トップページ > 情報の窓 > テキスタイル&ファッション誌(メールマガジン) > バックナンバー > Vol.06
テキスタイル&ファッション誌(メールマガジン)バックナンバー
テキスタイル&ファッション Vol.6 (1989)
Vol.6/No.1~12
(1989年4月号~1990年3月号)
1-ファッション情報 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
90春夏FDCTEXTILE TREND(LADIES') | 1 | 4 | 1 |
'90春夏FDCTEXTILE TREND(MEN'S) | 2 | 5 | 61 |
繊維産業における垂直間データ交換システム 龍谷大学 菅原正博 | 3 | 6 | 121 |
FDCとイタリアデザイナ---マリアグラツィア女史と提携 | 4 | 7 | 178 |
愛知県繊維産業における国際対応のあり方 | 4 | 7 | 180 |
メンズウェア市場は、まだまだ伸びる!? ファッンョンジャーナリスト 福永成明 | 5 | 8 | 226 |
メンズウェア市場の構図 マーケティング・サイエンス研究所 土田貞夫 | 6 | 9 | 264 |
インポートファブリックコレクション・婦人テキスタイルトレンド説明会 | 7 | 10 | 327 |
'90/'91秋冬テキスタイルトレンド展開催 | 8 | 11 | 369 |
90年代ファッンョンを占う 服飾評論家 川本恵子 | 9 | 12 | 418 |
90年代のファッンョンビジネスを展望する 繊研新聞社 山崎光弘 | 10 | 1 | 454 |
地球化時代のファッンョンビジネス「なぜイタリアばかりがモテルのか」 ファッンョンジャーナリスト 福永成明 |
11 | 2 | 510 |
春夏インポートメンズファブリックコレクションを開催 | 12 | 3 | 553 |
2-研究報告 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
バイオテクノロジーによる羊毛の改質に関する研究 -酵素による羊毛改質- |
1 | 4 | 13 |
素材特性と可縫性について | 2 | 5 | 69 |
染色加工排水の汚濁収支と染色排水の再利用技術 | 3 | 6 | 129 |
密度差織物用装置の開発(その2) | 4 | 7 | 188 |
横編生産の効率化 -パソコンによる横編編成シミュレーション |
5 | 8 | 229 |
画像処理による糸パッケージ検査システムの開発(その3) | 6 | 9 | 269 |
2層構造糸による織物性能の向上 | 7 | 10 | 334 |
染色仕上工程の自動化技術 -染色速度制御へのレーザー応用- |
8 | 11 | 373 |
CADによる編織物のテクスチャー表現 | 9 | 12 | 422 |
細番手梳毛単糸の糊付け及び迫撚による製織 | 10 | 1 | 462 |
消費性能に関する試験技術 -薄地織物のスリップ防止加工と評価- |
11 | 2 | 513 |
染色仕上げによる高付加価値化技術に関する研究 -特殊染色・加工技術- |
12 | 3 | 558 |
5-調査報告 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
最近の依頼試験、所内相談について | 12 | 3 | 574 |
8-技術情報の窓 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
技術情報 | 1 | 4 | 57 |
技術情報 | 2 | 5 | 117 |
技術情報 | 3 | 6 | 174 |
技術情報 | 4 | 7 | 222 |
技術情報 | 5 | 8 | 260 |
技術情報 | 6 | 9 | 323 |
技術情報 | 7 | 10 | 365 |
技術情報 | 8 | 11 | 409 |
技術情報 | 9 | 12 | 450 |
技術情報 | 10 | 1 | 506 |
技術情報 | 11 | 2 | 549 |
技術情報 | 12 | 3 | 66 |
9-その他(新設機器紹介) | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
新設機器紹介 | 2 | 5 | 111 |
'89テキスタイルグランドフェアいちのみや報告 | 9 | 12 | 413 |
年頭の辞 | 10 | 1 | 454 |
繊維産業における垂直間データ交換システム -EDI(エレクトロニック・データ・インターチェンジ)を中心にして-
龍谷大学 教授 菅原 正博
アメリカの繊維産業では、垂直的な関係にある企業間情報ネットワーク化の一環として、EDI(Electronic Data Interchange)という「自動データ交換方式」が積極的に導入されつつある。
たとえば、小売業の店頭でスキャナーを利用して、各商品に付いているバーコードを読み取り、その日の終わりに取引先のコンピュータにそのデータが送られる。
取引先では、顧客である各小売業ごとにモデル在庫をコンピュータにインプットしており、データとモデル在庫を比較して、モデル在庫と異るだけの商品量を自動的に小売業に配送するわけである。こういったデータ交換が各取引先との間で積極的に行われるようになってきている。
こういったデータ交換が可能になってきたのは、バーコードやスキャニングといった技術が発展してきたことが要因になっているが、他方、繊維業界における小売り、アパレル、テキスタイルといった垂直レベルの各段階でコンピュータやコンピュータ支援設計・生産(CAD・CAM)が積極的に活用されるように なってきたことも大きな要因になっている。
アメリカの繊維産業がこういったEDIに積極的に取り組み始めた背景として、アメリカのアパレル商品の市場の約50%以上が海外からの輸入商品によって占有されてしまったために、この輸入商品に対抗するために、競争戦略上、小売店の発注に対して短サイクルで商品を供給できるシステムを開発しようというコ ンセンサスが高まってきたことがあげられる。
そのためには、小売、アパレル、テキスタイルの各業態間の垂直的なコミュニケーションをスピードアップさせる必要がある。
この点に関して、黒木敏雄氏は、アメリカのバーコードを中心としたEDIの取り組みについて次のように報告している。
「米国繊維産業では1985年以来、各業界レベルでの生き残り戦略として、QR(クイック・レスポンス)システムの構築が積極的に進められている。この QRの概念は、要約すると、生産流通業界が顧客の必要とする小ロットの豊富な品揃えをもった商品やサービスを、短サイクル時間で供給するシステムである」
-といえる。必要な時に、必要な量だけ作る--というJIT(ジャスト・イン・タイム)の概念に極めて近いものだ。
FDCとイタリアテザイナー -マリアグラツィア女史との提携-
海外婦人テキスタイルトレンド情報で(一宮市受託事業)
■デザイン立国
イタリア・ミラノを中心に活躍する
マリアグラツィア・トニウット女史
財団法人一宮地場産業ファッションデザインセンター(FDC)は、イタリア・ミラノ在住のデザイナー、マリアグラツィア女史と、テキスタイルトレンドの提案を受けることで5月23日に提携した。
FDCでは、昭和61年から63年まで、イギリスのテキスタイルデザイナー集団「イースト・セントラル・スタジオ社、代表者サンディ・マクレナン氏」と 3年間提携してきたが、最近、国内に輸入される毛織物など、中でもイタリアからの輸入のウエイトが高く、又、ファッションもフランスからイタリアへ移行し ていることから、当地方の繊維産業界でも、強い関心が持たれている。
そのため、平成元年度は、イタリアのデザイナー、マリアグラツィア女史と提携した。
提携内容は、ファッショントレンド、カラー、素材、スタイリングなど、秋冬、春夏の年2回来日し、直接女史より説明、提案を行う。
第1回目は、9月20日(水)、21日(木)の2日間で'90/'91秋冬婦人テキスタイルトレンド、第2回目は、2月20日(火)、21日(水)の2日間、'91春夏婦人テキスタイルトレンドについて、当地方の繊維関係企業を対象に、各々説明会を開催する。
マリアグラツィア女史は、イタリアのミラノ大学を卒業後、スタジオでデザイナーとしての職業経験をもつ。
同女史は、素材、とくに良質の天然素材に強いコーディネーターとして幅広く活躍し、コミタットモーダ(イタリアファッション協会)など、代表的なコー ディネーターでもある。又、おしゃれな「マリアグラツィア」コレクションのデザイナーとしても活躍中であり、その代表的な作品の一部をここで紹介する。
なお、昭和61年から3年間提携してきたロンドンのイースト・セントラル・スタジオ社(代表者サンディ・マクレナン氏)についても、引き続き提携関係を 保つことにしており、イギリス(ロンドン)、イタリア(ミラノ)、日本(一宮)が、お互いに情報交換していくことになった。
メンズウェア市場は、まだまだ伸びる?!
どうして生れた“男女格差” (ファッションジャーナリスト 福永 成明)
4兆1,000億と1兆4,000億円--。のっけから数字を出したのは、どう考えてもこれが理不尽に思えるからである。
昭和60年の商業統計の衣料品小売業(専門店)の販売額をみると、メンズウェアとレディスウェアとの間には金額にして2兆7,000億円、比率で約3倍もの開きがある。
百貨店の売場だって、そうだ。婦人服売場は2フロアもあるのに、紳士服の売場はワンフロアしかない。
これが卸売業になるともっと顕著だ。レディスアパレルの販売額5兆8,600億円に対してメンズのそれは1兆7,100億円。ここでの差は4兆円以上、その倍率は3.4倍に広がっていく。
もちろん、ここでのレディスには子供服も含まれるから、この数字をもってして“男女格差”を論じるのは正しくない、という見方もある。
だか、20年前と照らし合せると、どうだろう。昭和41年の統計をみると、卸売業は2,900億円と2,800億円。専門店も3,000億円と2,900億円。ここではどちらもメンズのほうが勝っている。これがわずか20年で大逆転してしまったのだ。
先の参院選では、“マドンナ旋風”が全国を席巻し、あらためて女性の時代を認識させられたが、ファッションの世界はとっくに、“女性上位”になってしまっていた。
男女の人口が変わらないとすれば、男性は女性の3分の1しかファッションを享受していないことになる。なぜだろう…。
メンズウェア市場の構図
はじめに (マーケティング・サイエンス研究所 土田 貞夫)
創造的ファッションビジネスを展開するには、まず消費者市場の実態を理解し、市場を形成する購買要因を明かにし、ターゲット市場のニーズを的確に把握することが重要となる。
特に、メンズウェア市場は最近の消費動向では回復傾向が顕著であるが、市場構造は大きな変化をみせていることが知られている。
どういう時・場所・場合に何を着るか、何を意識して着るかなど、生活局面における衣服の役割(Roll&Style)について、特に仕事との関連におい ての意識を把握し、男性の衣生活に関するライフスタイル特性をふまえてメンズウェア市場の構図を明らかにすることにより、こうした市場構造の変化の背景と なっている男性の衣服と生活に関する購買と意識の実態を理解することが基本的な課題である。
メンズウェア消費者市場の購買要因には多くの要素がある。その中で、何が重要であるかを整理することが肝要である。
メンズウェア消費者市場の購買要因は次に示す8つの要素(軸または因子という)に集約できることが明かとなった。ここで“軸”とは的確に市場を理解するための視点(切り口)を意味している。
これらの意識要因はメンズウェア消費者市場に対するマーケティング諸戦略を考える際の基本的視点を示すものとして重要である。
第I軸:トレンド志向軸
第II軸:ハイプレステージ志向軸
第III軸:ステータス志向軸
第IV軸:品質志向軸
第V軸:感性志向軸
第VI軸:オンコード志向軸
第VII軸:カジュアルアップ志向軸
第VIII軸:ハード志向軸
秋冬インポート メンズファブリックコレクションを開催
財団法人一宮地場産業ファッションデザインセンター(略称FDC)は、去る9月12日(火)から14日(木)までの3日間、FDC展示ホールで、第3回「'90/'91秋冬・インポートメンズファブリックコレクション」を開催した。
このコレクションは、来秋冬向け紳士服地の企画時期に合わせ開かれたもので、FDCが、イタリア等から独自に収集した紳士服地スワッチ見本153点、着見本96点、アパレル製品43点を、スーツ、ジャケット、トラウザーズ、コートなどのアイテムに分け展示された。
丁度、イタリア等からの輸入生地が増加している時期でもあり、柄、糸使い、色、風合いなどを、手にふれながら熱心に見ているデザイナーなど約2,000人の業界関係者が入場した。
また、会期中の9月13日(水)には、「メンズファッションセミナー」が開催された。株式会社シルバーピラミッドの渡辺晶氏、銀座松屋の小島正美氏により、“来秋冬紳士服地の傾向”について、説明があった。
'90/'91秋冬FDC海外提携
婦人テキスタイルトレンド説明会開催
デザイン立国イタリアのデザイナー、マリアグラツィア女史と提携した財団法人一宮地場産業ファッションデザインセンター(略称FDC)では、9月20日 (水)、9月21日(木)の2日間、FDC展示ホールで、「'90/'91秋冬・海外提携婦人テキスタイルトレンド説明会」を開催した。
この説明会は、彼女の来日を得て行われたもので、イタリアファッションをベースにした、鋭い現状分析と適確なトレンド提案が、持ち前の明るい雰囲気の中で行われた。
トレンドの概要は、後述のとおりであるが、「氷河」、「カナレット」、「メトロポリタン」、「ドリアングレーの肖像」の4感覚に分類してスライドとパネルを使用し、提案された。
また、「アバンギャルドクラシック」と評されている彼女の作品の一部約30点が、ファッションショーの形式で紹介された。
90年代ファッションを占う
服飾評論家 川本 恵子
“トレンドのないのがトレンド”というファッション傾向がここ数シーズン続いている。90年春夏コレクションをみても、各デザイナーに共通するのは“軽い素材”と”色使い”。
シルエットよりマテリアルというのが“ノン・トレンド”の時代の大きな特徴といえるのだが、一方で各デザイナーの創造性、表現力、個性にコレクションの比重が移ってきている。何が流行するかというより、どのデザイナーが今輝いているかに情報の価値が置かれだした。
パリでは、ミラノでは、東京では、ではなく、デザイナー1人ひとりの力量が問われるようになったのがトレンドなき時代であり、ブランドが大衆化した現代を反映した流れといえる。
といっても、21世紀を目前にした90年代であるだけに、ファッションだけでなく様々な分野で90年代予測が行われている。
ファッションの大きな潮流として挙げられるのは、次の2つだろう。ソフトな女らしさとエコロジーである。
振り返れば80年代は高級ブランドブームが象徴するように、マネーにあけくれた金ピカの時代、ハイソサエティ志向が臆面もなくハバをきかせた時代だっ た。良くも悪くもハリウッド出身のレーガン前大統領夫妻が時代の顔になり、ダイアナ妃がファッションアイドルになったのが80年代だった。
70年代の自立する女性たちは80年代には成功を目指す女性たちになり、いかに有能そうに見えるか、いかに力強く見えるかが服選びのテーマにもなった。
90年代のファッションビジネスを展望する チャレンジ・ザ・グローバリゼーション “地球規模”企業への挑戦 --ブランド・ピジネスが最大のテーマに--
繊研新聞社東京本社 編集局キャップ 山崎 光弘
90年代の幕明けである。ファッションビジネス界は90年を「過去の10年分の変化が3年で起りうる年。常にチャレンジの精神がなければ生き残れない時代」(馬場彰・オンワード社長)とみて、積極的な取り組みをおこなう方針である。
ファッションビジネスは常に変化をしてきたが、80年代と決定的に違うのは「国際化(インターナショナル)から地球規模(グローバリゼーション)の経営へ」(稲川博通・レナウン社長)といった要素がくわわってきたこと。
“生活者の視点”をキーワードに地球規模に進展していくであろう90年のファッションビジネス界を展望してみた。
地球化時代のファッションビジネス なぜ、イタリアばかりがモテるのか
ファッションジャーナリスト 福永 成明
このところ、ファッション業界はちょっとした海外ブームに沸いている。なかでもヨーロッパからの輸入品やライセンス提携が急増。
DC(デザイナー・キャラクター)ブームによって沈静化したかにみえた、“舶来崇拝”が再燃した格好である。
その中で、とくに注目されるのがイタリアからのファッション。ニューヨークでヒットを飛ばした「アルマーニ」は、すでに国内に2つの法人を設立したほ ど。このほか「フェレ」や「ベルサーチ」といったイタリア勢も健闘しており、ここ当分、わが国のファッション市場はイタリア一色になりそうである。
日本繊維輸入組合によれば、昨年の繊維輸入は1位の韓国、2位の中国は不動だが、イタリアが3位に食い込み、台湾を追い抜いてしまった。
しかも注目されるのが輪入の中身で、かつて主流だった糸や服地のウェートが下がり、アパレル製品が急増している。
周知のようにイタリアは、香港に次ぐ“ファッション輸出国”である。従来も欧米の中では最大の“対日輸出”実績をあげ、欧米の対日輸出では総額の5割以上がメード・イン・イタリア。2位のフランスとは3倍もの開きがあり、これが昨今のイタリアブームでさらに拡大している。
こと日本に関していえば、ファッションの本場はパリからミラノに移ってしまった感じすらする。
ところでイタリアのファッションは、どうしてこうも注目されるのだろう。かつてパリの産地のように言われ、ファッションも実用的で地味な印象が強かった。
これは職人気質の強いイタリアの国民性によるところが大きいとされ、こうした職人気質が世界有数のテキスタイル産地をつくりあげた。
糸にしてからが、1本1本の撚りにこだわる。この精密な創造性が独特な商品につながっている。染色にしても同じで、繊細なプリントはイタリアの独壇場で ある。この職人気質を集大成させたところがイタリアン・ファッションの最大の特徴といえる。
バイオテクノロジーによる羊毛の改質に関する研究 -酵素による羊毛改質-
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 北野 道雄、加藤 八郎、大野 博、横山 繁)
最近、各方面でバイオテクノロジーに関する話題が盛んであるが、繊維産業への導入利用も例外ではない。とりわけ酵素の利用が目覚しく、綿布等の糊抜や絹の精練に使用されている他、セルロース系繊維の改質にも応用されて注目され始めている。
そこで、この酵素を羊毛繊維の改質加工の手段として応用する技術について研究した。
蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)を主とした各種市販酵素を用いて、酵素使用量や処理時間、活性剤その他の薬剤添加量や前処理条件等を変えることにより、 重量減少率や強伸度、白色度や色差及び風合い特性等にどのような影響を及ぼすかを調べ、あわせて電子顕微鏡による外観の変化や酵素処理後の染色性等につい ても明らかにした。
この結果、試験に供したほとんどの酵素は、羊毛に対して重量減少を生じさせることが判明し、羊毛組織の分解あるいはある種の羊毛構成成分の溶出に関与して作用することがわかった。
これに伴って強力減少がおこり、電子顕微鏡による観察結果とあわせてスケール(キューティクル)部分に何らかの変化が生じることが明らかとなった。
その他、酵素処理羊毛に対する染色性には大きな変化がないことがわかるとともに、染色羊毛に対する酵素処理についても濃度変化や堅牢度等の面で問題のな いことが判明し、後加工への道が開けた。また、風合い特性については、改質加工羊毛の特性計測結果から曲げと圧縮に関する特性の変化が大きいことがわかっ た。
はじめに
バイオテクノロジーという言葉は、今日では殆んど知らない人がいないほど我々の生活に浸透しており、省エネルギー、無公害、再生可能といった広い応用範囲を有している。
しかし、その歴史は古く、人間生活とのかかわりとともに発展してきたものである。人類は、古くから微生物の助けにより造った醗酵生産物を食品として利用してきた。
そして、これら微生物の生合成や代謝作用が蛋白質でできた酵素の触媒作用であることが理解されて、酵素利用の研究が開始された。
現在までに、3,000種を越える酵素が知られており、機能上から酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、脱離酵素、異性化酵素及び合成酵素の6種に分類されている。
市販されている酵素は約200種類といわれているが、この中で市場が着実に伸びると予想される工業用酵素は、85%が加水分解酵素であり、食品加工をはじめ洗剤工業等の分野で広く利用されている。
ここでは、この酵素を羊毛繊維の改質加工に応用する技術について研究したので報告する。
素材特性と可縫性について
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 出口 和光、藤田 浩文、松井 弘)
織物の規格を同一にして加工によって生地特性を変え比較するため、ウールについては5水準、綿、綿/ポリエステルについては6水準の加工条件で行い、仕上げ加工方法の相違による素材特性と可縫性について明らかにするとともに、生地、縫製条件と縫いずれ・縫い縮み・パッカリング等縫製欠点との関係を検討 し、以下の結果を得た。
(1)ウールは、縫いずれ率が大きく上布は縫い伸びすることもある。
(2)綿、綿/ポリエステルの厚地では、上布又は下布の縫い縮み率Pa、Pbの値は薄地より小さいが、その差が大きくなるため縫いずれ率は大きくなる。
(3)シームパッカリングを縫いずれ率Eで評価することができないことがある。
(4)縫い縮み率、せん断特性、曲げ特性、はり、しなやかさ、厚み、重さは、パッカリングの度合いを判断する上で重要なファクターである。
はじめに
縫製素材は、複雑化する縫製仕様や原料、加工、組織など多種多様なものとなっている。
それぞれの素材特性に合った条件で縫製しないとシームパッカリングや縫いずれなどと言われる縫製欠点が発生する。
このため本研究では、生地、加工方法、縫製条件の違いによる縫いずれ、縫い縮み、パッカリングへの影響について試験を行い、素材特性と可縫性について検討を行った。
染色加工排水の汚濁収支と染色排水の再利用技術
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 浅井 弘義、大野 博、横山 繁)
羊毛を中心とする染色加工排水の汚濁性状の把握と低減対策及び膜ろ過による染色排水の再利用の可能性について検討した。
染色排水の汚濁は、染色に使用する酸によって大きく影響される。特に、BODの汚濁は被染物の種類に関係なく、酢酸、酢酸ナトリウムを使用すると高くなり、ギ酸、硫安及び市販の低BOD酸の利用によって低減できる。
CODは、繊維からの溶出物、使用薬剤の種類と量、及び染料吸尽率に支配され、COD低減対策としては使用薬剤の選択が最も重要な要件である。
羊毛からの汚濁量はpHが中性またはアルカリ側になるほど多くなる。
CODからみたオイリング剤の利用率は約18%であり、オイリング浴の循環利用など利用効率をあげる対策が必要である。
塩除去率の低い逆浸透膜(RO膜)による染料の除去率は、分子量が大きく、直鎖の長いものほど高い。界面活性剤の除去率は染料に比較して低い。
モデル排水における染料の除去率は染料単独より低下する。界面活性剤は染料ほど影響されない。ボウ硝は50%程度除去され、排水の性状によって、膜の処理性能が変わることが分かった。
はじめに
昭和40年代から始まった公害防止対策により、染色整理加工排水への規制も行われ、当地方の染色整理加工工場においても、その対策を実施してきた。また 地盤沈下対策の一環として用水の水源である地下水汲み上げに対する規制も行われ、一定規模以上の企業には工業用水の導入が義務づけられた。
このように、水を多量に使用する産業である染色整理加工工場の用排水対策をとりまく環境はより厳しく、平成元年7月に施行される予定の新しい伊勢湾海域汚濁負荷総量規制など、将来においても規制が強化される方向にあるといえる。
排水処理を公共下水道に依存している工場においても、公共下水道の規制強化によって、排水の受け入れ基準が厳しくなるなど、企業経営を進めるうえで、常に考慮しておかなければならない問題である。
そのためには、染色加工排水の汚濁状態の把握や水使用の合理化、再利用などを十分検討しておく必要がある。
そこで、当地方の加工素材の中心である羊毛及びその混防品のビーカー染色排水の汚濁状態について試験し、また染色整理工場の協力を得て実際の染色加工排水についても測定した。
さらに、最近技術的進歩の著しい膜ろ過を使用して、染色加工排水の再利用技術の可能性も試験した。
羊毛を中心とした染色加工排水の汚濁度
染色整理加工排水は、繊維の種類、染色加工工程の内容によって、それぞれ異なった多種多様な汚濁物質を含み、かつ経時的に排水性状が変動するきわめて把握しにくい排水の一つである。
特に、一宮・尾西地方は多品種小ロット化が進み、排水の性状はより一層複雑なものとなっている。
したがって、生産内容とそれに伴う排水の汚濁度との因果関係を得ることは、染色排水対策上、特に重要である。
染色加工排水の汚濁源は
(1)繊維とくに天然繊維からの不純物
(2)紡糸、紡績、製織などの前工程で付与された油剤、糊剤
(3)染色加工工程中に添加され、そのまま排出される薬剤
(4)染料、仕上剤など繊維に染着または固着されるべきものの未利用分
などである。
「密度差織物用装置の開発(その2)」
まえがき (愛知県尾張繊維技術センター 河村 博司、安藤 正好、荒井 清)
織物に関する新商品開発の差別化手段には、新素材・新加工法・新装置などによるものが挙げられる。国内最大の毛織物生産拠点である尾州産地をひかえた当 所でも新装置による新商品の開発で、既に「よろけ織り装置(緯よろけ及び経よろけ)」、「多色スラブ挿入意匠撚糸機」などを手掛けてきた。
昨年度は織機の要素技術の中で次の3つの要素について、ションヘル型毛織機を対象に以下の項目を目標として検討を行った。
A)巻取部(緯糸密度の変更)
B)送出部(経糸張力に応じた自動送出)
C)特殊筬(経糸密度の変更)
本年度はこの中の「巻取部(巻取速度可変装置)」をベースに、製織中に緯糸密度を織物規格に応じて自由に変更できる装置の開発を行った。
試作装置の概要
ベースとなったのは、ションヘル型毛織機(久保式44インチ幅)とそれに付属する巻取速度可変装置(昨年度作成部分)である。一般的織物(緯糸密度一定)の場合、巻取速度可変装置内のデジタルスイッチを、織付け時にその所定の密度(本/インチ)に設定変更し、歯車の交換無しで所定の緯糸密度で製織でき るようにした。(昨年度実施)
さらに、今回は、緯糸密度を緯糸の太さ・織物規格等に応じて適宜変化させることのできる巻取量指示装置の開発を行った。
これは既存装置に付加し、1ピック毎に事前に設定した巻取量データ(本/インチ)で織機の巻取量を制御するものである。また、巻取量データは事前にホストコンピュータで設定し、巻取量指示装置へ転送するようにした。
横編生産の効率化 -パソコンによる横編編成シミュレーション-
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 佐藤 久、池口 達治、藤田 和孝)
複雑な編組織柄などで発生しやすい論理ミスを防止するため、昨年度開発した簡易編成準備システムを発展させ、編成手順入力方法の検討と、横編編成のシミュレーション等のプログラムを作成した。その結果、
(1)編成手順の入力方法を検討し、一部編成手順の自動設定等を行うことで制御情報入力時の論理ミスの発生を抑制できるようになった。
(2)柄情報、節約情報などの編成情報の入出力が可能となった。
(3)パーソナルコンピュータを使った横編編成のシミュレーションにより、論理ミスの発生を事前に予知出来るようになった。
はじめに
NIES諸国に対抗するためには、多品種少量、短サイクル生産への対応が重要な課題であることはいうまでもない。このために、コンピュータ制御横編機の効率的な活用が求められている。
また、これらの編機は従来機に比べ優れた機能を有するにもかかわらず、実際にはそれらの機能を十分に生かしきっているとはいえない。
その理由としては、他のコンピュータ制御編機が柄情報を作成すればその準備作業のほとんどが完了するのに対し、コンピュータ制御横編機では柄情報の他に、制御情報、節約情報、度目情報など多くの編成情報を準備しなければならない点にある。
当センターでは横編生産の効率化研究の一環として、昭和61年度は編地企画情報から編立データを予測する手法について検討し、見本作成ロスの低減化を図 り、昭和62年度は市販のパーソナルコンピュータ(以下、パソコン)とその周辺装置を用いて、編成準備作業でネックになっている編成用制御テープの作成及 びビット選針方式のコンピュータ制御横編機向け柄テープ作成を効率的に行う簡易編成準備システムを開発した。
また、同システム中に編立データを算出するプログラムも組み込んだ。このシステムにより、編成用制御テープ作成時の入力ミスの低減とミスの発見、修正が容易となり、制御テープ作成時間も大幅に短縮できた。
しかし、昨年度開発したソフトウェアでは、単純な入力ミスは発見できるものの、編成手順作成時の論理的なミスの発見は困難であった。
特に複雑な編組織柄などでは編成用制御情報が複雑化し、論理ミスが発生しやすくなる。しかし、これらの論理ミスはその発見が難しく、編立中に種々のトラブルを引き起こし、その発見修正に多大の時間が必要となることから、編成効率を著しく低下させていた。
そこで、本年度は昨年度開発した簡易編成準備システムを発展させ、論理ミスの発生を抑制できるような編成手順入力方法を検討し、更にパソコンを使って代理編編成のシミュレーションを行い、その論理ミスの発生を事前に予知できるようにした。
画像処理による糸パッケージ検査 システムの開発(その3)
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 安藤 正好、河村 博司、森 彬子、荒井 清)
コンピュータ画像処理技術を応用し糸パッケージを検査するシステムの開発を行った。検査対象として色相に係わる欠陥を取り上げた。色度変換等のカラー画像処理を実施し色情報を抽出することにより欠陥検査を行った。
その結果次のことが分かった。
●ITVカラーカメラと色彩色差計の測色比較を実施しカラーカメラの特性を評価した結果、測色目的及び条件を考慮することにより色計測にカラーテレビカメラの使用が可能であることを確認した。
●回帰分析、線形判別関数等の判別分析法により色分類・識別試験を行い色相値によるマハラノビス距離及び2変量(r,g色度座標)2群判別関数が判別率が高く良好な色識別結果が得られた。
●糸パッケージの色相に係わる欠陥として、汚れ、風綿飛び込み、異素材混入等の欠陥を抽出するアルゴリズムを確立した。
はじめに
多品種・少ロット・短サイクル化生産、熟練者不足、人材確保難など繊維産業をとりまく環境は、厳しいものがあり、生産工程の省力化・自動化に関する実用技術の開発が強く望まれている。
なかでも、製品の検査部門は、多量の人員を配置し作業員の目視によって検査を行なっているのが現状で自動化が一番遅れている部門である。
その作業は、個人差があり、製品の品質向上及び均質化を図る上でも多くの問題を含んでいる。
一方、最近のエレクトロニクス技術の飛躍的向上により高性能なデジタル信号処理を実行することが身近なものとなった。2次元のデジタル信号である画像を処理するシステムが数多く販売され画像処理が安価なシステムで容易に実施することが可能になった。
このような状況下で、昭和61年度から糸パッケージを検査対象として、その欠陥検査の自動化に関する研究を行ってきた。
昭和61年度は、ホストコンピュータに簡易画像処理システムを用い、糸パッケージの代表であるコーンについて巻硬さ及び形状異常を検査する基本的処理手順を確立した。
昭和62年度は、ホストコンピュータに専用の高速画像処理システムを用いることにより、巻硬さ、形状異常等の糸パッケージの形状に関する欠陥の検査が高速・高性能となった。
本年度は、糸パッケージの色相に係わる検査をカラー画像処理を実施することにより行った。
二層構造糸による織物性能の向上
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 古田 正明、鷲野 鋭之進、板津 敏彦、藤田 和孝)
先染毛織物の機能性向上を図るため、梳毛糸や綿糸に機能性付与加工を施し、これを毛繊維で被覆した2層構造糸を開発した。そして、試作した織物の諸特性を把握した。
1)芯糸への機能性付与加工:ステンレスと銅のスパッタリング、チタン系セラミックスコーティングを試みた。
2)二層構造糸の製造:芯糸の周囲に毛繊維を巻付けるため、毛スライバーをドラフトする装置とリング撚糸機を組合せた装置を使用した。そして、製織性を増すため、水溶性ビニロン糸と交撚した。
3)二層構造糸の特徴:毛繊維が芯糸の周囲をほぼ完全に被覆し、芯糸の約3倍の太さにおさえることができた。
4)織物の外観、風合:芯糸が梳毛糸の織物は男スーツ用・秋冬服地として企画した。仕上げ後の外観はミルドサージ調で、風合は一般の毛織物と同様であった。また、芯糸が綿糸の織物は夏服地として企画した。仕上げ後の外観はジョーゼットやクレープ織物に見られる細かいシボ立ちが現われた。
風合は、良く伸びて回復性が悪いが、総合的には一般の毛織物と同様であった。
5)体温調節性への影響:芯糸に金属をスパッタリングしたり、セラミック加工した織物は、ヒーターやランプで温めた場合、未加工のものに比べて熱しやすく冷めにくい。
そして、その程度は金属の方が大きかった。また、低温熱源と密着した場合はほとんど差が見られなかった。
6)電気的特性への影響:芯糸に金属をスパッタリングした織物は絶縁性が非常に小さく、湿度が低い場合、特に制電効果を発揮する。
7)抗菌性への影響:芯糸に銅をスパッタリングした織物は明らかな抗菌性が認められた。
また、銅成分が外部へ浸み出さないため、安全性、耐久性に優れる。
はじめに
織物を中心とした衣料は、本来、人間が自然環境の中で生きるために体を保護する目的で作られたものである。しかし、生活が次第に発達し、文化が向上するにつれて、自己顕示や欲求を満たすために審美的な要素や風合が要求されるようになった。
この段階において、ウールを始めとする天然繊維の衣料は化学繊維では得られない、多くの特質をもって優位を占めていた。しかし、最近、一段と社会性が高 まり、衣料の充足もあって、従来の繊維や糸、織物では得られないような特殊機能をもった衣料が求められるようになり、特に化学繊維分野での新製品開発が目 覚しく、さまざまな工夫がなされるようになってきた。
このような状況において、次のステップとして、たとえ特殊な機能、役割をもつ衣料でもファッション性の高い織物への要求が高まりつつある。
金属は熱の反射や昇温、放熱性が一般の衣料用繊維とは大きく異なり、防寒性や防暑性が期待できる。
そして、一部の重金属は抗菌性があると言われている。また、セラミックは人体から発生する熱を吸収し、遠赤外線を放出して人体を温めるとも言われている。
このため、上記のような物質を付着させて機能性を高めた糸を芯に使用し、これをファッション性、風合などに優れた毛繊維で被服した二層構造糸を開発し、試作した織物の特性、特に快適性について検討した。
染色仕上工程の自動化技術 -染色速度制御へのレーザー応用-
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 堀田 好幸、森 彬子、荒井 清)
レーザー光を利用した染液濃度計測法及びこの計測法を適用した染液濃度制御方式の染色加工について研究を行った。
(1)レーザー光を利用して染液濃度をマイコンおよびFAパソコンで測定できる計測システムを設計製作した。また、レーザー光源としてヘリュウム-ネオンレーザー及び色素レーザーを用いて、染料濃度と染液を透過したレーザー光の光強度との関係を求めた。
その結果、一部の染料溶液ではあるがランバート・ベールの法則が適用できることを明かにした。
(2)染液濃度測定にレーザー計測を適用した染液濃度制御方式の染色加工について研究を行った。
染色中、チーズ染色機内の染液濃度を計測できる装置を設計製作し、染色機に連動させた。
また、染色法は、染色速度を一定とし染色開始から染色終了時点までの染液濃度変化状態をあらかじめパターン化した制御設定値にもとづいて素材に染料を吸収させる方法で行った。
(3)RS232Cデータ通信を利用して、Z80シングルボードコンピュータ(マイコン)→FAパソコン→X-YプロッターへマイコンRAMメモリー内の染色加工データを転送できるようにした。
これにより、染液濃度制御パターンおよびこの制御設定値から自動作成された昇温パターン等との関係評価が容易となった。
はじめに
微量のクロムイオンを含んだルビーの単結晶からレーザー光の発振に成功したのは1960年6月のことである。その後、四分の一世紀の間に固体、気体、液 体、半導体などの材料からレーザー発振できるようになり、今では工場、オフィス、さらには家庭にまでレーザーを利用した機器が入り込むまでに発展してい る。この研究で使用しているへリュウム-ネオンレーザーの発振は、1960年12月に成功し、また色素レーザーの発振は、1966年に成功した。
現在でも光源としてのレーザーの開発と平行して、レーザー光を利用するために必要な技術(レーザー光に信号を乗せる技術、レーザー光を伝送する技術、レーザー光を集光する技術、レーザー光による化学反応技術、レーザー光による検出技術)が研究開発されている。
この研究においても、レーザー光のもつ単色光の優れた性質と高いエネルギーパワーを染色加工に生かすこととした。この例として前報まで染液濃度の計測にハロゲン光を使用していたが、研究では高精度検出を目的にレーザー光を用いた染液濃度計測を行うこととした。
CADによる編織物のテクスチャー表現
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 伊藤 通敏、松井 弘)
CADによるテキスタイルシミュレーション画像の材質感表現の向上をはかるため、CADの画像編集機能を利用して、(1)起毛織物の外観、(2)縮みや しわの立体感、(3)組織や糸使いによる立体感、(4)横編柄の編目表現、について、その表現手法を検討した。その結果、かなりの程度編織物の外観に近い シミュレーション画像が得られることがわかった。
はじめに
近年テキスタイルの企画設計において、コンピュータによるデザインシミュレーションシステムが普及しつつある。これはいづれも経糸、緯糸の色糸配列とその浮き沈みの組織情報を入力することによって画面上に色糸が織り合わされた状態が表示されるものである。
しかし、画面の1画素を1本の経緯糸の交点として表示する制約上、綿や合繊等のレギュラー糸使い織物のシミュレーションには有効であっても、ループ糸やスラブ糸等の意匠糸使いや、整理工程での外観変化の多い毛織物のシミュレーションには不十分であった。
最新のシステムでは、糸1本ずつの形状情報を取り込み、それを画面プリント時の印写手法の工夫により表現する機種も登場しているが、使用できる色数が少なかったり、印写時間が長くなったりする制約が伴なっているようである。
そこで、CADの描画機能や編集機能を利用して、織柄シミュレーションで得られた画像を加工することによってこれらの織物の外観を表現することを試み、 昨年度は杢糸、霜降糸、意匠糸等を使った織物の外観表現手法について検討したが、今年度は起毛織物や組織及び後加工による織物の立体感の表現、さらに横編 柄の編目による表現手法について研究したので報告する。
細番手梳毛単糸の糊付及び追撚による製織
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 柴田 善孝、池口 達治、藤田 和孝)
羊毛は繊維表面のスケールや油脂分の影響によって撥水性があり、糸への糊付けが難しいとされている。梳毛単糸はスラッシャーやホットエアーなどによる大 規模な糊付けでは、かなり細番手の糸まで製織されているが、小ロットの先染め織物の場合には一本糊付けなどが細々と行われている程度である。
細番手の一本糊付けは、糊付け作業中の糸切れが多く発生して1/40までが限度され、それ以上細番手の糸は不可能とされてきた。
しかし、消費者ニーズの多様化高級化により、より高度な技術や特殊な素材が求められるようになり、天然繊維素材においても、細番手使いの薄地織物の開発 が求められている。そこで、梳毛糸1/60による薄地織物の製織技術について試験した。
従来の一本糊付けは高濃度の糊で糸の表面をカバーし、強力と毛羽伏および抱合性を持たせるものであったが、高濃度の糊では絞りローラーからの剥離抵抗が 大きく、細番手の糸では糊付け作業中の糸切れが多発して作業効率が著しく低下する。
このため、今回はPVAを主体とした薄糊によって、どの程度製織性が向上するかを試験し、併せて糊付けと追撚を併用したもの、および、追撚のみによる製織性についても試験した。
この結果、糊濃度を下げることにより、毛羽伏効果はいくぶん劣るが、糸内部への浸透性がよくなる。また、糊液にエタノールを混用することによって粘度が下がり一層浸透性がよくなって作業効率が向上することが分かった。
織機上での糸切れおよび毛羽の発生は糊付糸および、撚増と併用したものについては少なく、製織性はよかったが、撚増のみによる加工では毛羽の発生が多く、開口不良となって糸切れが多発した。
はじめに
当産地は毛織物と合化繊混紡織物の産地として知られているが、その生産品は、毛織物では秋冬物用服地が、合化繊混紡織物では春夏用服地が主体で、そのほとんどが双糸である。
しかし、最近の消費者ニーズは個性化、多様化と天然繊維嗜好の影響により、より高度な技術や目新しい素材が求められている。
そのため、毛織物においても春夏物への対応の一環として、薄地の梳毛単糸織物の開発が求められている。単糸使いの毛織物として以前からジョーゼットが織 られているが、この素材として使われている糸は梳毛糸1/30の強撚糸が用いられている程度で、これ以上細番手の糸が用いられることはほとんどなかった。
また、この糸は強撚のクレープ糸が使われているので、原糸に対して特に製織性を向上させるための加工を必要としなかった。
このため、今回は細番手の梳毛糸を革新織機で効率よく織るため、製織性を向上するための方策について試験した。
消費性能に関する試験技術 -薄地織物のスリップ防止加工と評価-
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 大津 吉秋、坂川 登、野田 和彦、鈴木 啓市)
薄地の毛、麻、ポリエステル布のスリップ防止加工として、PVA系、酢ビ系、ウレタン系の3種類の樹脂と、樹脂にシリカを添加した加工剤で樹脂加工を行い、その効果と耐久性能及び風合いへの影響について検討した。
その結果
(1)シリカが各樹脂の固着力を高めるのに有効であり、PVA系、酢ビ系樹脂では良好なスリップ防止効果が得られた。
(2)ドライクリーニング及び洗たく処理に対するスリップ防止効果の耐久性は、樹脂の種類及び素材によって異なるが、ウレタン系樹脂加工布の一部の試料を除いて余り良くない。
(3)加工後の風合いは、全般に各素材ともこし、はりが増大し布は硬くなるが、毛及び麻布ではその影響は小さく、ポリエステル布では非常に大きい。
はじめに
縫目スリップの消費者クレームが最近非常に増えて来ているが、その背景には、衣料のファッション化の傾向も一因になっている。
一般に、衣料を企画設計する場合、ファッション性を優先すれば品質が低下する傾向が強い。しかし、衣料として最低限の品質は欠く事は出来ず、設計者は、織物と消費性能に関するより高い知識が必要とされて来ている。
この様な観点から、昭和62年度の研究では織物の規格と縫目スリップ特性について検討し、織物密度からスリップ量を予測する指針を得た。また、毛織物のスリップ防止対策に、シリカ系増摩剤による対策の有効性を確認した。
和63年度では、薄地の毛、麻、ポリエステル布にスリップ防止加工を行い、その効果とドライクリーニング、洗たくによる耐久性及び風合いへの影響について検討した。
染色仕上げによる高付加価値化技術に関する研究 特殊染色・加工技術
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 野田 栄造、加藤 八郎、横山 繁)
羊毛へのアシル基の導入により、羊毛のセット性がよくなることは、よく知られていることである。最も簡便な方法は、有機溶媒中で、末端基に酸塩化物(塩化アシル)や酸無水物を反応させる方法である。
ここでは、溶媒系で無水安息香酸により、羊毛をベンゾイル化し、ベンゾイル化が防縮性および分散染料などの染料親和性に与える影響について検討した。
はじめに
無水安息香酸10%を含む溶剤で羊毛を処理すると、疎水基の導入により、防縮性を付与することができた。また、酸性染料、反応染料に対する羊毛の染着座席 を封鎖するため、染着濃度は未処理羊毛に比べ低くなるが、他方、分散染料では、疎水基の導入により未処理羊毛より濃くなることが分かった。