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テキスタイル&ファッション誌(メールマガジン)バックナンバー
テキスタイル&ファッション Vol.7(1990)
Vol.7/No.1~12
(1990年4月号~1991年3月号)
1-ファッション情報 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
'91春夏FDCテキスタイルトレンド展開催 | 1 | 4 | 1 |
'91春夏FDCテキスタイルトレンド(メンズ) | 2 | 5 | 54 |
-90年代アパレル産業の方向と課題- マーケティング・サイエンス研究所 土田貞夫 |
3 | 6 | 106 |
国際モヘア会議-モヘアシンポジウム報告 国際モヘア協会日本委員会 川島成信 |
4 | 7 | 148 |
いま、なぜ、クリエイションが叫ばれるのか ファッションジャーナリスト 福永成明 |
5 | 8 | 194 |
イタリア繊維産業に対する競争優位戦略開発 宝塚造形芸術大学教授 経済学博士 菅原正博 |
6 | 9 | 250 |
秋冬インポート メンズ ファブリックコレクション開催 | 7 | 10 | 304 |
'91/'92秋冬FDC海外提携 婦人テキスタイルトレンド説明会開催 |
7 | 10 | 305 |
'91/'92秋冬FDCテキスタイルトレンド展開催 | 8 | 11 | 347 |
'91/'92秋冬FDCテキスタイルトレンド(メンズ) | 9 | 12 | 396 |
国際化が問われるファッンョン界 繊研新聞社 編集局キャップ 山崎光弘 | 10 | 1 | 448 |
ファッンョン消費者は、今新たな付加価値を求めている。 山村研究室 山村貴敬 |
11 | 2 | 506 |
春夏インポート メンズ ファブリックコレクション開催 | 12 | 3 | 570 |
'92春夏FDC海外提携婦人テキスタイルトレンド説明会を開催 | 12 | 3 | 571 |
「92-92年婦人素材トレンド」先染め復活で沸き立つ尾州産地 繊維新関社編集局 山下征彦 |
12 | 3 | 574 |
2-研究報告 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
細番手ウールラップドヤーン特性と編地性能 | 1 | 4 | 5 |
バイオテクノロジーによる羊毛の改質に関する研究 | 2 | 5 | 58 |
羊毛及び獣毛繊維の化学分析による定性 | 3 | 6 | 111 |
織物設計への画像処理技術の応用 | 4 | 7 | 152 |
羊毛の耐候性向上法について | 5 | 8 | 197 |
アパレルにおける多品種少量生産技術に関する研究 | 6 | 9 | 264 |
整経用多色小割装置の開発 | 7 | 10 | 308 |
低温プラズマによる羊毛の改質技術 | 8 | 11 | 351 |
製品の企画設計技術に関する研究 -伝統織物のモダン化- |
9 | 12 | 400 |
経糸物性が製織性に及ぼす影響 | 10 | 1 | 448 |
コンピュータ制御による染色機能の高度化に関する研究 -レーザー光計測を応用した染料吸収速度自動制御技術- |
11 | 2 | 509 |
毛織物工場の生産分析と生産の効率化 | 12 | 3 | 578 |
5-調査報告 | No. | 月 | 頁 |
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繊維産業実需対応システム実例調査 | 5 | 8 | 222 |
最近の依頼試験、所内相談について | 12 | 3 | 618 |
8-技術情報の窓 | No. | 月 | 頁 |
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技術情報 | 1 | 4 | 50 |
技術情報 | 2 | 5 | 102 |
技術情報 | 3 | 6 | 144 |
技術情報 | 4 | 7 | 190 |
技術情報 | 5 | 8 | 246 |
技術情報 | 6 | 9 | 300 |
技術情報 | 7 | 10 | 343 |
技術情報 | 8 | 11 | 386 |
技術情報 | 9 | 12 | 435 |
技術情報 | 10 | 1 | 502 |
技術情報 | 11 | 2 | 566 |
技術情報 | 12 | 3 | 642 |
9-その他(新設機器紹介) | No. | 月 | 頁 |
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新設機器紹介 | 2 | 5 | 97 |
'90テキスタイルグランドフェアいちのみや報告 | 9 | 12 | 390 |
年頭の辞 | 10 | 1 | 439 |
新春放談 | 10 | 1 | 442 |
いま、なぜ、クリエイションが叫ばれるのか
ファッションジャーナリスト 福永 成明
このところ消費の成熟化が叫ばれ、あらゆる商品に感性が求められるようになった。感性といえば、これまではアパレルなど繊維製品の専売特許だったが、最近は繊維以外の分野にも感性化が広がり、すべての消費財が高感度化している。
たとえば自動車の世界もそうである。日本自動車工業会によれば、かつて乗用車の購入動機は「性能」がトップを占めていた。
エンジン性能にはじまり操縦性や燃費、耐久性などが売れ行きを左右していたが、ここに異変が起こり、最近は外観デザインが第一位を占めるようになった。
この結果、自動車メーカーは、こぞってデザイン開発に力をいれはじめている。
これはアパレル業界にとっても同じで、かつてはアパレル製品も“性能”が重視され、「生地がしっかりしている」とか「縫製が良い」といった性能(品質)が売れ行きのバロメーターになっていた。
それが昨今は、イメージやデザイン、雰囲気が重視され、これがDCブームにつながった。
イメージやデザインは消費財だけでなく、今や日本の社会全体に浸透している。企業のコーポレート・アイデンティティ(CI)などもその1つ、企業にとって存在証明とも言えるシンボルマークやロゴマーク、コーポレートカラーを一新する動きが相次いでいるのも、社会の感性化を象徴している。
こうした傾向は、世の中の価値観が大きく変わりつつあることを意味している。かつて消費は、性能や品質に重点が置かれた。モノの価値、すなわち“物的有用性”が消費を支配していた。
ところが、人々の生活が豊かになるにつれ、この物的有用性が低下し、これにかわって感覚有用性が頭をもたげはじめた。
これが“モノ離れ”といわれる消費行動につながった。
経済大国・日本では、空腹を癒すための食事から、味覚を楽しむ食生活に変わってきた。これが暖衣飽食と呼ばれるゆえんである。
こうした人々の関心を引きつけるためには、物質的な価値だけでなく、時代を反映した感性を、どう商品に盛り込むかが重要になってきた。
イタリア繊維産業に対する競争優位戦略開発
--グローバル化時代における生き残り戦略--
宝塚造形芸術大学教授 経済学博士 菅原 正博
アメリカ、イギリス、フランス、西独、日本といった先進国の大半が繊維輪出入バランス面で赤字であるのに対して、イタリアだけが大幅な黒字国を維持しつづけている。
特に世界の繊維製品の中で高級品市場の占める割合は、アパレル商品だけではなく、織・編物のテキスタイル商品や糸レベルまで、イタリアは全般にわたって強力な競争力を持っている。
1960年代から70年代にかけて日本の繊維産業は、コスト競争力面で強力な優位性を確保していたが、これはいずれも、川上段階における大手の原糸メーカー、紡績メーカーの大量生産方式の確立と安い労働力に依存していた。
しかし、消費者のアパレル商品やテキスタイル商品に対する購買ニーズが高級化、高感度化してくると、マス生産を基盤にしたコスト合理化だけのメリットしかもたない繊維産業では対応できなくなる。
80年代に入って、日本の繊維産業は、国内市場の高級化、高感度化に対応できず、イタリア、フランスを中心としたインポート商品が日本の市場で急増しつつある。
いいかえれば、日本の繊維産業の高級分野における市場対応能力が非常に弱いといえる。
では、イタリアの繊維産業がなぜ高級品市場に対する対応力が強いのだろうか。イタリアの大きな強味は、高級品を生産し販売していく産業基盤、すなわち、インフラストラクチュアが整備されているという点にある。
イタリアの繊維産地は、地域的に集中していて、その産地内に高級品を生産し、販売する機能を集約的に持っている。特に、テキスタイル企業とアパレル企業とが同一の産地内に集まっていて、有機的に互いにリンケージしている。
高級品を生産するためには、テキスタイルとアパレルの連動が非常に重要である。たとえば、「ビエラ」や「プラトー」といった毛織物産地がその良い例である。
これらの繊維産地では、単に生産加工機能だけではなく、ファッション情報、商品企画、(マーチャンダイジング、セールス、プロモーション)といったマーケティング機能まで保有している。
このように、高級品市場で競争的優位に立ち続けるためには、高級品が作れる縫製加工技術をもっているアパレル産業と、そのアパレル商品の原料を供給するコンバータが連携を取りながら、高級市場の要求にマッチした商品がつくれるマーチャンダイジング主導型の企業が特定産地で育っていく必要がある。
91年ファッションビジネスの展望
国際化が問われるファッション界
価格、生産、感性
消費者レベルのグローバリゼイションが始まった
繊研新聞社編集局 キャップ 山崎 光弘
比較的、順調に来た日本のアパレル産業は91年、大きな岐路に差しかかっている。
旺盛な消費需要に“カゲリ”が見え始め、ファッションマーケットの主役は、服からモノへ、あるいはモノから“充足”へと形を変えつつある。
80年代から生活文化産業企業への進路を取るオンワード樫山は「生活文化が地球的規模(グローバル)で本格化する。一般的には不景気かも知れないが、世界的な視野で事業を進める時代」(馬場彰社長)といい、レナウンは「91年を起点とする新・3カ年計画で新時代への対応を急ぐ。その間、収益性は上らないが1995年には活力にあふれるレナウンを建設したい」(金田康男社長)と、こちらは長期戦の構えである。
91年は優勝劣敗の分れる年となりそうだ。
ファッション消費者は、今新たな付加価値を求めている
山村研究室 プランナー 山村 貴敬
消費者志向、生活者志向と言われて久しい。70年代、80年代とファッション化社会が成熟するに従って消費者の商品を見る目は変化してきた。
そして企業側はそれに対応するかのように、付加価値型の製品を生産し店頭に提案しつづけてきた。しかし今90年代、消費者の志向は様変りし、かつてないほどビジネスを営む側に対して、優しくも強い要求を提示している。
今、消費者が新たな付加価値として求めようとしているものは、最早かつてのDCや、ここ2、3年で急成長を遂げたイタリアをはじめとするヨーロッパインポート商品ではない。
勿論一部の高レベルなデザイナーブランドは永遠に暖かい喝釆を消費者から浴び続けるのは当然としても、一方で次なる付加価値の提供を消費者は求めている。
ブランドアイデンティティを基軸とした明確なコンセプトメーキングによる感性提案から、生活シーンに根ざしたMDに具現する消費者サービスという新たな付加価値が、今注目を集めている。
ポストDC・ポストインポートを予見させる雑貨マーケット
雑貨マーケットが好調である。日本百貨店協会が1月に発表した90年の売上データによると、百貨店平均伸び率7.7%の下で、雑貨(文化雑貨)は11.9%、身の回りの品(服飾雑貨)は9.9%の伸び率を示している。
雑貨がいかに消費者の魅力の対象となっているかが伺われる。ちなみに衣料品の平均伸び率は6.6%である。
では、なぜこのように雑貨マーケットが好調なのか。ここには今後のファッションマーケットを考える上での重要なファクターが潜んでいる。
従来の雑貨マーケットを語る時、ロフトやハンズに代表されるデザイン・モノマーケットと、サンリオに代表されるファンシー・キャラクターマーケットがすぐ思い起こされる。
前者は、デザイン単品の吸引する魔力に魅せられていくフェティッシュな世界であり、後者はキャラクターのもつ物語性がモノに映し込まれた世界である。
これらはその個性は全く別次元のものであるにもかかわらず、単品の魅惑によって消費者に購入されている点は共通しているが、だとすれば昨今好調な雑貨は、果たしてこの両者の延長にあたるものだろうか。
「91-92年婦人服素材トレンド」
先染め復活で沸き立つ尾州産地
-各社、10%-20%拡大を計画-
繊研新聞社編集局 山下 征彦
「久しぶりに尾州産地の出番がやってきた」--。
過去、少なくとも3シーズン、後染め無地の流れが続いた婦人服テキスタイル・トレンドは91-92年秋冬ものを境にして大きく先染め柄ものの方向に傾いている。
「現時点での商談内容を見ていると受注の50%は先染めとなっている」(テキスポ・ナゴヤ・コンベンション記者会見で)という状況だ。
かつて「テキスタイルの商売は80%が前シーズンからの継続商品、残り20%が新規開発製品」といれれていたが、今シーズンは、その逆はオーバーにしてもかなり大きく変わるのは必至だ。
先染めに加えて尾州産地の主力素材の一つでもあるジャージーの復活も確実だ。低迷基調だった尾州産地にフォローの風が吹き始めたようだ。
今、尾州の出番が--。
大手服地卸が柄もの力点
まだおとそ気分さなかの1月4日付け「繊研新聞」の一面に「大手服地卸・機屋、今秋冬もので先染め比率拡 大。各社10-20ポイントアップヘ」という5段見出しの記事が掲載された。それによると、服地卸4強の先染め柄もの計画は次の通りであった。(90年比 率と91年比率。順不同)
瀧定=20%を30%ヘ
タキヒヨー30%を40%へ
市田=35%を45%へ
東京ロマン=35%を55%ヘ
市田、東京ロマンはそれぞれ20ポイント、瀧定、タキヒヨーはそれぞれ10ポイントの拡大である。とりわけ「もともと当社はミセス向けの先染めが得手だった」という東京ロマンは先染め柄もの比較を50%以上にするというのだから、驚きである。
また瀧定、タキヒヨーの10ポイントアップにしても分母(服地売上)が大きいだけに、インパクトは強い。
いつの時代にもトレンドの変化はあるが、過去数シーズンの後染め無地の隆盛を思うとこれは「画期的」とも「革命的」ともいえる内容である。
組番手ウールラップドヤーンの特性と編地性能
愛知県尾張繊維技術センター 池口 達治、鷲野 鋭之進
細番手ウールラップドヤーン(以下ラップ糸)を開発し、その製造条件が糸特性および編地性能に及ぼす影響について研究した結果、次のことが明らかになった。
1)ラップ糸の太さむら(U%)は、リング梳毛糸に比べて大きいが視覚的には均一である。
2)ラップ糸のバインディング糸の巻密度が多いと、強伸度、抱合力は増加する。
3)ラップ糸の強伸度はリング梳毛糸に比べて大きく、その変動は小さい。また、抱合力も大きい。
4)バインディング糸の巻密度がラップ糸の表面摩擦抵抗力に影響を及ぼす。
5)ラップ糸の毛羽数はリング梳毛糸に比べて少ない。
6)ラップ糸の編地のウェール曲がりは極めて小さいため、ウェール曲がりが起こりやすい平編地などにも使用できる。
7)ラップ糸の編成性は良好で、また、限界カバーファクターは大きい。
8)ラップ糸の編地はリング梳毛糸の編地よりもカバーファクターの変動が少なく、均一な編地が得られる。
9)ラップ糸の編地の風合いには巻密度が影響する。また、両面編地はアウターニットとして、総合風合値が良好である。
ウールニット業界では、細番手梳毛糸使いの薄地で軽量な編地の開発を進めているが、従来は主にリング精紡式梳毛糸の単糸を使用していた。このため、斜行が発生したり、編地が不均整であるなどの問題があった。
そこで、従来太番手が中心であったラップドヤーンを細番手化し、その糸特性と編地性能について研究し、ラップドヤーンの軽量、薄地編地に対する適合性を検討した。
バイオテクノロジーによる羊毛の改質に関する研究
--酵素による羊毛改質--
愛知県尾張繊維技術センター 北野 道雄、加藤 八郎、横山 繁
現在、バイオテクノロジーは、各方面で多様な発展をしており、多くの分野に対してバイオテクノロジーの利用が試みられている。
なかでも、酵素の利用が盛んに研究されているが、当センターにおいても昭和63年度に、この酵素を羊毛繊維の改質加工に応用する技術についての研究を行った。この結果、酵素を利用すれば、羊毛の改質が可能なことが判明した。
しかし、新しい技術であるため、不明な点も多く、平成元年度も引続き酵素による羊毛の改質についての研究を行った。
方法としては、蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)を用いて、羊毛糸(チーズ状)の改質を行い、これを編成あるいは製織することにより試作品を作成した。
そして、各種の物性や風合い特性等について調べた。また、酵素処理によって羊毛のどの部分が分解されるのかを詳細に調べるため、アミノ酸分析を行った。
この結果、酵素処理羊毛を用いた試作品の物性に関しては、抗ピリング性、洗濯収縮率、耐摩耗性等について未処理羊毛に比べて優れるとともに、風合い面においてもソフトでしなやかになり、風合い値も向上することが判明した。
さらに、酵素の羊毛に及ぼす作用を調べるため、酵素処理羊毛や溶解成分のアミノ酸分析を行った結果、酵素と羊毛の反応機構について一部が明らかにできた。
その他、羊毛内部保護のため多量に使用する必要のある中性塩類に代わる薬品の検討や低温域における染色特性についても調べた結果、酵素作用のコントロール薬剤として、ラクトン系化合物の効果が確認できた。
また、酵素処理羊毛の低温染色特性については、染着率が上がる染料種属があることが明らかになった。
繊維産業へのバイオテクノロジーの応用は、古くは綿布等の糊抜や絹の精練等に酵素が利用されたことに代表される。これらの技術は、現在も使用されて繊維加工に広く利用されている。
この酵素利用技術について、さらに繊維改質への応用例をみてみると、特許、文献ともに非常に少ない現状である。
そこで、酵素を羊毛繊維の改質加工の手段として利用する技術について、昭和63年度から研究を開始した。昭和63年は、各種酵素により羊毛の改質効果を調べ、処理条件や改質羊毛の各種物性と風合い特性等に関する基礎データを得た。
ここでは、昭和63年度の研究成果をもとに、より工場規模に近い条件の下で羊毛糸の改質加工を行い、試作品を作成して物性や風合いを詳しく調べた結果や改質羊毛のアミノ酸レベルでの解析結果について報告する。
羊毛及び獣毛繊維の化学分析による定性
愛知県尾張繊維技術センター 大津 吉秋、坂川 登、鈴木 啓市
メリノ羊毛及び各種獣毛繊維のアミノ酸組成、無機組成、Agイオン吸着性試験を行い、これらの繊維の化学的定性法について検討した。
その結果、アミノ酸組成及び無機組成では、品種を特定する迄の結論には致らなかった。Agイオン吸着性では品種による違いが若干認められた。
衣料用として用いられている動物繊維の主流はメリノ羊毛であるが、他にヘアーと称されるカシミア、モヘヤ、アルパカ、アンゴラ等の獣毛繊維も多く使われている。
これらの動物繊維は、組成的には各種のアミノ酸から成るケラチン蛋白を主成分として構成されているため、化学的な性質は非常に類似しており、人造繊維のように耐薬品性を利用した定性は困難である。
したがって、現状に於ける動物繊維の定性法は、光学顕微鏡或いは、電子顕微鏡等を使い繊維の表面形態の違いを観察する方法がとられている。
本研究では、化学的な定性手法を模索し、ケラチン蛋白を構成するアミノ酸組成、無機組成及びAgイオンの吸着性を検討した。
無機組成の分析では、古くからの原子吸光分析法と、比較的新しいエネルギー分散形X線分析法(EDX)の2法を採用し、両者の分析結果も比較検討した。
織物設計への画像処理技術の応用
愛知県尾張繊維技術センター 安藤 正好、伊藤 通敏、小池 明
織物設計作業の省力化を図るため、従来目視で行っている織物分解作業をコンピュータ画像処理技術を応用して行う手法の検討を行った。
その結果、画像入力法、織物の経緯糸交錯点抽出法、交錯点近傍の糸の経緯識別を行うテクスチャー解析法等の織物組織分解の基本アルゴリズムを開発した。
さらに織物基本組織により経緯織別率の試験を行った。織別率は90%以上、分解時間は交錯点数100の場合約10分であった。
織物企画設計作業の効率化を図る上でその多くを人手に頼っている作業の一つに織物分解作業がある。これは、織物を構成している経糸と緯糸の素材、番手、撚数、撚方向等の検査、及び織物の経緯密度や組織等を検査する作業である。
このうち特に織物組織分解は拡大鏡を使って経糸と緯糸の交錯点をみつけだし、その点に於ける経糸・緯糸の浮き沈みの関係を1本1本調べるという非常に細かく手間と経験のいる作業である。
この作業を自動化・省力化しようという試みは過去にもいくつかの研究が報告されている。例えば、織物表面画像から、経緯糸の心線を抽出し組織点の糸の形状から経緯糸を認識する方法、また織物構造の周期性を利用し、光回析パターンを用いた方法等がある。しかし、実用的な点でなお解決すべき課題が多い研究テーマである。
そこで、本研究では、織物組織分解の自動化を図るためコンピュータ画像処理技術を応用し経緯糸の認識を中心としたアルゴリズムの開発研究を行った。
羊毛の耐候性向上法について
愛知県尾張繊維技術センター 浅井 弘義、加藤 八郎
脱スケール加工、塩素処理、塩素処理一樹脂加工及び未処理羊毛織物を使用して、カーボンアーク光及びキセノンランプ光の照射による各種染料の退色性及び羊毛織物の劣化性並びに紫外線吸収剤、金属等による耐候性向上法について検討し、次の結果を得た。
1 コバルトを含有する染料は退色、劣化に対して強く、バット染料は最も退色が小さい。
2 染料濃度は高いほど、布の退色及び劣化を遅延させる。
3 漂白羊毛は未漂白羊毛より白度低下と黄変は激しくなるが、強力保持率は逆に未漂白より高い傾向を示した。
イソプロパノール処理羊毛は、わずかであるが黄変を防止する効果がある。
4 羊毛を脱スケール加工等処理したものの退色及び劣化は、未処理のものと比較して悪くなるが、その程度は小さく、スケールの除去状態と相関が認められる。
5 市販の紫外線吸収剤は退色、劣化性ともに改善する。硫酸銅、硫酸ニッケルやp-ヒドロキシベンゾフェノン等は劣化を防止する作用がある。
羊毛は最近の天然素材及び高級化嗜好の中、飛行機、自動車の内装材をはじめとするインテリア素材として注目されている。
特に羊毛の特徴である保温性、吸湿性、難燃性に加えて、手触りが他の繊維に比べてソフトで高級感があり、今後衣料素材以外の分野への利用が期待されるところである。
しかしながら、羊毛は光によって黄変し、脆化する。特に染色したものの退色は大きく、利用範囲が制限される。
羊毛の耐候性は複雑で、羊毛の履歴や光が当たる環境等の条件によって左右される。
染色された羊毛は使用染料によって、その退色傾向が異なる。特に耐久消費財に使用できる羊毛用染料はかなり限定され、バット染料やコバルト媒染染料が適しているといわれている。
そこで、羊毛の耐候性を向上するために、各種染料を使用して、その耐候性を検討するとともに、紫外線吸収剤等処理薬剤の効果について検討した。
アパレルにおける多品種少量生産技術に関する研究
-縫製工程への接着剤の応用技術-
愛知県尾張繊維技術センター 板津 敏彦、藤田 浩文、松井 弘
風合いが柔らかく接着強度が比較的高いホットメルトタイプの接着剤15種を収集し、ウール、綿、ポリエステ ル、レーヨンなど9種の素材について、適性を調べた。次に、接着強度、耐久性などに良好な結果を示した接着剤を選定し、接着条件と接着強度、風合い、耐久 性との関係をみた。また、接着加熱処理時の布地接合部の昇温状況を測定し、これをもとに接合部のみを加熱できる簡易な装置を試作し接着試験を行った。以上 の結果、次の点を明らかにした。
(1)選定した接着剤では、使用量を増加すればほぼ十分な接着強度が得られる。また接合部の耐久性(耐ドライクリーニング性、耐洗濯性)は良好である。
(2)接着縫製においては接着部の風合いの改善が重要となる。
(3)引張りせん断応力のかかる接合形式をとると大きな強力が得られる。接着剤も少量ですむので、この接合形式が望ましい。
(4)接着面積と風合いの関係については、ミシン縫合の風合いと同程度にするためには、接着部を狭くする必要がある。幅とハクリ強度の関係からみて、1.5mm~2.0mmが目安となる。
(5)接着剤適用のパターン(線状、ドット状)については、ドット径が大きいかまたは線の幅が太くなるほど接合部の強度が強くなる。引張り強度はミシンと同等の強度をもつパターンもあるが、ハクリ強度はほとんど半分以下である。風合いは、ドット状のほうが線状より優れている。
縫製業界においては、労働力不足、生産コストの上昇、素材の多様化、流行推移の激しさなどから工程のシステム化が必要となり、接着剤応用技術である芯地接着は着実に普及してきている。
一方、縫製代替としての接着縫製は、(1)接合強度および耐久性、(2)接合部の風合い、(3)接着作業に手間がかかる、等の問題があり、すそ上げテープなど一部を除けば実用化の例はほとんどみられない。
関連する研究は少ないが、超音波溶着により縫合代替するもの、国の大型プロジェクト「自動縫製システム」における研究成果として布の接着方法に関する特許がある。
また、繊維への接着剤応用技術である芯地接着は、工程の合理化、製品の高品質化等により、既製服縫製分野では欠かせないものとなっている。関連する研究も多く、芯地の収縮性能に関するもの、ニット地の接着に関するもの、高周波を利用して積層接着を行うもの、はっ水加工布への接着芯地の適用に関するもの、G.L.温度に関するものなどがある。
整経用多色小割装置の開発
愛知県尾張繊維技術センター 河村 博司、大野 博
織物業界では多種少量生産・短サイクル・短納期化への対応を図るため、人手に依存している作業の合理化・省力化が強く求められている。
この人手を要している工程には、緯糸関係では有杼織機用の管巻作業、無杼織用のコーン巻返作業(小コーン→大コーン)がある。
経糸関係では、整経作業・綜絖通し作業・筬通し作業・機上げ作業などがあり綜絖通し作業と筬通し作業については、専用自動化機械が既に市販されている。
また、最近では低価格対応の機械が開発され、早いものでは今年末の販売予定のものもある。ところが、整経作業と機上げ作業については、未だ自動化された機械の導入例は少ない。
そこで、整経作業の中、その準備工程である小割作業に着目し、合理化・省力化を狙い、小割ワインダの多色化を図った。
これにより、当業界における先染織物の小割作業が自動化され、整経クリール立て順に小割できるので、この工程後、その順序でコーン立て可能となり、クリール立てする時にコーンの順序をし直す手間が省け、配列ミスも解消できる。
低温プラズマによる羊毛の改質技術
愛知県尾張繊維技術センター 荒井 清、野田 栄造
アルゴン(Ar)、酸素(O2)、窒素(N2)、及びふっ化炭素(CF4)ガスによる低温プラズマ処理単独、並びにプラズマ処理と樹脂などの加工剤との併用処理による羊毛の性状変化について検討した。
プラズマ単独処理の場合、羊毛繊維表面は親水化され(ただし、ふっ化炭素ガスでは、はっ水性増加)、染色性が向上した。
一方、プラズマ処理は、羊毛を黄変させ、その程度は、N2>Ar>O2の順であった。
プラズマと樹脂との併用処理では、それぞれの単独処理よりも羊毛の防縮性が向上し、通常の羊毛の防縮加工には使用しない市販樹脂(エポキシ系)でも、満足な防縮効果が得られた。
また、プラズマとキトサン併用処理でも、十分な防縮性が得られた。
さらに、金属アルコキシドを羊毛に付着させ、プラズマ中で処理したところ、シャリ感のある風合いの羊毛が得られた。
低温プラズマによる繊維品の親水化や深色化については、多くの研究がなされており、一部では、すでに実用化されている。
羊毛の防縮には、一般に酸化剤などによりスケールを除去する方法、樹脂などでスケールを被覆する方法、両者を併用する方法がとられている。
これとは別に、低温プラズマを羊毛の防縮加工に利用する試みがなされ、実用規模での効果が確認されている。
そこで、アルゴン(Ar)→、酸素(O2)、窒素(N2)、及びふっ化炭素(CF4)ガス雰囲気中でプラズマ処理した羊毛の性状変化、及びプラズマ処理と樹脂、キトサン、金属アルコキシド等による処理との併用による防縮性の付与、風合い改良について検討した。
製品の企画設計技術に関する研究
--伝統織物のモダン化--
愛知県尾張繊維技術センター 森 彬子、坂川 登、金森 守
桟留縞に関する意匠の調査及び解析を行い、現代にマッチする織物デザインを研究した。
さらにそのデザインを生かしたドビー織物を試作し、柄及び織物の評価を行った。
その結果は次の通りである。
(1)江戸時代から伝承される尾張地方の代表的な伝統織物は、桟留縞、結城縞、管大臣縞、佐織縞の4種類である。
19世紀中頃を中心とした縞帳による意匠調査の結果、桟留縞が意匠的に一番変化がある。
(2)桟留縞の意匠的特徴は、縞割基本意匠が約15種類あり、各縞割の基本意匠が、相似展開される。
また、配色は尾張地方の植物染料を用いた草木染めによるもので、藍系統と苅安系統に大別される。
特に使用された色相は、藍・茜・苅安・煤竹茶である。
(3)桟留縞の意匠をモダン化する方法として、毛織物に的をしぼり、ドビー織三原組織を用いて、毛織物の仕上げ方法を適用した。
これにより、毛織物の特性である仕上げによる表面効果を生かした織物デザインの開発ができた。
さらに、その表面効果を風合測定し数値化することで、これらの特徴を把握することができた。
(4)可視波長域において、分光測色機による柄評価試験を行い、従来感性で評価していた柄を測色データで判別する手法を検討した。
ドット柄とストライプ柄を等しい色面積比において比較した結果、柄の連続性及び柄の大きさに重要なポイントがあった。
即ち、柄の連続性があるストライプ柄は、柄の大小に関係なく色面積比で検出する分光反射率曲線は決まるが、柄の連続性がないドット柄では柄の大小で色面積比を検出する分光反射率曲線が変化した。
この点で視覚と測色結果とが相関関係にあることが明らかになった。
経糸物性が製織性に及ぼす影響
愛知県尾張繊維技術センター 古田 正明、西村 美郎、小池 明
ウールを中心とした新素材の効率的な製織性評価方法を見いだすため、紡績方法、撚数の異なる5種類の糸を使用し、織物規格、製織条件を変化させて、製織性と製織中の経糸物性の変化の関係について検討した。
その結果、製織性の悪い場合は、製織過程を経るにつれて、経糸の強伸度曲線の傾きが低下し、毛羽数は増加する傾向にある。
そして、経糸物性の変化は糸相互、メール、筬の影響を受けること等が判明した。
糸製織性は、ある織物をある織機で織ろうとする時に、織れるか、織れないかの尺度である。
糸が切れるとか、毛羽立つ、毛玉ができる、あるいは糸が相互に絡みつくような場合には製織性が悪いと言う。
そして、その評価は、従来、仕掛けようとする糸の強力や伸度、抱合力等を測定し、これらの値が製織性が良いと判っている糸と同程度、あるいはそれ以上の値であれば、同一規格の織物に限って製織性が良いであろうと判断してきた。
しかし、この方法では、類似の製品を製織したことがない新規格の織物の場合は評価ができない。
また、最近では、新しい紡績方法による従来と異なる構造の糸が多く製造され革新織機の導入も盛んなため、従来の測定方法だけでは評価が困難となってきている。
製織中に経糸は糸相互、綜絖および筬などで往復摩耗され、綜絖の上下動とサーフェスローラによる巻取りで繰り返し張力を受ける。
そして、その程度は織物規格や織機の構造・調整方法などに影響され、次のように表されると考えられる。
製織性=
織機の要因(織物規格の要因(糸物性))
製織性 :製織中の糸切れ数、毛羽立ち・毛玉や隣接糸との絡みの程度
織機構造:開口方式、送出方式、各箇所の調整、回転数など
織物規格:組織、経糸密度、打込数など
糸 :素材、繊度、糸構造、番手、強伸度、毛羽数、太さむら、撚むら等の欠点、及び平滑剤の有無など
そこで、紡績方法や撚数の異なる5種類の糸をションヘル型毛織機に仕掛け、糸密度、バックレストのイージング量等を変化させて、経糸のどんな物性が、どこで、どのように変化するかを試験し、製織性とどの様に結び付くかを検討して、製織性の新しい評価方法を見いだすことにした。
コンピュータ制御による染色機能の高度化に関する研究
--レーザー光計測を応用した染料吸収速度の自動制御技術--
愛知県尾張繊維技術センター 掘田 好幸、佐藤 久、野田 栄造、 浅井 弘義、横山 繁
本研究では、色素レーザー光あるいは光三原色ガスレーザー光を用いてチーズ染色機内の染液濃度を計測しながら、染液濃度制御設定値に沿って染色する染色加工システムの構築について行った。
(1)レーザー光による染液濃度計測
実用レベルで染色機中の染液の色濃度をレーザー光で測定する技術及び染濃度センサーの設計・製作を行った。
メタノール溶媒を用いて、色素からレーザーを発振させるには、色素の溶液濃度として、1/100~1/1000mol/Lのオーダーが最適値であった。
また、光三原色ガスレーザー光による染液濃度計測は、染液の色濃度をRGBの成分に分解でき、数値化できる点で、汎用性に優れていることを明かにした。
これまでの研究成果で得られたランバート・ベールの法則に一致して、染料濃度と計測値とが直線式で求められ、ハロゲン光よりも高精度に染液濃度を検出できることが確認できた。
また、チーズ染色機で染液濃度を計測するため、最高温度130℃に耐え、レーザー光の透過距離が無段階可変できかつ染液中の泡、繊維屑を自動除去し長期期間使用できるセンサー装置を設計製作した。
(2)染液濃度制御式染色加工システム構築
これまでの研究成果を生かし、さらに染色作業者のコンピュータ操作を分かり易くした全自動の染色機を試作した。染色機を自動制御するソフトウェアーでは、染液濃度制御設定値(パターン)で使用する染色理論式を作成した。
染料拡散における活性化エネルギー値を一次反応速度式に組み入れた昇温方式の染色速度式を考え、この理論式を用いて染色した結果、チーズの内外層で色差1.0以内となり均染効果が得られた。
毛織物工場の生産分析と生産の効率化
愛知県尾張繊維技術センター 藤田 和孝、柴田 善孝
毛織物製品の多品種少量化、短納期化の進展に伴い、その生産の効率化が求められている。このため、織物の基礎生産性を把握し、生産の効率化について検討を試みた。
考察にあたってはパーソナルコンピュータ(以下、パソコンとする)を使い、プログラム言語BASlCにより計算処理した。
その結果、以下の内容について知り得た。
(1)個々の工場の織物生産条件をパソコンに入力することにより、その生産能力を算出することができる。
(2)レピア織機200rpm、10反3色、1ケ月22日、1日10時間操業など現状の生産に近い生産条件による試算では、年間約900反製織できる。こ れは受注ロットの大きさが一定していて、染色依頼した糸が円滑に入荷し、製織時のトラブルが少ないなどの条件が満たされれば、現状生産時間を短縮させるこ とが可能であることを示している。
(3)試算によれば、経継ぎなしの場合の1反の織物(1反=60mとした)は、製織にかかる作業時間約22時間、生産高1.9m/時間/人、10反の織物は、約122時間、13.8m/時間/人となる。
経継ぎ3色ありの場合の1反の織物は、約49時間、3.6m/時間/人、同10反の織物は、約349時間、20.8m/時間/人となり、経継ぎによる生産性向上が明らかである。
(4)仕掛品のロットの大小により作業時間が大きく変動するので、効率生産のためには受注ロットの大きさにあった生産体系をつくる必要がある。
(5)生産性の向上を図るには、織機の高速化並びに織付、ドロッパ差し、経継ぎ、織下の各作業などによる織機の停台要因をできるだけ少なくすることにある。