、台湾(163億3千万ドル)、韓国(117億2千万ドル)を引き離している。台湾が注目するのは当然だろう。
中国にとっては日本は輸出で18%、輸入で23%、合わせて20%を占める最も重要な貿易相手国となっているわけだが、93年末で日系企業は7,096社が登録されている。94年1~9月だけでさらに2,106社(兼松資料より)が対中直接投資をしているから、その数は現在一万社前後になっていよう。
このうちおよそ1,000社が繊維・アパレルとその関係企業と見られている。名古屋・岐阜地区の繊維・アパレル関係だけでも94年末までに163社(ジェイアールシー社調査)進出している。多くは縫製加工だが、最近はそれらへの服飾・資材やテキスタイルの供給を目的としたものが多くなっている。
周理事長が「大陸と日本の経済関係発展につれて、我々はざまざまな圧力の下で…」と語るのもうなずける。
ファッション消費成熟化時代における、大人のマーケティングと流通改革
山村貴敬研究室 主宰 山村 貴敬
本誌「テキスタイル&ファッション」誌上で、93年に“ファッション産業の基準は大きく変遷する”をテーマに、94年には“生活者との共感構造こそが新しいビジネス体系を創造する”をテーマに、レポートを執筆した。
ファッション産業が、その黎明期より4半世紀を経過した現在、生活者サイドの消費意識と産業側の間にズレが発生し、それを抜本的に解決するには、CS視点のビジネス再構築と、そのための共感構造の創出が不可決であると述べた。
本稿では、共感ビジネスを構築するための前提となるべき、今後のマーケットをリードする消費者像と、そのための流通改革について検討する。
過去4半世紀のファッション消費の変遷
今後のマーケットの方向を論じるにあたって、先ず過去4半世紀のファッション消費の変遷を整理しておきたい。
戦後日本のファッション消費は、60年代後半にはじまる。60年代後半は、既存のファッションを革新する消費の担い手としてベビーブーマーが登場し、アイビー、ミニスカート、ジーンズ、カットソーなど、いわゆるファッション革命がおこった時期であるが、一方で、この時期は、一部のステータス層を除き、日本の大衆が戦後はじめて、アパレル商品をライフスタイル表現として消費するようになった時期でもあった。
この60年代後半以後、現在までのファッション消費の変遷を示すと、以下のような3期に分類できる。
・第1期(60年代後半~70年代前半)/ファッション消費黎明期
・第2期(70年代後半~80年代後半)/ファッション消費成長期
・第3期(90年代)/ファッション消費成熟期
パワーセンター時代における第2次流通革命。......
宝塚造形芸術大学 教授 菅原 正博
現在、わが国の流通機構が再び大きく変化しつつある。その一つの兆候が「価格破壊」という形で現れつつある。この価格破壊の原動力の1つになっているのは、アメリカで流通の主導権を握りつつある「カテゴリー・キラー」、「スーパーストア」、「ビックボックス」等が中心になって構成されている新しいタイプのショッピング・センター(SC)・スタイルの「パワーセンター」である。現在、進行しつつある「流通革命」の本質が、この「パワーセンター」の中に潜んでいる。
パワーセンターとは、力のある複数のカテゴリーキラーまたはディスカウンターが結集して広域から集客を図るSCである。「パワーシティー四日市」(敷地3万坪)は、アメリカのモデルと比較すれば、まだ過渡期である。しかしこれを、「日本型パワーセンター」と呼ぶと、現状ではひとつの到着点にきたともいわれている。その意味でも、日本でも「パワーセンター」時代が到来しつつあるといえる。
マルチメディア時代にアパレルビジネスはどう変るか
-アパレルJANコード標準化の現状と動向-
上武大学商学部 教授 土田 貞夫
繊維流通業界では、JANコードを基盤とした情報ネットワーク化が推進されようとしているが、アパレルメーカーがJANコードに対応するためには解決すべき課題が多く残されていることも事実である。
JANコードの採用が問題提起されてよりすでに20年近く、また情報ネットワーク化の環境が整備されてから、もうすでに10年を経過しようとしているが、業界の対応は一向に進展していないのが現状である。しかし、ここにきて急速に標準化への動きが活発になってきた。
新繊維ビジョンでも「1つの商品にメーカーコードと小売コードが重複して付される一方、アパレル卸に取引先ごとに異なる複数のシステムが必要とされるなど、情報化を進める上で極めて非効率的な状況になっている。」と指摘され、「情報ネットワーク化推進のための業界組織を設立するとともに、この組織において、国際的整合性をも勘案した情報交換の標準化、共通商品マスター(個々のJANコードが意味する商品情報、例えば、色、柄、サイズ、素材、価格等を登録、管理するデーターベース)の設立とその運用、POS情報の解析サービスの実施等、情報ネットワーク化を推進するための基盤整備の在り方を早急に検討するべきである。」と提言されている。
こうした通産省の繊維産業の構造改善に対する基本指針を受けて、小売業界では、百貨店においても急速にその方向に沿っての動きが見られている。
例えば、高島屋では、全店でJAN値札を採用し、営業支援情報システムの構築に踏出した(繊研新聞平成6年8月18日)。
今、ここにきて急にそうした動きが活発になったのは何故か。アパレル業界では何が問題なのか。どうしたら情報ネットワーク化が可能となるのか。こうした問 題について、根本的に見直しをすすめ、解決に向けて取り組まねばならない時が迫っていると言えよう。
飛躍と転換の第4回 ジャパン・テキスタイル・コンテスト
--台頭するトレンド・リーディングの潮流---
応募5割増はご同慶の至り(現代構造研究所 所長 三島 彰)
尾州産地主導のジャパン・テキスタイル・コンテストは、わが国におけるファッションテキスタイル・コンテストの明けの明星といっていいと思われるが、95年、めでたく第4回を迎えた。
若干心配性の私は、今回の応募について一抹の危惧をもっていた。自分が提出する作品と審査とのずれを感じて、応募を断念するむきが増え、このところ確保されてきた300点の大台を割り込むことはないだろうかと気掛かりだったのである。結果は正反対だった。
応募総数は458点と昨年の52%増、主力愛知県の56%増に対して他府県は45%増と、やや愛知県比率が上昇しているものの、地区別では1都2府13県と、昨年の1都1府18県とさして遜色なく、ナショナルコンテストとしての内容も確保されていた。
まことにご同慶の至りというべく、応募者と事業関係各位の熱意と努力に、心から拍手を贈りたい。応募作品も一段とバラエティが増え、テキスタイルデザイン全ジャンルをカバーする方向へ向かって前進していることも喜ばしいことだった。
特にこれまでやや手薄の感があった染色、捺染領域の参加が目立ち、プリントが全作品の19%を占めるに至ったほか、墨田ニットの力量を示すトコヨダの竹友氏が、高品質でプレーンなコットンジャージーで婦人服審査員特別賞に輝いたことが示すように、本来織物に対して一定の比重を占めるべきニットデザインの応募にも、展望が開けてきたことを喜びたい。
96年ファッションビジネスの展望
キーワーズは「市場を創る」
--消費が変わり、国際化が一層進む“大変化”に対応する業界構造を--
応募5割増はご同慶の至り(繊研新聞社 編集局デスク 山崎 光弘)
ファッション産業は、かつてないほどの大変化が起こっている。
第一には、消費マーケットが、かってない程の変化を見せ始めていること。
第二には、グローバリゼイションが一段と進み、ボーダレス化の中での競合が進展している。
第三には、これらを促進する形でマルチメディアを軸とする高度情報技術、システムが進展している。
この3つの課題をポイントに繊研新聞では96年を大変化に対応して「市場を創る」時代と位置付けている。
以下、百貨店を中心にした日本マーケット、香港SPAに代表される海外SPAの動向、アパレルメーカーの対応策などを追ってみた。
ジャパン・テキスタイル・コンベンション'95
ファッション・シンポジウム
特別ゲスト/ミッシェル・クラン氏
(マリアンヌ・ウダン)
ゲスト/藤岡 篤子
ゲスト/山室 一幸
「ジャパン・テキスタイル・コンベンション'95」の一環として、平成7年11月22日、一宮地場産業ファッションデザインセンターにおいて、ファッション・シンポジウムが開催された。
このファッション・シンポジウムは、特別ゲストとして、ギ・ラロッシュのチーフデザイナー、ミッシェル・クラン氏を迎え、ゲストにファッションジャーナリスト、藤岡篤子氏、ホストとして(株)インファスプロデューサー、山室一幸氏により、世界の最新ファッション事情を中心に、今後のテキスタイルとアパレルが果たす役割や動向、ファッション業界の展望などが、話し合われた。
マーケットの発信力
ファッションコーディネーター 十三 千鶴
ビル・ゲイツの未来を語る。パソコンの使い方、買い方。パソコンがわかる本。堺屋太一の大変な時代といった本がベストセラーとなっていますが、今や時代のキーワードはインターネット。
ファッション業界においても、情報ネットワークやグローバル化といったキーワードが注目されています。
事実、インターネットなどのマルチメディア社会の進行を認識した今後のビジネスのあり方や、QR(クイックレスポンス)に対応した現実的とり組みに頭を悩ませている企業が多いようです。
しかし21世紀を見据えたビジネスの展望はこうしたキーワードの中にあるのかも知れません。
昨年は、社会的な不安によるマーケットの動揺がみうけられましたが、私達ファッションビジネス市場もまったく同じことで、企業間格差がかなり出た年でもあります。
企業間格差が何故おこっているのか、一言でいえば、顧客満足度の差といえるわけで、いわゆる時代の変化に対応できず、顧客の要請に応える物づくりが出来ていなかったのではないでしょうか。
仕事の前に考え方ありきとはよく耳にする言葉ですが、実行されている人は少ない様ですね。
何事も組立がしっかり出来て初めて技術の良さが生かされるわけです。前の動き方、いわゆるマーケティングこそ組立の基本になると思います。
今、百貨店は、将来に向かっての戦略の立て直し、ターゲットの見直しによる一連のリニューアルが盛んですが、その背景は、時代の変化に伴う新たなマーケットリーダーの要請に応える売り場づくり、商品MDの見直しを基本としています。
たとえば、デモグラフィックによれば、団塊世代は、早くも40代後半。そのジュニアー達は25歳前後、この両世代は従来の親子とはやや異なり、現在のライフスタイルからテイスト(趣味嗜好)が似かよっています。
親子で買って着回す傾向が大きな特徴でもあります。こうした消費者に対応するには従来の単なる年齢別区分による売場づくりでは満足してもらえず、年齢よりむしろテイストやライフスタイル区分があてはまる様で、新しい区分軸の確立が必要とされています。
今、こうした団塊世代と団塊ジュニアーを同一グループとみなした、エイジレスなMDが盛んとなりつつありますが、実年齢幅の広さに対応するためにはサイズが問題となります。
従って、このゾーンの基本的MDとしては、サイズMDがポイントとなっています。
リンキングにおける目刺しの自動化に関する研究
編目移動の自動化技術
愛知県尾張繊維技術センター 井上 正義
セーター、カーデガン等のリンキングを自動化するためには、何らかの手段により目的とする編目を捉えその位置を特定する必要がある。
昨年度は、このために必要な編目の伸長特性と編目の形状特性について調査した。
そこで、今年度は、カメラで捉えたリンキングの対象となる編目の位置とポイント針の位置を一致させるための自動位置合わせ手法を開発することを目的とした。
リンキング作業においては、目的とする編目に目落としすることなくポイント針を刺す必要がある。このために、カメラを使用し目的とするコースの編目を識別する方法として「位置条件設定法」と「蛍光処理糸使用法」の二つの方法を検討した結果、編目配列に歪み等が有る場合にも確実に目的とする編目を識別できる方法として「蛍光処理糸使用法」が適切であることがわかった。
次に、リンキングの対象となる編目とポイント針の位置を一致させるための「編目移動ステージ装置」とポイント針を一本ずつ動かして目刺しをすることができる「リンキング用手動コーム」を試作し、これらとカメラ、画像処理システム及びパソコンを組み合わせることにより「目刺し対象編目とポイント針の自動位置合わせ手法」を開発した。
“リンキング”とは、編地の個々のループを一定間隔に並んだポイント針に刺し、リンキングマシンにより編地をチェーンステッチで継なぎあわせる工程と定義されている。
従来、リンキングは、主に成形品の縫製に用いられていたが、最近では消費者指向の高級化、多様化により高品質なもの作りのための生産方法として用いられている。
リンキングの特徴は、構造上ループを縫い止めるため縫代が不要となりすっきりと仕上がること、目刺しをして縫うために縫いずれがないことである。 このためリンキングにより生産された製品は、継目が目立ちにくくかさばらず高品質に仕上がる。
リンキング作業は、円形型のダイアル・リンキングマシンと、直線型のフラット・リンキングマシンにより行われるが、いずれの場合も目刺し作業は手作業により行われている。
目刺しは熟練を必要とする細かな作業のため、生産効率が悪く作業員不足の状態となっている。最近では、編目を一つ一つ目刺ししない疑似リンキングが量的には主体となっており、一般の消費者が見た場合には、疑似リンキングか本リンキングかが区別できないほど疑似リンキングの技術が改良されている。
疎水加工織物の吸温性と伸縮挙動の関係解析
愛知県尾張繊維技術センター 藤田 浩文
最近の毛織物の傾向として、ソフト化・ライトウェイト化が進み、ハイグラルエキスパンションの高い織物の使用が増加し、このハイグラルエキスパンションが原因となる縫製時のトラブルや消費者苦情が発生している。
これらのトラブルや苦情の内容は、縫製中あるいは縫製加工後の保管時や商品の展示中および着用中等によって織物が伸び、型くずれやたるみ、パッカリングが発生する。
特に冬の乾燥期に作られた夏用背広服を高温高湿の梅雨時に販売する時に、思いもよらないほどの外観変化でクレームとなることがある。
このハイグラルエキスパンションは、織物寸法がその湿度環境である範囲で伸びたり、縮んだりする変化で、吸湿によって伸び、放湿によって縮む可逆的寸法変化である。特に羊毛繊維は、他の繊維に比べ水分の吸収量が著しく多く、最大で繊維重量の34%程度水分を吸収するためその寸法変化も大きくなる。
そこで本研究では、疎水化処理により吸湿性の異なる毛織物を作成し、これらの疎水化毛織物とハイグラルエキスパンションとの関係を解析して、毛織物のハイグラルエキスパンションを低下させる方法を検討した。
イメージ分析手法によるスタイル・デザインの分類
愛知県尾張繊維技術センター 本間 重満
スタイル・デザイン・イメージを構成する色、柄、シルエット、テクスチャー等々、各種デザイン特性にかかわる感性的要因を定量把握する方法及び定量把握したスタイル・デザインをイメージにより分類・検索する手法について研究を行った。
(1)スタイル・デザインをシルエット形状により20パターンに分類し、そのイメージをSD法により数量的にとらえるとともに、因子分析法を用いて基本的なスタイル・デザインのイメージ構造を解明した。
これにより、スタイル・デザイン・イメージを構成する感性的要因を定量把握することができた。
(2)主因子法による因子分析でスタイル・デザインの因子構造を解明することにより、各因子に共通する8組の形容詞対をイメージ評価尺度として抽出し、分類・検索に係わるキーワードの設定を行った。
これにより、イメージ評価によるスタイル・デザインの分類・検索とともに画像情報によるデザイン・データ・ベース化への対応など、デザイン決定を支援する知識ベースを構築することができた。
アパレル市場の成熟化に伴いアパレル業界は、これまで以上に科学的で緻密な消費者分析に基づいた商品企画や生産管理、さらには販売計画が課題とされている。
なかでも、消費者ニーズの個性化、多様化、高級化にともない、デザインを始めとする商品開発において、従来の商品の価格や機能以外にフィーリングや嗜好など消費者の感性的要求を製品に反映させることが不可欠とされている。
このため、アパレル業界では、これまでデザイナーや設計者の勘にたよることの多かった企画・設計分野にも可能な限り科学的、合理的な手法で開発が行えるようコンピュータ支援による様々な設計システムが導入されて来ている。
今日では、消費者の心理的特性を客観的、定量的に把握して製品の物理的特性との対応関係を解明するため感覚計測を始め感性の定量化に向けてのコンピュータ利用技術への対応が図られている。
このことから、CAD等、コンピュータを利用してアパレル・デザインにかかわる各種感性情報をストックし、解析することによってデザイン決定を支援する知識ベースの構築を目的に、各種デザイン特性に係わる感性的要因の定量把握とイメージにより分類・検索する手法について研究を行った。
エアジェット精紡機によるウール多層複合化技術
愛知県尾張繊維技術センター 服部 安紀、安田 篤司
エアジェット精紡機によるウールの多層複合化技術についての検討を行うため。芯鞘2層構造糸の紡績方法についての試験を行った。
エアジェット精紡機の機械的条件(ドラフト部にガイドを新規に設置、ドラフト方法、中抜きローラーの溝の深さ等)や原料特性(繊維長、繊度)と芯鞘の2層構造の関係、リング精紡との違い等を検討した。
また2層構造糸使い織物の風合について検討した。芯鞘の2層構造は、画像処埋により鞘による芯の被覆率、風合はKESで評価した。
その結果、次のような結論を得た。
(1)粗糸ガイドに鞘、芯、鞘用粗糸を垂直方向または、芯用粗糸を囲むように各粗糸を通すことにより被覆率が向上した。
(2)メインドラフトの中抜きローラーの溝の深さは、深い(1.5mm)方が被覆率を向上する等の最適条件を見い出した。
(3)鞘に比べて芯に太い繊維を用いた場合でも、エアジェット精紡機は、リング精紡より被覆率が向上できた。
(4)芯シロップシャー・鞘メリノ(芯:鞘=20:80)の2層構造糸を用いることにより、メリノ100%織物よりKOSHIがあり、NUMERI・FUKURAMI・SOFUTOSAはメリノ100%織物と同等かそれ以上の織物を得た。
最近、親水性繊維と疎水性繊維を、多層状に配置して、吸放湿性能を向上させた紡績糸が開発され、この糸を用いた織物は、夏用の素材として好評を得ている。
この糸は、親水性繊維と疎水性繊維を多層状に配置することにより、親水性繊維の水分の吸収力と疎水性繊維の移動・拡散能力を同時に用いることができ、この糸を使用した織物は、親水性繊維単独で使用した織物以上の吸放湿性能を発揮している。
このように、2種類以上の繊維を層状に配置することにより、個々の繊維の特性を同時に発揮させることができ、今までにない新しい性能を持った糸、織物の開発が可能となる。
このような多層構造糸のほとんどは、リング精紡機を用いており、繊維のマイグレーションで芯の部分は細い繊維が配置される等の糸構造上の制限が存在する、しかし、エアジェット精紡では、無撚の繊維束を表面の繊維で結束して紡績するため、撚による繊維のマイグレーションはリング精紡より小さくなると考えられ、リング精紡では出来ない糸構造を有する多層構造糸が紡績可能と考えられる。
そこで、エアジェット精紡機を用いた多層構造糸の紡績技術に開する研究を行い、多層構造糸紡績技術および多層構造糸に関する知見を得たのでここに報告する。なお研究は、芯・鞘の2層構造糸を紡績して行った。
毛芯地軽量化の一考察
愛知県尾張繊維技術センター 大津 吉秋、橋本 貴史
芯地は、表地だけではできない衣服の形態保持を主目的とするものである。近年、接着芯地の使用頻度が増してきているが、紳士服においてはフロント部の形態保持性能が特に強く要求されることから、従来からの毛芯地が多く使用されている。
紳士上着の前身頃に使用される芯地の一般的な仕様は、台芯、肩バス芯、胸増芯、フェルト芯の4枚で構成されており、上着に占める芯地の重量は他の衣服に比べると高い。衣服は全般的に軽量化の傾向にあることから、本研究では毛芯地の軽量化対策として、胸部の補強芯である胸増芯を割愛することによって約20%の軽量化を図り、代わりに、台芯の胸部に相当する箇所またはフェルト芯に樹脂加工することで胸増芯の機能を補完させる方法について検討した。
軽量化、ソフト化の傾向がある紳士服に対応した毛芯地について検討した。その開発ポイントは、胸増芯の代わりに台芯またはフェルト芯にパターン樹脂加工を行うことで、胸増芯の機能を補完し、重量を約20%減少させた点である。
従来の毛芯地の特性が、よこ糸にはヘアー等の剛性の強い毛を、たて糸には柔らかい綿糸等を使い、よこ方向にハリを、たて方向に落ち感(なじみ)を持たせている点を考慮し、よこ方向のみの曲げ剛性を向上させることを目的としたが、曲げ比で評価したところ予想された結果が得られた。しかし、回復性を表す弾力度(2HB1B)値がやや低下した。しわ回復率は良好な結果であった。
これらの試験結果から、毛芯の性質を把握し目的に合った毛芯を選定するには、曲げ剛性、曲げ比、弾力度、さらには、しわ回復率を総合的に評価することが重要であることが判明し、今後の毛芯の開発指針につながると考えられる。
酵素によるはっ水性付与技術の研究
愛知県尾張繊維技術センター 北野 道雄、板津 敏彦
最近、各方面でバイオテクノロジーに関する話題が盛んであるが、繊維産業への導入利用についても実用化されつつある。実施例としては、酵素の利用に関するものが多く、ウールやセルロース系繊維の改質等に用いられている。
一方、改質の目的についてみてみると、風合いの改良やケバ取り、光沢度の向上、防縮性、抗ピリング性等が主なもので、この他、吸放湿性等の機能の向上を付与するものもみられる。
そこで、羊毛を酵素処理することにより、はっ水性能を付与する加工法について研究を行った。この結果、転移酵素や合成酵素を用いて羊毛を処理することにより、羊毛の表面と内部のはっ水性を高めることが可能なことが判明した。
また、得られた改質羊毛を分子レベルで調べた結果、酵素による羊毛構造中の分子の架橋反応を確認した。
酵素による羊毛の改質加工では、通常、蛋白質分解酵素であるプロテアーゼを使用して、羊毛表面のスケール部分に作用させる加工や内部の蛋白質主鎖や側鎖を一部分解する加工法がとられている。
しかし、羊毛の改質加工への酵素利用範囲を拡大する目的で、酵素による羊毛のはっ水加工試験を試みた。
この結果、酵素によるはっ水性の付与が確認できたのでこの研究成果について報告する。
リンキングにおける目刺しの自動化に関する研究
-編地の目刺し自動化技術-
愛知県尾張繊維技術センター 井上 正義
セーター、カーデガン等のリンキングを自動化するためには、何らかの手段により目的とする編目にポイント針を刺す必要がある。
昨年度は、このために必要な編目移動の自動化技術について研究し、カメラで捉えたリンキングの対象となる編目とポイント針の位置を一致させるため自動位置合わせ手法を開発した。
そこで、今年度は位置合せをした編目に自動的にポイント針を刺す手法及び編地を連続的に伸長し送り出す手法について検討することを目的とした。
リンキング作業のうちの目刺し工程を自動化するためには、目的とする編目に自動的にポイント針を刺す必要がある。
このため、レバー方式によりポイント針を押し上げることが出来る「ポイント針自動作動装置」を試作し、これと昨年度試作した「編目移動ステージ装置」、「リンキング用手動コーム」及び「画像処理システム」を組み合わせることにより編目とポイント針の位置を一致させた後、「自動的にポイント針を刺す手法」を開発した。
次に、実際にリンキングの対象となる編地は数十cmの長さがあるため、編地把持具で両端を固定した状態では目刺しをすることが出来ない。
このため速度差をつけた前後のローラにより編地を連続的に伸長するための「ローラ式編地伸長装置」と編地を進行方向にまっすぐ送るための「編地方向修正装置」を試作し、これらとカメラ、画像処理システム及びパソコンを組み合わせることにより「編地を連続的に伸長し送り出す手法」を開発した。
“リンキング”とは、編地の個々のループを一定間隔に並んだポイント針に刺し、リンキングマシンにより綿地をチェーンステッチで継なぎあわせる工程と定義されている。
従来、リンキングは、主に成形品の縫製に用いられていたが、最近では消費者指向の高級化、多様化により高品質なもの作りのための生産方法として用いられている。
リンキングの特徴は、構造上ループを縫い止めるため縫代が不要となりすっきりと仕上がること、目刺しをして縫うために縫いずれがないことである。
このためリンキングにより生産された製品は、継目が目立ちにくくかさばらず高品質に仕上がる。
リンキング作業は、円形型のダイアル・リンキングマシンと、直線型のフラット・リンキングマシンにより行われるが、いずれの場合も目刺し作業は手作業により行われている。
目刺しは熟練を必要とする細かな作業のため、生産効率が悪く作業員不足の状態となっている。
一次元視覚センサーを用いた織物検査技術に関する研究
愛知県尾張繊維技術センター 安藤 正好、池口 達治、服部 安紀
先染毛織物を検査対象とし、ラインセンサから得られる一次元データ列から織段・筋立ち等の欠点を自動的に検出するために、知識データベースを応用した一次元画像処理技術の研究を行い、次の結果を得た。
(1)ミクロフィルター、ムラフィルター処理等の一次元画像処理技術による織物欠点抽出手法を開発した。
(2)検査を効率的に実施するための知識ベースシステムを構築した。知識ベースの構成要素として、織物規格に関する情報、織欠点に関する情報、一次元画像処理の検査条件に関する情報である。
毛織物生産工程の中には、単調な作業ではあるが熟練を要する労働集約的な工程が多く存在している。
最近の若年労働者はこうした単純作業を極度に嫌い、後継者の育成は極めて困難で、自動化を進めなければならない状況にある。
また、これらの労働集約的な工程の自動化は、国際競争力の強化と県内生産基盤の空洞化を防ぐ面からも重要な課題となっている。
なかでも検反工程は、製織・染色・整理などの各生産工程で繰り返し行われており、そのほとんどの作業が人手(目視)に頼っているのが現状である。この作業を自動化することは、省力化を図るとともに製品の品質の均一化を図る上からも、以前から実用化が望まれていた重要なテーマの一つであった。
目視検査の自動化に関する研究は、視覚と脳の働きを機械で代替するもので、高度な機械開発が必要である。
この研究の主体は、コンピュータ画像処理技術を応用して、製品の正常と異常を識別するものである。
織物検査に関する研究も無地織物を対象とした研究が多く、通産省の大型プロジェクト「自動縫製システム開発に関する研究」等が報告されている。
毛織物は、素材・組織・密度・色柄などの組み合わせによりその種類は多数存在する。したがって、その検査手法は無地織物に比較し複雑である。
個々の織柄に対応した検査アルゴリズムが必要となり、知的情報処理技術を応用した検査システムが要求される。
本研究では、検査対象を毛織物とし、ラインセンサから得られるデータから織段・筋立ち等の「織欠点」を自動的に検出するために、知識データベースを応用した一次元画像処理技術の研究を行った。
縫製熱処理工程の最適化技術
プレス加工における薄地織物の表面荒れとその防止策
愛知県尾張繊維技術センター 掘田 好幸、坂川 登
プレス加工における羊毛薄地織物及び新合繊織物の表面荒れ発生メカニズムの解析とその防止策を研究した。
1)プレス加工での織物表面荒れ発生原因
羊毛薄地織物のパッカリング(ペコ)は、オープンスチームで加湿したとき、経緯方向が同時に伸長する織物で発生した。
先染柄織物のバブリング(シボ)は、経緯を構成する同一方向内の各色糸間のハイグラルエキスパンション率、緩和収縮率、熱水収縮率で差が大きいと発生した。
アタリ、テカリの発生は、プレス加工時に、織物の重ね合わせ部分の境界で見られ、羊毛、新合繊どちらの素材に対しても、ロックバキューム処理が原因であった。
アタリの程度は、厚地織物ではプレス鏝の硬質マット素材側で強く発生し、薄地織物についてはプレス鏝の軟質マット素材側で強く発生した。
2)防止策
羊毛薄地織物は、オープンスチーム前処理とオープンバキューム後処理を併用するプレス方法で、プレス後にスチームで加湿されても表面荒れが防止できる。
また、先染柄織物のバブリングは、各々経緯同一方向内に用いられる各色糸のハイグラルエキスパンション率、緩和収縮率、熱水収縮率を予め評価することで製織前に予防できる。
アタリ、テカリは、プレス加工の際に、織物重ね合わせ部分の内側にポリエステル系硬質マット素材をはさみ、ロックバキユーム時間の短いスチームプレス方法で防止できる。
新合繊織物は、130℃の乾熱プレスでアタリも無く、良いプレス性が得られた。
縫製難素材と呼ばれている薄地織物のプレス加工におけるアタリ、テカリ、パッカリング及びバブリングなどの表面荒れ発生メカニズムを解析し、その防止策を研究した。
羊毛薄地織物では、主に染色仕上でハイグラルエキスパンション率及び緩和収縮率を変えた織物がスチームプレスで寸法安定性や織物外観にどのように影響を与えるかを調ベ、新合繊織物では、熱と織物収縮性の関連、そしてプレスでのアタリ・テカリの発生状態を調べた。そして、それらの解析結果から、織物表面荒れの防止策を検討した。
毛織物仕上工程における寸法安定化
愛知県尾張繊維技術センター 藤田 浩文、野田 栄造
無水安息香酸を用い毛織物を処理することにより、毛織物を疎水化する事が可能である。
ここでは、疎水化毛織物の染色仕上工程における最適条件を研究することにより、疎水化処理剤を軽減して毛織物の寸法安定化を図った。
通常、疎水加工の処理及び洗浄に有機溶媒を用いるが、水を媒体とした作業の多い染色整理加工においては実用上問題があるため、非イオン系の界面活性剤を用い無水安息香酸を水中で乳化させ、水系で疎水加工を行うことを検討した。
その結果、無水安息香酸80%o.w.fまでは処理剤の20%程度の効率で疎水加工ができた。
また、染色及び釜蒸などで過度のセットを抑制することにより、疎水加工に用いる無水安息香酸の重量を半分以下で毛織物のHEを抑制できた。
最近の毛織物の傾向として、ソフト化・ライトウェイト化が進み、ハイグラルエキスパンション(以下HEと略す)の高い織物の使用が増加し、これが原因となる縫製時のトラブルや消費者苦情が発生している。
これらのトラブルや苦情の内容は、縫製中あるいは縫製加工後の保管時や商品の展示中および着用中等にHEによって織物が伸び、型くずれやたるみ、パッカリングが発生することである。
この毛織物の特徴であり、欠点でもあるHEは、1960年代当初から、その現象、発生原理、織物組織や仕上工程との関係およびその防止方法等が多くの研究者や現場サイドの人により研究されてきている。
このHEとは、織物寸法がその湿度環境によって伸びたり、縮んだりする変化で、吸湿によって伸び、放湿によって縮む可逆的寸法変化である。
羊毛繊維は、他の繊維に比べ水分の吸収量が著しく多く、最大で繊維重量の34%程度の水分を吸収し繊維の直径が16%膨潤して太くなると言われている。この直径の膨潤によりクリンプが伸びて(曲率半径が大きくなって)繊維の見かけの長さが増加するためにHEが発生する。これまでにHEは、
(1)織物構造(組織、密度など)
(2)織物に施されたセットの程度
等に影響されることがわかっている。
このうち(2)については、織物の仕上工程で特に煮絨、染色、蒸絨等の高温湿熱工程が関係し、セット条件が強いほどHEが大きくなる。
そこで前報では、無水安息香酸を用いて羊毛繊維中のリジン、アルギニン、アスパラギン、グルタミンのアミノ基末端に、疎水性が強く分子構造がかさ高なベンゼン環を付加することにより、羊毛繊維内部への水分子の浸透と吸着及び羊毛の膨潤を抑制すると考えられる処理を行った。
無水安息香酸処理による重量増加を疎水化とした。
その結果、処理剤の濃度が大きくなるほど疎水化が進み、疎水化の程度によりHEをコントロールできることが分かった。
したがって今回は、染色仕上工程における最適条件を研究することにより、疎水化処理剤を軽減して毛織物の寸法安定化を図った。
毛織物の寸法安定化技術に関する研究
愛知県尾張繊維技術センター 小林 久行、柴田 善孝
ウールのポリアクリル酸グラフト共重合によるハイグラルエクスパンション(HE)抑制について加工方法を検討すると共に、加工形態を篠、糸そして織物とした場合、そのHE性及び風合い物性にどのような影響を及ぼすかを検討した。
糸加工による糸と篠加工による糸は、糸の引張伸度に差が生じるが、織物にした場合はその差がなくなり、風合いも含めほとんど変わらない織物となる。
糸加工織物と反加工織物はそのHE性と風合い特性において異なり、糸加工織物の場合はHEの減少は大きなHEをもつ方向のみに選択的に生じ、実用的に好ましいと思われる
4~5%のHEに抑えるためには約15%程度のグラフト率が必要であった。一方、反加工織物の場合は方向性がなく両方向に生じ、10%程度のグラフト率が必要であった。
風合いにおいても前者は曲げ硬くなり、後者はせん断硬くなるなど違いが生じた。
織物のハイグラルエクスパンション(HE)による寸法変化は、吸湿、放湿によって繊維直径が可逆的に変化するために起こる現象である。
そこで昨年度は、ウール繊維の直径変化を少なくする方法として、ウールヘのポリアクリル酸グラフト共重合加工を検討し、糸への加工が可能であり、多少の物性劣化はあるが、織物のHEを低下できることを確認した。
本年度は、更に研究を進め実用性を目指して、加工量の増加を図ると共に、糸以外の篠や反物における加工や加工品の染色性等について検討し、加工方法の違いがHE性や風合い物性等に与える影響について考察した。
羊毛ケラチンへの親水基の導入
羊毛の化学的処理による親水化
愛知県尾張繊維技術センター
水を媒体とした加工の多い染色整理加工の効率化を図るため、羊毛内部を保護して羊毛表面をアルカリ剤、酸化剤及び還元剤等で親水性に化学改質する方法及びカチオン化天然高分子等を反応させ、その化学的及び物理的性質を検討し、次のことが明らかとなった。
ア.NaOH処理を芒硝20~30%溶液中で行うことにより、羊毛の損傷を防止し、羊毛表面の親水性が増加し、吸湿性、染料吸尽率が向上する。しかし、羊毛のごく表面だけを改質することはきわめて困難なことが分かった。
イ.酸化剤の芒硝溶液中での処理は吸水速度、染料吸尽率を向上させる。
ウ.カチオン化天然高分子加工は亜硫酸ナトリウム中で処理することにより羊毛と結合し、染料吸尽率、防縮性が向上する。
羊毛の染色加工では羊毛のはっ水性が時として加工の弊害となる。このため、羊毛表面の油脂及び脂肪酸を除去する方法として、有機溶媒処理やアルカリ性アルコールによる処理方法が検討されている。
また、最近注目されているSIROLAN-NTDシステムはアルカリ下で特殊な活性剤を用い、前処理することにより、羊毛の油脂分や非ケラチンプロティンを除いて、羊毛を低温で染色する方法が報告されている。
染色以外でも整理工程で行われる樹脂を利用した防縮加工等機能性付与加工では薬剤の吸尽性及び製品の性能を向上させるため、羊毛を親水化して樹脂の接着性を向上させる前処理が行われている。
そこで、ここでは羊毛を親水化する方法として、羊毛内部を傷めずに親水性に化学改質する方法及び親水性の高いカチオン化天然高分子等を反応させ、これらの効果及び諸物性について検討した。
羊毛濃染化要素技術の解析
愛知県尾張繊維技術センター 荒井 清
羊毛をキトサン-ヘキサメチレンジアミン(HMDA)で前処理すると濃染できる。この前処理に使ったキトサン、HMDAを凝集剤として再利用して、着色排水の脱色ができる。この脱色した水は染色に再利用できる。
濃く、鮮明に染められると言うことは生活における選択肢を広げるうえでのぞましいことである。更に重要なことは染料の吸尽率、利用率を高めて、また、これに伴う助剤の削減、省略をして水質汚濁の防止、省資源を図ることである。
濃染化法としては、羊毛に対してはシリコンなど低屈折率の樹脂で繊維表面を被覆する方法、プラズマ処理により表面にクレーターを作る方法、1-ヒドロキシエチリヂン-1,1-ジホスホン酸などのホスホネート類、メチルアミン、ジメチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアミン類での前処理、液体アンモニアによる前処理がある。
綿に対してはグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド(Glytac)、1,1-ジメチル-3ヒドロキシアゼチジニウムクロライド(DMA-AC)などがある。
一方、天然素材、環境保全(水については最近、着色排水)、リサイクル、生分解プラスチックなどが最近、キーワードになっている。この点、羊毛は優れた機能をもった天然素材であるが、高品質化を指向するなら、加工剤も天然素材を使用するというこだわりが生ずる。
この研究では、最後のバイオマスとして自然界に多量に存在し、生分解性のキトサンを前処理剤として使った。また、これを排水処理剤として再利用し、さらに、この処理水を染色用水として再利用した。
反応染料染色排水の脱色方法
愛知県尾張繊維技術センター 山本 周治、北野 道雄
反応染料による染色では、染色助剤として多量の硫酸ナトリウムを添加するが、この硫酸ナトリウムは繊維には吸収されず染色終了後に染色排水として排出される。
この反応染料染色排水から未固着の残留染料だけを除去して、残った染色助剤と水を再利用することを目的とした。
染色排水の脱色には吸着法、ろ過法、オゾン酸化法等のいろいろな方法があるが、本研究では大がかりな装置を用いず比較的簡単に行える凝集沈澱による脱色方法と染料分解用菌剤及び酵素による脱色方法を試みた。
凝集沈澱法は、市販品の凝集剤及び天然高分子凝集剤としてキトサン、ウールパウダーを用いて脱色を行ったが市販品及びキトサンは90%以上の脱色率を示し、ウールパウダーは条件によって90%以上の脱色率を示した。染料分解用菌剤では染料の構造によって脱色率が異なることが分かった。
酵素による脱色は期待した脱色結果がでなかった。また凝集剤で脱色した染色排水中には反応染料染色の助剤である硫酸ナトリウムがそのまま残留していることがわかった。
染色、整理を行っている工場では一般の工場よりも水の使用量が多く、そのほとんどが排出されている。 これらの排水をリサイクルの面からも夏期の渇水対策からも工場排水の一部を再利用する動きもでている。
染色工場からの排水は着色しているため再利用には、脱色する必要がある。また今後きびしくなると思われる排水の着色規制からも脱色排水処理は重要になってくるものと思われる。
羊毛の光による劣化
愛知県尾張繊維技術センター 三輪 幸弘、藤田 和孝
羊毛は、日光に長く当たっていると、劣化(黄変、脆化)していく。そして、光による劣化は、熱により促進される。
本報では、日本では多く使用されている、太陽光に近似した人工光-サンシャインカーボンアーク灯光-による羊毛の劣化について、黄変指数、引張・破裂強さ、力学(引張、剪断、曲げ、圧縮)・表面特性等の変化を検討した。
また、羊毛への光の照射波長の影響についても確認したので報告する。
まとめ
(1)サンシャインカーボンアーク灯光照射による標準条件(BPT63℃)と高温条件(BPT83℃)での羊毛の劣化を検討した。
その結果、高温条件では、黄変は1.4倍、引張強さは1.3倍、破裂強さは1.2倍に促進された。
また、表面脆化は、KESシステム計測での剪断特性の2HG5(剪断ヒステリシス)の増加、FTIR‐ATR分析でのシステイン酸(-SO3-, 1040cm-1)の増加、等がよい目安となる。
(2)羊毛への光の照射波長の影響は、紫外部(<400nm)では黄変、脆化し、可視部(400-480nm)では漂白する、ことが確認できた。