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テキスタイル&ファッション誌(メールマガジン)バックナンバー
テキスタイル&ファッション Vol.8 (1991)
Vol.8/No.1~12
(1991年4月号~1992年3月号)
1-ファッション情報 | No. | 月 | 頁 |
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'92春夏FDCテキスタイルトレンド展閉幕 | 1 | 4 | 1 |
メンズファッションの方向転換 (株)シルバーピラミット 代表取締役 渡辺 晶 | 2 | 5 | 66 |
エレガンス意識 (株)阪急百貨店婦人服 商品室 チーフコーディネーター(顧問)、 (株)TCカンパニー 代表取締役 十三千鶴 |
3 | 6 | 137 |
構造変革の時代に対応する企業革新 -アパレル業界におけるTQCの実態と経営課題- マーケティング・サイエンス研究所 土田貞夫 |
4 | 7 | 172 |
「世界の尾州」をめざし-今秋11月FATEX'91開催- | 5 | 8 | 205 |
婦人テキスタイルトレンドセミナー開く -フランス・パリで活躍中のサッシャ・パッシャ氏迎える- |
6 | 9 | 243 |
'92/'93秋冬FDCテキスタイルコレクションが閉幕 | 7 | 10 | 283 |
アパレルクライシス 転換期を迎えたアパレル産業 ファッションジャーナリスト 福永成明 |
8 | 11 | 333 |
'91 FATEX閉幕 | 9 | 12 | 387 |
変革期を攻める 繊研新聞社東京編集部 アパレル総合グループデスク 山崎光弘 | 10 | 1 | 444 |
90年代のファッションマーケティングの課題1 宝塚造形芸術大学 教授 菅原正博 |
11 | 2 | 505 |
春夏インポート メンズファブリックコレクション終る | 12 | 3 | 560 |
2-研究報告 | No. | 月 | 頁 |
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毛織物設計手法の高度化-毛織物設計支援ESについての一考察- | 1 | 4 | 7 |
バイオテクノロジーによる羊毛の改質に関する研究 -酵素による羊毛改質- |
2 | 5 | 70 |
製織性評価技術に関する研究 -簡易試験法による糸の製織性評価- |
3 | 6 | 140 |
メリノとカシミアの鑑別と混率 | 4 | 7 | 177 |
低温プラズマによる羊毛の改質技術に関する研究 -低温プラズマによる羊毛セラミックス加工- |
5 | 8 | 209 |
毛織物工場の生産ネットワーク化 | 6 | 9 | 246 |
セラミックスによる夏用複合機能性毛織物素材の開発 | 7 | 10 | 287 |
アパレルにおける多品種少量生産技術に関する研究 -縫製工程への接着剤の応用技術- |
8 | 11 | 336 |
コンピュータ制御による染色加工工程のFMS化技術に関する研究 小ロット染色に対応した染色 の自動化- |
9 | 12 | 391 |
織物設計への画像処理技術の応用(その2) | 10 | 1 | 453 |
クリール立て作業の自動化 | 11 | 2 | 509 |
製品の企画設計技術に関する研究-伝統染織物のモダン化- | 12 | 3 | 566 |
5-調査報告 | No. | 月 | 頁 |
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繊維産業のクイック・レスポンス生産に関する調査 | 9 | 12 | 411 |
最近の依頼試験、所内相談について | 12 | 3 | 601 |
8-技術情報の窓 | No. | 月 | 頁 |
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技術情報 | 1 | 4 | 662 |
技術情報 | 2 | 5 | 131 |
技術情報 | 3 | 6 | |
技術情報 | 4 | 7 | 201 |
技術情報 | 5 | 8 | 239 |
技術情報 | 6 | 9 | 279 |
技術情報 | 7 | 10 | 329 |
技術情報 | 8 | 11 | 383 |
技術情報 | 9 | 12 | 440 |
技術情報 | 10 | 1 | 496 |
技術情報 | 11 | 2 | 556 |
技術情報 | 12 | 3 | 626 |
9-その他(新設機器紹介) | No. | 月 | 頁 |
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新設機器紹介 | 2 | 5 | 97 |
年頭の辞 | 10 | 1 | 444 |
新春放談 | 11 | 2 | 500 |
メンズファッションの方向転換
-ヴィザンチン文化(イタリアファッション)からヴィクトリア文化(イギリスファッション)ヘ-
(株)シルバーピラミッド 代表取締役 渡辺 晶
メンズファッションの主流が大きく変わりつつある。デザイナーの創意工夫を尊重する傾向から、より伝統的なデザインヘの回帰。
さらに、具体的に述べるならば軽妙なイタリアン・デザインから保守的なブリティッシュ・トラディショナルへの方向転換である。
もちろんこの変化の背景には、世界的な価値観の変動が隠されている。
つまり、世紀末へ向けた時代のベクトルは、確実に基本的、本質的なものへと向かっている。
宗教ブーム、クラッシック音楽ブーム、バロック様式ブーム、ギリシャ・ローマン様式のブームしかりである。
そんな時代意識とファッションが無縁でいられるわけがないのである。とりわけメンズファッションの世界でトラディショナルなテイストが注目を集めているのは、そんな流れを象徴することといっていいだろう。
今は、世の中全体が保守化の傾向にある。
その中で男のファッションも一度は軽視された“社会性”が重視されるようになってきた。
これまで、きまざまな“型”で変化し続けてきたメンズウェアの進化が、ここにきて方向を変え権威や階級の誇示といった古典的な意味づけの方向にむかいつつある。
遊びの精神を持ち、官能的で精悍な肉体の魅力を十分に強調するウェアの代表としてソフトなイタリアン・ファッションが存在したとするならば、社会的地位や財産もあり、現代のエリートの代表的な、ウェアとしてアングロサクソン的規律正しいブリティッシュ・トラディショナル・ファッションが存在し、その方向へ流れてゆく。
しかし、イタリアン・テイストの退潮とブリティッシュの復権という同時代的な現象は単なる保守回帰、進みすぎた変革への反動なのだろうか?
もし徹底的に伝統に縛られたいなら、行き着く先は、サヴィル・ロウのような本物のティーラードの世界しかない。
昔も今も、社会の一部の層は流行とは無関係にそういう服を着てきたわけである。けれども多くの人達が望んでいるニューブリティッシュというのは、そうした特権的な領域とは少しずれざるをえない。
確かに硬直した価値観としてのブリティッシュやほこりまみれで身動きのできないトラッドの復権を望む人は、政治的な復古主義者と同様に少数派の人々であろう。
現代のトラッドは、過去の再現のように見えながら、やはり過去そのものではない。それは、よリフレキシブルなトラッド理念の構築を目指している。
構造変革の時代に対応する企業革新
-アパレル業界におけるTQCの実態と経営課題-
“21世紀の衣”を求めて…アパレルのクォリティとは何か(マーケティング・サイエンス研究所 土田 貞夫)
21世紀の“衣”とは何か、を考えるにあたって、まずアパレル業界に求められる“クォリティ”とは何か、を まず明らかにしなければならない。原材料の品質なのか、製品の品質は顧客の要求品質を満たしているか、セールスマンの資質はどうか、企業の経営の質とは何 か、体制は整っているか、課題は多い。
こうした課題に応えるべく、90年代のアパレルの“クォリティ”について総合的に業界のコンセンサスを引出し、90年代の業界の行方を改めて見直さなければならない。
以上のような問題意識のもとに、経営革新の手法、特に企業経営の管理手法としての全社的品質管理すなわちTQCは、90年代の新しい競争の時代を迎えて益々その重要性を増している。
厳しい経営環境の中で、21世紀の“衣”を目指して、アパレル企業が今後とも発展をつづけるためには、こうした手法による経営の革新が鍵となる要因として指摘される。
企業成長の条件
90年代の益々激化する市場競争と、企業間格差の拡大する経営環境での企業成長の条件としては
○企業文化、理念の確立、共通の価値観を持つこと
○人材育成による人間性尊重の経営実践
○市場志向の品質第一主義
○すぐれたリーダーシップ
○技術革新(自動化、情報化など)を推進すること
が挙げられる。
特に、経営理念の確立と人材育成が最重点条件として経営者に意識されていることが指摘される。単純な合理化や管理活動では、この厳しい時代に成長することが出来ないとみられていることが示唆される。
企業行動の目標
それでは、企業行動の目標としてどのようなことに重点がおかれているか。そのポイントは
○商品企画力、新製品開発力の充実
○社員の能力開発
○品質管理の強化
○総合的管理体制・方針管理の確立
○長期的利益の確保
であることが知られた。特に、具体的な行動目標として商品企画という実務的な要請と、その背景となるスキル開発が意識されている点が注目される。
アパレルクライシス
---転換期を迎えたアパレル産業
“21世紀の衣”を求めて…アパレルのクォリティとは何か(ファッションジャーナリスト 福永 成明)
ファッションは“社会の写し絵”だといわれるが、最近の状況をみていると、まさにこれを実感する。
バブル経済の崩壊は、これまで聖域といわれた金融界を揺さぶり、日本列島をバブルシンドロームで包み込んでいるが、ファッションビジネスの先陣を走り抜けてきたアパレル業界でも、バブル後遺症が露呈しはじめた。
ここ数年、わが国のアパレル産業では海外拠点を充実したり、有名ブランドを買収する動きが相次いでいる。また、生産や資本面での海外進出も年追うごとに増加している。しかし、国際市場での、“日本のアパレル製品”はどうかといえばグローバル化が叫ばれるのとは裏腹に一向に増える兆しがない。
「世界市場の中で、日本製アパレルがいつになったら影響力をもつようになるのだろう……」という疑問は筆者だけでなく、業界の中でも頭をもたげつつある。
一方、わが国のアパレル産業が抱えている問題は、単に国際性だけにとどまらない。卸売主導型で発展してきた日本のアパレル産業は、それがために工業的な分野が立ち遅れ、いまや良質な縫製・編立工場は逼迫状態にある。
さらに品質においても「アパレル商品の多くが何らかの欠陥をかかえている」という指摘が、品質管理の世界から投げかけられている。
21世紀への助走路といわれる1990年代は、バブル崩壊が象徴するように、さまざまな問題が露呈しはじめた。
アパレル産業は短時日で成長しただけに、急成長産業にありがちな“ストレス”を溜め込んでいる。そして、そのストレスが噴出しつつある、という状況は、まさに「アパレルクライシス(危機)」の徴侯といえる。
92年アパレル産業を展望する 変革期を攻める 本業重視・オリジナル発信など機構改革も相次ぐ
繊研新聞社 東京編集部 アパレル総合グループデスク 山崎 光弘
波乱の余韻を残しつつ、91年が明け、92年を迎えた。
バブル崩壊と騒がれ、調整あるいは下降局面に本格的に突入するのが今年、92年である。
激動の90年代に臨むファッションアパレル業界を展望してみた。
課題は6つ
繊研新聞社が今年、打ち出た川上、川中、川下にわたるファッション産業向けの統一テーマは“変革期を攻める”である。
比較的、順調に推移してきたアパレル産業が、変革期にはいり、ファッション産業全体が大きく揺れ動こうとしている。
DC(デザイナー、キャラクター)時代が終り、インポートブームも終息し、価格抵抗感の表面化、他方では高金利、株価低迷という形でバブルの“ツケ”が廻り、アパレル各社の業績は低下を余儀なくされる。
こうした中でアパレルメーカー本来の活力をどう再構築するのか、が問われる時代である。
本業の見直しを大前提に、専門性と総合力をどう発揮するのに全てがかかってくる。
アパレル産業がかかえる92年の課題は次の6点に集約できそう。
90年代のファッション・マーケティングの課題
宝塚造形芸術大学 教授 菅原 正博
ドメスティック(国内)市場志向の弱点
70年代から80年代にかけて日本のアパレル産業の成長を支えてきたレナウンがついに91年12月期決算で80数億円にのぼる大幅な営業赤字に転落することになった。
アパレル業界最大手のレナウンが赤字決算になるということは、レナウンだけの問題ではなく、わが国のアパレル産業自体が大きな変革期にさしかかっていることを意味する。
日本経済新聞編集委員は、このレナウンの不振の原因を構造的なもので「しみついた大企業病」を克服し体質を転換していくのは容易ではない、と指摘している。同氏はレナウンの赤字転落の引き金になった要因として次のような点を指摘している。
1)主販路である百貨店への派遣店員の人件費や販売経費の急上昇。
2)レナウンは単価の低い肌着やカジュアルウエアに依存しているため販売効率が悪い。
3)アクアスキュータム買収によるコスト上昇。
4)社員のサラリーマン化。
5)財テクによる営業外収益依存。
ここで指摘されている要因はレナウン企業内部の問題であるが、むしろ、もっと本質的な問題は、世界のファッション市場が同質化しアメリカ、ヨーロッパ、日本という三極市場が「トライアド市場化」しつつあるにもかかわらず、日本市場という「ドメスティック市場」志向したマス・マーケティングをいつまでも踏襲してきた点にある。
時に80年代の10年間に、レナウンのマス商品を購入する人がしだいに少なくなっていった。むしろ、80年代に急成長してきたのは、トライアド市場で認 められたDCブランド、インポート・ブランドであり、国内市場で70年代に急成長したアパレル・ブランドは完全に伸び悩んだ。
90年代に入ってその傾向がさらに加速化し、市場とのギャップがますます拡大し、結局、赤字転落に陥った。
毛繊物の設計手法の高度化
-毛織物設計支援ESについての一考察-
愛知県尾張繊維技術センター 古田 正明、柴田 善孝、小池 明
毛織物設計における熟練者不足をカバーし、経験の浅い設計担当者を支援できるようなエキスパートシステム(ES)の構築における考え方、方法について検討した。
その結果、コンピュータ等を利用して、新製品のイメージに類似した織物の検索、風合等を変更するための製造要因の指摘および留意事項の指摘などが可能であることが判明した。
毛織物業界は、消費者からのデザイン、風合、機能性など多方面にわたる高度な要求に応えるため、今後ますます感性と技術的な知識を結集して新製品の開発に努めなければならない。
このため、各企業とも新製品の設計部門は一層の強化充実を図りつつあるが、その主体がマンパワーに依存しているため、早急な充実が困難で、熟練者(エキスパート)の不足や質的低下を招いている。
そして、織物設計を行うには、素材から最終製品に至るまでの次のような幅広い知識が必要である。
ア.原料・素材の知識
イ.糸加工方法の知識
ウ.製織方法の知識
エ.染色・仕上加工方法の知織
オ.縫製加工方法の知識
カ.消費科学的知識
キ.デザイン・ファッショントレンドの知識
ク.その他、生産コストなど
熟練した設計担当者は以上のような種々の知識を基盤にして新製品のイメージを設計書に具体化していくわけであるが、内容の決定にあたっては、長年培ってきたヒット商品、試験データ、失敗製品、製造上のトラブル、クレーム等に関する豊富な経験的知識に依存するところが大きい。
しかも、上記の知識やノウハウの全てが必ずしも論理的、有機的に結び付いて作用するのではなく、あるものは潜在的な知識として支援しているものと考えられる。
このように、熟練した設計担当者が企画設計する上で必要とするさまざまな知識を収集・整理して知識ベース化し、活用できれば、織物設計の未経験者あるいは初心者にとって、熟練者と同等あるいはそれに近い企画・設計が可能となる。
そこで、織物の設計過程で経験の浅い設計担当者を支援できるようなコンピュータシステム、すなわち、要望にマッチする織物について、具体的な規格例や製造上の留意事項等をアドバイスしてくれるエキスパートシステム(ES)を構築するための考え方、方法について検討した。
バイオテクノロジーによる羊毛の改質に関する研究
--酵素による羊毛改質--
愛知県尾張繊維技術センター 北野 道雄、山本 周治、横山 繁
バイオテクノロジーを応用した繊維加工法には、数々の利点がある。しかし、バイオ利用反応系であるがゆえ、制約やデメリットについても議論されるようになった。
このため、平成元年度の研究をさらに検討して、酵素を利用した羊毛の改質における種々の問題点について明らかにした。
第1に、現在、酵素により羊毛改質を行う場合、分解反応のために1~2時間の処理を必要とし、これが染色加工の前あるいは後に必要となり、工程上の大きなタイムロスのネック部分とされている。このため、一浴で酵素処理と染色を同時に施す方法についての開発を試みた。
この結果、特殊な助剤を用いることにより、酵素処理と染色を羊毛糸やモヘア糸、毛/綿混紡糸等に対して一浴で同時に行う方法を完成させることができた。
そして、これらの糸を用いた試作編織物の風合いを調べたところ、従来法による酵素処理以上に優れた風合いが確認できた。
第2に、酵素処理による溶解成分について詳細に調べた結果、分子量分布については、6,500付近と1,450以下という予想外の小さなものであり、このピーク位置は酵素濃度及び処理時間を変えても変化が認められなかった。
さらに、全溶解成分中のアミノ酸量について調べたところ、3~12%を占めることが判明した。
第3に、酵素処理羊毛の持つ新しい機能について調べたところ、悪臭ガスに対する消臭性や金属吸着能が未処理羊毛と比較して優れていることが明らかになった。
バイオテクノロジーによる繊維加工では、省エネルギー、無公害、再生可能といった広い応用範囲を有している。しかし、羊毛の改質加工に応用する技術については今だその機構から最適加工法や条件に至るまで確立されていない現状であり、また、研究例は内外ともに非常に少ない。
このため、ここでは、昭和63年度~平成元年度の研究に対してさらに検討を加え、
(1)酵素処理と染色の一浴同時加工法、
(2)酵素処理における溶解成分の化学的性質の解析、
(3)酵素処理羊毛の消臭性や金属吸着能等の機能性評価
等を中心に研究したので報告する。
製織性評価技術に関する研究
--簡易試験法による糸の製織性評価--
愛知県尾張繊維技術センター 西村 美郎、瀧森 鉄生、小池 明
ウールを中心とした新素材の効率的な製織性評価のため、製織中の経糸挙動に近似した経糸疲労が与えることのできる、簡易な製織性試験機を開発し、製織性が既知の糸との関連において最適な試験方法を見いだした。
その結果、簡易製織性試験機を用い、糸に摩擦や繰り返し張力を与え、糸が切れるまでの切断摩擦回数を測定することにより製織性が評価できることがわかった。
例えば毛織機(回転数90回/分)の場合、テンション90g、糸巻取り速度4.5cm/分という試験条件で1000回以上摩擦しても切れない糸は製織可能であること等が明らかになった。
糸の製織性評価は、織れるか、織れないかの尺度である。糸を手にしたとき、糸の強伸度や抱合力等を測定して、経験と「カン」により、従来、糸の製織性を評価してきた。
しかし、この方法では、複雑な織物規格や、新しい紡績方法による従来とは異なった構造の糸や、高速革新織機の導入などで製織性の評価が困難になってきた。
このため、前報では紡績方法、撚数の異なる5種類の糸を使用し、織物規格、製織条件を変化させて、製織性と製織中の経糸物性の変化について検討した。
その結果、製織性と経糸の強伸度曲線の傾き変化との相関が明らかになり、糸物性は糸相互、そうこう、おさの影響を受けて変化していること等が明らかになった。
本研究ではこの結果を踏まえて、製織中の摩擦や繰り返し張力が糸に連続的に与えることのできる簡易な試験機を開発し、製織性が既知の糸との関連において、適正な試験方法を見いだすことにした。
メリノとカシミアの鑑別と混率
愛知県尾張繊維技術センター 大津 吉秋、坂川 登、鈴木 啓市
メリノとカシミアのスケールをコンピュータ画像解析し、数値化による客観的な鑑別法を検討した。また、繊度特性(平均繊度、繊度変動率、ヒストグラム)を用いた簡易な混率の算出法を検討した。
その結果、スケール面積、最大長、周囲長、スケール間隔、スケール厚のパラメータに鑑別の可能性が認められた。混率は、使用原料の平均繊度と繊度変動率が既知の場合に高い精度で推定できた。
メリノ羊毛とカシミア、モヘア、アルパカ等の獣毛繊維の化学的な性質は極めて類似しており、こうした動物繊維の混紡品を化学的に鑑別し混率を求める方法はいまだ確立されていない。
従って、現状の試験方法は顕微鏡を使い動物繊維の表面形態の微妙な違いを観察し、繊維を鑑別しながら繊度と構成本数を検査し求める方法が採られている。
そのため、その労力は多大であり混率の精度も検査員の鑑別能力によって左右される。このような試験法では、有色の試料とかメリノとカシミアのように表面形態が酷似したタイプの混紡品では検査は一層困難である。
本研究は、こうしたことからメリノとカシミアの混紡品の、鑑別と混率を検査する手法について検討した。
鑑別では、走査型電子顕微鏡写真を使いメリノとカシミアの表面形態の特徴をコンピュータ画像解析しこれを基に鑑別を試みた。また、混率ではメリノとカシミアの繊度特性を利用した簡易な算出を試みた。
低温プラズマによる羊毛の改質技術に関する研究
--低温プラズマによる羊毛のセラミックス加工--
愛知県尾張繊維技術センター 荒井 清、橋本 貴史
さらっとした風合いを有する春夏用毛織物を開発するために、羊毛に金属アルコキシドをセラミックスとして付与したのち、樹脂加工を行った。この処理の間に、プラズマ処理を施した。
この処理試料の接触冷温感評価値、総合風合値、はっ水性、及び帯電性を測定した。
その結果、接触冷温感評価値、総合風合値、及びはっ水性が向上することが分かった。これは、さらっとした風合と、静電気によるまつわりつきのない春夏用毛織物が期待できることを示している。
平成元年度に検討した「低温プラズマによる羊毛の改質技術」で、羊毛に対する低温プラズマ処理及びそれと樹脂加工との併用処理について、多くの知見が得られた。
平成2年度には、羊毛に春夏製品として必要な機能を付与するために、プラズマ処理を併用した樹脂及びセラミックス(金属酸化物)の効果的な固着方法を検討し、得られた処理試料の性能及び耐久性を評価した。
毛織物工場の生産ネットワーク化
愛知県尾張繊維技術センター 藤田 和孝、鷲野 鋭之進
多品種・小ロット・短納期化に対応した効率生産体制つくりが課題とされている毛織物の生産においては、分業生産形態をとっていることから、迅速な情報伝達あるいは円滑な物流が重要となっている。この対応例として生産情報のネットワーク化について検討した
結果、以下の内容について知り得た。
(1)パソコンを使って受注した仕掛品の進捗状況が把握できる。
(2)このシステムにより的確な作業指示が出せる。
(3)パソコン通信などで外注工場等とネットワークを組むことにより、ネットワーク内の工場での仕掛品の流れを把握することができる。
川中段階を中心とした毛織物生産は、分業生産形態がとられている。その生産が円滑に進むためには、企業間・工場間の情報伝達あるいは半製品などの運搬がスムースでなければならない。
消費者指向の多様化、ファッションの短サイクル化に伴い、多品種・小ロット、短納期化生産が求められている折り、一層の連携対応が必要である。
このため生産の受注から出荷までを担う中核的な毛織物工場の生産課題にふれるとともに効率生産のための外注工場も含めた生産情報ネットワークモデルについて検討した。
セラミックスによる夏用複合機能性毛織物素材の開発
愛知県尾張繊維技術センター 佐藤 久、浅井 弘義、荒井 清、橋本 貴史、北野 道雄、山本 周治
プラズマ処理などの親水化処理した毛織物に、合成ゼオライトなどのセラミックス微粉体やチタニア等のセラミックス超微粒子を付与して夏向き機能性や風合いを有する毛織物の開発を行った。
その結果、セラミックス加工を行うことで、消臭性、紫外線遮蔽性が向上した。またセピオライトを少量付与すると、毛織物の吸水性が向上できた。
消臭性、紫外線遮蔽性、吸水性などの機能性、風合いの点から最適なセラミックスの加工条件は、セラミックス微粉体で、繊維重量に対し合成ゼオライト2~4%・セピオライト0.5%・シリコン樹脂1%またはウレタン樹脂0.5%であり、チタニアなどのセラミックス超微粒子では1%前後であった。
愛知県尾張地域は全国有数の毛織物産地であるが、その生産の主体は秋冬物にかたよっている。このため、年間の生産の平準化さらには毛織物の用途拡大のため夏向け素材への対応が期待されている。
繊維のセラミックス加工はすでに多くの事例が報告されており、加工法も合成繊維では練り込み法が、天然繊維では樹脂接着法が一般的である。
羊毛に対するセラミックス加工も樹脂接着による方法や近年セラミックス粒子を高温高圧下で羊毛繊維中に封入する方法などが報告されている。
また、目的とする性能も以前は遠赤外線放射による保温性向上などが中心であったが、近年ではセラミックスによる風合改質や吸湿、抗菌性能付与などに注目が集まってきている。
そこで、本研究では、愛知県常滑窯業技術センターとの融合化研究により、常滑窯業技術センターで、吸湿性、吸水性、熱伝導性、紫外線反射特性などの夏向素材として必要な機能性を有する各種のセラミックス微粒子を開発し、これを尾張繊維技術センターにて毛織物に加工することで、夏向け素材として必要な風合いや機能性を有する毛織物の開発を狙った。
セラミックスは数ミクロン~サブミクロンの粒径を有するセラミックス微粉体と0.1ミクロン以下の粒径を有するセラミックス超微粒子とに分けて毛織物への加工方法を検討した。
また、加工布の吸湿性、吸水性、放熱性、消臭性、紫外線反射性などの機能性と風合特性を評価した。
アパレルにおける多品種少量生産技術に関する研究
--縫製工程への接着剤の応用技術--
愛知県尾被繊維技術センター 板津 敏彦、藤田 浩文、松井 弘
縫製工程への接着剤応用技術の実用化をめざして接着剤適用可能な衣服部位について検討し、接着剤の布地への供給方法、接着のための加熱方法として、
(1)糸状接着剤の使用によりパーツ折り曲げ作業や芯地接着作業を伴う箇所で同時に接合する方法
(2)フィルム状接着剤を必要な形にカットして使用し曲線状の小さなパ一ツの接合を行う方法
(3)熱溶融状態の接着剤を布地上に適当量細幅塗布する方法について検討した。
また、接合部分の耐久性について、地の目との接合線の角度を変えた場合及び接合線に対する引張り方向を変えた場合、再加熱された場合、引張り速度を変えた場合等における強度への影響を調べた。
主な結果は次のとおりである。
(1)ミシン縫合と比較して、せん断特性は接着剤使用量0.05g/100cm以上になると2HG5で大きな差がみられた。
引張り特性は、明らかな差がみられなかった。曲げ特性については、他の特性値より顕著な差がみられ、Bでは使用量0.05g/100cmでもかなりの差がみられた。2HBは0.1g/100cmまでは差がないが、それ以上で大きな差がみられた。
(2)糸状接着剤を用いる方法では、温度130℃~140℃、加熱時間20秒、押え圧0.3kg/cm2の加熱条件が適当であった。
接合強度がピークを示すのは、接着剤樹脂が布地組織に浸透不十分の場合及び浸透しすぎて布地間をつなぐ接着剤量が減少するためであることが分かった。
(3)熱溶融状態の接着剤を適用する方法において、接着剤樹脂の改質を行い、布地上に1.5~2.0mmの細幅塗布ができる粘度を得た。
(4)接着剤樹脂のしみ出しと接着条件との関係は、低密度の試料は170℃で、高密度の試料は180℃でしみ出しがみられた。
樹脂うつりは、110℃~160℃でもみられた。押え圧の影響は小さかった。
(5)地の目と接合線の角度の違いによる強度低下はみられなかった。引張り角度が増加すると強度は増加することが分かった。
(6)接合部の熱耐久性については、外気温度が50℃までは強度低下せず70℃では約50%の低下となった。熱水に対しては60℃までの温度では剥離しないことが分かった。
縫製代替としての接着縫製は、労働集約性の高いミシン作業を軽減させ、また生産手段の変更により工程の自動化が促進される等の合理化面で期待されている。
一方、製品品質の面でも、縫目が製品の表地側へ出ないため外観上有利なことがある、シームパッカリング(縫目での布地の凹凸)が少なくなる、布地の損傷がない、縫目スリップを防ぐことができるなどの点で優れている。
昨年度に実施した内容の概略は次のとおりである。
(1)接合部の風合い、剥離強度と引張り強度の関係からみて、接着剤の幅は1.5~2.0mmが望ましい。
(2)市販のホットメルトタイプ接着剤を強度・風合いで比較し、最適な接着剤を選定した。
(3)加熱して溶融接着するタイプのものなので、布地間の昇温特性を調べ接合のための加熱条件の基礎データを得た。
今年度はこれらの結果を踏まえ、実用化をめざして接着剤適用可能な衣服部位について検討し、接着剤の布地への供給方法、接着のための加熱方法を研究した。
また、接合部分の強度について縫目強度の要求性能などを参考に接着条件との関係から妥当な強度を調べた。
例えば、縫目強さについては地の目との角度を変えた引張り強度に関する詳細な報告がある。同様に接着による場合でも、地の目との引張り角度を変えた場合及び縫目に対する引張り方向を変えた場合などで、接合部分の強度が低下することが懸念される。
また、熱可塑性樹脂を用いているために再加熱により剥離しやすいことも懸念される。
これらの問題を明らかにするため、より詳細に接合部の物性を調べた。
コンピュータ制御による染色加工工程のFMS化技術に関する研究
--小ロット染色に対応した染色の自動化--
愛知県尾張繊維技術センター 堀田 好幸
ア.pHスライド染色及び羊毛等電点染色における短時間染色法
昇温とともにpHが酸性側にスライドする染色助剤及びpH4.5の緩衝液を使用した羊毛チーズ糸の染色昇温パターンをレーザー光で染液濃度を計測する染色機で自動作成した。
染色中、染料吸尽率が50%付近で染料吸収速度が最大となる染液濃度制御パターンを用いた。
染料吸収速度の最大値3.08%/分でモノスルフォネート1:2型含金属染料を用いて染色すると、pH7.0から5.8まで変化できるpHスライド染色 の場合は、温度が100℃まで直線的に昇温するパターンが作成でき、pH4.5の羊毛等電点染色では72℃付近で15分程度の温度をキープするパターンを 作成できた。
所定の染料吸収速度で制御しながら染色するので、余分な時間をかけずに済む他、染色中、染液濃度計測を行っているので最終の染料吸尽状態も的確に把握でき、染め上がりの再現性を良くした染色時間の短縮化を可能にした。
この染色例では、他の染色機に昇温パターンを再活用する場合に染色時間を30%程度は短縮できることを明らかにした。
イ.小ロット用染色機群のネットワーク化の構築
安価なパソコンネットワークでLANを構築し、染色関連情報の統合化とデータベース化が図れる染色工場システム化のモデル実験を行い、実際の染色加工に応用できることを明らかにした。
また、温度制御装置デジタルプロコンのデータ入力をパソコンで自動化し、実際に活用化実験を行った結果、小ロット用染色機群のネットワーク化に有効であることを確認した。
染色業界では、染色の多品種小ロット・短納期化が進展しているなかで、人手不足が一段と深刻化している。その対策として、試験染でCCM・染液自動調液 装置の導入や染色処方を作成する作業の合理化を行う方法の他、現場本染で染め上がりの再現性が良くかつ短時間に染色できる技術の開発が業界より望まれている。
最近では、染液自動調液装置の導入で試験染業務の人手不足対策と染色ミス減少に効果をあげている。現場の染色機も自動化が進み、染色工程の給排水、薬剤注入、昇温制御の完全自動化も行われている。
現状の自動化状況は、染液流量の計装制御や温度の計装制御の他では、給排水薬剤注入等におけるエアーバルブ関係の制御をシーケンス的に行っている方式がほとんどである。
しかし、染色工場での染色法は、染色機の蓋を閉めて染色速度制御を温度のみで行っているので、染色中の繊維への染料吸収速度が全く分からないのが現状である。
この方法では、染料吸収速度を直接制御できないので、安全性を考慮して昇温を除々に行うため、余分に時間をかけなければならない。それでも、素材の染色性が変わっていたりすると染色機での染料吸収状態が分からないので、染めムラが発生することがある。
その原因は、最終の色合わせの精度と染色中の染料吸収速度に起因する被染物の均染化とは全く別の問題であるからである。
これの解決は、染液濃度を光三原色のレーザー光で計測しながら所定の染料吸収速度で自動制御する染色法で行うことができる。
一方、染色熟練者の老齢化や人手確保難がより一層進むようなことになれば、企業の存続まで危ぶまれる状況になりかねないと思われる。
このための対策として、専務部門のOA化や倉庫管理の自動化は進めなければならないが、生産現場でも試験染めから現場染色まで、搬送を含めた染色工程の自動化を強力に進めなければならない。
しかし、染色工場では生産の形態や規模がそれぞれ異なるため画一的な方法がないので、設備投資効果を考慮しながら各社でどのような手順で行うのが最も効果が上がるかを決めることが重要な課題となる。
この研究では、染色に的を絞り、パソコンを利用して試験染めから現場染色まで短時間に染色できるような染色加工システムを考えて、小ロット染色に対応した染色の自動化を図れる方法を求めた。
具体的には、1kgチーズ染レーザー光計測式染色機で自動作成した染色昇温パターンを現場染色機に再活用するために温度制御装置デジタルプロコンにパソコンからRS232Cデータ通信で昇温パターンを自動転送する方法と、染色機のFAコンピュータと汎用パソコンとの間でLANを適用した染色試験結果のデータ転送と染色処方のデータベース化の手法について研究を行った。
織物設計への画像処理技術の応用(その2)
愛知県尾張繊維技術センター 安藤 正好、伊藤 通敏、小池 明
織物組織分解作業の省力化を図るため、コンピュータ画像処理技術を応用したシステム開発の検討を行った。
前報では、専用の画像処理装置を用いて組織分解を実施するためのアルゴリズム開発を基本的な織物について行った。
本報ではこれを発展させ、パソコンをベースとした簡易なシステムで織物組織分解を実現するための検討を行った。
その結果、メニュー選択で実行する会話形式の画像処理プログラムを作成し、メニューに従って処理を実行することにより画像入力から組織図を作成するまでの一連の作業を実行するソフトウエアを開発した。
消費者ニーズの個性化・多様化が進み織物生産業界では、それらに即応した商品開発が強く要求されている。また、一方で繊維業界が抱えている大きな問題の1つに慢性的な人材確保難がある。織物生産業界でも後継者不足・熟練労働力の高齢化など深刻な問題になってきている。
これらの問題を解消するために、生産工程での自動化・省力化技術への期待が大きい。中でも、そのほとんどが目視で行われている検査作業の自動化技術の実用化が強く望まれている。
検査作業の自動化には、人間のもつパターン認識能力を機械に置き換える必要がある。
人間の視覚に匹敵するやり方で画像認識のできるコンピュータ画像処理技術は研究段階から汎用段階に入ったことにより、検査作業の自動化への可能性が高くなってきた。
以上のような状況下で当技術センターでは、その多くを熟練技術者に頼って行っており、自動化が期待されている作業の一つである織物組織分解にコンピュータ画像処理技術を応用する研究を行ってきた。
前報では、経緯糸の認識・識別手法、そして基本的な織物を用い組織分解を行うためのアルゴリズム開発を専用の画像処理装置を用いて行った。
本報では、この研究成果をもとにして、より汎用性を高めるためにパーソナルコンピュータをベースとした簡易なシステムで、織物組織分解を行うための検討を行った。
クリール立て作業の自動化
愛知県尾張繊維技術センター 河村 博司、大野 博
織物業界では、人手に依存している整経作業の合理化、省力化が強く求められている。
そのなかで、準備工程のクリール立て作業の自動化は、大手紡績工場での大ロット、後染、大チーズ(コーン)の場合の数例に見られるのみで、毛織物業界のような極端な多種少量生産の工場では、導入スペース・価格面などから、全く導入されていない。
そこで、毛織物業界にみられる数反というような多品種少量生産形態に的を絞り、そのクリール立て作業の自動化を進めるに当たって、糸切り・コーンの脱着・糸継ぎと大きく3つの要素の自動化研究を行なった。
これによって、糸切り・コーン脱着・糸継ぎの各要素の自動化がある程度まで進めることができた。
さらに、整経用多色小割装置と連携することで、小割り順にクリール立てすれば、クリール立て作業の自動化が一層進めることができ、省力化と同時に、コーンの配列ミスも解消できることが期待できる。
製品の企画設計技術に関する研究
--伝統染織物モダン化--
愛知県尾張繊維技術センター 森 彬子、坂川 登
尾張地方の代表的な伝統染織品である有松・鳴海絞を現代の洋装用途に活かすため、その染織手法を解析しデザインをモダン化する研究を行った。
その概要は次の通りである。
(1)伝統絞意匠の調査・解析
伝統絞の意匠は、紋のくくり方や染め方及び両方の組合せや応用により150種類以上あるが、縫絞、巻上絞、鹿子絞、蜘蛛絞等の12種類に集約される。
素材は綿が主体で主な柄のデザインモチーフは古典幾何柄と草花で、藍色が配色の主体であることが分かった。
(2)伝統絞のモダン化手法
柄の鮮明性及びシボの形態安定性の判定を絞加工と染色試験で行った。
絞柄の鮮明性の評価に、鹿子絞・巻上防染絞・縫絞を、形態安定性の評価に蜘蛛絞を用いた。
柄の鮮明性は各素材の使用染料及び染色法に大きく依存することが分かった。
また、細い線、にじんだ線など線のデザイン表現を出すにはほ、縫絞のピッチに大きく依存することを明らかにした。
形態安定性は80℃の熱水処理とホフマンプレス後に残ったシボ状態を目視で評価した。
その結果、高温で染色した毛及びポリエステル素材が絞の形態が安定していた。
絞柄の鮮明性と形態安定性の両方を総合的に判定した結果、毛素材が最良の結果であった。
(3)洋装用絞製品のデザイン設計及び試作
ポリエステル・アセテート交織別珍素材に絞加工を施すことで生ずる光沢差を特徴とする絞デザインの設計と、それを用いた婦人服の試作を行った。
また、絞部分に綿反応染料が浸透する特性を利用した、異色染めデザイン及び巻上防染部分にプリント柄を施した絞デザインを設計・試作した。
有松・鳴海絞産地には、350年以上の歴史と伝統にはぐくまれた、独自の絞デザインの集積がある。しかし、消費者ニーズにマッチした製品作りに対応できないことや、後継者の不足等から、現代でも十分通用する製品化の要素があるにもかかわらず、その貴重な意匠資産が十分に活用ざれていない。
この研究では、伝統絞を現代の洋装用途に活用できるようにするため、絞デザインを生かし、かつ消費性能を満足することが出来る素材開発試験と製品の設計・試作を行った。