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テキスタイル&ファッション誌(メールマガジン)バックナンバー
テキスタイル&ファッション Vol.5 (1988)
Vol.5/No.1~12
(1988年4月号~1989年3月号)
1-ファッション情報 | No. | 月 | 頁 |
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'89春夏FDC TEXTILE TREND(LADIES') | 1 | 4 | 1 |
'89春夏FDC TEXTILE TREND(MEN'S) | 2 | 5 | 59 |
アパレル商品企画支援システムとAIの活用 龍谷大学経営学部教援 菅原正博 | 3 | 6 | 107 |
CLASSIC IN EUROPE 株式会社シルバーピラミッド 渡辺 晶 | 4 | 7 | 161 |
産地情報-いま、尾州産地は梳毛ブームに燃えている 繊研新聞社 山下征彦 |
5 | 8 | 201 |
アパレル業際化の現状 マーケティング・サイエンス研究所 土田貞夫 | 6 | 9 | 244 |
テキスタイルトレンド説明会を開催 | 7 | 10 | 297 |
'89/'90秋冬テキスタイルトレンド展報告(LADIES') | 8 | 11 | 344 |
'89/'90秋冬テキスタイルトレンド展報告(MEN'S) | 9 | 12 | 393 |
'89年のファッションアパレルを展望する 繊研新聞社 山崎光弘 | 10 | 1 | 443 |
生活デザインの快適曲線 株式会社シルバーピラミッド 渡辺 晶 | 11 | 2 | 516 |
'90春夏海外提携婦人テキスタイルトレンド説明会 | 12 | 3 | 568 |
英国羊毛産業の現状 繊研新聞社 山下征彦 | 12 | 3 | 574 |
2-研究報告 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
横編生産の効率化-簡易編成準備システムの開発 | 1 | 4 | 12 |
フレアスカートのドレープ性と素材および設計特性 | 2 | 5 | 67 |
低浴比チーズ染色技術 | 3 | 6 | 120 |
画像処理による糸パッケージ検査システムの開発(その2) | 4 | 7 | 167 |
絹紡糸及び毛・絹混紡糸の製織技術 | 5 | 8 | 205 |
染色速度のコンピュータ制御(2) -染液濃度をコンピュータ制御する染色加工法 |
6 | 9 | 252 |
毛織物の泡捺染について | 7 | 10 | 302 |
ループ意匠撚糸の特性とその要因に関する研究 | 8 | 11 | 355 |
密度差織物用装置の開発(その1) | 9 | 12 | 401 |
接着縫製における芯地の選択について | 10 | 1 | 449 |
テキスタイルデザインシュミレーションの高精度化技術 | 10 | 1 | 465 |
特殊染色・加工技術 | 11 | 2 | 520 |
消資性能に関する試験技術 -織物の縫目スリップ特性について- |
12 | 3 | 580 |
5-調査報告 | No. | 月 | 頁 |
---|---|---|---|
最近の依頼試験、所内相談について | 12 | 3 | 585 |
8-技術情報の窓 | No. | 月 | 頁 |
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技術情報 | 1 | 4 | 55 |
技術情報 | 2 | 5 | 101 |
技術情報 | 3 | 6 | 157 |
技術情報 | 4 | 7 | 197 |
技術情報 | 5 | 8 | 240 |
技術情報 | 6 | 9 | 293 |
技術情報 | 7 | 10 | 339 |
技術情報 | 8 | 11 | 384 |
技術情報 | 9 | 12 | 436 |
技術情報 | 10 | 1 | 512 |
技術情報 | 11 | 2 | 564 |
技術情報 | 12 | 3 | 617 |
9-その他(新設機器紹介) | No. | 月 | 頁 |
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新設機器紹介 | 1 | 4 | 50 |
愛知県尾張繊維技術センター竣工 | 3 | 6 | 105 |
機器展案内-第4回新鋭繊維機器展のご案内 | 5 | 8 | 228 |
機器度案内-第4回新鋭繊維機器展の出展機器紹介 | 6 | 9 | 279 |
第4回新鋭繊維機器展報告 | 8 | 11 | 343 |
第37回全国織物競技大会報告 | 9 | 12 | 388 |
年頭の辞 | 10 | 1 | 440 |
アパレル商品企画支援システムとA.Iの活用 -ファブリック・アドバイザーの実用化-
アパレルVisipert(ViualExpertSystem)の開発過程
(ファッションバイングオフィス 社長 菅原 正博
龍谷大学経営学部教授/経営学博士)
アパレル業界における商品企画のあり方も、時代の変化と共に複雑化し、かつ高次元化しつつある。
堀留や船場が中心的な役割を果たしてきた時代には、「仕入方」と呼ばれていた商人型MDが脚光を浴びていたが、大手アパレル企業が力を持ち始めると、ブランド別に商品企画を組み立てるマーケティング型のMDが注目されるようになった。
しかし、市場が高感度化してくると、感性の高い商品が企画できるデザイナーが重要視されるようになってきた。
また一方、アパレル企業が競争力を強めるためには、単にアパレル商品を製造卸をしているだけでは駄目で、テキスタイル企画から小売MDまで垂直的MDを一貫して行う必要がでてきた。
このように、アパレル商品企画のあり方も高次元化しつつあるにもかかわらず、実際にはマーチャンダイザーやデザイナーは20年前と同じく勘と経験を主体にした仕事を進めている。
いまだにアパレルの商品企画は、職人の世界にとどまっている。
すでにアパレル以外の業界では、研究開発部門や商品開発部門に、高機能をもったワークステーションを主体にしたコンピュータが積極的に導入され、新しいハイテクノロジーが活用されつつある。
コンピュータも第4世代から第5世代に移行するにつれて、商品企画立案過程でよく用いられているアイデアやイメージといった抽象的な情報や、画像情報とか知織情報という形でコンビュータ処理ができるようになりつつある。
こういった問題意識のもとに、1985年度からファッションバイングオフィス(FBO)、帝人システム・テクノロジー、日本電気の3社で、アパレル・ マーチャンダイザーやデザイナーの商品企画立案を支援するAI(人工知能)をベースにしたコンピュータ・システム「アパレル・マーチャンダイジング・エキ スパート・システム」の第1次プロトタイプ・システムの開発に着手した。
まだその当時はハードウェア、ソフトウェアが不十分であったが、約1年の研究開発の結果、画像処理を主体としたプロトタイプを開発した。
このプロトタイプシステムの開発でかなりのレベルまで商品企画立案を支援できるメドが確認できた。しかし、実用化するためにはさらに多くの問題を乗り越えなくてはならなかった。
日本電気株式会社(NEC)が新たに開発した高機能のEWS(エンジニアリング・ワークステーション)をベースにして繊維工業構造改善事業協会の「アパ レル産業振興センター」のシステム部会の協力のもとに、新たに“アパレルVisipert”という名称で1986年度から一宮ファッションデザインセン ターとFBO、日本電気との共同で「商品構成」と「素材選定」の各モジュールを中心に第2次プロトタイプシステムの開発に取り組んできた。
特にこの段階では、素材の風合い(素材感性と呼んでいる)と知識ベースシステムの構築に重点を置いて開発を進めてきた。これらの問題も第1次ステップとしてクリアすることができた。
そこで87年に入って、いよいよ実用化のメドを立てるために、情報入力面のソフトウェア化を目指した第3次プロトタイプの開発に着手した。これも88年4月で完成し、いよいよ実用化本番の時期を迎えたわけである。
CLASSIC IN EUROPE
(株)シルバーピラミッド 代表取締役 渡辺 晶
1988年5月中旬より、ヨーロッパを巡ってきた。15年前、パリに駐在して以来、年に3~4回のぺースでヨーロッパを訪ずれている。正確にいうと精神的には、パリに帰ってきているのである。
ニューヨークのように全てがスピードとビジネスとアートの混合体のビッグアップルではなく、ヨーロッパ文明の持つ古い様式や型式と近代産業との間の少しづれた生活感覚が大変好きなのである。これにひかれて毎年何度もパリにもどってくるのである。
しかしヨーロッパのファッション社会も表面上一見何もないようにゆったりと流れているように見えるが、1980年の前期頃より少しづつ変化しはじめている。
ヨーロッパのファッションビジネスを支えてきたライセンスビジネスも飽和状態になり陳腐化してきた。ヨーロッパでは、製品化されていない物がアメリカやアジアの国では、同じブランド名で堂々と店頭で売られている。
ヨーロッパファッションは、ヨーロッパ以外の地域(アメリカ、アジア、中近東、その他の国)のマーケットで今までなりたってきたのである。
街の中には活気がなくなり、アンティックマーケットがヨーロッパの各地で、盛んに人気を呼んできた。
しかしヨーロッパファッションは、自立しだしてきたのである。ライセンスビジネス以外に自分の力で自分達のマーケットにファッションビジネスで勝負してきた。
これは、ジャパネスクファッション(ワイズ、コム・デ・ギャルソン等)の終わりと共にクラシックの復流と共にやってきたオールドクラシックと呼ばれるロ ンドンのリバティプリント、スコットランドのホームスパン、ウェールズのフランネル、サージ、ギャバジン…これらの由緒正しきマティリアルが注目を浴びて いるのはこの為であろう。
今、世界中がミックスする冒険や発見で、沸き立っている。“CLASSIC”という7文字をベースに、異業種混合、異業態混合、企業の多機能化、逆発想と逆選別の合体、機能とファッションとのフレッシュミックスジュース。全て、ミックスの特代である。
生活、文化、社会、志向、遊び、仕事、あらゆる行動、精神にいたるまで、フレッシュミックス的経営発想が、マーケッティングの中核を占めるようになってきた。
それぞれが一つ一つ本物志向のアイテム同志のミックスである。レストランやカフェバーでもビストロでも、もう擬物(マガイモノ)は自然淘汰されだしてきた。
産地情報 いま、尾州産地は 梳毛ブームに燃えている 春物も活況、年間商品へ 紳士リード、婦人追随で
繊研新聞社 山下 征彦
尾州産地が、今、燃えている。一般的な内需の好調もさることながら、ファッショントレンドが全面的にウール、それも梳毛に傾むいているためで、産地はオイル・ショック以来の絶好調で受けに入っている。
特筆すべきは長い間、秋冬の素材だったウールがここえきて婦人服で春および初夏物でも多く使われ始めたことで、需要が年間化するにともない産地の企業体質も一段と強化されてきた。
しかし、問題がないわけではない。トレンドが梳毛に片寄りすぎウールのもう一つの柱である紡毛が不振を極めていること、羊毛や毛糸が大幅に値上がりして おり需要にブレーキがかかる恐れが出ていること、輸入品が増加しており国内生産を圧迫する可能性が強まってきたこと、など今後の不安材料も多い。
この意味で産地は、今、ウールブームを一過性のものとするのか、重大な岐路に立たされているとも言える。
需要、5年連続増加
国際羊毛事務局(IWS)の調査によるとわが国の新毛最終消費量はピークの1972年には19万トンあったが、オイル・ショック以来10年連続で後退し、82年には13万8千トンまで落ち込んでいた。
それが83年以降一転して5年連続の増加を続け87年はついに待望の16万トン台に乗せた。
IWSは羊毛消費の長期低迷に対して「89年までに年間消費16万トン回復」を目標にかかげて活発なプロモーションを展開してきたが、5年連続の順調な回復で2年早く目標を達成したものである。
アパレル業際化の現状
はじめに (マーケティング・サイエンス研究所 土田 貞夫)
いま、あらゆる産業間、業種・業態間の垣根が低くなり、相互乗り入れによる新しい協力関係や競争関係が生じています。「業際化」と呼ばれる状況です。
こうした業際化は繊維産業においてもすでにかなり速いテンポで進行しています。たとえば、紡績・原糸メーカーによって構成される川上産業も、繊維の技術を基盤にしながらも、繊維産業の垣根を越えて、非繊維業界との連係を積極的に進めています。
繊維原料や一次加工製品である織物・編物の流通分野で主役を演じてきた繊維関連商社も同様です。一方、百貨店や量販店といった大型店が主役を演じ、小売業でも、単なる物品販売業から脱皮して情報サービスや金融サービス領域まで積極的に業際化を図りつつあります。
この業際化戦略の展開のテンポを速めていく大きな原動力となっているのが「情報化」です。
この情報化と業際化とが結びついて「情報ネットワーク」が形成されていることが重要なことです。
重要なポイントは、第一に業際化と情報化の同時進行によって両者が連動していること、すなわち単なる業際化ではなく情報を媒介とした業際化であるということです。
第二に、情報ネットワークの進展により、競争の性格が変ってきたということ、すなわち市場の境界を越えて競争が展開されつつあることです。
このように、アパレルを取巻くあらゆる分野で情報ネットワーク型業際化が展開されている今日、アパレル産業も当然こうした業際化の在り方について十分に考慮することが必要となるでしょう。
以下、繊維産業、特にアパレルに焦点をあてて、業際化の現状と今後の方向について概略をまとめてみたいと思います。
'89年のファッションアパレルを展望する
急がれる「世界品質」、「ベーシック」の開発
“世界の中の日本へが”問われる
繊研新聞社編集局 アパレル担当キャップ 山崎 光弘
'89年のファッションビジネスは、90年代に掛けて変化していくであろう新時代に向けての大きな“助走の年”である。
インポートプレタを代表格とする消費者の高級化・高額商品指向、逆の側面ではステープル商品のNIES、ASEAN(東南アジア諸国連合)地域からの輪 入急増、国内にあってはスマート(賢い)な消費者の出現、百貨店を主力とする大型店の隆盛(松坂屋の超大型店舗化など)、とさまざまな変化がある。'89 年ファッションビジネスの行方を展望してみた。
生活デザインの快適曲線
株式会社シルバーピラミッド (代表取締役)デザイナー 渡辺 晶
日産自動車は1月13日、1987年の第27回東京モーターショーに参考出品した“PAO”と“S‐Cargo”を発売すると発表した。
PAOは「リゾート気分を感じさせるアドベンチャー感覚溢れるクルマ」を、S‐Cargoは「ファッショナブルでユニークな新感覚のマルチパーパス カー」をテーマに開発したもので、商品化にあたってはモーターショー展示車を可能な限り忠実に再現し、その味わいを楽しめるものにしてある。
その販売はPAOが1月15日からの3ケ月間に予約申し込みを受け付け、申し込み台数のすべてを販売、一方、S‐Cargoは単に販売期間を1月15日から当面2年問としている。
PAOが第27回東京モーターショーの会場で大いに人気を得ていたのはまだ記憶に新しい。マーチのコンポーネンツを使って内外装をレトロな感覚でまとめてある。
エクステリアは、やわらかな曲面基調のデザインをベースに、ヒンジやビスなどの金具類、ボディ外板補強のためリブを意識的に露出させたもので、シトロエ ン・メリア、あるいはジープのようなRV感覚。開閉三角窓や上下2分割式リアサイドウインドーなどにより、自然の風を受けて走る爽快なイメージを表現して いる。
上下3連式のシンブルな丸型リアコンビネーションランプやモノトーンの丸形メーター、PAO専用の丸いスイッチ類の付いたオーディオセット、レトロ感覚の丸型の時計などあらゆるデザイン・ラインコンセプトに曲線が取り入れられている。
この事は、S-Cargoにも共通のデザインコンセプトとしてもちいられている。PAOがレトロ感覚なら、S‐Cargoはポストモダン感覚である。
円孤を描いたサイドビューやフラットなサイドパネルなどユニークなデザインのこのクルマは、ベーカリーやブティック、フラワーショップなどの店先や街角 に溶け込むような新しいスタイルの商用車を目指したもので、そのネーミングも、スーパー・カーゴヘにカタツムリの“エスカルゴ”をひっかけたものである。
横編生産の効率化 -簡易編成準備システムの開発-
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 佐藤 久、池口 達治、藤田 和孝)
多品種少量、短サイクル生産に向けて、コンピュータ制御横編機を効率的に利用する必要がある。このため、編成準備作業でネックとなっている編成用制御テープの作成及びビット選針方式のコンピュータ制御横編機向け柄テープ作成の効率化について検討した。
その結果、市販のパーソナルコンピュータとその周辺装置を利用して、以下のソフトウエアを有する簡易編成準備システムを開発した。
1)制御項目をフォーマット用紙に転記せず、編成手順書の記載にしたがって制御項目を入力し、編成用制御テープをさん孔するプログラムを開発した。
2)すでに作成した制御テープまたは制御情報の内容の修正、確認を容易にする制御情報編集プログラムを開発した。
3)編組織と選針手順の関係を解析し、選針手順に合わせて組織柄を遂次自動的に分解するビット選針方式向け柄テープ作成プログラムを開発した。
多品種少量、短サイクル生産への対応や高付加価値な新規編地の開発を目指して、コンピュータ制御横編機の導入が積極的に行なわれてきた。しかし、これらの編機の実際の利用状況をみると、編機の機能を十分に生かしきっているとはいえない。
この一因としては、編組織が複雑になるにつれて編成用制御テープ及び柄テープなどの作成が繁雑になる点が考えられる。
コンピュータ制御横編機の選針方式はコード選針方式とビット選針方式とに大別される。
コード選針方式では、柄1コースの柄情報が通常8種類程度の色コードからなるのに対し、ビット選針方式では「0」または「1」の信号から構成され、選針の有無のみの選別しかできない。
後者の選針方式の横編機は当産地にも多数導入されているが、柄作成にあたっては編成手順にしたがって柄を分解する必要がある。
一部では、柄分解、制御テープ作成を自動化した柄出装置も開発されているが、非常に高価で中小企業が容易に導入しにくい。
一方、市販の簡易柄出装置はこれらの問題に対して有効な対策がとられていない状況にある。
当センターでは横編生産の効率化の一環として、昨年度は見本作成ロスの低減化を図るため、編立データの予測手法を検討した。
本年度は、以上述べた編成準備作業の問題点の解決を図るため、市販のパーソナルコンピュータ及びその周辺装置を利用して、簡易編成準備システムを開発したので報告する。
フレアースカートのドレープ性と素材及び設計特性
愛知県尾張繊維技術センター 伊藤 通敏、坂川 登、松井 弘
衣服の立体形裁は、布地の厚さや剛軟度などの素材特性に加え、衣服パターンやゆとり量のとり方などの設計特性、および着用者の体型などによって、その美しさが決定される。
本研究では、これらのうち、素材特性および設計特性と衣服の立体形状との関係を把握するため、フレアースカートを取り上げ、そのドレープ形状におよぼす両特性の影響を検討した。
低浴比チーズ染色技術
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 北野 道雄、柴田 晃伸、横山 繁)
地下水から工業用水への転換に伴って、低浴比染色技術の確立が重要な課題となっている。このため低浴比チーズ染色における染色特性、染色後のソーピング効果等を解析し、実用化における最適条件について研究した。
この結果、羊毛のチーズ染色ではチーズの巻き密度と染着濃度、ポンプ流量との間に比例関係があり、液流量が多くなると巻き密度の異なるチーズ間の濃度差は小さくなることが分かった。
また、均染を得るためには液流量も多くする必要があるが、流量によって均染の得られる最適巻き密度の存在が判明した。
その他、綿糸の反応性染料染色後のソーピング効果の解析とその評価試験から、低温ソーピング剤の最適実用化条件が判明した。
羊毛の低浴比パッケージ染色のうちで、糸の一般的な染色法であるチーズ染色については、多くの利点がある反面、同一染色バッチであっても各チーズ間の色相、濃度のバラツキや個々のチーズの均染度の違いを生じることが多い。
この理由として個々のチーズの巻き密度の変動、個々のチーズを通過する染液の流量の不均一等が考えられる。
この点に関しては、ダイオメーターを使用した昨年度の実験ですでにデータを得ているが、ここではより現場に近い条件での実験としてチーズ糸を用いたチーズ染色機による染色を行うことにより、巻き密度や染液流量と染色濃度、均染性との関係について調べたので報告する。
また、現在セルロース系繊維の染色で主流となっている反応性染料は、色相や堅牢度の点で優れた染料であるが、染色後の未固着染料の洗浄に時間を要し、これが現在に到るまで解決すべき問題点の1つとなっている。
そこで、このソーピング工程について効果的な方法を検討した。ソーピングを効果的に行うためには通常できるだけ高温で湯洗を行うことと、ソーピング剤の使用が考えられる。
ここでは低温でもソーピング効果の得られる低温洗浄剤について、その使用効果の試験を行ったので合わせて報告する
画像処理による糸パッケージ検査システムの開発
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 安藤 正好、河村 博司、荒井 清)
多品種・少ロット・短サイクル生産の進展に伴い、繊維製品の生産現場ではFA化への対応に迫られている。
最近、マイコン等の自動機器を組み込んだ繊維機械が数多く開発され当尾州産地でも導入が進んでいる。
しかし、製品の検査部門では、目視検査が主体で、経験の有無の個人差、長時間の作業からくる疲労等による判断のバラツキがあり、人間の作業には、限界がある。
このようなことから、検査の自動化は、製品の品質向上を図る上からも大きな課題となっている。
そこで、本報告では、コンピュータ画像処理技術を使い糸パッケージの巻欠陥を検査する装置を試作し、欠陥検査手法の検討を行った。その結果、次のことが分かった。
(1)糸パッケージの巻硬さは、糸パッケージの重量と体積の比で表すことができる。
(2)糸パッケージの輪郭線を解析することにより、形状欠陥の程度、種類の判別をすることができる。
(3)各種パッケージについて固有の形状パラメータを設定しパッケージの特徴を抽出することができる。
糸検査工程の省力化・自動化を図る目的ですでに簡易画像処理システムを使用した糸パッケージ検査システムに関する研究を行った。
試作した検査システムの制約、例えば画像入力時間、画像処理時間、画素分解能等から生じる課題が残っていた。
そこで本研究では、これらの課題を解決するために、より高速・高分解能の汎用画像処理システム(TOSPIX‐n、(株)東芝)を導入し、前報の試作システムを充実すると共に、コーンを始めとする種々な糸パッケージの巻密度、形状パターン認織、形状欠陥認識等について検討を行った。
絹紡糸及び毛・絹混紡糸の製織技術
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 柴田 善孝、池口 達治、藤田 和孝)
薄地単糸織物を効率よく織るには、繊維相互の抱合性を高めるための加工が必要である。その加工方法には一斉サイジング、1本糊付、撚増、綛糊付などいろいろある。
当産地のような小ロットの生産に向く加工方法として綛糊付を取上げ、主に絹と羊毛素材を用いた薄地単糸織物の製織技術について試験した。その結果、
1)毛・絹混紡糸は綛糊付によって製織時の摩擦に耐える程度に抱合性を高めることができる。
2)さらに、毛の混率の多い糸は綛糊付後、糸に歪を与えない程度に緊張して乾燥させることにより一層抱合性を増すことができる。
3)一般に綛糊付では毛羽伏せ効果がないと言われているが、原糸に比べかなり毛羽数が少なくなっている等の結果を得た。
消費者ニーズの多様化、高級化によって差別化素材が注目され、とくに目新しいものが求められている。また、天然素材指向も依然として根強く、絹・毛・麻及び綿等に対する需要が多くなってきている。
とくに絹はそのすぐれた風合や光沢によって古くから人類に親しまれ、化学繊維の多くは人工的に絹を創り出すことを目的に開発が進められてきた。
しかし、その用途はほとんどが和装用に限定されており、洋装分野への利用が立ちおくれている。それでも、最近では絹と各種素材を複合化した素材が開発され、差別化素材として服地への利用が進められてきている。
このため、今回は絹と毛の複合糸を中心にした差別化素材として、薄地単糸織物の製織性を向上するための加工方法とその特性について試験した。
染色速度のコンピユータ制御(2) -染液濃度をコンピュータ制御する染色加工法-
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 堀田 好幸、森 彬子)
チーズ染色機内の染液濃度をマイコンで制御しながら染色加工する方法について研究を行った。
1)試作したハロゲン光式染液濃度センサーを利用して、染液濃度をマイコンで制御する染色加工法から、マイコンで羊毛及び使用染料に適する昇温パターン・染液流量パターンの作成を行うことができる。
2)染液濃度制御式加工法すなわち染料吸収速度をコンピュータ制御する加工法から得られた昇温パターンは、温度制御のみで行う従来の染色加工にも再利用できる。
現状、染色機の自動化は、温度パターンを手で自由にキーボードから入力できるデジタルプロコンとこれに染料・薬剤・水注入及び染色・排水・水洗等一連の染色工程を自動的に行うシーケンサーを組み合わせて行っているのが一般的である。
なかでも、デジタルプロコンが多くの染色機に使われだした理由は、1台で数十種の温度パターンが記憶でき、また上位ホストコンピュータと接続して染色機械の集中管理ヘスケールアップできる機能のあるのが利点となっているためである。
しかしながら、本当の意味での染色機械の自動化は、理想的には各種素材、染料、助剤によって異なる染色条件を機械自身が自動的に判断して染色加工を進める方法であろう。
そのひとつの手段として、この研究では、羊毛染色における染色速度のコンピュータ制御を取り上げた。
研究は、染色機内の染液濃度の変化量をセンサーで計測しながらチーズ染色機の昇温・染液流量などの制御を行う方法とこの染色機を活用した染色加工方法の実用性について行った。
毛織物の泡捺染について
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 浅井 弘義、吉村 裕、横山 繁)
スクリーンを利用した毛織物の泡捺染及びリバーシブルプリント染色加工について検討した。
泡捺染は従来法に比較して糊剤使用量を1/2~1/3程度に節減でき、泡粘度10,000-15,000cps、ブロー比10~15で良好な捺染結果が得られる。
リバーシブル染色加工はブロー比15前後、WPU10%程度で目付200g/m、以上の布において、期待できる成果を得た。
カチオン化、スルフォン化前処理による濃淡リバーシブル加工は両面プリントに比べて安定した結果を示した。
撥水、吸水加工のリバーシブル加工は、低WPUの厳しい条件で良好な性能を示すが、1回のドライグリーニングで撥水、吸水性能とも極端に低下する。
前年度は泡加工試験を使用して、FFT方式による毛織物の染色について検討し、併せてリバーシブル等の特殊加工について、一部検討したが、泡付与が十分 コントロールできないことと、低WPU(40%以下)における泡付与状態の不均一性などが生じ、特にリバーシブル加工等への応用には十分な条件が設定でき ない結果であった。
今回は泡を均一に付与する方法としてスクリーンを使用し、捺染手法によって低WPUを可能とし、泡捺染を検討した。
泡捺染については、従来法に比較して、特に次のような利点があると言われている。
1)気泡化することにより糊の消費量を減量し、捺染コストを節減できる。
2)低WPUが可能で、乾燥工程での省エネルギー化が達成できる。
3)蒸熱後の洗浄が容易であり、残留する糊が少なく、その結果捺染布の風合いが従来の方法に比らべて改善でき、節水、省エネ効果が期待でき、排水処理の負荷が軽減できる。
などである。
そこで、今回は毛織物のスクリーンによる泡捺染及びリバーシブル染色加工について検討した。
ループ意匠撚糸の特性とその要因に関する研究
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 古田 正明、鷲野 鋭之進、藤田 和孝)
ループ意匠撚糸の効率的な企画、設計に寄与するため、その特性と製造要因の関係を把握した。
すなわち、ループを形成する搦糸に各種のモヘヤ糸、梳毛糸を使用し、1工程意匠撚糸機で搦糸の送り比と押え糸のカバリング撚数を変化させて、ループ意匠撚糸を製造した。
そして、同糸のルーブ間隔、ループの大きさ、風合を製造要因の関数として表わした。また、ループ間隔やループの大きさについては、搦糸の物性から得たループモデルと製造試験結果を比較検討した。その結果、次のことが判明した。
1)ループ間隔(L)は搦糸を構成する繊維1本当りの曲げ剛性(B)、搦糸の送り比(A)、押え糸のカバリング撚数(T)の関数で表わされる。そして、B が小さいほど、またAが大きく、Tが多いほど短くなる。搦糸の番手(N)は影響を及ぼさない。ループモデルから得た値は製造試験結果とよく似た傾向を示す が、間隔が短くなる。
2)ループ周長(φ)はB、A、Tの関数で表わされる。そして、BやAが大きく、Tが少ないほどφは長くなる。Nは影響を及ぼさない。
ループモデルから得た値は製造試験結果とよく似た傾向を示すが、周長が短くなる。
3)風合は手の中に握った時の感触などが重要なため、圧縮特性で評価した。
形態安定性などと関係が深い圧縮エネルギーは、値が大きい方が良く、これはNやBが小さく、Aが大きく、Tが多い場合である。
体に感じる柔らかさなどと関係が深い圧縮特性の線形性は、値が小さいほど柔らかく感じるがこれはBが大きく、Tが少ない場合がある。
弾性などと関係が深い圧縮のレジリエンスは、値が大きいほど良く、これはBが小さく、Tが少ない場合である。
意匠撚糸は、色や太さなどの異なる原糸を使用し、これらを組み合わせる際の給糸速度や撚数を変化させて、特異な外親と風合をもつ糸に加工したものである。
そして、その企画設計は、従来、デザイナーや柄師を専従技術者の豊富な経験と勘に基づいて行なわれてきた。
産地は、今、新しい企画を打出したり、より複雑で高度な意匠撚糸を生産し、織布メーカー及びニッターの需要喚起を促していく必要に迫られている。
また、納期の短縮化に対応した、迅速な企画設計も必要不可欠となってきている。しかし、意匠撚糸が当産地独特の製品であることから、技術データや文献が極めて少なく、応用技術開発や新しい技術者の養成が困難であった。
そこで、素材の物性や製造条件がループ意匠撚糸の特性に及ぼす影響を検討し、両者の関係を明らかにした。
「密度差織物用装置の開発」-その1-
まえがき (愛知県尾張繊維技術センター 河村 博司、安藤 正好、荒井 清)
織物生産拠点の最大地域としての尾州産地で、新商品開発の差別化手段には、新素材・新加工法・新装置などによるものが挙げられる。
当所でも新装置による新商品の開発で、既に「緯糸選択装置の試作」「電子制御見本織機の開発」「よろけ織り装置(緯よろけ及び経よろけ)」などを手掛けてきた。
この中で、よろけ織装置は織物の密度を局部的に変えて、経糸と緯糸とが直角に交差しない織物を自動的に製織するための付加装置であった。
今回は、織物幅全体にわたって経緯両方向について、密度を変える装置のベースとなるものを試作した。また、これらの装置は、織機をより多品種少量生産・短サイクル化に対応させるための各種要素技術の改善をも狙ったものである。
試作に当たっては、ションヘル型毛織機(44インチ幅、久保式)を対象とし、次の3要素について行なった。
A)巻取部(緯糸密度の変更)
B)送出部(経糸張力に応じた自動送出)
C)特殊筬(経糸密度の変更)
接着縫製における芯地の選択について
愛知県尾張繊維技術センター 出口 和光、三輪 幸弘、松井 弘
衣服は、シルエットを主とする美的な性質と保型性、耐久力などの消費性能を満たす性質とが要求される。これらの性質は、表地単独では満足することが出来ないので芯地で補っている。
一般に一つの衣料について、使用部位に応じていくつかの芯地が使用されることが多い。
従来、背広は型くずれを防ぐため、衿から胸元までの表地の裏側に、毛芯を使用している。
この工程は、寸法通り仕上げるには豊富な経験と熟練を要する。
この工程を接着芯地で代替する可能性を検討するため、接着芯の表素材に対する適応性について試験を行い、接着芯縫製、毛芯縫製について比較し、芯地選択に関して物性面から検討を行なった。
テキスタイルデザインシミュレーションの高精度化技術
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 坂川 登、伊藤 通敏、松井 弘)
最近、テキスタイルの企画設計において、マス見本作成の代替及び効率化という目的でコンピュータによるデザインシミュレーション装置が普及し始めている。
それは、ハードの進歩とソフトの充実により、デザインイメージの伝達手段として、かなりの程度まで実用の域に達してきたためである。
ここでは、単純なチェック&ストライプ柄のほかに、織物に使用される各種使用原糸の表現がどの程度までシミュレーションできるかを目的に、杢糸、霜降糸、ネップ糸及び意匠糸(ノット糸、スラブ糸、ループ糸等)使い織物について検討し、ある程度満足のできるものが得られることが分った。
近年、消費者ニーズの個性化、多様化に伴い繊維製品の分野においても多品種、小ロット、短サイクル化が進展し、その対応にふさわしい迅速かつ高度なデザイン開発、新商品開発体制の確立が課題となっている。
このため、テキスタイルの企画設計においても先端機器のコンピュータ支援による図形処理及びデザイン制作が行なわれている。
従来のデザインワークは、個人の素質のほかに、長期の熟練が必要であったが、エレクトロニクスをベースとした先端技術の応用により、初心者でも簡単なキーボードの操作でイメージの展開処理が迅速にでき、デザインワークの効率化が図られている。
先染織物の場合、一般的なレギュラー糸使いの縞柄や格子柄の織物に対しては、キーボードの簡単な操作により、ほぼ織物の外観に近いイメージで迅速にシミュレーションできるが、意匠糸使い織物や表面効果のある織物等の表現は困難である。
しかし、ブラシ(ぼかし)、デジタイザー、スキャナー入力、画面合成等種々の編集機能を利用すれば、これらの織物の外観は、ある程度表現できると考えられる。
そこで今回は、杢糸、霜降糸、意匠糸(ネップ糸、スラプ糸、ループ糸)使い織物の外観の表現技術について検討を行い、シミュレーション事例を作成した。
特殊染色加工技術
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 吉村 裕、野田 栄造、横山 繁)
絹の染色堅ろう度、特に湿摩擦堅ろう度の向上を目指して以下の実験を行った。
1)無水芒硝に替る塩を用いて染色
2)前処理としてカチオン化処理を行い、その後染色
3)染色後、フィックス剤処理に替る後処理方法としてベンゾイル化処理
この結果、従来の染色方法に比べてより濃色に染めることは簡単にできたが、摩擦堅ろう度を向上させるまでには至らなかった。
最近の天然繊維ブームと、素材の複合化により、尾州地区においても絹を取り扱う機会が増えてきている。ところで、絹は他の繊維にない優雅な光沢としなや かな感触を持ち、「繊維の女王」とも呼ばれるが、湿摩擦堅ろう度が悪いという欠点を持っており、このことが、今まで絹の洋装分野への進出を遅らせている原因である。
しかしながら、消費者及びアパレルサイドから、絹製品でも濃色でしかも堅ろう度の高いものを要求されており、従来からの染色方法やフィックス剤による後処理方法では対処しきれず、クレームとなる場合がある。
そこで本研究では、従来の一般染色方法である酸性染料を用いる染色方法に限って、酸及び助剤である塩の染色に及ぼす影響について検討するとともに、前処 理及びフィックス剤処理に替る後処理をすることによって、染色物の色濃度と堅ろう度にどのような影響を及ぼすかを検討した。
なお、本研究中のギプスを用いて染色する方法は、農林水産省蚕糸試験場において研究されたもので、現在特許出願中である。
消費性能に関する試験技術 -織物の縫目スリップ特性について-
要旨 (愛知県尾張繊維技術センター 大津 吉秋、野田 和彦、鈴木 啓市)
各種紳士・婦人織物の密度と縫目スリップとの関係を検討した結果、スリップは織物の理論密度と実際の織物密度との比でほぼ予測可能なことが分った。
一方、シリカ系増摩剤で後加工した梳毛織物のスリップ量は加工前に比べ約60%減少させることが出来た。
また、加工布の織物物性への影響は、曲げ、せん断特性に顕著であり、特に、曲げ特性では薄地織物に比べ中厚地織物への影響が大であった。総合風合い的には「コシ」が増し、「ソフトさ」は減少した。
はじめに
着用中に生地糸が経または緯方向に移動し、縫目部分が透けたりして外観的に使用不能となる場合がある。この様な現象を縫目スリップあるいは縫目滑脱と言っているが、最近の衣料の軽量化、ファッション化の傾向は、一層こうした表面変化に係るトラブルを増加させている。
縫目スリップの要因としては、素材と規格上の問題、仕上加工の問題、縫製上の問題、あるいは消費者の取扱い上の問題など色々考えられるが、基本的には織物の規格がスリップ性能を左右すると言っても過言でほない。
ここでは、各種紳士、婦人織物の縫目スリップを調べ、織物の密度との関係を理論密度を使い検討してみた。
また、各種素材の風合い改良剤として使用されているシリカ系増摩剤を使い、婦人梳毛織物のスリップの防止効果と風合いへの影響について検討を加えたのでその結果について報告する。