トップページ > 情報の窓 > テキスタイル&ファッション誌(メールマガジン) > バックナンバー > Vol.09
テキスタイル&ファッション誌(メールマガジン)バックナンバー
テキスタイル&ファッション Vol.9 (1992)
Vol.9/No.1~12
(1992年4月号~1993年3月号)
1-ファッション情報 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
'93春夏FDCテキスタイルトレンド展閉幕 | 1 | 4 | 1 |
紡毛復活にわく尾州産地 | 2 | 5 | 54 |
取引慣行に関するアパレル業界の実態と改善への問題提起 | 3 | 6 | 103 |
現代女性の憧れ像 | 4 | 7 | 149 |
プライス志向マーケットの今日的意味 | 5 | 8 | 199 |
メンズファブリックコレクンョン終わる | 6 | 9 | 250 |
婦人テキスタイルトレンド説明会 | 6 | 9 | 252 |
'93/'94秋冬FDCテキスタイルコレクション終わる | 7 | 10 | 321 |
変貌する物流 | 8 | 11 | 380 |
テキスタイル産業の人材育成戦略 | 9 | 12 | 435 |
93年は本場活性化めざす新創業の時代へ | 10 | 1 | 485 |
変貌する生活ルール | 11 | 2 | 537 |
春夏インポートメンズファブリックコレクンョン終了 | 12 | 3 | 607 |
婦人テキスタイルトレンド説明会 | 12 | 3 | 609 |
2-研究報告 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
整経準備作業の自動化 | 1 | 4 | 5 |
羊毛/ポリエステル混紡品の高温染色について | 2 | 5 | 58 |
細番手糸の疲労特性 | 3 | 6 | 108 |
紡績糸に対するセラミック付与加工技術 | 4 | 7 | 153 |
紳士服の型崩れ防止技術 | 5 | 8 | 203 |
天然高分子による形状記億糸の開発 | 6 | 9 | 254 |
先染織物の画像処理検反技術 | 7 | 10 | 325 |
布の水分移動特性の評価技術 | 8 | 11 | 385 |
毛織物設計手法の高度化に関する研究 | 9 | 12 | 441 |
羊毛屑の染色排水中の染料除去剤としての再利用技術 | 10 | 1 | 485 |
羊毛混用品染色のシステム化技術 | 11 | 2 | 542 |
アパレルデザインにおけるパーツの三次元表現手法 | 12 | 3 | 611 |
3-技術解説 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
衣服の快適性とストレッチ素材 | 1 | 4 | 12 |
植物繊維の形状 | 3 | 6 | 120 |
織物工場FA化のための自動化技術 | 4 | 7 | 160 |
羊毛/獣毛混紡品の新しい混紡率測定方法 | 5 | 8 | 219 |
機能的な衣服について | 6 | 9 | 283 |
不織布の技術動向 | 7 | 10 | 346 |
プラズマによる高分子の表面改質 | 7 | 10 | 346 |
コンピュータグラフィックスを応用した三次元アパレルデザインシュミレーンョン | 9 | 12 | 448 |
テクスチャー解析を応用した組織設計 | 10 | 1 | 501 |
羊毛の反応及び加工 | 11 | 2 | 563 |
生分解性プラスチックの現状 | 12 | 3 | 624 |
4-講習会報告 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
平成4年度繊維大学講座(繊維ハイテク講座)報告 | 10 | 1 | 508 |
平成4年度繊維大学講座(織物企画開発講座)報告 | 11 | 2 | 584 |
平成4年度繊維大学講座(加工高度化講座)報告 | 12 | 3 | 634 |
5-調査報告 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
繊維産業のクイック・レスポンス生産に関する調査(2) | 1 | 4 | 18 |
中小繊維工業の新商品企画開発体制実態調査 | 3 | 6 | 136 |
繊維産業のクイック・レスポンス生産に関する調査(3) | 4 | 7 | 167 |
愛知県繊維産業実需対応システム調査(その1) | 5 | 8 | 225 |
愛知県繊維産業実需対応システム調査(その2) | 6 | 9 | 297 |
8-技術情報の窓 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
技術情報 | 1 | 4 | 50 |
技術情報 | 2 | 5 | 98 |
技術情報 | 3 | 6 | 144 |
技術情報 | 4 | 7 | 194 |
技術情報 | 5 | 8 | 245 |
技術情報 | 6 | 9 | 317 |
技術情報 | 7 | 10 | 376 |
技術情報 | 8 | 11 | 431 |
技術情報 | 9 | 12 | 478 |
技術情報 | 10 | 1 | 532 |
技術情報 | 11 | 2 | 603 |
技術情報 | 12 | 3 | 661 |
9-その他(新設機器紹介) | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
新設機器紹介 | 2 | 5 | 7 |
年頭の辞 | 10 | 1 | 482 |
紡毛復活にわく尾州産地 昨年10月からコートが燃える 今年の勝負は早くも決まる 問屋、紡績、機屋は強気一本
繊研新聞社 編集局 山下 征彦
猛烈に圧縮されていた風船の中の空気が、一気に爆発した--。そんな表現がぴったりする突然の紡毛復活である。落ち込みがひどかっただけに反発力は大きかった。この久しぶりの紡毛ブームをどう5、6年へとつなげていくのか。尾州産地はいま、燃えている。
「紡毛は崖淵に追い込まれていた。もし91年に復活しなかったら、その生産構造は崩壊に近いものになっていただろう」と尾州産地の大手機屋が語っていた。
この発言は決して過大表現ではない。尾州産地の紡毛織物の生産量は減少につぐ減少を続けていた。尾西毛織工業組合の紡毛織物の生産量を追ってみよう。
ピークは昭和59年3,122万メートルだった。翌60年も辛うじて3,000万台をキープする3,020万メートルだったが、61年には前年を11%下回る2,678万メートルと2,000万メートル台に落ち込み、62年にはさらに前年を15%下回る2,280万メートルになっていた。
減少は続き63年に1,000万メートル台になり、平成に年号が代わっても回復の兆しはなく、3年には前年に比べ22%も減少、ついに1,000万メートルの大台を割り込む893万メートルに縮小していた。これはピーク時の59年と比較するとなんと28.6%、すなわち71.4%もの減少となる。
取引慣行に関するアパレル業界の実態と改善への問題提起
マーケティング・サイエンス研究所 土田 貞夫
平成3年7月、公正取引委員会は「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」を発表し、我が国における取引慣行の近代化に関するガイドラインを示した。
このガイドラインは、平成2年6月日米構造協議の最終報告に基づいて、我が国の排他的取引慣行を是正し、日米間の貿易不均衡の改善を目指して
(1)我が国市場が国際的により開放的なものとなること
(2)消費者の利益が一層確保されること
(3)公正な競争が行なわれること
をねらいとしているものである。
この結果は、アパレル業界にも大きな影響を与えるものと見られた。すなわち、委託取引ないしは販売員派遣を特徴とするアパレル業界の取引の構図が大きく変ろうとしていると考えられる。
その意味で、このガイドラインは、アパレルメーカーにも重大な問題提起をしている。そこで、業界の取引慣行の実態とガイドラインに対する業界の意見に関する調査に基づいて今後の方向について考察したい。
主な項目
・取引の現状について
・委託取引並びに返品に関する業界意識
・百貨店に対する販売員派遣の現状
・販売員派遣に対する意見・評価
・業界の問題意識を探る5つの視点
・業界企業の5つのタイプ
現代女性の憧れ像
ファッションジャーナリスト 川本 恵子
こんなことは長続きするはずがない。そんなふうに誰もが思いながら、“消費熱”に浮かされたのが、88年から90年にかけての「バブルの時代」だった。
長続きするわけがない。と、誰もが感じていたからこそ、その熱の冷め方も急激であるし、クールだ。こんなことがエスカレートしたらたまらない、と皆が思っていたからこそ、過剰な物欲を簡単に捨てることができた。
とはいえ、こういった気前のいい消費者を対象にしたファッション界は、現在たいへんな苦戦をしいられている。
つい一年ほど前まで「シャネル」や「アルマーニ」など高級デザイナー・ブランドの名前が氾濫し、リッチな海外リゾートを毎号特集していた女性誌をみても、そんな様変わりの世相が実感できる。
“祖母や母から受け継いだ宝石をリフォームする”、“シンプルな白いシャツの着こなし”、“浴衣を着て夏祭りヘ”と、分相応な消費や身近な伝統の見直しが今のテーマになっている。
着飾ってオシャレなレストランヘ、というアフターファイブの過ごし方も、自宅に帰ってくつろいで、食事をする人が断然多くなった。この1年で売り上げを のばした品目の代表が、家庭料理の基本ともいえる「米、味噌、醤油」という。自宅でのくつろぎの時間を演出する「花」に対する関心は高まる一方だ。
ただし、こんなつつましい生活に、不況だからとか不景気だからという悲壮感は全くない。むしろ、やっと見栄の張り合い的バブル消費から解放され“ホッとした”というのが消費者の本音だろう。
プライス志向マーケットの今日的意味
山村研究室 プランナー 山村 貴敬
近年、消費景気の不況感も手伝って、業界ならびにジャーナリズムの間で、プライスについて論議されることが多くなった。
メンズ・ロードサイドショップの好調、あるいは昨年話題になった39コート、更には「普通の百貨店」池袋東武のオープンなど、プライスをテーマにした事例には事欠かない。
しかし、翻ってこのプライス問題を再考してみると、決してロープライスという切り口だけが消費者の支持を得るとも思えない。というのも、60年代後半より20年に及ぶファッション化社会を体験してきた消費者が、例えバブル経済が消滅したからといって、単なるロープライス商品に満足を得るはずもない。
ファッションとは、生活者のライフスタイル創造のエネルギーであり、生活に夢と潤いを与える行為である。そして、そのようなファッション行為をフツーの消費者が体現できるようになったのが、日本の消費社会であるとすれば、このプライス問題もその前提にたって論議する必要がある。
本稿では、不況感の漂う今こそ、トレンディといった情報消費を乗り越えて、消費者自らのスタイルを創造することが可能な時期にきたことを認識し、今風のプライスコンシャスを検証する。
変貌する流通 価格志向が小売業を変える
繊研新聞社 記者 神原 勉
日本の流通形態そのものが大きく変わろうとしています。90年代の中盤に差しかかりその変化のスピードはさらに高まってきました。東海地区でも21世紀を予感させるような変化が始まっています。
21世紀に向けての小売業を考える時、もっとも重要な要素は価格です。価格に対しての考え方がしっかりしている企業が小売業を制覇するといっても言い過ぎではありません。
ここでいう流通形態の変化も価格に対しての切り口、考え方を軸に巻き起こっているのです。
キーワードはアウトレット
90年代の小売業のキーワードのひとつはアウトレットです。アウトレットはこの価格問題に非常に密接した業態です。今はまだ日本にその典型的なショップは少ないのですが、アウトレットは消費者の価格意識を根底から覆す可能性さえあります。
同時に、この業態が力をもてば日本の流通構造を変革させるものにもなります。アウトレットの本格的な日本の第1号が、10月名古屋港にオープンしました。
アメリカで、大流行の業態、「アウトレット」が日本にも紹介され、最近、業界のニュースでもしばしば登場するようになりました。
しかし、ことばだけが先行したという感は否めません、「これがアウトレットなんだ」というモデルになるようなショップが日本にはなかったからです。
実際、業界では混乱しています。単なるディスカウンターが“イメージが良さそうだから”という理由でアウトレットと称していたり、アメリカのアウトレットストアからの輸入品を売る店であったり、アウトレットが本来の意味では使われていません。
ディスカウンターやオフ・プライス・ストアと、アウトレットストアがどう違うのか、議論の別れるところでしょう。アウトレットは本来ファクトリー・アウトレットでした。工場が自社で作った商品を、何らかの理由で納入できない。そんな商品がファクトリー・アウトレットストアで売られていたのです。
アウトレットを辞書で引くと、「はけ口」という意味があります。生産過剰の今日、川上から川下まで流通の各段階で多すぎる商品のはけ口が必要です。
従って、工場だけでなく、商社や卸、小売業からの商品で構成していてもアウトレットと呼べるでしょう。
テキスタイル産業の人材育成戦略
--テキスタイル・ディレクター論の提唱--
繊維工学部の衰退(宝塚造形芸術大学 教授(経済学博士) 菅原 正博)
これまでテキスタイル産業の重要なエンジニアを供給してきた「繊維工学部」が完全に衰退しつつある。
1970年代に始まったオイルショック以来、繊維産業は大幅な生産設備の縮小に見舞われ、世の中から「斜陽産業」というレッテルをはられてしまった。
「これから世の中に巣立っていく若い学生を斜陽産業向けに教育するわけにはいかない」という学校教育機関の判断で、それ以来、繊維関連の学科や科目を大幅に削減されてきた。そのもっとも大きな被害を受けたのが「繊維工学部」である。
現在、「繊維工学部」が存在しているのは、京都工芸繊維大学と信州大学だけであるといわれているが、この両大学でもその学部内のカリキュラムを見ると、繊維工学関連の科目も少なく、何よりも繊維工学を専攻する学生が大幅に減少している。
このように科目数が減り学生数が減ると、当然、繊維工学関連の教授も減り、将来、その教授のもとで繊維工学関連の研究者になりたいと希望する大学院生の受け皿もなくなってくる。
確かに、日本だけではなく、欧米でも繊維産業は斜陽化して、繊維工学部も停滞しつつあるが、日本のようにわずか20年たらずで、これほどまでに衰退している国はない。
欧米では繊維工学部がまだそれなりに役割を果たしつつある。
確かに日本の繊維産業は1970年代は輸出依存型の規模の利益だけを追求した量的拡大に対する修正時期でもあり、繊維工業の質的高度化を図る時期でもあった。
したがって、繊維工学部の新しい役割が期待されたはずであるのに、「斜陽化」の名のもとに、大幅な削減の対象にされたことが今日の「繊維工学部」の衰退へとつながっている。
まさに、繊維工学部は完全に生態系が破壊され、近い将来、わが国の工学部の中から絶滅する危険性にさらされている。いいかえれば、人材を自己再生産する力を失っていることになる。
はたして、このような状態で、日本の繊維産業はそのエンジニアリング的基盤をどこまで維持することができるか、である。
93年は本場活性化めざす新創業の時代へ
不況トンネルの先を読むDCからNBメーカー脱皮
--水面下で進む本格開発--
繊研新聞社 東京編集部 総合アパレルグループキャップ 山崎 光弘
繊研新聞社は93年の年間テーマを「新創業の時代へ、市場の活性化をめざして」と決め、新年号を始めとしてファッション産業全体へのキャンペーンをおこなう。
世界同時不況が進行し、欧米に比べて楽観視されていた日本市場にも、消費不振といった“売れない時代”が久方ぶりに到来した。
93年をどう乗り切り、激動の中でファッションビジネスは何を変えようとしているのか、東京のアパレルメーカを中心に追ってみた。
主な項目
・新創業のテーマ背景
ケース1:ファイブ・フォックスの絆販売
ケース2:大手アパレルの試み
ケース3:94年開発も水面下で
整経準備作業の自動化
---クリール立て作業の自動化システムの開発---
愛知県尾張繊維技術センター 加藤 淳二、河村 博司
はじめに
多品種・小ロットの先染毛織物を効率よく生産するためには、手間のかかる経糸準備作業がネックの一つになっている。中でも、多種類の色糸を所定の長さに何百個も小割し、これらを柄順に整経クリールスタンドに立てる作業には、多くの人手と時間がかかる。
このため、多種少量・短納期化や労働力不足に直面する毛織物業界では、この作業の自動化や省力化を望んでいる。
現在、整経クリールスタンドヘのコーン立て装置については、後染でロットが非常に大きい綿・合化繊業界向けには、繊維機械メーカーにより大ロット用の装置が実用化されている。
しかし、ロットが数反程度と非常に小さい先染の毛織物業界向けの実用機は、これまでには見あたらない。先染毛織物向きには、ロットの問題に加え、後染と違い、色糸順にコーンを立てるという制約があるなど、課題が多いが、業界のニーズは強い。
そこで、先染毛織物用に、小割作業からクリール立て作業までの整経準備作業を自動化して、省力化を図るシステムに関する研究を行った。また、導入の際を考慮し、できるだけ安価なシステムとなるよう努めた。
羊毛/ポリエステル混紡品の高温染色について
愛知県尾張繊維技術センター 浅井 弘義
羊毛/ポリエステル混紡品をキャリヤを用いない染色法について検討した。その結果、次のことが解明できた。
(1)羊毛は温度(100~130℃)が高くなるにつれて損傷する。110℃を越えると急激に強度が低下し、黄変指数、アルカリ溶解度、UB溶解度、収縮率は増加する。損傷は羊毛の等電点付近で最小になる。
ハイグラルエクスパンションはキャリヤ染色より増加するが、その程度は小さい。
(2)羊毛/ポリエステル混紡品を高温で染色するには羊毛保護剤が必要である。市販の羊毛保護剤、ホルマリンのほか、綿加工用のメチロール系尿素樹脂が保護剤として活用でき、染色シワの防止効果も期待できる。
(3)染色後のヘキサメチレンテトラミン処理は、羊毛の損傷を回復する効果がある。
(4)分散染料による羊毛の汚染は、温度・pHが高く、浴比が小さくなるにつれて大きくなる。汚染防止剤として、酢酸・酢酸ナトリウムに代えて、フタル酸水素カリウム・酢酸やクエン酸を用いると、ポリエステルへの染着性が増し、羊毛汚染が低下する。
(5)羊毛用反応染料・羊毛保護剤、汚染防止剤を用いることにより、温度120℃、pH4.5において30~60分の染色が可能となる。この結果分散染料の選択範囲の拡大、染料吸尽率の向上が図れ、キャリヤによる環境汚染がなくなる。
(6)高温染色布は、キャリヤ染色に比べて染色堅牢度が向上する。
羊毛/ポリエステル混紡品は優れた美観と機能性から、ファッション素材として今後ますます拡大される素材と言える。当産地においても、その使用は多く、染色工場の主要な品種となっている。
羊毛/ポリエステル混紡品の染色は、羊毛の損傷が少ない100~105℃の温度範囲内で染色する。この温度はポリエステルを染色するには十分でないため、ポリエステルヘの分散染料の染着性を高めるためにキャリヤが用いられる。キャリヤはポリエステルを膨潤し、分散染料の染着性を向上させる。
使用されるキャリヤの成分はトリクロルベンゼン、O-及びP-フェニルフェノール、メチルナフタレンなどの揮発性の高い溶剤である。このため、キャリヤは作業環境を汚染したり、染色排水中のCOD成分を高くする等の問題がある。
最近は染色工場の労働環境は3K産業といわれ、昨今の後継者難、若年労働者難、人手不足対策としての工場内の環境改善が求められている。
キャリヤは水に溶解しないため、乳化剤でエマルジョンとして染色に利用する。このため、液流染色機等の激しい機械的作用や染浴の条件によって分離し、キャリヤスポット等の染色ムラや製品の残留キャリヤによる異臭の発生などの品質上の問題を起こす。
また、使用できる分散染料が限定され、高い染色堅牢度が得られにくい等の問題がある。
そこで、羊毛/ポリエステル混紡品をキャリヤを使用しない染色方法を、織物の後染を対象に検討したので、ここに報告する。
細番手糸の疲労特性
愛知県尾張繊維技術センター 藤田 和孝、井上 正義
梳毛糸を中心とした細番手糸の製織性を、織機で織る前に把握するために、実際に製織する時に近い条件に設定できる簡易製織性試験機を製作した。
この試験機を使用して経糸の繰返し疲労試験を行うことで、経糸が織機の綾棒から織前まで移動する間に受ける開口による繰返し摩擦回数(「製織基準値」とする。)を製織性の一応の評価基準として、経糸の製織性判断が可能となった。
この試験機で繰返し疲労試験をした糸の疲労特性は、実用織機によって製織した糸の疲労結果とほぼ同一であることが確認でき、又細番手糸の製織性については、繰返し疲労試験前後の強伸度曲線の傾きの変化及び繰返し疲労試験後の最低強度・最低伸度の値をもとに解明することができた。
消費者指向の高級化、多様化に伴い、薄地織物を始めとする製品の軽量化などが求められている。しかし、細番手糸の製織時には経糸切れが発生しやすいなどの問題点がある。
このため、実際の製織時に経糸が受ける疲労に近い条件に設定できる簡易製織性試験機を使用し、あらかじめ、製織時に経糸がうける疲労特性を把握することにより、薄地織物の製織技術の向上を図ることが必要である。
試験では、細番手糸に、紡績方法の異なる梳毛糸を中心とした1/40の糸を使った。
また、各種細番手糸の製織性の評価には、既設の簡易製織性試験機を使い、開口による経糸の伸び及び経糸張力変化、経糸どうしの摩擦による毛羽発生、筬運動による毛羽発生、それに打込数、織機回転数などを実用織機の製織条件となるように改良した。
この試験機を使って細番手糸を繰返し疲労させ、糸が切断するまでの疲労回数、糸切れ状況、糸の疲労度合いなどを試験すると共に実用織機による疲労特性との整合性を調べ、細番手糸の構造特性からもたらされる糸の物性及び繰返し疲労特性と製織性の関係について検討した。
紡績糸に対するセラミックス付与加工技術
愛知県尾張繊維技術センター 佐藤 久
羊毛を膨潤させセラミックス超微粒子を梳毛糸に付与する加工法を検討した。この結果この加工法には膨潤剤に蟻酸80%溶液が、セラミックスにジルコニアが適することが分かった。
そこで、ジルコニア超微粒子を分散させた蟻酸溶液で梳毛糸を処理して、樹脂を使用しなくても洗濯に対し耐久性があり、以下の特徴を持った夏向きセラミックス加工梳毛糸が得られた。
1)未加工の梳毛糸に比べ消臭性が約50%向上した。
2)強力など糸物性の低下も少ない。
愛知県尾張地域は全国有数の毛織物産地であるが、その生産の主体は秋冬物に偏っている。このため、年間生産の平準化、さらには毛織物の用途拡大のため夏向け素材への対応が期待されている。
一方、セラミックスには気体、液体の吸着・吸収、紫外線反射特性に優れており、これらは夏用衣料として必要な性能である。
そこで、平成2年度に愛知県常滑窯業技術センターとの融合化研究により、常滑窯業技術センターで開発した気体や液体の吸収性や紫外線反射性能などに優れたセラミックスの微粉体やセラミックス超微粒子を毛織物に付与して、消臭性、紫外線遮蔽性、吸汗性などの機能性に優れた夏用毛織物を開発した。
この中で、粒径が1μ前後のセラミックス微粉体の付与加工では、毛織物をプラズマ処理して接着用樹脂の低減化に成功した。
さらに、平均粒径が0.01μ以下のセラミックス超微粒子については、接着用樹脂を使わなくてもドライクリーニングに対する耐久性のある毛織物が得られることを確認したが、洗剤を用いた洗濯に対する耐久性に課題を残した。
そこで、本研究では昨年の研究を発展させ、消臭性、紫外線遮蔽性の夏向き機能性に優れたセラミックス超微粒子を見いだすと共に、セラミックス超微粒子を糸段階で羊毛繊維に付与して、洗濯に対しても耐久性のある夏向きセラミックス梳毛糸の開発を図った。
紳士服の形くずれ防止技術
愛知県尾張繊維技術センター 板津 敏彦
80年代後半からはじまった紳士服のファッション化に伴い、デザイン、シルエットの変化とともに、素材も軽量化、ソフト化してきた。
すなわち、春夏向紳士服地では従未、目付170~200グラム/平方メートル、使用糸番手2/48~2/60の布地が主流を占めていたのに対し、現在では目付130~160グラム/平方メートル、番手2/80~2/120のものが現れてきた。
糸の紡績法も精紡交撚法(精紡しながら篠と篠、または篠とフィラメント等を撚糸していく方法、サイロフィルはウール90%以上の高率混のものが普及し、比較的軽いセットにとどめたソフトな仕上加工とあわせて、軽く、薄く、ソフトな布地が製造されるようになった。
このような布地は、縫製及び消費性能面で問題となっている。細番手使いの薄地であるために、引張強度や耐摩耗性が問題となるとともに、ハリ・コシが小さく縫糸、芯地などの影響を受けやすく、吸湿による布地の伸びによる形くずれが発生しやすいことである。
縫製され、スチームプレスによってきれいに仕上げされた製品が、店頭または着用時に部分的に波立ったり、湾曲したりして外観が損なわれるのは、外気や人体の水分を吸収して徐々に寸法変化することが原因である。最近の布地は特にこの傾向が顕著となっている。
しかし、消費者の手にわたった後のトラブルが防止できない布地は別にして、より縫製難度の高い布地への対応策を見いだすことで、製品の多様化・高級化、従来素材製品のより一層の高品質化が実現できる。
このような観点から、ここでは春夏向紳士服地の縫製工程中での伸縮挙動からどのような規格の布地に注意すべきかを調べ、それらの布地に対応できる縫製技術を明かにするため、芯地接着プレス工程、中間・仕上プレス工程での布地の伸縮挙動を解析した。
その結果にもとづき、モデル工場での実用化についても検討した。
次世代ウールの開発に関する研究
-天然高分子による形状記憶糸の開発-
愛知県尾張繊維技術センター 北野 道雄、橋本 貴史、山本 周治、坂川 登
最近、機能性の向上を目的とした加工が、各種素材に対して盛んに試みられている。そこで、形状記憶性を有する中繊度ウール糸を開発するため、天然高分子を用いる方法について研究し、あわせて付与加工した糸の性能を評価した。
天然高分子には、各種動植物蛋白質、羊毛や絹の溶解蛋白質、コラーゲン、天然多糖類等と酸や酵素によるこれらの加水分解物を用いた。
天然高分子を付与した羊毛糸の性能は、伸長復元率、引張試験機を用いた伸長弾性率、伸長応力、伸長エネルギー等の測定値により比較した。また、編地を編成して、KESによる圧縮特性も調べた。
この結果、形状記憶能が向上する天然高分子類の存在が明らかになった。さらに、金属ラベルによる化学修飾法により、羊毛内部への天然高分子の浸透状態について、原子吸光分析やESCA等の手法を用いて詳細に調べたところ、羊毛内部への浸透を確認した。
現在、各方面において機能性なる言葉が頻繁に用いられている。これは、例えば食品関係では、新しい蛋白質やペプチドの利用として機能性食品類がある。
繊維関係では機能性繊維や機能性色素として、日常生活にもなじみ深いものである。
一方、高分子素材が発現する機能は多種多様であるが、生体系に注目すれば、天然高分子の機能が最近では多方面で見直されている。生体高分子は、それぞれ機能を持ち、その機能は非常に多岐にわたっているが、そのひとつに羊毛に付与することによって、形状記憶機能を発揮する天然高分があげられる。
ここでは、蛋白質を中心とする各種天然高分子とこれらを出発原料とした加水分解物を羊毛に付与して、羊毛に優れたセット性やかさ高性など、高機能を持った次世代ウールを開発する研究を行った。
先染織物の画像処理検反技術
愛知県尾張繊維技術センター 安藤 正好、伊藤 通敏
コンピュータ画像処理技術を応用して、先染織物のストライプ・格子柄について柄の規則性に着目し、欠陥を抽出するため次のような画像処理手法の検討を行った。
1)ストライプ・格子柄の柄情報を抽出する色度分布・三次元閾値処理などのカラー画像処理及び柄の規則性を抽出する周辺分布・周波数解析処理などを開発した。
2)柄情報を精度よく抽出するための入力条件・精度・処理速度などを明らかにした。
繊維製品製造工程における自動化・省力化に関する技術開発の要望は、多種・少ロット・短サイクル生産、さらには経験者の高齢化・労働力不足など生産現場の抱えている課題が多い中で特に大きい。
なかでも、製品の検査工程は、そのほとんどが目視で行われている。これは、作業者への負担を大きくし、製品の品質向上・均質化を図る上からも自動化・省力化が強く望まれている所以でもある。
さて、織物検査(検反)工程の省力化・自動化への取り組みには次の2つの方向がある。
第1は検反情報の収集管理システム、第2は自動検反システムの開発である。前者は、作業員が目視で行う検反の情報をコンピュータに入力し、この情報を生産ラインヘフィードバックしたり生産の進捗管埋などに活用するもので、実用システムが報告されている。
後者の自動検反システムは、カメラなどのセンサー情報をコンピュータが解析し欠陥の有無を自動判定するものである。
このシステムに関する研究は、自動縫製システム(通産省工業技術院大型プロジェクト)の要素技術として「自動検反技術」に関する研究などが行われており、無地織物の穴傷の欠陥に限定はしているが実用システムの報告もあるが、汎用的な実用システムの例はみられない。
このような状況の中で、本報では先染織物の代表的な柄であるストライプ・格子柄織物の検反をコンピュータ画像処理技術を応用して、規則的な柄の周期特性に着目し、欠陥を検査する手法の検討を行った。
衣服機能性の評価技術に関する研究
--布の水分移動評価技術に関する研究--
愛知県尾張繊維技術センター 藤田 浩文
衣服の着心地で、むれる~むれない、じめじめした~からっとした、暑くるしい~さわやかな、しっとりした~さらっとしたなどで表現される湿潤感と、暖かい~寒いなどで表現される温冷感は、衣服内気候と関係が深い。
この衣服内気候は、衣服と皮膚との間の微少な空間の温湿度条件に大きく依存することがよく知られ、快適と感じるのは温度が32±1℃、湿度が50±10%RHの範囲であると言われている。
要するに衣服内の湿度が急に高くなるとむれ感を感じ、温湿度がともに高くなると暑熱感が大きく、温度が低下すると冷え感を感じるのである。
そして衣服内気候は、発熱、発汗体である人体の条件と、衣服の熱透過性、吸湿性、透湿性、通気性などのバランスによって決まるものであり、この研究にはまず各衣服素材の熱伝導性や吸湿性、透湿性などの基本的な性質を十分把握することが必要である。
これまで様々な条件下における衣服内気候の測定が各方面で行われている。保温性については、古くから多くの研究がなされている。
これに対し布の吸湿性や透湿性については、まだ十分な研究がされていない。現状では水蒸気の状態での布の透湿性の評価方法として、JISのウォーター法と塩化カルシウム法で代表される水蒸気の蒸発透過と吸収透過の2形式で調べられることが多い。
これに対して比較的短時間でこれらの値を評価する方式として近年進歩の著しい湿度センサーの利用による湿度濃度勾配法、R-tube法がある。
いずれの方法においてもFickの法則が成立すれば水蒸気の透過速度を支配するのはその水蒸気濃度である。
ここで水蒸気濃度の恒常性が確保されていないと現在の湿度センサーの精度、感度、時定数からして、その評価が難しくなる。この水蒸気濃度勾配は対流などの空気流により大きく影響される。
特に濃度勾配の値の大きい蒸発形式の測定では影響される。従ってウォーター法を用いて蒸発速度を評価する際には、布試料の下面及び上面における水蒸気濃度勾配恒常性に細心の注意を払う必要があり最近色々研究されている。
布の透湿性において構成繊維による水蒸気拡散と貫通空隙孔を通した拡散とにその寄与が分けられて考えられており、これまでに多くの研究がなされている。しかしこれらの研究では、衣服の着用時における快適性の評価を目的としたものが多く、またその測定方法も定常状態における透湿性を評価したものまたは衣服内気候と称する衣服内部での湿度の変化を測定したものが大半を占め、透湿の機構を解明することを目的としたもの、特に透湿の過渡現象について測定したものについてはほとんどない。
この測定を可能にするためには水蒸気濃度勾配を少なくし、試料上の静止空気層を取り除く必要がある。この困難さを解決するために色々検討されているが、試料上の高湿度側の間隙をできるだけ小さくし、試料上の静止空気層をできる限り取り除くために一定流量の空気を循環させて測定する試験機を考えた。
そこで本研究では、この方法に改良を加え透湿が定常状態に至るまでの過渡状態の透湿性を精度よく短時間に測定できる試験機を開発した。
そして繊維原料及び布構造などが透湿性に及ぼす影響を明かにし、むれ感のない快適な織物の設計に役立てることを目的に研究を行った。
毛織物の設計手法の高度化
--毛織物設計支援工キスパートシステムについて--
愛知県尾張繊維技術センター 柴田 善孝、古田 正明
毛織物業界では消費者ニーズの多様化に即応した製品の企画が求められているが、織物設計の熟練者の高齢化が進み、この熟練者への対応が迫られている。
このことから、毛織物設計における熟練者の高齢化をカバーし、経験の浅い設計担当者でも簡単に毛織物設計ができるようなエキスパートシステムの開発が望まれている。
昨年度は毛織物の設計支援エキスパートシステムの構築における考え方、方法について検討してきたが、本年はこれを実現するための第一ステップとして、過去の織物のデータファイルの中から、目的とする織物イメージに近似した織物のデータを基に、手入力によって規格データを修正し、織物設計書をCRTディスプレイに表示するプログラムを作成した。
毛織物業界は、多様化する消費者からの要求に即応した商品企画に対応するため、今後ますます感性と技術的な知識を結集した新製品の開発に努めなければならない。
このため、各企業とも設計部門は一層の強化充実が図られ、企業イメージを変えて若年労働者が働きやすい環境作りに努力している企業もみられるが、熟練者の高齢化はどの企業にとっても悩みの種である。
毛織物を企画設計する場合、熟練者は過去の経験を基に素材から最終製品にいたるまでの幅広い知識が必要で、これらの知識をいろいろな角度から活用して新しい製品のイメージを抱き、実際の織物設計に応用されている。
しかし、未熟練者はこれらの知識がなく、熟練者の高齢化によってこれら未熟練者の育成もままならぬのが現状である。
このため、経験の浅い未熟練者でも容易に毛織物設計ができる支援エキスパートシステムの開発が望まれている。
熟練者が長年の経験によって培われてきた知識とは、1.原料・素材に関する知識、2.糸加工に関する知識、3.製織に関する知識、4.染色に関する知識、5.縫製に関する知識、6.その他(消費科学的知識、生産コスト等)や、過去の織物データの蓄積である。
熟練した設計担当者はこれらの知識を全て論理的・有機的に結び付けて設計するものではないが、あるものは潜在的な知識として機能し織物の設計作業を支援しているものと考えることができる。
そこで、このような熟練者が持っているさまざまな知識を収集・整理して織物の設計作業を支援する知識ベースをAI構築ツールを用いて作成する手法について検討を行った。
羊毛屑の染色排水中の染料除去剤としての再生利用技術
愛知県尾張繊維技術センター 荒井 清
染色排水を脱色するため、羊毛をアミンで溶解加工し、金属塩と共に排水中に添加して染料を凝集沈澱させた。アミンとしてはメチルアミン及びジメチルアミンが、金属塩としては塩化亜塩及び硫酸第一鉄が有効である。
この方法で最高、約0.1%の濃度の染色排水が脱色できる。
ミリング染料、含金染料、直接染料、トリアジン型反応染料、分散染料は脱色しやすく、レベリング染料、ビニルスルフォン型反応染料、カチオン染料は脱色しにくい。
資源の再利用はますます重要になっており羊毛についてもこれは例外でない。
一方、公共用水域への工場排水については色の規制はなかったが、平成3年10月に和歌山市で着色度を規制する条例が制定されるといった例に見られるように、色規制への動きが出てきた。
染色排水の処理方法には生物処理、凝集分離、ろ過、オゾン酸化、活性炭吸着、電解浮上などがあるが、効果が不十分であったり、費用がかかりすぎたりして適当な方法がない。
昨年、はじめのうちは電気分解等を中心とした処理装置が数種類発表されたが、その後染色排水用の凝集剤が相次いで3種あまり発表されたことが、この事を如実に表わしている。
そこで、当尾張地方の地場産業である毛織物に関連した羊毛の廃棄物を染色排水の脱色剤として再利用することを研究した。
羊毛を染料の吸着剤として使用する方法には、羊毛をアニオン化、カチオン化などを行って染料の吸着能力を高める方法、溶解して用いる方法、溶解した羊毛蛋白を分類し、吸着特性を選択して使用する方法などがある。
羊毛を溶解する方法としては尿素-メルカプトエタノールを用いる方法があるが、本研究ではアミンを用いて羊毛加工液を作り、これと金属塩で凝集沈澱を行った。アミンは羊毛を溶解すると共に、これに付加し、染料吸着能を増加させる。
アパレルデザインにおけるパーツの三次元表現手法
愛知県尾張繊維技術センター 森 彬子
3次元コンピュータ・グラフィックスを用いて、衿と袖の立体形状をシミュレーションする手法について研究した。
(1)衿と袖の立体形状を3次元座標値としてデジタル化するため、衿と袖の型紙から立体の計測モデルを作成し、それらを3次元座標測定機で計測した。
その結果、被服パーツの立体形状を3次元座標値に数値化でき、ワイヤーフレーム法を適用したパーツの立体画像の生成及びシミュレーションヘの展開を容易にした。
(2)衿及び袖の3次元画像に織物の外観属性を付与する手法の研究を行った。ワイヤーフレーム法で表示した立体画像に織物の外観属性をシェーディング及びマッピングすることができ、パーツの立体的なデザイン効果を画面でシミュレーションし評価できるようにした。
3次元CGを製品設計のデザイン評価に適用する上での重要な課題は、対象物のモデルを映像化することである。一般に家電製品・自動車等のデザイン評価は、3次元映像で行われている。
これに対して、アパレルデザインに3次元CGを適用した例は少ない。適用が阻まれている主な理由は、対象物が柔軟な布でできているため立体形状が捕らえにくいことと、対象物の形状が複雑であるため、3次元画像でモデルを作成するのに多大な労力を要することによるものである。
アパレルデザインへの3次元CG適用については、対象物の立体形状をどのようにして正確に数値で把握し、その結果をどう表現するかが課題である。
それらの過程の基礎技術のひとつとして、この研究では被服のパーツの形状を正確に3次元CGで表現するために、計測モデルを作成してその測定値から3次元画像を表現する方法をとった。
衣服の快適性とストレッチ素材
愛知県尾張繊維技術センター 河村 博司
衣服の機能性要求も、人々の健康への関心度向上のため、スポーツ衣料はもとより普通の衣服にも広まってきている。
衣服の機能性としては、着用時の動きの拘束性と衣服の開口部や布の熱、水分、空気の透過特性に大別され、着用時の快適性に大きな影響を持っている。
これらの機能のうちの動きの拘束性等に大きく影響するストレッチ性に着目し、布素材である糸に付与する技術について、ウールを中心に、関心の高かった頃を振り返り、さらには、最近の技術を特許の中から紹介する。
人の動きとストレッチ性
人が動くとき、皮膚に傷などのある場合を除いて、皮膚の存在を意識することは非常に少ない。
これは人の動きと皮膚の伸縮とが同じであるためである。様々な人の動きに伴う皮膚の伸縮率が、計測されていて、その一部が紹介されている。
これらによると、
・立った状態で腰を曲げた場合、背中から腰付近で、21%
・椅子に座った場合30%、屈んだ場合50%
・膝を曲げる場合、たて方向35~40%、よこ方向12~14%
・肘を曲げる場合、肘の外側でたて方向35~45%、よこ方向15~22%
で、皮膚の最大伸び率は垂直方向で50%、水平方向で30~40%。
また、人間が衣服により緊縛感を感じる伸長の抵抗力は部位によって差があるが、平均的には1.8kg/5cm幅程度となる。
したがって布のストレッチ性は、この応力のもとの伸長率(ストレッチ率)が目安となるとしている。
一方、用途によって織物のたて及びよこの伸び率は、表1のように設定して使われている(表1)。
表1 ストレッチファブリックの用途別伸び率
分 類 | 用 途 | 伸び率(%) |
---|---|---|
comfort | シャツ・ブラウス 作業衣・ユニフォーム スラックス・ジャケット スーツ(紳士・婦人) |
10~15(よこ) 10~15(よこ) 15~20(たてよこ) 10~25(よこ) |
performance | スポーツジャケット・トレーニングウエア プレイウエア(ディスコパンツ) 婦人子供スラックス |
20~30(たてよこ) 25~40(たてよこ) 20~30(たてよこ) |
power | 競技用スポーツウエア スキーウエア レオタード ファウンデーション |
50~200(たてよこ) 40~60(たて) 50~200(たてよこ) 50~150(たてよこ) |
(注)
●comfort:日常生活におけるカジュアルウエア、作業衣などに快適なストレッチ性を示す。10~20%の伸び率
●performance:特殊スポーツウエアなどのための機能的な伸縮性を示す
●power:特殊スポーツウエア等のための大きな伸び率、回復性を必要とする筋力性ウエアに向く。
植物繊維の形状
愛知県尾張繊維技術センター 坂川 登
前回の動物繊維にひきつづき、今回は、天然繊維の内、過去、試験研究のため、当センターに持ち込まれた植物繊維について、その側面と断面を電子顕微写真にした。
植物繊維は、植物細胞で構成されている天然繊維で、次のように分類される。
植物繊維 | 種子毛繊維 | 綿、カポック、パンヤ |
---|---|---|
靱皮繊維 | 亜麻、苧麻、大麻、黄麻 | |
葉脈繊維 | マニラ麻、サイザル麻 | |
果実繊維 | やし、ビンロウジュ | |
その他 | 稲わら、麦わら、い草 |
植物繊維の主要なものは、昔からよく知られている綿とアマ及びアサである。綿は、インドでは、 B.C.3000年、ペルーでは、B.C.2500年にすでに知られており、アマの使用はヨーロッパではスイスの湖の住居(B.C.2000年)にさかのぼり、アサはB.C.1500年に始っている。
衣料や紙などの原料となる天然繊維がとれる植物を総称して繊維植物という。利用される繊維が植物体内で存在する部位でみると、茎や枝の師管部(靱皮部)である場合が多くこれを靭皮繊維という。このほかに、道管部の木部繊維をはじめ、これらを一緒にした維管束そのものの木質繊維や、繊管束とその周囲にある機械(厚膜)組織などの硬質繊維から、茎の中心部にある髄なども利用される。さらには、ワタのように種子に生える毛(種子毛または種毛繊維)なども利用される。
繊維としては靭皮繊維が最も普通である。これは、両端のとがった長い繊維細胞でできていて、軟らかく強靱なものが多い。靱皮繊維のとれる主要な植物は、大麻、亜麻、黄麻等。種子毛繊維ではワタのほかパンヤ科、キョウチクトウ科、カガイモ科の種子毛なども使われる。
また、単子葉植物では、維管束とそれを取巻く組織を強靱な繊維として、紐、ロープ、帆布などに多く利用される、マニラ麻、ザイル麻、リュウゼツランなどの葉の繊維がそれであり、葉脈繊維という。
日本ではこのほかイグサ(畳表)、アンペライ(むしろ、ござ)、イネ(わら繩)などの葉や茎を利用している。